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駆け引き

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 レイヴン対策として、できる限りヘタレチキンのべッティーナを側に置くことにした。使用人が怯える姿を見せつけ、ギルが悪趣味で怖い人間だという印象を必要以上与える。そうすると、ギルの性格がいいなどと気がつくことは難しいだろう。

 使用人に、最近のギルの様子がおかしかったことを隠しておくように命令することはしなかった。もしも隠したことがばれたら、怪しまれてしまうからだ。それに、そんなこと言わなくても、ギルが怪しいとか変とか探偵に告げるような命知らずはいないだろうとわかっていた。




 次の日、午後にレイヴンが指輪を返しに僕の書斎を訪れた。

「大変失礼しました。この指輪は、ただの指輪でした」

「まあ、いい。それで、何か進展は、あったんだろうな」

「……この城にいる人間のアリバイ調査をしていきました」

「はあ?アリバイ調査?」

 そこで一回眼鏡のクイッとするレイヴン。

「Xは、夜の10時から朝の8時頃に力を使います。Xが死の時間を操れないのなら、その時間にアリバイがない人間が怪しいです。だから、城にいる人間のその時間帯のアリバイを調べていきます。それから、僕はXを正義感の強い独裁国家に恨みを持つ人間だと考えています。だから、アリバイのなかった人間にはいくつか質問をしてその人の人間性を把握していきます。そして、次々に容疑者の数を絞っていきます。最後に残った人物が怪しいでしょう」

 セリフ、長っ。

 出た出た、オタク特有のしゃべり方。自分の興味がないこととなるとそっけないが、自分が興味あることとなると周囲がドン引きするくらい自分だけの世界に入り込む感じがオタクだ。

 アリバイに基づいた除外方式でやっていくなんて、意外と地味な発想だな。見た目がジミーだけにwwww。

 しかし、この方法だと地味すぎてまだまだ犯人までたどり着かないだろう。僕は、期限になるまでのんびりと極悪非道なギル・ノイルラーらしく過ごしていればいい。それだけで、僕の勝ちだ。

 それだけでは、物足りない。僕は、ちょっと先手を打たれただけでひるむような人間ではない。お前が来たというこの状況を利用してやる。

「そんなことを聞いているんじゃない、この役立たず!お前がノロノロしている間に、地震が起こって、この僕が殺されてしまったらどうするんだ!」

 顔を真っ赤にして必死で怒鳴りつける。どうだ?なかなか僕の演技は、上手いだろう。

「Xからの攻撃を防ぐいい方法があります」

「ほう、言ってみろ」

「今すぐ殺人とミサイルの開発を辞めればいいんですよ」

 さすが探偵。頭の回転が早い。どうやってギルを利用するべきか理解している。

「なっ……。何を言っている?殺人はともかく、ミサイルは、ブロトレイト国の繁栄のために必要不可欠なものだ。それを中止しろというのか。バカじゃないのか」

「でも、Xは国民を苦しめる人間を殺していきます。ミサイルを作り国民を苦しめていると標的にしやすいでしょう」

「じゃあ、お前の言う通りミサイルを廃止すれば、Xはこの国を攻撃しないのか」 

「それだけでは、まだ足りません。減税するべきです。そうですね、税金を三分の一に減らせばきっとメシアは攻撃してこないでしょう」

「ふざけるなっ。この僕に家畜のエサ代を増やせと?」

 唾を吐き散らしながらどなりつける。けれども、それにひるまないレイヴン。


「はい。そうしなければ、あなたはXに殺されてしまうでしょう」


 怒りのあまり拳が震える……そんな悔しそうな様子を精一杯練習する。

「本当に、お前のいうことを聞けば僕は殺されないんだな」

「ええ、当然です」

 きっぱり断言したが、こいつはそんなこと思っていないだろう。きっと、もしもXがブロトレイト国を攻撃するときはギルが死ぬに決まっていると確信しているから、平気でこんなことを断言したのだろう。

「……ちっ。べッティーナ、減税するために必要な書類を集めておけ」

「は、は、はい」

 殺されるように怯えるべッティーナ。本当に、いい仕事をしてくれる。

「レイヴン。お前、本当にXを見つける気はあるのか」

「どういう意味ですか」

「探偵は、正義感の強い人間が多いからな。お前は、Xの味方じゃないのか」

「私は、正義とか悪とかどうでもいい。そこに謎があるから解きたくなるんです。探偵というのは、謎を解く生き物です。……例え、誰かを不幸にしてしまっても」

 彼は、少し寂しげに顔を曇らせた。

 何だかジミーがかっこいい。そこに痺れる、憧れる!!

「安心してください、ギル様。私は、全力で謎を解きます」

「ああ」

 だったら、こっちも本気で戦ってやる。
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