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終わりの始まり
真実
しおりを挟む突然現れた男の顔を見たルキフェルは、戦慄した。
「待て……。お前の顔に見覚えがある……。お前、あの時、護衛をしていたレイ・カネロクだろう」
「ああ、そうだ」
「シェリーが死んだ2週間後にいなくなってどうしてだろうと思っていた。まさかお前が、シェリーを殺したのか」
「今頃わかったのか。ああ、そうだ」
「てめえっ……」
怒りに任せて飛びかかろうとする。殺してやる!!喉を引き裂いてやる。屍鬼に身体をもぎ取らせながら、殺してやる!!
「殺してやる!!!」
「動くな」
男がそう叫ぶと、ルキフェルは屍鬼に拘束されて動けなくなる。生み出した魔力も黒炎にあっという間に消されてしまう。
「バカだな。私が支配の王冠を手にしたことを忘れたのか。お前もシェリーと同じように殺してやるよ」
「どうして、彼女を殺したんだ?」
「お前とハデスがつぶし合ってくれることを期待しただけだ。もうおしゃべりは、おしまいでいいだろう。ゴミと会話する趣味はないんだ」
バラキエルはうんざりしたようにそう言って、左の手のひらを俺の方に向けた。
『黒夢!』
黒い靄のようなものに体が包まれる。
ただの靄なのに、身体が鎖のようなもので拘束されていく感覚がする。
「うぐ……あっ……。うっ……」
手のようなものに、首を絞めつけられていく。
毒のようなものが、全身の血にまわっていくのを感じていた。
体温が急激に下がって、心臓の音がゆっくりになっていく
築きあげたものが一瞬で壊れていく音がする。
このまま死ねば、シェリーに会えるだろうか。
ああ、そうだ。
もう一度、大好きなシェリーに会いたかった。
何もかも忘れて彼女の歌声に包まれていたかった。何の打算もなく、純粋な気持ちだけがエネルギーであったあの頃に戻りたかった。
彼女の夢を叶えさせてあげたかった。ずっとそんな彼女の側にいたかった。思い出に浸るだけの日々から、解放されたかった。
多くの人間を巻き込んでしまっていたことは理解していた。
だけど、彼女に会いたいという気持ちにブレーキをかけることなんてできなかった。
俺達は、どうしようもなく狂っていた。
簡単なことだ。
シェリーに会えなくて辛いのなら、俺が死ねばよかったんだ。
倒れているユリアの姿が視界に写る。
ごめんな、ユリア。
ユリアは、大事な存在だった。
とても大事な……道具だった。
まぶたを閉じて記憶に蘇るのは、やっぱりシェリーのことだった。
シェリーは、死ぬ直前に俺のことを考えていただろうか。
それなら、どんなに幸せなことだろうか。
彼女にもう一度会いたいという醜くて歪んだ夢が終わっていく。
胸を焼け焦がすほど情熱的な願いが、叶わないで雪のように溶けていく。
代わりに、あの頃のシェリーを思い出す。俺だけが知っていて、俺だけが覚えているシェリーのことだ……。
『あのね、ルキフェル。私、歌手になりたいの』
『だったら、俺は君の音楽をずっと聞いていたい』
それが実現したら、他に何もいらなかった。
そんな美しい夢だけを描きながら、生きていられたらどれほどよかっただろうか……。
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