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手紙

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日の光が差し込んできて朝がきた。



 眠たい目を開けると、ラブミが僕の顔を覗き込んでいた。

『おはよう、お兄ちゃん。もう朝だよ』

 あれ……。どうしてラブミがこんなところに……。

 そうか、両親が再婚して僕はラブミと家族になっていたのか。エプロン姿のラブミが突っ立っていた。

『そんなに寝ていたら、メッだよ』

『で、でも……』

『悪い子には、お仕置きしないと。早く起きないとキスしちゃうよ』

『え……。そんな……』

『お兄ちゃんが悪いんだからね』

 ラブミの超絶かわいい顔が近づいてくる。





 あれ……。

 窓の外から小鳥のさえずる音がする。

 なんだ、夢か……。

「おはようございます、ギル様」

 今日も僕はむさくるしい男の声で起こされた。

 これが前の世界だったら、ラブミの目覚まし時計で毎日、起こされていたのに……。

 ああ、ラブミに会いたい。あのプリティースィートボイスが恋しい。「おはよう、お兄ちゃん」っていうかわいい声で起こして欲しい。つーか、ぶっちゃけ、今、萌え声に猛烈に飢えている。

 誰かかわいい声で「おにいちゃん」とかいってくれないかな。でも、そんなことしてくれるやつなんてどこにも……いや、ここにいる。こいつ、案外、器用だし萌え声くらいだせるんじゃないか。

「お、お前、ちょっとかわいい声を出してくれないか。それで、『おはよう、お兄ちゃん』って言ってくれないか」

 萌えに飢えたオタクは、時に恐ろしい決断をしてしまう。

「おはよう、お兄ちゃん」

 彼は、何とも言えない気色悪い声でそう告げた。神聖なラブミの大好きなセリフが汚されたようで、うおおおおおおおと叫びながら窓から飛び降りたい衝動に駆られた。

「……うん、目が覚めた」

 僕は、記憶力がよすぎる自分を恨んだ。







 ごきげんよう、全世界のみんな。

 今日も、僕は元気に悪役をやっています。使用人を痛くない鞭で叩いたり、むっつりとした騎士に焼きそばパンを買って来いと命令したり忙しいです。

 異世界転生といえば、普通ならこのあたりで、美少女との衝突とか、空から降ってくる美少女とか、美少女からの誤解とか、美少女のパンツ出現とかあるはずですが、僕には何もありません。な、泣いてなんかないんだからね。

 その時、ドアからノックされる音がした。

「入れ」

 そう告げると、べッティーナが震えながら「失礼します」と入ってきた。

「ギ、ギ、ギル様。ハーデス様からお手紙です」

 彼女は、全身に汗をかきながら話しかけてきた。僕に近づけば近づくほど、べッティーナの顔が青ざめる。ていうか、ちょっと汗で手紙が濡れている。そのことに彼女も気がつきますます青ざめる。……お前、将来胃潰瘍で死ぬんじゃないかと心配になってきた。

「ああ」

 そう言って、手紙を受け取る。

「もう下がっていい」

「は、はひ。失礼します」

 彼女は、命からがら僕の部屋から去って行った。

 ハーデスについては、ちょっと本で読んだことがある。通称、ガーベウス国の王様で、ガーベウス国の悪魔と呼ばれるほど評判が悪い。ギル・ノイルラーとは悪友であり、共犯者みたいなものだ。ギル・ノイルラーの使用人や護衛に対する人質をハーデスが保有している。そして、ハーデスの使用人や護衛に対する人質をギルが保有している。そして、二人で反乱した国民を追い詰めあっている。

 べッティーナが去った後に手紙を読むと、ハーデスが暇でギルに会いたがっていること、美味しいものを食べた自慢、女にモテすぎて困っている話、使用人を苛めて楽しんでいる話、美味しいものを持って来いという命令などが書かれていた。

 ギルとは、共犯者という関係で仲がよく、人質塔(ギルから送り届けてくれた人間)を保有している。

 はっきり言って、民を苦しめ自分の極楽を追求しているような究極のゲス野郎なんかに会いたくない。ハーデスのことは、いつか殺すべき人間だと思っている。ハーデスが、エンデュミオンや、その他の護衛、使用人に対する人質を抱えていることもあり、すぐに彼を殺すわけにはいかないのである。

 しかし、自分が殺す予定の人間に一度会っておきたいという気持ちもある。自分が人の命を軽々しく考えないため、これから殺す人について知るためにも、ハーデスには一度会っておいた方がいいのではないだろうか。それに、ハーデスを殺すべき人間かどうかは、ちゃんと自分が判断したい。

 ハーデスに会おう。

 そう決意した後、さっそく手紙の返事を書きだした。

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