4 / 55
4話 隣国の王子シモン
しおりを挟む「シモン様!」
「おや! スカーレットじゃないか? 夜会はもう終わったか? 君の主催だからわざわざ苦手な夜会に出ようとしたのに、帰るなんてひどいぞ」
「わたくしの主催ではありませんわ。招待状は殿下の名で届いたでしょう?」
「あんなの貰った者はみんな知ってるよ。名ばかりの主催だって」
そうやって笑うのは、隣国カリエントからの客人であるシモン様だ。隣国の高位貴族として来ているが、実は彼も王族だ。カリエント国の第一王子、シモン様。
数ヶ月前からこの国に来たのだけど、精力的にいろんな場所を見ては学んでいた。そのように外を出歩いているせいか、また騎士の訓練に参加しているからか。
彼はオーエン殿下とは違い、屈強でたくましい体型だ。王子だと知らなかったら、最初の印象は騎士団長だろう。男らしい体型がタキシードに張りを与え、きっと令嬢たちを虜にするはずだ。
日に焼けた肌に白い歯。そして艷やかな金色の髪が月の明かりでキラキラと光り、なんとも幻想的な雰囲気があった。
――異国の王子様という言葉がピッタリね。まあ、本当にそうなんだけど
「それで、泣きそうな顔をしているけど、どうしたんだい? もしかして婚約破棄でもされたかい?」
いつの間にか私も彼の姿に見惚れていたのかもしれない。突然のその言葉にいつもの令嬢の仮面が剥がれ、目を丸くして驚いてしまった。
「はは! どうしてわかったって顔だな! でも本当にあいつも馬鹿だな。こんなに可愛い顔をした婚約者をないがしろにするなんて」
「可愛くありませんわ……ボロボロです」
本当に恥ずかしいほどだ。妹だけではない。他の令嬢たちに比べても、明らかに見劣りする。こんな私が王妃だなんてそれこそ間違いなのかもしれない。
「一生懸命に頑張る姿を、可愛いと思うのは変か?」
「え……」
「そりゃあ、他の綺麗な令嬢に比べれば、スカーレットはボロボロかもしれないけど」
「なら言わないでくださいませ。自分でもわかっているのですから」
――少しは慰めてくださるのかと思ったら!
ふてくされプイッと横を向くと、シモン様は豪快に笑って私の頭をポンとさわった。
「まだ話には続きがあるんだ。今の君はたしかにやつれてるよ? でも俺にとっては、それは頑張った証だ。俺の母親は何人も子供を産んでるが、出産した後はいつもそんな状態だった。でもな、その姿こそ俺は一番美しく感じたんだ。今の君も同じだ。頑張ったからそんな顔をしているんだろう?」
「シモン様……」
嘘でもいい。今の私には暗闇に光が見えたようで、その言葉にすがりたかった。
――彼の婚約者が羨ましいわ。こんな人となら一緒に頑張っていけるのに。
当然のことだけど、彼も王族でカリエント国には婚約者がいる。あまり話には出てこないけど、きっと美人で優しい人だろう。同じ王族の婚約者でも大違いだ。でもこれ以上深く考えるのはよしたほうがいいわね。どうせ、私がオーエン様と結婚するのは変わりないもの。
――だって私はこの国の聖女。
聖女は王族と結婚することが決まっている。王太子であるオーエン様の下に弟殿下はいるけれど、まだ八歳だ。今はああやってシャルロットに夢中になっているけれど、オーエン様が王太子の座を捨てるとは思えない。
お飾りの王妃として頑張るしかない未来を思うと苦しいけど、これもきっと私の人生なのだろう。はあ……と大きくため息をつくと、それを見たシモン様が私の頭をコツンと叩いた。
「また悩んでるな。一人で頑張りすぎだ」
「……そうかもしれません」
「だから一人で悩んで解決しようとしなくていい。今回のことは、俺からも殿下に話してみよう」
「……いいのですか?」
男同士で同じ王族だからこそ、理解し合えるかもしれない。私から言ってもきっと煩がられておしまいね。私は素直にシモン様の助けにのり、二人でオーエン様の私室に向かった。
しかしそんな私の考えは、甘かったみたいだ。
殿下の部屋からは、妹の甘い嬌声が聞こえ、私たちは頭を抱えるしかなかった。
37
お気に入りに追加
5,638
あなたにおすすめの小説
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる