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第二章
10:因縁
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「圭太。僕がどうしてここに来たのか、分かるか?」
「知るか。帰れ、篠藤」
急に何を言い出すかと思えば、篠藤が口にしたのはそんな言葉だった。
俺を睨みつけている。額には青筋が走っていた。
「試合直前に急に顔を出すとか何考えてんだ?身内にも迷惑だ。とっとと用を済ませて帰れ」
何事かとこちらを覗き込んでいた陽菜たちに、手を向けて出てこないように釘をさす。
「言うじゃないか、圭太。流石、実力を隠して僕らを嘲笑っていた男にとっては、僕も既に過去の人間という訳かい?」
「縁を切ると言い出したのはそっちだったと思うけど」
「そうだったな。なら撤回するよ。でももちろん友達には戻らない。僕は、君を敵としてみなした。必ず潰す」
…そうなるのかぁ。俺は空を仰ぎたい気分になった。
過去の事だが、自分でも意外な事に、俺と篠藤、そして俺と愛原は中学生の頃は普通に仲が良かった。
休日はよく無意味に集まったし、篠藤の金でキャンプに連れて行かれたこともある。愛原が我儘を言って俺と篠藤が仕方なく付き合い、海や山に行くこともあった。逆に、俺が困ったら二人がそれとなく、文句を言いつつも手助けをしてくれたこともある。
愛原に至っては小さい頃から面倒を見てたから、互いの家に遊びに行くことも少なくなかった。
だけど、細かい所では俺達は全く理解し合えなかった。俺がいない場所では愛原と篠藤はあまり会話をしなかったし、むしろ俺がいなければ二人の相性は最悪だった。自分絶対主義の愛原と、完璧主義の篠藤では分かり合える点はほぼ無いに等しい。
逆に俺の場合は、二人とはそこそこ付き合えたが、愛原と二人きりのままだったら多分どこかで疎遠になっていただろうし(愛原は何故か俺に対して劣等感を持っているようだった。俺も注意していたが、いずれ我慢の限界が来ていたことだろう)、愛原がいなければ俺は篠藤とそもそも会話することすらなかった。
そしてこれははっきり言える事だが、俺達は俺達の関係に対して、三人とも執着していなかった。別になくなってもいいや。そんな気安さが、逆に俺達をなんとなく集めていた理由の一つなのだろう。
俺は多少友人として思っていたが、だからと言っていつまでもズルズルと一緒にいたいわけではなかった。例えば徐々に疎遠になっていったとしても、あの二人ならしょうがないかで片付ける事が出来た。
実際、縁切り宣言を受けた時も、縁を切られたこと自体に関しては俺はダメージはあまり受けなかった。
俺がショックを受けたのは、あの二人の口から汚い罵倒が出てきた事に対する失望からだ。根は良い奴だと思っていたから、勝手に裏切られた気分になっていた。まあ、それも数日経てば、勝手に期待して勝手に失望するとか、何やってんだ俺、と思い至って気にならなくなったが。
気にならなくなった時点で、俺の中ではそれが二人との関係の終わりだと思っていた。
俺と、篠藤や愛原は、なんというかカテゴリーが違う。生活圏が違う。むしろ今までどうしてつるんできたんだというくらい接点が無い間柄だったのだ。もう今後二度と話すことはないだろう、と。
だが縁とは口先一つの言葉で切れる程簡単なものではないらしい。少なくとも篠藤は俺に対してご執心のようだ。
どうでもいい相手なら、他人の振りをすればよかったのに。俺だってそうする予定だった。
「はあ…潰すとか言うなよ。俺達は次の試合の対戦相手同士なんだ。あまり強い言葉を言ったら、主催者側に目を付けられるぞ。ただでさえ今も監視されてるのに」
少し離れた所で、それとなくこちらの様子をうかがっている職員の人を見て俺はそう返した。それに対して、篠藤は若干苛立ちを深くした。
「余裕だね。僕なんか既に視界に入ってないって言いたいのかい?」
「一言もそんな事言ってないが。話にならないな、とにかくそれだけなら、とっとと帰れ」
「っ…待て、圭太!」
踵を返したら、篠藤が俺を呼び止めた。
「そうだ、賭け事でもしてみないか?僕と君、どっちが勝つか。賭けるのは、お互いの仲間だ」
「は?」
「勝ったら1人、仲間を奪えるとしよう。そうだな、僕は君と仲がよさそうなあのおとなしそうな子にしよう。ああ、それとも君に懐いてた、見るからにイレギュラーのあの少女でもいい。そっちの方が使い道がありそうだ。どちらも、見た目で言えば君なんかにはもったいないレベルだし、僕が有効活用してやるよ。マスコットキャラかアイドルキャラかにして売ったら、人気が出そうとは思わないかい?」
「何言ってんの。ぶっ飛ばすぞお前」
思わず俺は篠藤を睨みつけていた。篠藤はそれを受けて、嬉しそうに笑った。
「はは、それだよ、僕が欲しかったのは!怒れ怒れ!そして、全力で掛かってこい…君の全力を、僕がさらに上から叩き潰す!これくらいはっきりさせなくちゃ、お互い満足できないだろ?」
「…下らない。勝手にやってろ」
それ以上篠藤と冷静に話していられる自信が一切なくなってしまった。俺はそう吐き捨てて会話を終わらせる。篠藤は「忘れるな!仲間を失いたくなかったら、全力で掛かってくるんだな!」と言い捨てて消えていった。
そもそも、仲間を賭けるってなんだ。そんな事出来る訳ないだろ、アホか。
他人様の事を景品扱いできる神経が俺には全く理解できなかった。
と、ふと目が合った。扉を開けて、こちらを覗き込んでいた陽菜の姿があった。陽菜は心配げな顔で俺を見上げていた。
「…圭太君…その」
「ああ…もしかして聞いてたのか?」
「…最後の所だけ」
「そうだったか。ごめんな、気分悪くしただろ」
「いえ、私は大丈夫です。ただ、圭太君が…その、見たことない顔してるので…心配です」
「見たことない顔?」
俺は自分の顔を触った。よく分からない。
さらに、爺ちゃんも出てきた。
「圭太、今のは裕二君だったよな。何か言われたのか?」
「ちょっとした口喧嘩だよ。それよりもそろそろ時間だし、移動しないと遅れるぞ」
俺の言葉に、面々は動き始めた。気になっているようだったが、俺が何も言わないでいると空気を察してくれて、何も聞かないで言ってくれた。俺はソレを内心謝りながら見送る。
「…圭太君」
最後に陽菜が残って、俺に何か言いたそうに目を向けてきた。そして、意を決して口を開いた。
「私、あの人嫌いです。いつかぶっころします」
「…いや、今日俺がボコボコにするから、陽菜の分は残してやれないな」
「…ふふっ、そうですね。なら、楽しみにしてますね」
二ッと笑ってそう返した俺に、纏っていた黒いオーラを霧散させて、おかしそうに笑う陽菜。
「…もし圭太君が負けたら私どうなっちゃうんでしょうね?」
「あのなぁ、人を賭け事の商品に使うなんて、本気にするわけないだろ。アイツが勝手に言ってるだけだよ」
「否定してなかったじゃないですか。向こうはそのつもりで動くかもしれませんよ?もしそうだったら、私とリリアちゃんが大変な目にあうかも!」
そう言われて、正直ちょっとむっとしてしまった。
俺は気が付いたら、壁を背にしていた陽菜の顔の横に、手を突いて口を開いていた。
「誰にもやるわけないだろ、バカ」
…あれ?なんか陽菜が喋らなくなった。顔が真っ赤だ。
「ふぇっ…」
「…」
…ッスー…あれ、これ俺、死ぬほど恥ずかしい事をしてしまったのでは?俺は慌てて壁から手を離して陽菜から距離を取った。
「…い、今のはアレだ。仲間をよそにやる訳がないって意味な!それに、酔いの席で決まった事とは言え婚約者同士なんだし、その辺のことも考えると、お互い答えが出るまでは離れるつもりは少なくとも俺にはないってだけで、ほらリリアの事もあるしさ、とりあえず忘れてくれると嬉しいかなそれじゃあまたな気を付けて行けよ!」
俺はその場を離れた。というか逃げた。
逃げざるを得なかったとも言う。
なんかもう死にたい。
10:因縁
「顔が怖いよ、圭太。配信もされてるんだから、ちゃんと愛想を良くしないと駄目じゃないか」
「悪いが興味が無いな」
会場に上がって、俺は篠藤と対面していた。
「必死だね。もしかして、仲間を取られるかもと今更心配になったのかな?だとしたら安心していいよ。恋愛的な意味で奪うつもりは一切無いからね。ほら、見てみなよ」
篠藤は自分の仲間たちがいる席を指さした。
「美女美少女がそろった良いパーティーメンバーだろ。でもだからって僕に複数の女性を愛する趣味は無いよ。ただ、僕のスキルにとってはああいうのがとても大切な要素なんだ」
「…」
「既に察しているかもしれないけど、僕は注目される事で自分を強化できる。だけど、このスキルは実は僕の意識次第でね。注目のされ方が、僕にとって『満足できるものかそうじゃないか』で効果が大きく変わってくる。例えば、男に応援されてもやる気は出ないけど、美女に応援されるとやる気が出る。それと同じ感じなんだ」
なんだこいつ。もしかして今、スキルの説明をしてるのか?これから戦うことになる相手に?
訳が分からないな。
「配信は肌に合わなくてさ、実際に僕の事を見てくれて、そばで応援してくれる美少女達が必要だった。そして、君のパーティーメンバーはその条件に余裕で当てはまる子ばかりいる」
「…」
「まあつまり、僕にとってパーティーメンバーとは僕を上に押し上げてくれる道具でしかない訳だ。そして僕はそんな彼女たちに恋愛感情を向けることはない。だから、もし君が負けてあの子を僕に取られたとしても、恋愛は続ければいい。ただ、職場が彼女にふさわしい場所に変わるだけなんだ。」
「…長々と話してくれてどうもありがとう。で、なんでお前自分のスキルについて俺に教えてきたの?」
俺は刀を抜いて、体の具合を確かめた。
魔力はしっかり回復している。体力もみなぎっているし、準備は万全だ。
「教えても問題ないしね。それに、教えたうえで君を負かせば、僕はその分自分に自信が付く。強くなれる。メリットがあるから明かしただけだよ」
「ああ、そうかよ」
『全試合で観客の度肝を抜いてきた最強のダークホース!首狩りのカミノ選手!』
『対するは、輝く剣で敵を一刀両断してきた、今を時めく新星の一つ!最優の騎士、篠藤裕二選手!』
『またもや真宵手高校の生徒同士の試合となります!普段学業でしのぎを削る二人が、今日だけは剣で持って優劣を競い合う!勝利の女神は、果たしてどちらに微笑むのか!』
『―――では、試合開始!』
合図が鳴った途端、俺は刀を構えて風刃を纏わせ、更にそれを強化した。
「うおおおおおお!」
そして、篠藤もまた剣に光のオーラを纏わせて、強大なエネルギーの束を作り出す。
「―――風刃」
「【極光の剣よ、我が敵を打ち滅ぼせ フォースドライブ】!」
次の瞬間、風の魔力と光の魔力の高密度な奔流同士がぶつかり合い、爆発を引き起こした。
「知るか。帰れ、篠藤」
急に何を言い出すかと思えば、篠藤が口にしたのはそんな言葉だった。
俺を睨みつけている。額には青筋が走っていた。
「試合直前に急に顔を出すとか何考えてんだ?身内にも迷惑だ。とっとと用を済ませて帰れ」
何事かとこちらを覗き込んでいた陽菜たちに、手を向けて出てこないように釘をさす。
「言うじゃないか、圭太。流石、実力を隠して僕らを嘲笑っていた男にとっては、僕も既に過去の人間という訳かい?」
「縁を切ると言い出したのはそっちだったと思うけど」
「そうだったな。なら撤回するよ。でももちろん友達には戻らない。僕は、君を敵としてみなした。必ず潰す」
…そうなるのかぁ。俺は空を仰ぎたい気分になった。
過去の事だが、自分でも意外な事に、俺と篠藤、そして俺と愛原は中学生の頃は普通に仲が良かった。
休日はよく無意味に集まったし、篠藤の金でキャンプに連れて行かれたこともある。愛原が我儘を言って俺と篠藤が仕方なく付き合い、海や山に行くこともあった。逆に、俺が困ったら二人がそれとなく、文句を言いつつも手助けをしてくれたこともある。
愛原に至っては小さい頃から面倒を見てたから、互いの家に遊びに行くことも少なくなかった。
だけど、細かい所では俺達は全く理解し合えなかった。俺がいない場所では愛原と篠藤はあまり会話をしなかったし、むしろ俺がいなければ二人の相性は最悪だった。自分絶対主義の愛原と、完璧主義の篠藤では分かり合える点はほぼ無いに等しい。
逆に俺の場合は、二人とはそこそこ付き合えたが、愛原と二人きりのままだったら多分どこかで疎遠になっていただろうし(愛原は何故か俺に対して劣等感を持っているようだった。俺も注意していたが、いずれ我慢の限界が来ていたことだろう)、愛原がいなければ俺は篠藤とそもそも会話することすらなかった。
そしてこれははっきり言える事だが、俺達は俺達の関係に対して、三人とも執着していなかった。別になくなってもいいや。そんな気安さが、逆に俺達をなんとなく集めていた理由の一つなのだろう。
俺は多少友人として思っていたが、だからと言っていつまでもズルズルと一緒にいたいわけではなかった。例えば徐々に疎遠になっていったとしても、あの二人ならしょうがないかで片付ける事が出来た。
実際、縁切り宣言を受けた時も、縁を切られたこと自体に関しては俺はダメージはあまり受けなかった。
俺がショックを受けたのは、あの二人の口から汚い罵倒が出てきた事に対する失望からだ。根は良い奴だと思っていたから、勝手に裏切られた気分になっていた。まあ、それも数日経てば、勝手に期待して勝手に失望するとか、何やってんだ俺、と思い至って気にならなくなったが。
気にならなくなった時点で、俺の中ではそれが二人との関係の終わりだと思っていた。
俺と、篠藤や愛原は、なんというかカテゴリーが違う。生活圏が違う。むしろ今までどうしてつるんできたんだというくらい接点が無い間柄だったのだ。もう今後二度と話すことはないだろう、と。
だが縁とは口先一つの言葉で切れる程簡単なものではないらしい。少なくとも篠藤は俺に対してご執心のようだ。
どうでもいい相手なら、他人の振りをすればよかったのに。俺だってそうする予定だった。
「はあ…潰すとか言うなよ。俺達は次の試合の対戦相手同士なんだ。あまり強い言葉を言ったら、主催者側に目を付けられるぞ。ただでさえ今も監視されてるのに」
少し離れた所で、それとなくこちらの様子をうかがっている職員の人を見て俺はそう返した。それに対して、篠藤は若干苛立ちを深くした。
「余裕だね。僕なんか既に視界に入ってないって言いたいのかい?」
「一言もそんな事言ってないが。話にならないな、とにかくそれだけなら、とっとと帰れ」
「っ…待て、圭太!」
踵を返したら、篠藤が俺を呼び止めた。
「そうだ、賭け事でもしてみないか?僕と君、どっちが勝つか。賭けるのは、お互いの仲間だ」
「は?」
「勝ったら1人、仲間を奪えるとしよう。そうだな、僕は君と仲がよさそうなあのおとなしそうな子にしよう。ああ、それとも君に懐いてた、見るからにイレギュラーのあの少女でもいい。そっちの方が使い道がありそうだ。どちらも、見た目で言えば君なんかにはもったいないレベルだし、僕が有効活用してやるよ。マスコットキャラかアイドルキャラかにして売ったら、人気が出そうとは思わないかい?」
「何言ってんの。ぶっ飛ばすぞお前」
思わず俺は篠藤を睨みつけていた。篠藤はそれを受けて、嬉しそうに笑った。
「はは、それだよ、僕が欲しかったのは!怒れ怒れ!そして、全力で掛かってこい…君の全力を、僕がさらに上から叩き潰す!これくらいはっきりさせなくちゃ、お互い満足できないだろ?」
「…下らない。勝手にやってろ」
それ以上篠藤と冷静に話していられる自信が一切なくなってしまった。俺はそう吐き捨てて会話を終わらせる。篠藤は「忘れるな!仲間を失いたくなかったら、全力で掛かってくるんだな!」と言い捨てて消えていった。
そもそも、仲間を賭けるってなんだ。そんな事出来る訳ないだろ、アホか。
他人様の事を景品扱いできる神経が俺には全く理解できなかった。
と、ふと目が合った。扉を開けて、こちらを覗き込んでいた陽菜の姿があった。陽菜は心配げな顔で俺を見上げていた。
「…圭太君…その」
「ああ…もしかして聞いてたのか?」
「…最後の所だけ」
「そうだったか。ごめんな、気分悪くしただろ」
「いえ、私は大丈夫です。ただ、圭太君が…その、見たことない顔してるので…心配です」
「見たことない顔?」
俺は自分の顔を触った。よく分からない。
さらに、爺ちゃんも出てきた。
「圭太、今のは裕二君だったよな。何か言われたのか?」
「ちょっとした口喧嘩だよ。それよりもそろそろ時間だし、移動しないと遅れるぞ」
俺の言葉に、面々は動き始めた。気になっているようだったが、俺が何も言わないでいると空気を察してくれて、何も聞かないで言ってくれた。俺はソレを内心謝りながら見送る。
「…圭太君」
最後に陽菜が残って、俺に何か言いたそうに目を向けてきた。そして、意を決して口を開いた。
「私、あの人嫌いです。いつかぶっころします」
「…いや、今日俺がボコボコにするから、陽菜の分は残してやれないな」
「…ふふっ、そうですね。なら、楽しみにしてますね」
二ッと笑ってそう返した俺に、纏っていた黒いオーラを霧散させて、おかしそうに笑う陽菜。
「…もし圭太君が負けたら私どうなっちゃうんでしょうね?」
「あのなぁ、人を賭け事の商品に使うなんて、本気にするわけないだろ。アイツが勝手に言ってるだけだよ」
「否定してなかったじゃないですか。向こうはそのつもりで動くかもしれませんよ?もしそうだったら、私とリリアちゃんが大変な目にあうかも!」
そう言われて、正直ちょっとむっとしてしまった。
俺は気が付いたら、壁を背にしていた陽菜の顔の横に、手を突いて口を開いていた。
「誰にもやるわけないだろ、バカ」
…あれ?なんか陽菜が喋らなくなった。顔が真っ赤だ。
「ふぇっ…」
「…」
…ッスー…あれ、これ俺、死ぬほど恥ずかしい事をしてしまったのでは?俺は慌てて壁から手を離して陽菜から距離を取った。
「…い、今のはアレだ。仲間をよそにやる訳がないって意味な!それに、酔いの席で決まった事とは言え婚約者同士なんだし、その辺のことも考えると、お互い答えが出るまでは離れるつもりは少なくとも俺にはないってだけで、ほらリリアの事もあるしさ、とりあえず忘れてくれると嬉しいかなそれじゃあまたな気を付けて行けよ!」
俺はその場を離れた。というか逃げた。
逃げざるを得なかったとも言う。
なんかもう死にたい。
10:因縁
「顔が怖いよ、圭太。配信もされてるんだから、ちゃんと愛想を良くしないと駄目じゃないか」
「悪いが興味が無いな」
会場に上がって、俺は篠藤と対面していた。
「必死だね。もしかして、仲間を取られるかもと今更心配になったのかな?だとしたら安心していいよ。恋愛的な意味で奪うつもりは一切無いからね。ほら、見てみなよ」
篠藤は自分の仲間たちがいる席を指さした。
「美女美少女がそろった良いパーティーメンバーだろ。でもだからって僕に複数の女性を愛する趣味は無いよ。ただ、僕のスキルにとってはああいうのがとても大切な要素なんだ」
「…」
「既に察しているかもしれないけど、僕は注目される事で自分を強化できる。だけど、このスキルは実は僕の意識次第でね。注目のされ方が、僕にとって『満足できるものかそうじゃないか』で効果が大きく変わってくる。例えば、男に応援されてもやる気は出ないけど、美女に応援されるとやる気が出る。それと同じ感じなんだ」
なんだこいつ。もしかして今、スキルの説明をしてるのか?これから戦うことになる相手に?
訳が分からないな。
「配信は肌に合わなくてさ、実際に僕の事を見てくれて、そばで応援してくれる美少女達が必要だった。そして、君のパーティーメンバーはその条件に余裕で当てはまる子ばかりいる」
「…」
「まあつまり、僕にとってパーティーメンバーとは僕を上に押し上げてくれる道具でしかない訳だ。そして僕はそんな彼女たちに恋愛感情を向けることはない。だから、もし君が負けてあの子を僕に取られたとしても、恋愛は続ければいい。ただ、職場が彼女にふさわしい場所に変わるだけなんだ。」
「…長々と話してくれてどうもありがとう。で、なんでお前自分のスキルについて俺に教えてきたの?」
俺は刀を抜いて、体の具合を確かめた。
魔力はしっかり回復している。体力もみなぎっているし、準備は万全だ。
「教えても問題ないしね。それに、教えたうえで君を負かせば、僕はその分自分に自信が付く。強くなれる。メリットがあるから明かしただけだよ」
「ああ、そうかよ」
『全試合で観客の度肝を抜いてきた最強のダークホース!首狩りのカミノ選手!』
『対するは、輝く剣で敵を一刀両断してきた、今を時めく新星の一つ!最優の騎士、篠藤裕二選手!』
『またもや真宵手高校の生徒同士の試合となります!普段学業でしのぎを削る二人が、今日だけは剣で持って優劣を競い合う!勝利の女神は、果たしてどちらに微笑むのか!』
『―――では、試合開始!』
合図が鳴った途端、俺は刀を構えて風刃を纏わせ、更にそれを強化した。
「うおおおおおお!」
そして、篠藤もまた剣に光のオーラを纏わせて、強大なエネルギーの束を作り出す。
「―――風刃」
「【極光の剣よ、我が敵を打ち滅ぼせ フォースドライブ】!」
次の瞬間、風の魔力と光の魔力の高密度な奔流同士がぶつかり合い、爆発を引き起こした。
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