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第二章

第七十二話 涙

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私は氷河期世代の弱者男性である。

私は私の過去を振り返っている。

40歳の誕生日に私は夢を見た。

過去に新田とこの会話をしたのかも知れないが、覚えていない。

もしかしたら新田が私を見かねて枕元に降りてきてくれたのかもしれない。

現実にしたのかわからない新田との会話が始まる。

夢の中の私は上京したばかりの頃であった。

もうそれから十年も経っている。

「40歳になって成功していなかったら諦めて別の人生を目指そう」と新田は言った。

「40歳か。あと10年」と私は言った。

「ああ、100歳まで生きられるという時代だ。40歳はまだ折り返し前だ。失敗してそこで絶望していても仕方がないだろう。必ず成功するかなんてわからない。世の中何が起こるか予想はつかないからね。時代に俺たちの作風は合わなかったり、運が悪かったりすると成功はない世界だ。別にマンガにこだわることはないよ。ちゃんと人生を楽しもうぜ」

そう言うと新田はにっこりと笑った。

「ちゃんと人生を楽しむか。まったくしていないな」と40歳の私が答えて目が覚めた。

目が覚めると自分が泣いていることに気が付いた。

新田が亡くなったときに涙が出なかったのに、いまさら泣いていた。

涙がどんどん溢れてくる。

この日、私の心は折れてしまった。

新田の想いを叶えることが出来なかったと自覚したのだ。

漫画家になれるかなどどうでも良かった。

新田にただ報いたかった。

私ではなく新田が生きていれば成功したであろうに。

私は夜中、天井を見上げてただ泣いていた。
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