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第二章

9:影響

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 眼下で倒れ伏し、その場から消える大門寺弘雷の姿を見て、志島が立ち上がった。

「…嘘でしょう…ッ!」

 解説席で、志島ががびーん、と頭を押さえて驚愕のポーズを取った。そんなあからさまなリアクションをしてしまう程、これは予想外の事だったらしい。

 それを見て、ヴォルフが腹を抱えて笑う。

「はー、面白!ショック受けちゃってまあ。何が『お互い恨みっこ無しですよ』だ。負ける事なんて想像すらしてなかったくせに!」
「いや、だって!実際明らかに最後まで優勢だったじゃないですか!ああもう、どうしてあからさまな誘いに乗ってしまったのですか、大門寺先生!」
「はっは…!彼の御仁も、心まではいつまでも若かったように見える!もしくは、若き剣士の挑戦に正々堂々受けて立ちたかったのだろう…いやあ、しびれる最後だったな…!」
「最後の攻撃、よく見切りましたね。いえ、見切ったというより、あれは…」

 リーファは首を横に振る。

「いえ、ともかく、これは予想外の駒が現れたものです。まさしくダークホース…誰もが想像していなかった刺客」
「…ええ、そうですね。認めましょう。彼はリーファさんの言う通り、注目すべき選手…いや、冒険者です」
「おっ、もしかして疼いたか?鍛冶師としての本能が…やめとけやめとけ、どうせすでに他の鍛冶師に唾を付けられてるよ」
「な、何を馬鹿な事を!私とて一級鍛冶師の端くれ。節操もなくルーキー冒険者に武器を打ちたくなるなど、ましてや腕が疼いたなど、あり得る訳がないでしょう!」
「へえへえ…にしてもカミノか。狐面の正体見たり、だな。…ん?」

 にやにやしながらも、カミノを視界に捉えるヴォルフ。その時だった。冒険者部とやらがカミノの勝利をたたえ、それに対してカミノがバッサリと一蹴したのだ。

「ぶはははは!あ、アイツ!アイツ絶対私のクランに入れるわ!マジでほしい!」
「全く、衝動に身を任せた行いはいつか自分に返ってくるというのに…若いですねえ」
「だが、その豪胆さは良し!願わくば、彼にはぜひ最後まで勝ち残り、竜水としのぎを削ってほしいものだ」

 会場を後にするカミノに対して、口々に評価を述べるプロ冒険者達。

『…え、えー、ちょっと予想外な事になってしまいましたが!まだまだこの先も試合は続きます!あらゆる期待と感情を背負い戦う選手たちに、この先もどうぞ応援と喝采を!』

 静寂に染まった空気を立て直すように実況者がまくし立てる。ざわざわと会場に喧騒が戻ってくる。

「…それにしても」
「…うむ、喋らんな」

 ここにきて、全員は一切喋る事のない冒険者に目を向けた。

「…ふっ」
「…む、ムカつく…!」

 ユーゴはニヒルに笑い、志島は額の血管を浮き出させたのだった。

 




【集え】第6回近接術大会実況スレ【ツワモノ共よ】





356:名無しがお送りいたします
うおおおおおおお!お前狐面だろ!カミノお前狐面お前お前お前!

357:名無しがお送りいたします
>356 落ち着け
カミノォ!お前の事を待ってたんだよぉ!

358:名無しがお送りいたします
狐面:刀使い。強化魔法持ち。見えない斬撃を放つスキル持ち
カミノ:刀使い。強化魔法あり。斬撃については解析班が解析中だが高確率で所持

お前お前お前!狐面お前!

359:名無しがお送りいたします
マジで高校生じゃねえか!しかも大門寺弘雷をやりやがった!超新星なんてもんじゃねえぞ!

360:名無しがお送りいたします
【朗報】誰も注目してなかった首狩り君、今大会一のダークホースだった件www【驚愕】

361:名無しがお送りいたします
>360 既にカミノ専用スレが出来てるんだよなぁ
真宵手高校で狐面名乗ってる奴いたけどアイツじゃなかったんけえ!正直今年一番の衝撃なんだが!?

362:名無しがお送りいたします
カミノが元ニートワイを助けた高校生や!似てる似てる思ってたけどやっぱそうやったんやな!うおおお、密かに応援してたけどこれからはしっかり応援するぞおおお1

363:名無しがお送りいたします
>362 似てるって思ってたんなら教えとけよ!報連相しっかりしろやニート豚ゴラァ!君仕事できないねって言われないィ!?

364:名無しがお送りいたします
>363 元ニート定期
いやだって他の生徒が狐面だって言ってたから、ほなら俺の記憶間違いなのか?とか自分を疑う事になってもおかしくないやんけ。ワイ自己肯定感皆無の元ニートやぞ

365:名無しがお送りいたします
【悲報】自称狐面君の動画を出してたアカウント、荒らされまくる【荒らしはやめようね】

366:名無しがお送りいたします
>365 さっきからちょくちょく出てる自称狐面って何のこと?

367:名無しがお送りいたします
>368 自分の事を狐面だって言って匂わせてた奴が真宵手高から出てきてたんだよ。確か田淵だか田口だか言う奴で、女子たちと一緒に写真撮ったりお礼でもらった品を見せびらかしたりしてる動画を、その田口の知り合いがSNSに投稿して一時期話題になってた。
まあ実際に狐面に助けられた人たちがこぞってこいつは違うと言い張ってたから、若干炎上してその後話題に上がらなくなったんだけど…マジで偽物だったとはな

368:名無しがお送りいたします
怒りで手が震えるんだが。そのアカウントが狐面への支援用として開いてた欲しいものリストやファンボックスに普通にお金と商品送ってたんやが、これって詐欺で訴えて勝てる奴?
普通人の感謝を騙して搾り取る奴おる?高校生でも許される事じゃないだろ

369:名無しがお送りいたします
>368 本気で訴えたいなら落ち着いて弁護士に相談してみろ。多分イケるはず。
っていうかその辺はスレ違いになるから、こっち>>【偽物】偽狐面に騙された被害者の報告スレ【注意】でやれ。わざわざ建ててやったんだから感謝しろよ

370:名無しがお送りいたします
>369 ありがてえ
しっかり事実確認するべきだった。命を助けられた恩を返したいばっかりに盲目的になってたわ。それはそれとして田口やら田淵やらは絶対許さんが

371:名無しがお送りいたします
【速報】SNS、たった十数分で狐面がトレンド入りする

372:名無しがお送りいたします
ついでに真宵手高校冒険者部もトレンド入りしてるわwwおめでとう部長!これで有名になれるね!

373:名無しがお送りいたします
あれよく分かってないんだけど、結局部長氏はカミノに何をしたの?

374:名無しがお送りいたします
カミノの言葉をそのまま抜粋すると、『冒険者部には入るつもりはそもそも無かったのだが、急に部長に話しかけられて一方的に『雑魚はいらん』宣言をされた』ってことでしょ?

375:名無しがお送りいたします
だとしたら部長氏、どうしてあんなに横断幕貼って派手に応援してたんだよ。面の皮どうなってんねん…

376:名無しがお送りいたします
ワイ真宵手高生徒。知り合いの冒険者部に話を聞くとどうやらこうらしい。

最初の頃「見るからに地味やし雑魚やんけ。どうせ冒険者部に入りたがってるだろうし釘刺しとこw」
最近「狐面ってやつが真宵手高校の生徒の中にいるらしい。とりあえず冒険者を片っ端から勧誘して探し出して、絶対に狐面を我が部に入れるぞ!」
今「選抜で見て分かったけどカミノが狐面やんけ!応援して事実入部させたろ!」

ってことらしい。

尚生徒内では、普段学校で威張り散らかしてる一部の冒険者部部員に対してうっ憤が溜まっていたらしく、カミノのファンになる生徒が続出中

377:名無しがお送りいたします
>376 どうでもいいけどもし君がもし本当に高校生なんだったとしたら、こんなスレで内部事情を話さない方がいいよ。
そして情報が本当だったとしたら、因果応報で草

378:名無しがお送りいたします
>377 ネットリテラシー、よし!
まあ、若さゆえの過ちってことで許したれ。自分が賢いと勘違いした馬鹿が馬鹿して痛い目見ただけみたいだし

379:名無しがお送りいたします
カミノの返しが秀逸すぎて好き。一気にファンになったわ

380:名無しがお送りいたします
そ れ な

381:名無しがお送りいたします
カミノの次の試合が待ち遠しい








9:影響




 控室から宿泊施設へ戻ると、大門寺が廊下で壁に背を付けて突っ立っていた。俺を見るなりにっと笑い、身体を向けて手を挙げてくる。

 俺は怪訝に思いながらも、会釈した。

「ふっ、まだ若いというのに慎ましいものだ。敗者に対して頭を下げるなんてな」
「…いや、ここはリングの外ですから」
「ククク、止せよ敬語なんて。試合中の肝の太さはどこに行った?」
「テンション上がってたんですよ…それに、俺お爺ちゃんっ子なので、基本年長者は敬うのが当たり前というか」
「…ふむ、ちと寂しいが、そこまで言うなら退くとしよう。寂しいがな。さて、よくぞ我が奥義を打ち破った。賞賛を直接送りたくて待っていたのだ。そして、礼も言いたい。新たな壁を見せてくれて本当にありがとう。お陰でもっと強くなれる道を見つけることが出来た」
「…あれ以上強くなるって…レベル上げですか?」
「もちろん違う。剣士としての話だ。ワシの剣術はもっともっと強く、鋭くなるぞ!その時は、是非また仕合ってくれ」
「…喜んで」

 握手を交わす。

「それから、これも渡しておこう」
「名刺?」
「うむ。表にはワシが営んでおる道場のホームページのURLがある。剣の腕を磨きたいと思った時は連絡してくれ。君ほどの者ならすぐに受け入れよう。そして、裏のQRコードを支援デバイスで読み込むと、フレンド登録ができる。カミノ、君とは冒険者としても共に戦いたいものだ。何かあれば気軽に連絡してくれ…ふっ。ではな!」

 髭面を笑みで持ち上げて、呵々としながら背を向けて手を振ってきた。俺はその背中を見送って、名刺を懐に入れたのだった。

 さて、とりあえず着替えて、試合で使った防具と刀を職員の人に渡して接客スペースへと向かった。一室を借りて、ソファで寝転ぶ。

 ラインを開くと、当然のように大量の通知が来ていた。俺はそれらの中から、知り合いのものだけ選ぶ。

 まず黒永さんから大興奮のメールが来ていた。俺の試合を見てインスピレーションが沸いたらしい。新しい刀を作る際は絶対自分に!との事だ。

 次に綾さん達からだが、なんでも今は大変なことになっているらしい。というのも、田淵が嘘つきで、俺の功績を奪っていたという事実がかなりの影響を与えているようだ。田淵の周囲を固めていたメンバーが酷く居心地悪くしているようだ。

 坂本からはさらに、冒険者部への風当たりが強くなったと聞いた。彼らは真宵手校で最も大きな組織だったし、かなりの権力と発言力があった。故に学校内でかなり調子に乗っていたそうだが、それに対して不満を持っていた少なくない生徒たちがかなり活気づいているそうだ。

 そういや、疲れていてあまり覚えてないけど、そんな事もしたな…間先輩には悪い事したか?罪悪感を感じるっちゃ感じるが、恨むなら馬鹿な事をやり始めた部長を恨んでくれよ。

 しばらく待っていると、陽菜たちがやってきた。

「圭太君!すっごくかっこよかったですよ!」
「うおっ…あ、ありがとう、陽菜」

 俺を見るなり笑顔を輝かせて抱き着いてくる陽菜を何とか受け止める。

「圭太、よく頑張ったな。あの大門寺弘雷に打ち勝つなんて凄い事だぞ!」
「爺ちゃん、大門寺さんを知ってるの?」
「俺と年が近いから、そりゃ知ってるさ。俺が趣味で剣術を習っていたころには既に、天才剣士現る!って話題になってたもんだ」
「有名な人だったんだ。道理で強かったんだな。正直、最後の賭けに乗ってきてくれてなかったら俺が負けてたよ」
『だが、結果的に勝ったのはケイタだヨ。おめでとウ!』
『ケイタ、強い!おめでとう!』
「鬼月、ありがとうな。あと、リリアも。リリアのお陰で勝てたようなもんだ。本当にありがとうな」
『えへへ、どういたしまして?』

 何のことか分かってないな、これは。

 その後、俺は次の試合まで休憩を取りながら過ごした。

 次の試合は…篠藤か。全く、縁切りされた相手とこんな場所で対峙することになるなんて、因果なものだ。

 そして、試合が始まる数十分前の事だった。ガラス張りの部屋に向かって、篠藤が近づいてきたのだ。

 俺を睨みつけている。出てこいというジェスチャーだ。

 全く、面倒なことになりそうだ。俺はため息を吐き出してソファから立ち上がったのだった。
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