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悪女ユリアの華麗なる破滅
しおりを挟むユリアは、空っぽの王座に腰かけ終わりの時が来るのを待っていた。
目をつぶり、半年ほど前のことを思い出す。
今から半年ほど前に戻る。
「クライシス帝国の破滅を」
ユリアがそう告げた瞬間、ルータリア帝国の皇帝であるラインハルトは口を半開きにした。
「……自分で自分の国を滅ぼそうというのか」
「そうよ。おもしろい女でしょう」
「何でそんなことをするんだ?」
「今から半年後の4月13日、クライシス国に地震が起きるわ」
それを聞いたラインハルトは、形のいい眉をひそめた。
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「私の人生が2回目だからよ」
ラインハルトは、ごくりと唾を飲み込みしばらく沈黙した。
「……おもしろい話だな」
「信じてくれるの?」
「君は噓を言っているように見えない。本当のことを言っているか、頭がおかしいのかどっちかだろう」
「私は、できるだけ多くの人間を助けるために、国民を地下牢に閉じ込めていく。そして、閉じ込められなかった人間を戦争という名目で国外に送り出す。ルータリア帝国に向けて出発させる。だけど、それはフェイクだから、戦う必要はないわ」
「もしも、俺が戦ったら、勝てるだろうな」
「あら?勝ったところで、貴方の損失が大きくなるだけよ。地震により滅びたクライシス国は、ルータリア帝国のものになるだけだから」
「……地震により崩壊した国をこの国の財力と軍事力で助けろということか」
「そうよ。そうすれば、全部、貴方のものになる。一つの国の崩壊と破滅。なかなか面白いでしょう」
「ああ。少なくとも、今朝読んだ小説よりもおもしろい」
「クライシス国の小麦や、ワイン、鮭は絶品よ。全部、貴方にあげる。その代わり、私に少し協力してくれればいいだけ」
強欲と呼ばれているレオンハルトなら、きっとこのエサに食いつくに違いない。
「悪くないな」
彼は、そう呟きおもしろそうに金色の瞳を輝かせた。
* *
あの日から、半年が過ぎた。
もうここには誰もいない。
地震が起きて、私は、もうすぐ死ぬ。
民衆は、愚かな王だった。天罰が下ったと私のことを笑うだろう。
私は、クライシス国のためにやるべきことをやったのだ。
最善を尽くしたのだ。
天国でお父様とお母様に会えたら、よくやったと、自慢の娘だとほめてもらえるかしら……。
私が死んだら、クライシス国は亡ぶけれど、国民は生き残る。彼らは、また畑を耕して、建物を作り、美しい土地を作っていくのだ。
それを見られないことが心残りだ。
もう一年経ったのか……。
あっという間だったな。
去年の今頃は、ライリーと結婚式をあげようとしていたんだっけ。私がゲロを吐いた時のライリーの顔は、見物だったわ。本当に、あんな間抜けな顔をするライリーは貴重だった。額縁に入れて飾っておきたいくらいで……。
地面が揺れて、シャンデリアが、天井から落ちる。
窓ガラスが割れて赤い絨毯の上に飛び散る。
ガラスの破片が飛び散って、私の頬や腕を切り裂いた。赤い鮮血が飛び散り王座を染め上げる。
どこかでろうそくでも倒れたのか、火事が起きている。だけど、あの時と違って全然、悲鳴が聞こえてこない。民衆が地下牢か国外にいるからだ。
その代わり、動物の悲鳴があちこちから、聞こえる。
本当の終わりが来るのがこれからだ。
この後、もうすぐ大きな地震が起きる。
その時、私は、死ぬ。
ああ、楽しかった……。
あの日……。ライリーが私を裏切ったと日……。世界が私を中心に回っていないと知ってしまった日から、消えてしまいたかった。何もできない自分が恥ずかしかった。
私は、皇女として失敗作だった。自分の欲望ばかり追及して、国民のことを全然、考えていなかった。そして、牢屋で初めて痛みや苦しみを知ったのだ。
もう一度、人生をやり直した時、他の人を救って免罪符にしようと思った。そうすれば、わがまま放題で、みんなを傷つけてきた自分が許される気がして……。
だけど、もう、こんな自分までを救いたいなんて思えない。
お父様、お母様……。
私は、もうこれ以上頑張れない。周囲もこんな私に頑張ることなんて、期待していないでしょう……。
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