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10話 残酷な処遇

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「わ、わたくしが影? それはいったい……?」


 予想もしていなかった陛下の答えに、頭が真っ白になる。私とオーエン様の婚約が無くなり、シャルロットが王妃になるかもしれないことまでは予想していた。しかし「影」とはいったい、どういうことだろう?


 思わず立ち上がりそうになるのをなんとか堪え、私はすうっと深呼吸をして心を落ち着かせた。そんな私の様子を見届けると、陛下はまた話を続ける。


「スカーレットとオーエンの婚約は解消する。シャルロットが妊娠したのなら、その子は王家の子だ。堕胎させることはできない。それにシャルロットとスカーレット、両方を妃にすれば他の貴族から反発があろう。聡明なスカーレットなら、わかるな?」

「は、はい……」


 嫌な予感がする。陛下はことあるごとに私を「聡明な子だ」と褒めてくださっていた。しかし今の言い方は違う。


 ――これから私が言うことを文句を言わず飲み込め。わかるな?


 そう言っているのだ。その意味がわかったとたん、背中にぞっと寒気が走り、私は喉の奥がグッと閉まるのがわかった。


「そうなると聖女であるスカーレットの処遇が問題になる。王家に嫁ぐことで、他の貴族に聖女の権力を渡さないという意味合いがあるのだ」


 もう隠そうともしないのか。いつもの「聖女として頑張っているのだから、王家で大切にするのは当然」という表の理由は必要ないらしい。隣に座る王妃様もゆっくりとうなずき、陛下の意見に賛成している。


「ならば、スカーレットが聖女でなくなればいいのだ」


 陛下はそう高らかに宣言すると、威圧感のある笑顔を私に向ける。決して目は笑っておらず、その真意は明白だ。それでも聞かずにはいられない。私は何年もこの身をこの国に、そして王家に捧げてきたのだ。聞く権利くらいはあるだろう。


「えっ……、今……なんと?」
「わからぬか? スカーレット、君はこれから王太子妃になるシャルロットの影となり、王家を支えるのだ」
「シャルロットの、影……。オーエン様の側妃ではないのですよね?」


 答えはわかっている。これから陛下が言うことも予想している。それでも、それでも私は……。


「ああ、そうだ。君は聖女の力が無くなったと発表すればいい。しかしこれまでの功績に報いて、王家で保護するとしよう。それでいいな?」


 陛下に告げられた一方的な言葉に、愕然とし、頭が真っ白だ。それでも私はなんとか力を振り絞って口を開いた。


「け、結界はどうするのですか? 魔力を注ぎ続けないと、結界が壊れてしまいます」


 そもそも百年前に作られた結界に綻びが出てきたので、私が聖女に選ばれたのだ。結界は私と聖教会の司教様にしか見えない。聖魔力も私しか持っていない。


(まだ結界は完成していないし、私が生き続ける限り魔力を注いでいかないと維持できないのに……)


 このことは司教様からも王家に説明がされている。それなのに目の前の陛下は必死に説明する私を見て、フッと鼻で笑った。


「私は結界なぞ、信じておらぬ。結界も魔力も聖教会が作った妄想だろう」


 その言葉が部屋に響いた時、遠くでシャルロットとオーエン様がクスリと笑う声が聞こえた。
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