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第一章

2:中級ダンジョンに向けて ※掲示板回有

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『嘘、アンタ今そんなことになってんの?』

 濃厚な登校日から数日が経った、平日の夕方。俺はいつもの倉庫で陽菜、俺、鬼月、リリアの四人と、更にオンラインで要さんも入れて話をしていた。

 パソコンの向こうで、薄着で缶ジュースを飲みながら話を聞いていた要さんは、次第に渋面になっていき、最終的には背景に宇宙を添えて宇宙猫のような表情を浮かべていた。

『昼にイカレクラスメート、夕方に頭のおかしい冒険部の部長共、立て続けて幼馴染たちから絶縁宣言、プラスのイカレクラスメートの追撃ねえ…随分と壮絶な一日を過ごしたのね、圭太。精神は無事?』
「幸いなことに次の日にはダメージは無くなってたよ。それに、今の所、色々と起こったのはその日だけだったから」

 次の日からは、前日が嘘だったみたいに何事もない日常を送ることが出来た。強いてあげるならば教室で田淵によく睨まれる事くらいだが、それ以上の事はされていない為数える必要はないだろう。

 これが嵐の前の静けさじゃなければいいんだが。

『ふーん…だったらいいけど。ともあれ、陽菜が見るからに機嫌悪い理由がようやく分かったわ』

 陽菜に話の矛先が向けられると、陽菜は暗い表情のままぽつりとつぶやいた。

「圭太君を馬鹿にした人達…皆ぶっころします…」

 一瞬時間が止まる。

『怖い怖い怖い!圭太、あんたの嫁でしょ!?ちゃんと機嫌取っておきなさいよね!』
「そういう冗談はやめてくれ、要さん!」
「…」
「陽菜も、無言はやめてくれよ…」

 据わった表情で物騒な事を呟いていた陽菜が、次の瞬間には顔を真っ赤にしてうつむいていた。俺は慌てて次の話題を探して口を開いた。

「でも、正直不思議なんだよな。なんで俺だけあんなに集中砲火食らったのかな、って」
『別に集中砲火って訳じゃないんじゃない?多分、大人しめの人達は多かれ少なかれ同じ目に遭ってると思うわよ。特に、冒険部の連中とかは結構動いてたんじゃないかしら』
「それって、どういう事だ?」
『うーん…冒険部に限って言うなら、格付けとか、縄張り争いとか、その辺の話なんじゃないかしら。冒険者にとって、自分たちの舞台はこっち側じゃなくてダンジョンの中だもの。無法地帯で、力が強い人や群れの大きい方がルールを押し通せる場所で、しかも地域が被ってると同じダンジョンに行くことになるでしょ?そこで、少しでも快適に過ごせるように、工夫してるつもりなんじゃないの?』
「はたから見ると、ただの頭おかしい人達だったんだけど…」
『まあ、地方の高校の部活の、小さなお山の大将を張っていい気になってるような連中なんでしょ?本人たちはきっと、ソレでうまく回してるつもりなのよ』

 後からそれとなく調べてみれば、冒険部は部員数が30人を超えた結構大きな部活だった。大会だとかダンジョン攻略とかに精力的に動いていて、トロフィーや実績もそこそこ稼いでいるようだ。

 しかし、入れるのは一部の人間だけらしい。面接があり、毎年大体9割が落とされるそうだ。それでも人気があり、冒険部に所属しているだけで外では割とちやほやされるのだという。

 つまり、自分たちの権威を保ちたいがために釘を刺してきた、という事か。面接がどうこう、という話の内容よりも、『自分たちが釘を刺して、相手を牽制してやった』という事実があれば向こうにとっては十分だったと。

 そりゃ話を聞かないはずだ。向こうだって話の内容に関してはどうだって良かったんだし。

『クラスメートに関しては、出た杭はとりあえず打っとくか、みたいな軽いノリで手を出したら、クラスの中心人物も関わってきて予想以上に大事になっちゃった、みたいな感じに聞こえたわね。多分そこまで深く考えてなかったと思うわよ。何せ、アンタクラスじゃボッチなんでしょ?ボッチに手を出して、そこまで大事になるとか思ってなかったんじゃないの?』
『自分よりも弱そうな者に、抵抗されないと高をくくってちょっかいをかけてみたら、予想以上に反撃されて引っ込みがつかなくなった、という事カ。ゴブリンの社会でも同じことはよくあったナ…』
「なるほどなあ」

 鬼月の解釈に思わずうなずいた。

 田淵が俺を攻撃してきたのはただの思い付きだったのかもしれない、という話だ。強いて言うならば自分よりも弱い人間を攻撃して、自分の立場を確認しようとしたのか、はたまた単純に弱い者いじめが好きだったからなのか…まあ、どちらにしろ田淵は割と人間性が良くないタイプの人間だ。今後は出来る限り関わらないようにしよう。

『本当、学校の人間って幼稚よね~。勝手に自分たちでカースト制度なんか作っちゃってさあ。こっちはんなもん至極どうでもいいっつーのよ!むしろ、集団の中で思い込みだけで勝手に生まれるカースト制度とかはねえ、ダンジョンの中じゃ人を殺す邪悪そのものなのよ!無用なのよ無用!』

 どうやら要さんも過去に色々あったらしい。缶ジュースをぐびぐび飲み干し始める。ぷはー、と気持ちよさそうだ。

『ま、私も実力が無かったころは良く学校のそういうくだらない争いに巻き込まれそうになったけど、実力付けたらなんか勝手に向こうから避けてくれるようになるわよ。そういうのは、実力で黙らせればいいのよ、実力で!』
「実力ねえ…」

 それが出来れば一番いいんだろうけど、人間ってそんな単純にできてるものなのかね?

「…そう言えば、陽菜の方は大丈夫か?変な事に巻き込まれてない?」
「え?私ですか?」

 ふと気になって陽菜に尋ねてみると、陽菜は笑顔を浮かべた。

「私は大丈夫ですよ。前のパーティーの子とは話すことはなくなっちゃいましたけど、変化と言えばそれだけです。ちょっと寂しいですけど、いつまでもウジウジはしていられませんし…それに、私にはもう新しい居場所がありますから」
「…そっか」

 陽菜も、どうやら本当に平気そうだ。

『それで?幼馴染共に関しては、ディープすぎるし何も言うことはないけど…盗撮に関してはどうするつもりなのよ』
「そっちに関しては、当然動いてるよ。何せ普通に犯罪だしな」
「橘家も協力してます!お爺様の伝手で、腕のいい弁護士がいるみたいなので、その方に頼んでフルボッコです!」
「綾さんのお店も、そもそもカメラ禁止の店内で撮られた写真が発端だから、ってことで全面的に協力してもらってる。冒険者にとって武器防具の情報って結構重要みたいで、それを悪意を持って晒そうとしたことに関しては許容できないって立場らしい」

 綾さんの親御さんたちにも会いに行ったけど、普通に良い人達だった。何度も謝られて、全面的に協力することを約束してくれたのだ。

 弁護士の人にも昨日会ってきた。なんでも冒険者にとって情報は生死に直結する重要なものらしく、プライバシーの侵害や肖像権の侵害だけでなく、場合によってはそっち方面で罪が重くなることもあるらしい。

 どうでもいいけど、綾さんのお母さんが綾さんや鈴野涼さんにそっくりだった。血筋が色濃く出る家系なのだろう。

『あちゃー、流石に盗撮犯に同情…は出来ないわね。因果応報だわ、うん』

 という訳で、学校での出来事に関してはそれで話題は終わった。

「…それじゃあ、そろそろ本題に入りますか」
『賛成ダ』
『うぃ…』
「はい」
『りょーかい』

 俺は話し出した。

「議題は、次に挑むダンジョンについてだ。初級難易度の畑ダンジョンを攻略したから、次は当然中級難易度ダンジョンの攻略を目指したいんだけど…」
「この辺の中級難易度ダンジョンと言えば、聖架方面にある『大樹の洞』でしょうか?」
「うん、交通の面では『大樹の洞』が一番条件が良いから、第一候補はそこになる。ここから片道50分くらいの『焼けた古戦場』ってところも割と報酬が美味いらしい」
『あそこはやめておいた方がいいわよ』

 要さんが手を上げた。

『『焼けた古戦場』って、トラップが馬鹿多くて面倒なのよ。普通のパーティーならまだしも、うちには圭太がいるもの。モンスターはどうとでもなるけど、トラップの場合はどうなるか分からないわね』

 確かに、本来トラップがあまりなかった畑ダンジョンでも、宝箱を開ける度にトラップが発動していたのだ。元々トラップが多いダンジョンに行くのはあまり得策ではないかもしれない。

「じゃあ…他に近い所となると、片道一時間くらいの所になってくるな。流石に二時間もロスするのはもったいないし…『大樹の洞』で決定ってことでいいか?」
『異論はないヨ』
「私も、問題はないです」
『頑張るます…』
『私も問題ないと思うわよ~』

 その後は、『大樹の洞』に何度か行ったことがあるらしい要さんに情報を出してもらうことになった。

 『大樹の洞』はバイオーム型と階層型が混ざり合ったダンジョンで、巨大な森が支配する上層、根っこが支配する地下世界の中層、木々だけで構成された神秘的な世界である下層に分かれているそうだ。

 そして、何よりも注目するべきは、モンスターの数が他のダンジョンと比べると少なく、それに反比例するかのように、モンスターの平均サイズが異常に大きいらしい。

『畑ダンジョンでも出てたモーロックレベルの大きさのモンスターはゴロゴロ出てくるわね。結構強いから油断できないわよ~』

 とのことだった。

 当然のことながら、そこも一筋縄ではいかなさそうだ。【塞翁が馬】がどんな困難を運んでくるか分からない所も怖い。

 まあ、まずは一回試しに行ってみるとするか。

 という訳で第一回中級ダンジョン探索は、今週の土曜日と日曜日を使って行われることになった。両方とも丁度パーティーが休みらしく、要さんも来れるらしい。

 初めての中級ダンジョン探索。万全を持って挑むとしよう。



2:中級ダンジョンに向けて





【悲報】《ブルーレイク》所属のカナメたん、パーティー脱退を発表







145:名無しがお送りいたします
ショックだわ。普通にファンだったのに

146:名無しがお送りいたします
パーティー脱退後は、冒険者は継続して続けていく模様。ソロでやるんか?

147:名無しがお送りいたします
もうカナメたんの八重歯笑顔を見れなくなるとかマジ?人生の養分を一つ失ったわね

148:名無しがお送りいたします
いうて本人は配信してないし、顔出しも積極的にはやってなくね

149:名無しがお送りいたします
積極的って言うか、自分からは一切してないし、SNSもやってない。出てくると言えばパーティーメンバーの動画か、攻略動画でちらっと映るくらい。それで割と人気が出るんだから凄いもんだ

150:名無しがお送りいたします
あの背の低さが俺を狂わせるんだ

151:名無しがお送りいたします
ロリコンは黙ってようねえ。
それにしても、急に辞めるとかマジか。
パーティーには入るんか?とすればどこに?
もしかして、うちにもワンチャン…?

152:名無しがお送りいたします
>151 お前もロリコン定期
いうて確認する方法はもうないだろ。本人がSNSもやってないんだから。
もしかしたら誰かが見かけて報告するかもしれないけど

153:名無しがお送りいたします
もし男が出来たとかだったら、俺血涙流すわ

154:名無しがお送りいたします
それな。ここまで応援してきたのに、急にやめて男の所とか考えるだけで脳みそ壊れそう

155:名無しがお送りいたします
コーンってろくに前に出てこないような女の子にも反応するのかよ。そもそも《ブルーレイク》って上位から数えたらそれほど人気じゃないし…怖すぎ

156:名無しがお送りいたします
《ブルーレイク》の方針考えたら、そこに可愛い女の子が所属してるってだけでそういう扱いになるのは当然やんか

157:名無しがお送りいたします
《ブルーレイク》は普通にダンジョン攻略実績もある、歴としたガチ攻略パーティーなんだけどなあ。配信し始めてからこういうの多くなったから、それに嫌気がさしてしもうたんやろか…

158:名無しがお送りいたします
ワイここ最近 《ブルーレイク》のファンになった者なんやけど、ぶっちゃけカナメって子はどういう子なんや?

159:名無しがお送りいたします
>158
美少女で構成された 《ブルーレイク》のマスコット的キャラ。配信に力を入れるメンバーが多い 《ブルーレイク》で、唯一配信もSNSもやっていない。その癖に他のメンバーの配信でちらちら映ったり、遠くの方で何かやってるところが映ったり、攻略配信で活躍したりと何故か存在感がやたら大きい。
攻撃方法は地面をつんつんして白い衝撃波を出したり、杖を箒のように振って衝撃波を出す遠距離メインの魔法使い…かと思いきや、近づいてきたモンスターにごく稀に杖でつんつんして崩壊させるという近接での攻撃方法も持っている模様。
他メンバーが雑談配信をしている中、後ろの方で一人スープを飲もうとして舌を火傷して慌てる姿を披露し、その切り抜き動画がバズって初めて広く存在が周知された。かわいい。
見た目は小動物系で八重歯がかわいい。紳士にも愛される隠れキャラ。
また、メンバーの中で唯一、リーダーであるコムギたんと長い付き合いをしているらしい。どうやら《ブルーレイク》ができる前に、同じパーティーに所属していた模様(配信で言及済み)

160:名無しがお送りいたします
>159 早すぎぃ!

161:名無しがお送りいたします
>159 なんて早い説明。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

162:名無しがお送りいたします
>159 あざす
動画見てきたけどクッソ可愛い。嘘だろ、辞めちゃうのかよ…

163:名無しがお送りいたします
まあ、ダンジョン配信者系って割とすぐに辞めがちだし、こういうのにも結構慣れたと思ってたけど…やっぱ毎回悲しいわ

164:名無しがお送りいたします
>163 脱退=死 じゃなくて良かったと思おう。マジで。1年に1人は有名冒険者が死ぬから心臓に悪いねんな

165:名無しがお送りいたします
とりあえずソロのカナメたんがパーティーを探し始めた時、うちを見つけてもらえるように祈っておこう

166:名無しがお送りいたします
>165 じゃあ俺は見つけてもらえないように祈っておくね

167:名無しがお送りいたします
後一カ月か…やめるまでに一度だけでもいいから配信に出て喋ってほしいけどなぁ…





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