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9話 陛下との話し合い
しおりを挟む「お父様、なぜここに……?」
「なぜじゃないだろう! おまえが婚約破棄されたというから、呼び出されたのだ! いったいおまえはオーエン様になにをした!」
頭から湯気が出るのではないかと思うくらい怒っては、私に怒鳴り散らす父。
予想通りだ。やはり怒られるのは私。母とは最初から政略結婚だったから私に愛情などない。聖女だと判明していなかったら、今頃どうなっていたことか。父にとって私は政治の駒のようなもの。その駒が王妃にならないのなら、役立たずというわけだ。
「わたくしは何も……」
「スカーレット。座りなさい」
オーエン様の父である、国王陛下の冷たい声が部屋に響く。はあ、とわざとらしいほど大きなため息を吐き、頭を抱えているのは王妃様だ。二人とも先に部屋に入った宰相様から、妊娠のことを聞いたのだろう。
どう話を切り出そうかと父の方をチラチラと見ている。しょうがない。どうせこの婚約は破棄されるのだ。それにこのことを聞いたらさすがに私を責める人はいないだろう。
「お父様、何かをしたのはわたくしではありませんわ。シャルロットがオーエン様の子を身籠ったそうです」
「な、なんだって!」
妊娠のことは婚約破棄の後に聞いたけど、順番はもういいだろう。スッと一歩横にずれると、シャルロットが部屋に入ってきた。もう彼女の芝居は始まっているようで、涙をポロポロと流し体を震わせている。
「お、お父様……! ごめんなさい! わたくし、わたくし……!」
「おお! シャルロット! おまえ本当なのかい?」
私とは違って優しい父の態度に、心の中で舌を出したい気分だ。義母でありシャルロットの母とは長い間愛人関係だった。父にとって私の母は、恋の邪魔者といったところだろう。年々母に似てくる私を見る視線は冷たかった。
(とはいえ、聖女の力があるのは私。陛下は本当にどうするおつもりなのかしら?)
「皆、座りなさい。オーエンもここに来い」
いつの間にか部屋の隅で暗い顔をしていたオーエン様が、陛下の言葉にビクリと肩を震わせる。自分でしでかしたことなのに、まるで怯えた子犬みたいだ。
クスンクスンとすすり泣くシャルロットの声を聞きながら、私は父の隣に座った。私は悪いことは何もしていない。毎日体をボロボロにしてまで結界に魔力を注ぎ、王妃教育を頑張ってきた。
そのせいか陛下も王妃様も私には優しくしてくれ、いつもねぎらってくれたのだ。たとえ婚約が破棄になったとしても、私に悪いようにはしないだろう。そう思って私はまっすぐにお二人の目を見つめた。
しかしそんな私の考えは甘かったようだ。陛下はじっと私を見つめ返したうえで、はっきりとこう言った。
「スカーレットには影になってもらおう」
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