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42話 新しい聖女 シャルロットSIDE
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「お父様! ようやくこれで私も王妃になれますわ!」
「ああ、そうだな。スカーレットのせいでどうなることかと思ったが、オーエン殿下もおまえの魅力に抗えなかったのだろう」
「ふふ。当然です」
聖女任命の話し合いを終え、私はお父様と久しぶりに心穏やかな時間を過ごしていた。
「それにしても突然呼び出された時は何事かと思ったが、シャルロットが聖女の役目をもらうとはな」
「ええ。わたくしも驚きましたが、お姉様ができたのですもの。わたくしなら、もっと上手にやれるわ」
「ああ、そうだ。おまえなら皆が羨むような聖女になれるぞ」
二人で顔を見合わせにんまり笑うと、私はお茶を一口飲んだ。美味しい。このところオーエン様に冷たくされて、お茶すら満足に味わっていなかった。
(まったく! あの女のせいで私は社交界の笑い者よ。淫乱だの男好きだのと嫌な噂ばかり! 本当にみんな意地悪!)
それでもこれで元通りだわ。ううん。それ以上ね。オーエン殿下と結婚すれば、あざ笑っていた人達は私に頭を下げることになる。
「ふふ。楽しみだわ」
私はもう一度お茶を口にすると、ふうっと安堵のため息をついた。
(でも唯一の不満はしばらく教会に住めと言われたことね。お姉様、ううん。スカーレットがいなくなったことで、馬鹿な民衆達が騒ぎ出したからそれを止めなくちゃいけないみたい)
聖女として最初の仕事らしい。でもこの騒ぎをうまく治めれば、オーエン様は私と結婚すると言っていた。どうせ私が聖女だと宣言したら、みんな喜んでくれるだろう。怒りなんてすぐ治まるわ。
そんなことを考えていると、支度を終えた侍女が私を呼びに来た。
「シャルロット様、馬車の準備が整いました」
「わかったわ。じゃあお父様、聖女の務めを果たしてきます」
「ああ、おまえならできるよ。自慢の娘だ」
優しいお父様に挨拶をし、私は馬車に乗り込んだ。馬車は聖女専用のものがあるらしく、内装も豪華だった。国が用意したものだからか侯爵家の馬車より高価で、私は一人になったとたんチッと舌打ちをする。
(本当にあの女は生意気ね。たかが教会で祈る役目だけでこんな特別扱いされてたなんて)
ここ最近はスカーレットが聖女の力で怪我を治したとうるさかったけど、きっとシモン様のしわざね。あの人ずる賢いから、嘘の噂を流したんだわ。
カタカタと揺れる馬車の中、私はあの二人のことを思い出す。ベッタリとくっついてさも相思相愛のように見せかけていたけれど、あんなの演技に決まってる。
スカーレットはシモン様に愛されてるとでも思っているのかしら? それなら本当の馬鹿ね。聖女として利用されるだけなのに。
幼い頃から私はスカーレットが大嫌いだった。だってお母様がずっと「スカーレットは悪女の血をひいいている」と言ってたから、そうなんだと思う。お母様はスカーレットの母親にお父様を取られたといつも恨み言を言っていた。
「あの女が死んだのは天罰よ! だからあの女の娘のスカーレットが聖女なんて嘘なの。そんなのあるわけない。きっとお父様が陛下に取り入るためにあの子を利用しているのよ」
実際にお父様が本当に愛しているのは、私たち親子だった。当然よね。あの薄気味悪い黒髪に、痩せこけた魅力のない体。オーエン様だって婚約者のスカーレットより、私を選んだもの。
(聖女も私が奪ったし、これでお母様も大喜びするわ!)
私はフフンと鼻で笑うと、馬車を降りた。教会には一度も来たことなかったけど、平民も訪れるせいか臭い匂いがする。
(なにこの匂い! こんな所に住めというの? もう王宮に帰りたいわ!)
とたんに気持ちが悪くなった私は、ハンカチで口元を押さえ急ぎ足で歩きだす。すると突然、後ろからグイッと誰かに服を引っ張られた。
「ああ、そうだな。スカーレットのせいでどうなることかと思ったが、オーエン殿下もおまえの魅力に抗えなかったのだろう」
「ふふ。当然です」
聖女任命の話し合いを終え、私はお父様と久しぶりに心穏やかな時間を過ごしていた。
「それにしても突然呼び出された時は何事かと思ったが、シャルロットが聖女の役目をもらうとはな」
「ええ。わたくしも驚きましたが、お姉様ができたのですもの。わたくしなら、もっと上手にやれるわ」
「ああ、そうだ。おまえなら皆が羨むような聖女になれるぞ」
二人で顔を見合わせにんまり笑うと、私はお茶を一口飲んだ。美味しい。このところオーエン様に冷たくされて、お茶すら満足に味わっていなかった。
(まったく! あの女のせいで私は社交界の笑い者よ。淫乱だの男好きだのと嫌な噂ばかり! 本当にみんな意地悪!)
それでもこれで元通りだわ。ううん。それ以上ね。オーエン殿下と結婚すれば、あざ笑っていた人達は私に頭を下げることになる。
「ふふ。楽しみだわ」
私はもう一度お茶を口にすると、ふうっと安堵のため息をついた。
(でも唯一の不満はしばらく教会に住めと言われたことね。お姉様、ううん。スカーレットがいなくなったことで、馬鹿な民衆達が騒ぎ出したからそれを止めなくちゃいけないみたい)
聖女として最初の仕事らしい。でもこの騒ぎをうまく治めれば、オーエン様は私と結婚すると言っていた。どうせ私が聖女だと宣言したら、みんな喜んでくれるだろう。怒りなんてすぐ治まるわ。
そんなことを考えていると、支度を終えた侍女が私を呼びに来た。
「シャルロット様、馬車の準備が整いました」
「わかったわ。じゃあお父様、聖女の務めを果たしてきます」
「ああ、おまえならできるよ。自慢の娘だ」
優しいお父様に挨拶をし、私は馬車に乗り込んだ。馬車は聖女専用のものがあるらしく、内装も豪華だった。国が用意したものだからか侯爵家の馬車より高価で、私は一人になったとたんチッと舌打ちをする。
(本当にあの女は生意気ね。たかが教会で祈る役目だけでこんな特別扱いされてたなんて)
ここ最近はスカーレットが聖女の力で怪我を治したとうるさかったけど、きっとシモン様のしわざね。あの人ずる賢いから、嘘の噂を流したんだわ。
カタカタと揺れる馬車の中、私はあの二人のことを思い出す。ベッタリとくっついてさも相思相愛のように見せかけていたけれど、あんなの演技に決まってる。
スカーレットはシモン様に愛されてるとでも思っているのかしら? それなら本当の馬鹿ね。聖女として利用されるだけなのに。
幼い頃から私はスカーレットが大嫌いだった。だってお母様がずっと「スカーレットは悪女の血をひいいている」と言ってたから、そうなんだと思う。お母様はスカーレットの母親にお父様を取られたといつも恨み言を言っていた。
「あの女が死んだのは天罰よ! だからあの女の娘のスカーレットが聖女なんて嘘なの。そんなのあるわけない。きっとお父様が陛下に取り入るためにあの子を利用しているのよ」
実際にお父様が本当に愛しているのは、私たち親子だった。当然よね。あの薄気味悪い黒髪に、痩せこけた魅力のない体。オーエン様だって婚約者のスカーレットより、私を選んだもの。
(聖女も私が奪ったし、これでお母様も大喜びするわ!)
私はフフンと鼻で笑うと、馬車を降りた。教会には一度も来たことなかったけど、平民も訪れるせいか臭い匂いがする。
(なにこの匂い! こんな所に住めというの? もう王宮に帰りたいわ!)
とたんに気持ちが悪くなった私は、ハンカチで口元を押さえ急ぎ足で歩きだす。すると突然、後ろからグイッと誰かに服を引っ張られた。
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