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千年に一人の天才
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数日後……。
評判の悪い独裁国家であったリュリーナ、北調円、ドバール、グンマー、ワイマール、エミロスといった6つの国の政治を行う中枢部が、地震、津波、火山の噴火などにあって崩壊した。
その時、罪のない人間もたくさん死んだが、国の中枢があっけなく崩壊したことで、民衆による革命や他国の介入が容易になった。北調円とドバールとの戦争は自動的に終わり、長い独裁支配に終止符が打たれ国は民主主義化へと向かい、王家が好んでいた残虐な殺戮行為は行われなくなった。元独裁国家での国民の税金負担は軽くなり、多くの人間はこれらの奇跡を喜んだ。
こんな風に、みんなが消えて欲しいと思っていた人間が、自然災害で一気に消えるなんてただの偶然じゃない。きっと神の裁きによるものだと人々は結論づけて、様々なところで裁きを与えた人をメシア様と呼び称える動きが活発となった。一部の人間は、メシアを嫌いXと呼ぶようになった。
* *
独裁国家リュリーナ国の王様であったニュクス・ライモンドは、命からがら隣国のルータリア国にいるアティス・シュタインベルトのもとを訪れた。
地震が起こった時、屋敷を滅ぼされたが、その日は、こっそり女の家に泊まっていたため、ニュクスの命が助かっていたのである。
頭の中は、メシアへの怒りで満ち溢れていた。
くそっ。何でボクがこんな目にあわないといけないんだ。
必ずXを見つけて、死ぬまで拷問してやる。正義感のある奴なら、さぞかし憎しみで染まったいい目をするだろう。その目をぜひとも見てみたい。
衛兵に案内され中に入ると、アティスが玉座に君臨していた。
赤ワインを飲んでいるアティスのことを相変わらずこの世のものとは思えないほど美しい人だと見惚れてしまう。
二つわけにされたセミロングのプラチナブランドの髪に悪魔のように紅い瞳、人形のように精密に整った顔立ちに、スラリとした長い手足……。アティス以上に綺麗だと思える人は、今まで見たことがない。
いつもつまらなそうな顔をしている彼の顔には、かすかな笑みが見て取れた。
一体、何がこの人をそんなに楽しませているのか気になる。
「何の用だ、クズ」
バリトンボイスでそう話しかけられた。
「取引をしないか。ボクが所有している領地の三分の一をお前にやろう。その代わり、ボクの領地を破壊した神を捕まえてくれないか」
神殺しなんて通常の人間には、不可能だ。
けれども、こいつならできる。そんな確信がニュクスにはあった。
アティス・シュタイベルト。通称、生きる神。
彼がそう呼ばれる理由は、人類で最も高貴といわれている、神の血をひくシュタインベルト家に生まれ帝王の座に君臨しているからだ。
53代帝王に君臨しているアティスは、歴代の帝王の中でも特別な存在と言われてきた。人間離れした驚異的な美貌は、多くの人を虜にしてシュタインベルト教徒の信者を増やした。彼が特別な存在だと言われている理由は、彼の天才的な頭脳だった。あまりにも頭が良すぎるから、人々から千年に一人の天才と呼ばれている。
「アティス・シュタインベルト君。神を殺すには、お前の頭脳が必要だ。協力してくれ」
「何を言っているんだ?そんなこと不可能だろう。バカじゃないのか」
そして、何事もなかったように猫を撫で続けた。
ああっ、ゴミクズを見るような視線がたまらない。全身がゾクゾクしてしまう。
やはり、アティスは、最高だ。はあ、はあ……。全身の血が燃えたぎるようだ。もっと、そのトイレに発生したゴキブリを見るような嫌悪に満ちた目でボクを見てくれ。
「気色悪い目で見るな。確かに神を殺すことは、不可能だ。だけど、能力を持った人間を殺すことならできる」
「まさかあの災害を人間の仕業だというのか」
「そのまさかだよ。あれらの災害は神の仕業ではない。災害を起こせる能力を持った人間の仕業だ」
「そんなこと人間には、できない。あれは、きっと神の仕業だ。そんな存在を捕まえるなんて無理だ」
「じゃあ、どうして貴様は生きている?俺が神だったら、真っ先にお前のようなクズを確実に殺すだろう」
「……」
いつも思うがこの男は、本当に無礼な奴だ。遠慮という言葉を知らないのかもしれない。
「もしも、神の裁きがリュリーナ国にくだったとしたら、貴様は殺されているはずだ。けれども、貴様は運よく助かった。したがって、これは神の裁きではない。超能力を持った人間の仕業だ」
「それは突飛すぎるだろう」
「では、俺から貴様に質問しよう。何故、神の裁きなら、どうして今まで神はあの腐った国を見殺しにきてきた?あそこで、神に助けを求める人達を助けなかった?独裁国家の指導者は、腐っていても、全ての人はそんなに悪くなかっただろう。何故、神はいい人を助けなかった?」
「それは……」
ニュクスは、必死に答えを考える。
「俺が思うに、神様というのは面倒くさがり屋で滅多に行動をしないものだよ」
「……」
「正体不明の能力者を捕まえるだなんて簡単すぎてつまらなさそうだが、いい暇つぶしになるだろう。どんな奴だろうと、この俺の前で跪かせてやる」
アティスの顔に、強い野望を秘めた不敵な笑みが浮かんだ。
「しかし、正体不明の相手をどうやって見つける?」
「最近のXは、独裁国家への裁きを中断して、軍や、ミサイルの場所を攻撃している。まだ評判の悪い独裁国家がいくつも残っているのにも関わらずだ。つまり、奴は独裁国家にいる可能性が高い。そこへとりあえず探偵を送り込み情報を得る」
何でこれだけの情報で、そんな推理がスラスラと出てくるんだよ。すごすぎて、わけわかんねぇ。だけど、この男がすることをもっと見ていたい。彼ならきっとXの正体にたどり着けるだろう。
「アティス君は、探偵を送り込んでいる間、どうするんだ?」
「俺は、猫と遊ぶことで忙しい」
「……」
「目ざわりだから、視界から消えてくれ。部屋は適当に用意させよう」
有無を言わせない声で、顔を見ることすらせずにそう告げられた。冷たい声は、僕にとってたまらなく素敵なご褒美だった。
評判の悪い独裁国家であったリュリーナ、北調円、ドバール、グンマー、ワイマール、エミロスといった6つの国の政治を行う中枢部が、地震、津波、火山の噴火などにあって崩壊した。
その時、罪のない人間もたくさん死んだが、国の中枢があっけなく崩壊したことで、民衆による革命や他国の介入が容易になった。北調円とドバールとの戦争は自動的に終わり、長い独裁支配に終止符が打たれ国は民主主義化へと向かい、王家が好んでいた残虐な殺戮行為は行われなくなった。元独裁国家での国民の税金負担は軽くなり、多くの人間はこれらの奇跡を喜んだ。
こんな風に、みんなが消えて欲しいと思っていた人間が、自然災害で一気に消えるなんてただの偶然じゃない。きっと神の裁きによるものだと人々は結論づけて、様々なところで裁きを与えた人をメシア様と呼び称える動きが活発となった。一部の人間は、メシアを嫌いXと呼ぶようになった。
* *
独裁国家リュリーナ国の王様であったニュクス・ライモンドは、命からがら隣国のルータリア国にいるアティス・シュタインベルトのもとを訪れた。
地震が起こった時、屋敷を滅ぼされたが、その日は、こっそり女の家に泊まっていたため、ニュクスの命が助かっていたのである。
頭の中は、メシアへの怒りで満ち溢れていた。
くそっ。何でボクがこんな目にあわないといけないんだ。
必ずXを見つけて、死ぬまで拷問してやる。正義感のある奴なら、さぞかし憎しみで染まったいい目をするだろう。その目をぜひとも見てみたい。
衛兵に案内され中に入ると、アティスが玉座に君臨していた。
赤ワインを飲んでいるアティスのことを相変わらずこの世のものとは思えないほど美しい人だと見惚れてしまう。
二つわけにされたセミロングのプラチナブランドの髪に悪魔のように紅い瞳、人形のように精密に整った顔立ちに、スラリとした長い手足……。アティス以上に綺麗だと思える人は、今まで見たことがない。
いつもつまらなそうな顔をしている彼の顔には、かすかな笑みが見て取れた。
一体、何がこの人をそんなに楽しませているのか気になる。
「何の用だ、クズ」
バリトンボイスでそう話しかけられた。
「取引をしないか。ボクが所有している領地の三分の一をお前にやろう。その代わり、ボクの領地を破壊した神を捕まえてくれないか」
神殺しなんて通常の人間には、不可能だ。
けれども、こいつならできる。そんな確信がニュクスにはあった。
アティス・シュタイベルト。通称、生きる神。
彼がそう呼ばれる理由は、人類で最も高貴といわれている、神の血をひくシュタインベルト家に生まれ帝王の座に君臨しているからだ。
53代帝王に君臨しているアティスは、歴代の帝王の中でも特別な存在と言われてきた。人間離れした驚異的な美貌は、多くの人を虜にしてシュタインベルト教徒の信者を増やした。彼が特別な存在だと言われている理由は、彼の天才的な頭脳だった。あまりにも頭が良すぎるから、人々から千年に一人の天才と呼ばれている。
「アティス・シュタインベルト君。神を殺すには、お前の頭脳が必要だ。協力してくれ」
「何を言っているんだ?そんなこと不可能だろう。バカじゃないのか」
そして、何事もなかったように猫を撫で続けた。
ああっ、ゴミクズを見るような視線がたまらない。全身がゾクゾクしてしまう。
やはり、アティスは、最高だ。はあ、はあ……。全身の血が燃えたぎるようだ。もっと、そのトイレに発生したゴキブリを見るような嫌悪に満ちた目でボクを見てくれ。
「気色悪い目で見るな。確かに神を殺すことは、不可能だ。だけど、能力を持った人間を殺すことならできる」
「まさかあの災害を人間の仕業だというのか」
「そのまさかだよ。あれらの災害は神の仕業ではない。災害を起こせる能力を持った人間の仕業だ」
「そんなこと人間には、できない。あれは、きっと神の仕業だ。そんな存在を捕まえるなんて無理だ」
「じゃあ、どうして貴様は生きている?俺が神だったら、真っ先にお前のようなクズを確実に殺すだろう」
「……」
いつも思うがこの男は、本当に無礼な奴だ。遠慮という言葉を知らないのかもしれない。
「もしも、神の裁きがリュリーナ国にくだったとしたら、貴様は殺されているはずだ。けれども、貴様は運よく助かった。したがって、これは神の裁きではない。超能力を持った人間の仕業だ」
「それは突飛すぎるだろう」
「では、俺から貴様に質問しよう。何故、神の裁きなら、どうして今まで神はあの腐った国を見殺しにきてきた?あそこで、神に助けを求める人達を助けなかった?独裁国家の指導者は、腐っていても、全ての人はそんなに悪くなかっただろう。何故、神はいい人を助けなかった?」
「それは……」
ニュクスは、必死に答えを考える。
「俺が思うに、神様というのは面倒くさがり屋で滅多に行動をしないものだよ」
「……」
「正体不明の能力者を捕まえるだなんて簡単すぎてつまらなさそうだが、いい暇つぶしになるだろう。どんな奴だろうと、この俺の前で跪かせてやる」
アティスの顔に、強い野望を秘めた不敵な笑みが浮かんだ。
「しかし、正体不明の相手をどうやって見つける?」
「最近のXは、独裁国家への裁きを中断して、軍や、ミサイルの場所を攻撃している。まだ評判の悪い独裁国家がいくつも残っているのにも関わらずだ。つまり、奴は独裁国家にいる可能性が高い。そこへとりあえず探偵を送り込み情報を得る」
何でこれだけの情報で、そんな推理がスラスラと出てくるんだよ。すごすぎて、わけわかんねぇ。だけど、この男がすることをもっと見ていたい。彼ならきっとXの正体にたどり着けるだろう。
「アティス君は、探偵を送り込んでいる間、どうするんだ?」
「俺は、猫と遊ぶことで忙しい」
「……」
「目ざわりだから、視界から消えてくれ。部屋は適当に用意させよう」
有無を言わせない声で、顔を見ることすらせずにそう告げられた。冷たい声は、僕にとってたまらなく素敵なご褒美だった。
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