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ハーデス

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 12月の終わり頃、エンデュミオンを含む少数の護衛を伴ってハーデスの館を訪れた。

 シオンは、ギルが優しくしてしまったから人質にされる可能性が高いため、常に数名の護衛をつけた。もう、シオンには仕事はやらせないで、家庭教師をつけ勉強させている。家庭教師いわく、頭がいい子らしいので、将来は社会の役に立つ優秀な存在になるだろう。

 長い長い森を抜け、山を越えた先に、ハーデスの屋敷があるみたいだ。メシアに殺されないため、住んでいる場所は、都市から移動したらしい。

 ハーデスとは、どんな奴だろうか。

 女にモテすぎて困っている話なんか書かれていたから、やっぱり、イケメンだろうなと思う。自慢話ばかり書いてあったから、チャラチャラした感じのイケメンかもしれない。ジャニーズっぽいやつだったりして。

 つーか、ギルと仲が良かったら、入れ替わった僕のことを怪しまないか心配だな。ギルとハーデスってどんな話をしていたんだろう。僕は、上手くやれるだろうか。もしも、怪しまれたとしたら、どんな風に切り抜けようかな……。



 馬車に揺られながらいろいろと考えているうちに、ハーデスのバカデカい屋敷についた。

 なんじゃ、こりゃ。金の銅像、でかすぎる屋敷、豪華な馬車……。庭といい、装飾といい、無駄に豪華としかいいようがない。国民の税金が使われまくっているんだろうなと思うと胸が痛い。

「おいー、ハーデスいるか」

 ギルとハーデスは友達だったのなら、きっとためぐちで話していただろう。

「ギルか。今いくよ」 

 扉が開けられた先にいたのは、豚だった。


 いや、豚のように太った人間だった。


「会いたかったよ、ギル」

 そう言って、ヒキガエルのように気持ち悪い笑顔で迎えられた。

 肌には大量のニキビ、ブヨブヨの脂肪、ぼさぼさの髪……限界まで太った人間がそこにいた。記憶の中と同じで、びっくりするくらい醜い男である。体重が百キロどころか、二百キロを超えていないか心配になるくらい太っている。太っているせいか汗もかきやすいみたいで、汗臭い。今にも破裂しそうなピチッピチの服は、汗で濡れている。

「……僕もだ」

 何とかそう返事をしたが、笑顔がひきつった。

 こいつが一番高そうな服と靴をしている。ということは、こいつがハーデスで間違いないだろう。

「ああ、かわいいギル」

 そう言って、巨体で抱き絞められる。

「ぐええええ」

 ……脂肪だらけで、汗臭くて気持ち悪い。

 何とか巨体を押し返して、脱出する。

「お腹空いてきたね。ごちそうを用意したんだ。食べていくだろう。俺もお腹がペコペコなんだ」

 お前はもう一生食べなくていいだろう。

「先に荷物を下ろさせてくれ」

「わかった」




 ハーデスの家には、ギルが泊まる専用の部屋が用意されているらしくて、そこに荷物を下ろしてもらった。

 そして、護衛を扉に待機させたあと、僕は、靴だけ脱いでベッドに倒れ込んだ。

 あー、精神的に疲れた。

 これからあのクズと会話をすると思うと気が重い。

「失礼します」

 何故かエンデュミオンがやってきた。

「どうしたんだ?」

「どうやら俺の部屋は、ハーデス様が気を利かせてギル様と同じにしてくれたみたいですね」

 しまったああああああああああああ!

 僕は手紙にエンデュミオンと破局したことを書いていなかった!

 まさか、こんな余計な気を使わせるなんて……。

「しょうがないな。お前は、今日、床で寝ろ」


 しょんぼりしたようにエンデュミオンがベッドを見る。


「ベッドがこんなに広いのに」

「うるせぇ。これは、僕のベッドだ」

「……わかりました」

 こんな硬そうな床で寝させるのは、ちょっと申し訳ないが床は綺麗そうだし、毛布を一枚くらい貸せば寒さも防げるだろう。

 いきなりガシッと腕を掴まれ、耳元に顔を近づけられる。

「ん?どうした?」

「ちょっと小耳にいれたいことが……」

 真剣そうな声で言われゴクリと唾を飲む。

 まさかこいつ、ハーデスの重要な秘密でも教えてくれるのだろうか。

「ギル様、あまり他の男といちゃつかないでください。殺意がわいてしまいます」

「いちゃついてねぇよ!」

 お前の目は、腐っているのか。つーか、殺意って何だよ。怖いんだけど……。ガクガクブルブル。

「いちゃついていました。出会いのハグとか何ですか」

「あれは、不可抗力だ。だいたい、何だよ。僕の彼女でもないくせに調子に乗るな、バーカ。僕のこと好きなのか?」

「いえ、そういうわけでは全然、ありません。だけど、俺のものだったものが、他の奴といちゃつかれるのは不快です」

「……めんどくさい奴だな」

 ハーデスの物静かで優秀そうな護衛とトレードしたい。

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