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第二章

5:大会当日 選抜

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『最後におさらいをしておこうヨ、ケイタ』

 鬼月の言葉に、俺は頷いた。

『まず目的ダ。我々の目的は優勝賞品に擬態したカースドアイテム『ダンジョンの楔』を入手すること』
「そうだね」
『その為にも、まずは大会初日に行われる選抜試験でグループ一つにつき五つの枠に生き残る必要があるガ、これに関しては圭太はまず間違いなく勝ち抜くことができるだろウ。問題はその後のトーナメント形式での試合をどう勝ち抜くかダ。注目すべき優勝候補は三人』

 鬼月が指を立たせた。

『1人目。大門寺流無差別剣術道場師範の大門寺 弘雷 (こうらい)。60歳にして一年でレベル8まで到達、今大会最強の刀使いと目されていル』
『2人目。『絶氷』の異名を持つ魔法剣士、冒険者ネーム『ルイン』。こちらもレベル8。魔法に頼りすぎると評価点が下がるので全力は出せないだろうガ、それでも強敵には違いなイ』
『そして3人目。大手クランに所属している超新星剣士、王 (おう) 竜水。こちらは1年もたたずにレベル9にまで到達していて、レベル10到達も目前と噂されている本物の天才だゾ』

 三本目まで指を立たせて、鬼月はにやりと笑った。

『対してケイタはレベル7ではあるけド、ステータスに関しては一切の問題はなイ!技術の方もツルギに沢山ボコボコにされて磨かれたから、通用するはずダ!』
「鬼月、楽しそうだな…」

 ただでさえダンジョン関連や冒険者が好きな鬼月にとって、このイベントはとても心躍るものなのだろう。

『勝つのは圭太だヨ!絶対そうダ!』
『そーだそーだ!頑張ってね、ケイタ!』

 はしゃぐ鬼月に、リリアも一緒になって小躍りする。

 靴を履いて立ち上がると、陽菜と目が合う。しっかりと頷いてくれた。俺も頷き返して後ろを見ると、爺ちゃんと婆ちゃんも力強くうなずいてくれる。

 俺はリリアの頭を撫でた。

「よし、気張っていこう」

 自分に言い聞かせるようにそう言って、俺は玄関の扉を開け放ったのだった。

 会場はすさまじい人混みと熱気に包まれていた。

 パーティーメンバーは既に観客席に移動していて、爺ちゃんと婆ちゃん、それから橘家も来ている。また、一般人に変装した師匠もまた陽菜たちと一緒に見るそうだ。

 ちなみにユーゴさんは解説役として呼ばれているらしく、昨日から既に会場に入っているらしい。

 とりあえず俺は参加者が並ぶ列の最後尾へと付いた。ざわざわと騒音が凄まじい。周囲を睨みつけるもの、ニヤニヤ笑う者、動画を撮って配信を行う者、さらに、取材をしようと寄ってきたテレビのアナウンサーに意気揚々と答えるものなど様々な人がいる。

 そんな人混みの中でも、どこかで見た事のある顔がちらほらとあった。

 というのも、真宵手高校の生徒たちも結構大勢出場するらしい。冒険者部の部員、更にプライベートで冒険者をやっていた生徒、それから篠藤も出場するという噂をどこかで聞いた気がする。あと田淵。

 他にも、事前に調べて、注意すべき相手としてピンを刺した冒険者も何人か見かけた。

 鬼月に言われた優勝候補の三人だけではない。結構広範囲から来ているらしく、1年とは言え頭角を現している冒険者もそれなりにいるのだ。

「次の方ー」

 列が順調にはけていき、俺の番になった。俺は事前に貰っていた参加者チケットを取り出してそれを渡す。

「Bグループにお進みください」

 一目見てそう言われた。俺はさっさとその場から退いて、Bグループへ続く列へと移動した。

 しばらくして、グループごとに分かれた部屋に案内される。

 Bグループは大体50人程度。AからJグループまであるらしく、総参加者は過去最大の500人だ。

 人数は増えたがそれでも例年と同じ流れで大会は進行されるらしい。つまり、まずは大人数での選抜を生き残る必要があるという事だ。

 全てのグループが今日一日で選抜を終わらせる。そして明日からは本選のトーナメントへと進むことになる。

 さて、まずはここを切り抜けないと何も始まらない。

 俺は自分の装備を確認した。

 まずは防具。こちらは前もって注文しておき、前日に大会運営から送られてきたものを既に家で装備してきている。提携防具会社が作った前衛的なデザインの防具で、動きを邪魔することのない悪くない防具だ。

 さらに、武器。こちらも支給品で、丁度今配られているらしい。参加者たちがこぞって配布場所に並んでいた。

 と言ってもここはBグループ。まずAグループの選抜があるから、1,2時間は暇だ。俺は配布場所の列が途切れるのをベンチに座って待つことにした。

 この待機場には、コンビニや自動販売機もあるし、ソファーなどの設備も大量に揃っている。快適に過ごすことができる。

 このグループで注意すべき冒険者はいないか探してみる。

 知り合いはいないな…でも、数人、雰囲気が違うのがいる気がする。とはいえ優勝候補は一人もいないし、ちょっと残念かもしれない。

「…なあ、おい、お前神野だろ?」

 ソファーに座って観察していると、不意に横から話しかけられた。そちらに目を向けると、そこには高校生冒険者がいた。

「…真宵手高の?」
「冒険者部2年の間(はざま)だ。武器を取りに行く様子が無いから、おせっかいを焼きに来た。もしかして緊張して武器を取りに行くのを忘れてるんじゃないかとな」
「ああ、どうも。大丈夫ですよ。列がはけるのを待ってるだけなんで」
「そうなのか。初めての大会だよな?随分と余裕だな」
「顔に出ないだけで、緊張はしてます」
「そうか…よし、こうして同じグループになったのも何かの縁だ。冒険者部の宣伝がてら、ちょっと情報を流してやろう」
「はあ…」

 隣に座ってきて、周囲をキョロキョロと見まわす。

「そうだな…あ、あそこの壁際の男。アイツは要注意だ。暗殺術の使い手で、物陰に隠れながら攻撃してくる。選抜用のフィールドは遺跡のある場所だから、あいつにとっては有利な地形だな。それから大剣背負ったあの女も結構強いらしい」
「随分と詳しいんですね」
「冒険者部の利点の一つだ。情報収集する為だけの部門があって、そこから情報が流れてくる。冒険者の情報だけじゃないぞ。ダンジョンについてや、最近の流行まで教えてくれるんだ」

 ほう、冒険者部って案外しっかりと組織として形作られているんだな。部長や副部長の態度を思うと意外だ。

「そう言えば、先輩は2年生なんですよね。1年生のこの時期に入部したんですか?」
「いや、入部自体は今年の春からかな。冒険者を始めたのは冬休みからだ。それで色々活動してたら、冒険者部にスカウトされたって訳」
「なるほど」

 自慢げにそういう間に俺は生返事を返した。

「まあ、正直選抜を抜けれる自信はないな。神野はどうだい?」
「抜けたいと思ってますが」
「誰もがそう思っているだろうが…無理な可能性の方が大きい。他の人よりも優れた才能を持っているかしないと厳しいって言うのが現実だ。俺たち凡人にはよほど運が向いてない限りは難しいだろうな」
「先輩は、優勝狙ってないんですか?」
「ぶっちゃけな。でも、いい経験にはなると思ってる。こんなにたくさんの冒険者たちと関わる事は普通そうないからな。冒険者部の1年も数人、経験を目当てに参加してるんだぜ」

 記念受験か。まあ気持ちは分からなくもないが、俺はちょっと込み入った事情があるからな…今だけは共感しづらい。

「なるほど」
「君も同じだろ?ま、ここで少しでも活躍すれば冒険者部の先輩方に目をかけてもらえるかもしれないしな。冒険者部に入れたら学校生活のクオリティが上がるし、女子にはモテるようになる。更に冒険者部の中で上に行くことが出来たら、OBの先輩たちに推薦してもらって学校に行く必要すらなくなるんだぜ?まあ、つまりお互い頑張ろうぜってこと!」
「…そうですね。俺、そろそろ武器を貰いに行きます。色々教えてくれてありがとうございました。失礼します、間先輩」
「そうか?分かった。じゃあな!」

 俺はさっさとそこから離れて武器を貰いに行った。

 冒険者部か。間先輩とやらは悪い人には見えなかったけど、最初の印象が最悪すぎて抜けきれないし、やっぱ俺とは合いそうにないなぁ。

 折角の宣伝だが、俺が冒険者部に入る事は無いだろう。

 刀を受け取り、今度は一人用のソファに座って、俺は目を閉じて時間が来るのをひたすら待ったのだった。

『Bグループの選抜が開始されます。転移プレートに乗って待機してください』

 そんな声が聞こえて、俺は立ち上がった。周囲を見ると早速ぞろぞろと参加者たちが動き出していた。

『選抜はサバイバル形式の勝ち残りとなります。レベル上限は8、フィールドは遺跡群で、時間制限は120分。時間切れの場合はポイントの高い冒険者が勝ち残りとなります。ここで、あからさまな遠距離攻撃や大規模魔法攻撃などが行われた場合、その選手は即座に失格となります。また、転移プレートに乗り遅れた者もその時点で失格となります。それでは、ランダム転移を開始まで残り一分』

 60秒タイマーがモニターに映し出される。全員が転移プレートに乗り、そして数字がどんどん小さくなり、ついに0秒が映し出された。

 次の瞬間、転移プレートが光り輝き、俺は気が付いたら遺跡の中にいた。

 中世ヨーロッパにありそうな朽ちた遺跡群。ボロボロになった旗や飾りが風にたなびいていて、荒れ地となった地面から砂が風に巻き上げられて砂ぼこりを立てていた。

 俺は刀を構えて周囲を見回す。誰もいない…いや、見られてる。

 気配を消した男が俺の背後から音もなく飛び出し、刃を振るった。

「きひひひっ、まずは1人目ぇ…ッえ!?」

 首から魔素を噴出させた男が、目をぱちくりとさせてもんどりうって地面を転がった。その後、すっと消えていく。

 俺に一ポイントが入った。鞘に刀を収める。

 この大会では、特殊なマジックアイテムである、レア度3の≪剣闘士のコロシアムコア≫の効果により俺達に『HP』と呼ばれる外部装甲が付けられている。

 このHPは攻撃を受けた場合、俺達の身体を完全に守ってくれるが、攻撃を受ける度に魔素が流出していずれ消えてしまう。そしてHPがゼロになった瞬間、強制的にフィールドから退場、失格扱いになる。

 HPには急所が存在している。生身の人間にとっての血管が通っている部分などだ。だから、積極的に首や脇など急所を狙っていきたいところ。

 また、HPには部位欠損と呼ばれる異常状態が存在し、四肢、胴体の五つの部位を両断されるとその部位が切り離され、戦闘が著しく困難になるか、魔素の流出で失格することになる。当然外に出れば斬られた場所は元通りになる。

 ダンジョンで使えたら便利だったんだろうが、この≪剣闘士のコロシアムコア≫はダンジョンでは発動できなかったらしい。

 ちなみに、このフィールドを作っているのもこのアイテムによる効果だ。やっぱりレア度3以降は、効果の規模が大きくなってくるな。

 さて、最初の戦闘だったのに、さらっと倒してしまったのだが…さっきのは確か、待合場所で俺が周囲を観察してた時に見つけた、雰囲気が違う冒険者の内の1人だったはずだ。

 予想以上に動きが遅い。いや、予想以上に俺が動けてるってのが正解なのか?どうやら師匠とのこの数週間は無駄ではなかったらしい。

 とにかく、この調子で冒険者を見つけ次第首を刎ねて行こう。

 俺はその場から離れて走り出す。遺跡の中に入ると、角で出待ちをしていた冒険者からモーニングスターを振り下ろされる。首を斬る。

 同じタイミングで窓から突入してきたナイフ使いの男の攻撃を避けて、首を斬る。

 遺跡を抜けて外に出ると、遺跡の天井から数人の冒険者たちが降ってきた。槍、サーベル、それからメイスが振り下ろされる。

 足さばきで攻撃を避けて、斬撃を放つ。それぞれが倒れて地面に墜落し、そのまま消えていく。

「よし、どんどん行こう」

 俺は刀を鞘に納めて、駆け出した。



5:大会当日 選抜



 巨大な古い遺跡群が延々と続く中級ダンジョンにて、要を含めた冒険者パーティー『ブルーレイク』の面々は安全地帯にこしらえた一時拠点で休息を取っていた。

 既に目標のボスは討伐していて、今は帰路についている途中だった。後1,2週間ほどでダンジョンを脱出できるだろう。

 本来なら祝勝ムードに包まれていてもおかしくない状況だが、そこは険悪な空気に包まれていた。

 ただ一人、要だけが平気そうにしている。そんな要に、黒髪のメンバーの1人が声を上げた。

「…なんで教えてくれなかったの?」
「何を?」
「次のパーティーに、男がいるってことを!」

 空気が険悪になっている原因はそれだった。

 要がパーティーを抜けると言い出したのが8月の中旬程の事。最初はメンバー全員が別れを悲しみ、要が新しい歩みを進めることを祝福していた。そしてそれ以降、ブルーレイクは要が抜けることを前提に動いてきたのだ。

 そんなブルーレイクに衝撃が走ったのは、要を連れた最後のダンジョン攻略が始まった直後の事だった。

 要が男が含まれたパーティでダンジョンに潜ろうとしている姿が盗撮され、拡散されていたのである。

 雰囲気は一気に険悪になった。配信や動画ではいつも通りに振舞ってはいるが、裏ではこの通りの様子だった。

 軽い注意喚起をしてはいるものの、今の所特に効果は無く、いわゆる荒らし行為が頻発している。

 そして、ボス戦が終わった帰り。ついにメンバーの一人がうっ憤を爆発させた。

 当の本人がそちらに顔を向ける。

「逆に聞くけど、そんな事、どうして教えなきゃいけないのよ」
「分かるじゃん!うちらの立場を少し考えたら、それがヤバい事だってことくらい!見てよ、コメント凄い荒れてるじゃん!男絡みの事は皆気を付けてたのに、どうして要はそうしてくれなかったの?」
「気を付けてたわよ。ただ、盗撮はどうしようもないでしょ」
「…いつも思ってたけど、その投げやりな感じ、うざいから辞めてよ。要、人気あるんだから、こんな事したらこうなることくらい分かってたでしょ?」
「そりゃまあ、悪いなとは思うけど。でも、それじゃあどうしろって言うの?」
「どうしろって…それ以前に、普通男がいるパーティを次に選ぶ!?私達の事を考えたら、ほとぼり冷めるまで待つでしょ!?」

 そんな言葉に、要は目を吊り上げた。

「どうして私がそんなことしなきゃいけないのよ。そもそも、私が全部悪いって本気で思ってるの?」

 そんな要の言葉に、他のメンバーも表情を険しくして、静かに尋ねた。

「…それって、どういう事?」
「このパーティーが方向転換して、動画配信し始めた時に、私は言ったわよね。私には私の目的があるから、いずれはこのパーティーを辞めるかもしれない。それに素直にそういうのが煩わしいから、配信とかするつもりもないし、動画にも出ないって。それを勝手に映して動画に出したのはどこの誰だったかしら」

 要がそういうと、それまで要を責めていたメンバーが狼狽えた。

「そ、それに関しては、謝ったじゃん…それに、わざとした訳でもないし…」
「そーね。それ以降もちょくちょく私が動画に映るようになったし、本当にわざとじゃなかったのかは甚だ疑問だけど、ソレに関しては一度は許したわ。でも、それで私は認知される事になった。私のミスではなく、そちらのミスで。で、宣言した通り辞める頃になって、『人気になったんだから、気を使え』って?随分と虫のいいことを言うのね」
「それは…」
「私は目的のために動いているの。次のパーティーに移るのも、目的のためなのよ。私は宣言通りにしか動いていないわ。確かに盗撮されたのは私が迂闊だったし、ブルーレイクにもあちらのパーティーにも迷惑をかけたと思ってる。でも、そもそも私が注目されて、盗撮されるような状況にしたのは貴女でしょ?責任転嫁はやめてほしいわね」
「…でも、それでも人気になったのは、事実じゃん!だったら、人気になった人にふさわしい動きをするもんじゃないの!?有名税って言葉知ってる!?」
「知らないわそんなもん。少なくとも、私はそんなものビタ一文も払うつもりないわよ。だって、人気になるつもりなんて一切無かったんだから」
「っ、それ、配信してるうちらの事馬鹿にしてるの!?」
「えっ、どうしてそうなるの?嫉妬?」
「っ…!」
「二人とも、ちょっと落ち着きなさいよ…!」

 黙って聞いていた青髪のメンバーが、流石に止めに入る。黒髪は顔を真っ赤にしているが、立ち上がりかけていた椅子に座り直した。

「リコ、要の言うことも尤もだと私は思う。でも要も、あまり煽らないで。私達は冷静に話し合うべきでしょ?」
「私はそうしようと努めてはいるけどね」
「…ごめん」

 青髪は、ため息を吐き出して、事態を静観し続けているリーダーに目を向けた。

「…コムギも、そろそろ何か言ってよ。こういう時のリーダーでしょ?」
「…」

 コムギ、と呼ばれた少女は、その名の通り黄色がかった麦色の髪をしていた。コムギは閉じていた目を開ける。

「…要は、目的のためにパーティーを移るんだよね?件の男の子と付き合ってるから、とか、そういうんじゃなく」

 コムギの言葉に、要は眉をひそめた。

「…ふーん。そういう事聞いてくるのね。私の事情を知ってたら、そんな発想出てこないものと思っていたけど」
「ごめん。でも、それが事実なんだね」
「そうよ。アンタが諦めた事を、私はまだ諦めてない。それだけなのに、どうしてこうなるのかしら」
「…本当にごめん」

 そんなやり取りに、二人のメンバーは入る事が出来なかった。要とコムギは古い知り合いで、二人にしか分からない何かがあるというのは薄々感じてはいたが、中身を知る機会は最後まで訪れることはなかったのだ。

 コムギは目を閉じて一拍間を空けた。

「つまり、要はただひたすらに自分の目的を果たす為にパーティーを移動した。動画に映ったのもこちらの不手際なら、要は別に悪い事なんて一切してないよね。なら、それをそのまま視聴者に伝えて、理解してもらうしかないんじゃないかな?ちゃんと説明して、後はほとぼりが冷めるまで待とう。というか、それしか道はない」
「…リーダーが、そういうなら…」
「了解。なら、告知しておかないとね…」

 良くも悪くも、空気が動き出した気がした。要は小さく息を付く。

「要も、応援してくれたファンがいたことは事実なんだから、最後に挨拶くらいはしてもいいんじゃないかな?」
「勝手に動画に出されて、勝手に応援されてるだけでしょ?挨拶なんてするつもりないわね」
「とことん媚びないねえ。利益さえあれば媚びまくる性格の癖に」
「え?それ誰の事?」

 多少空気が軟化し、話し合いが始まる。要はふてくされたように肘をついた。

(女だからとか、人気者だからとか、男がどうとか処女性がどうとか…くだらなすぎ)

 目を閉じて、今のパーティーメンバーを思い浮かべる。

(迷惑かけちゃった…圭太に幻滅されてなきゃいいけど…)

 要は密かにため息を飲み込む。

(とりあえず、盗撮犯は絶対に許さない)

 そして、怒りと共に今は見ぬ盗撮犯に殺意を滾らせたのだった。
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