ヒューマノイド声優、たま子です!

ヤマダ室長

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第1話

ありきたりの映画①

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 大学3年生の2月は、期末テストも終わり一般的な大学生なら、とっくに就職活動の準備が整っている時期である。それ以前に夏休みを利用して、興味のある企業のインターンシップに参加する学生も多い。
 自分の将来を決める就職活動の緊張感が高まる中、石上俊三は大学構内の屋上でビデオカメラを回していた。彼は一般的な大学生ではないのである。
 ディスプレイに映る青々しい冬の空を眺めていると、上着の懐にしまっていた携帯電話が振動する。
「はい、石上ですけど」
「トッシー、いいバイト見つかったぞ」
 俊三を愛称で呼ぶ電話の主は、友人のドグ山だった。

「どんなバイト?」
「俺の友達のバイト先の知り合いの母親の友達が、芸能プロを立ち上げたらしくて、マネージャーを募集してるんだと」
 てっきりライン工や梱包作業のような類のアルバイトだと考えていた為、俊三が一瞬言葉に詰まる。
「結構レアなバイトだから有難く思えよ~」
「でも、マネージャーってどんなことするんだ?」
「タレントとかアイドルの雑用だろ」
「げぇ……」
 あまり人に尽くすといったことに慣れていない俊三は呻き声を漏らす。コンビニのアルバイトのような接客業を避けて、人と接することの少ない仕事をしてきている程だ。

 断ろう。やはり、友人のツテではなく、派遣で適当に楽な仕事を探すに限る。
「ごめん、やっぱ俺――」
「じゃ、明日の13時に渋谷の流星ビル3Fに行けよな」
「ちょっと」
 プツリ。俊三に拒否権はないようだ。

 3月から企業が一斉に新卒採用のエントリーを開始する時期と言っても、俊三にとっては全くの無関心であった。
 彼にとって、大学4年間はひたすら撮影技術を研くことに専念し、学生映画祭で受賞することが唯一の目標であった。そして、あわよくば在学中に映画会社に招かれて業界入りを目論んでいた。
 だが、そんな理想を掲げてはみたものの、一向に受賞することも業界人の目に留まることもないまま3年生が終わろうとしていた。
 3年も経つと、自分の目標に意固地になってしまい、就職活動に手をつける気も起きなくなっていた。
 しかし、地方に住む俊三の両親からは共感を得られず、つい1週間前に学費以外の仕送りを打ち止めすることを通告された。
 カメラを回す前に、最低限度の文化的な生活はしたい。せめて冬休みに家賃分でも稼ごうと思い、友人のドグ山にアルバイトを紹介してもらったのだ。
 明日、仕事の内容を聞いてキツそうだったら辞退しよう。小さくため息をつき、再びカメラに目を移した。


 翌日。俊三はドグ山に言われた流星ビルの前に到着した。
 三階建ての流星ビルには、1Fの和食店「秋刀魚と鯵」、2F「ハムハムファイナンス」、そして3Fに目的地の「天の川プロダクション」の3つが混在している。
 多少の心細さを覚えながらも、ビルに入り階段を上る。

 3Fに辿りつき、鉄製のいドアの前に立つ。ドアに貼られたガムテープの上には、赤のマジックペンで「天の川プロへ ようこそ」と、可愛らしい手書きの文字が書かれている。
 ゆっくりと腕を持ち上げ、ドアの横に設置されているインターホンへと指を重ねる。

 インターホンを押す前に、俊三の指がピタリと止まる。部屋の中から声が聞こえてくるのだ。
 どこか、懐かしいような、忘れかけていた声。
 ドアに耳を押しつけ、どうにかして中の音を拾おうとする。
「……きっと、大丈……。明日になれば……いくわ」
 うまく声が拾えず途切れ途切れではあるが、確かに聞いたことのあるセリフだ。
「くっそ、ハッキリと聞こえねぇ」
 俊三がさらに耳をドアに押しつけると、自然と体重がドアにかかり、ドアから今まで聞いたことのないような軋む音が響く。
 不吉な予感を察知し、ドアから離れようとした刹那、鉄製のドアが内側に勢いよく開かれた。
「うわあああああああ!」

 どんがらがっしゃーん。

 体重の大半をドアにかけていた為、俊三は盛大に室内に転がり込んでいく。
 突っ伏した状態から、ゆっくりと身体を起こそうとすると、今度はハッキリと声が聞こえた。
「ドアの立て付けが悪くてすみません……。お怪我はないですか?」
 即座に顔を上げると、目の前には2年前に撮影したがいた。しゃがみ込んで、俊三を心配そうに見つめている。

 ようやく出会えた彼女は、2年前と容姿と声が全く変わっていなかった。
 唯一変わったところと言えば、彼女が姿で佇んでいることくらいだろう。
 
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