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番外 5 ホワイトデー
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深い意味はなかった。
バレンタインを貰ったのだから、ちゃんとお返しをしよう。
他意はなく、蓮はその気持ちだけでお返しを選んで細莉に渡した。
手作りのものを渡すのは気恥ずかしかったので、市販品の中から安過ぎず高すぎないものを選び、同級生にバレやしないかとひやひやしながら学校を終え、帰り道で見つけた細莉に声を掛けてさりげなくお返しを渡した。
その結果──
「うぐっ……ひぐっ……」
お返しを貰った瞬間、細莉は泣き出した。
いつものようにうるさく喚き散らすのではなく、本当に悲しいことがあったように、声を押し殺すように大粒の涙を零し始める。
声を掛けた時点では変な様子はなかった。
むしろ、「おっ、お返し持ってきたなぁ?」くらいの期待を感じさせる目をしていた。
それがお返しを渡した瞬間。
「うぅ……うぇぇぇ……」
これである。
焦げたチョコのお返しなんだから、こっちもそういう意味でお返ししてやろうとか目論んでいたならこの反応で問題ないのだが、あいにくとしっかりとお返しはしっかりと選んでいた。
想像もしなかった展開に蓮も固まる。
焦るというよりは、何故? という疑問のほうが強かった。
「えっと、どうした?」
「ひっく……ひっく……」
「嫌いだったか、それ?」
ふるふると首を横に振る細莉。
貰ったものが嫌い過ぎて泣いてるわけではないらしい。
とはいえ高校生にもなって、嫌いなものを渡されたから泣いているが理由だったら、それはそれで別の戸惑いが生まれてしまうわけだが……。
だが、心当たりはそれしかなかった。
本格的に意味がわからなくなり、蓮も困り果ててしまう。
そんな蓮の耳に泣き声に混じって、細莉のちっさい声がかすかに聞こえてきた。
「…………てる?」
「え?」
「これの意味、知ってる?」
震える手で差し出される蓮のお返し。
それは綺麗に梱包されたマシュマロだった。
ホワイトデーコーナーにあったものだし、変な意味があるとも思えなかったが、蓮は細莉の質問に答えるためスマホで『ホワイトデー マシュマロ』と検索してみる。
ホワイトデーのお返しにマシュマロ。
そこに込められた想いは……『あなたが嫌い‼』
一番上の検索結果をタップしてみたらそんなことが書かれていた。
蓮の顔が真顔になる。
念のため、下の検索結果も覗いてみる。
そこには言い回しが少し異なるだけで、上と同じく『あなたが嫌いです』という意味が込められている旨が記載されていた。
──そんなもんをコーナーに置いとくんじゃねぇよ⁉
心の中で大絶叫。
そりゃそうだ。わざわざ放課後に声かけて、お前嫌い‼ って意味のものを渡したかったわけじゃない。
しかもこれは予算や見た目を気にして、コーナーをうろうろしていた時に店員のお姉さんから薦められたものだ。
眉根を寄せながら険しい顔でもしていたのかもしれないが、やんわりお断りをしようとしているのかどうかくらいは確認してから薦めて欲しかったものである。
だが、いくら悔やんだって仕方ない。
もう渡してしまった以上、後は言い訳を羅列するしか蓮に出来ることはないのだ。
「誤解だ! 無知が生んだ悲しい事故だ!」
「……本当に?」
「当たり前だ。何ならすぐに違うのを買いに行ったっていい!」
違うものという言葉に細莉の眉がピクリと動く。
スンスンと 涙目で鼻を啜る細莉は渡されたマシュマロをジ~と見ながら、何かを考えているようだった。
「とりあえずそれはなかったことにしてくれ」
ひとまず渡してしまったマシュマロを回収しようと蓮が細莉の手からお返しを取ろうとして。
「なら、これでいい……」
スッと細莉はマシュマロを胸に抱きしめた。
胸元に手を伸ばすわけにもいかず、蓮の動きが止まる。
マシュマロをギュッと抱きしめながら、細莉は俯いた顔を上げないでポツリと呟く。
「ちゃんと選んでくれたってことだよね?」
「あ、あぁ。渡すものに意味があるなんて知らなかったから、あくまでお前の好きそうなのを選んだつもりだった」
「そっか……」
細莉の口元が僅かに緩む。
意味にこだわって大事なものを手放すところだった。
だいたい大事なのは気持ちだと、焦げたチョコを渡しておいて、自分が貰うものにはケチをつけるなんて人として最低だ。
だから、せめてそんな空気を吹き飛ばそうと、顔を上げた細莉は涙で潤んだ瞳も、泣いて赤くなった頬もそのままに蓮に笑いかけた。
「ありがとっ!」
※
ちなみに持ち帰ったマシュマロはすごくおいしかった。
それも含めて細莉は幸せな気持ちになったのだが、余計な深読みしないでおけばよかったとちょっとだけ後悔もしたりした。
バレンタインを貰ったのだから、ちゃんとお返しをしよう。
他意はなく、蓮はその気持ちだけでお返しを選んで細莉に渡した。
手作りのものを渡すのは気恥ずかしかったので、市販品の中から安過ぎず高すぎないものを選び、同級生にバレやしないかとひやひやしながら学校を終え、帰り道で見つけた細莉に声を掛けてさりげなくお返しを渡した。
その結果──
「うぐっ……ひぐっ……」
お返しを貰った瞬間、細莉は泣き出した。
いつものようにうるさく喚き散らすのではなく、本当に悲しいことがあったように、声を押し殺すように大粒の涙を零し始める。
声を掛けた時点では変な様子はなかった。
むしろ、「おっ、お返し持ってきたなぁ?」くらいの期待を感じさせる目をしていた。
それがお返しを渡した瞬間。
「うぅ……うぇぇぇ……」
これである。
焦げたチョコのお返しなんだから、こっちもそういう意味でお返ししてやろうとか目論んでいたならこの反応で問題ないのだが、あいにくとしっかりとお返しはしっかりと選んでいた。
想像もしなかった展開に蓮も固まる。
焦るというよりは、何故? という疑問のほうが強かった。
「えっと、どうした?」
「ひっく……ひっく……」
「嫌いだったか、それ?」
ふるふると首を横に振る細莉。
貰ったものが嫌い過ぎて泣いてるわけではないらしい。
とはいえ高校生にもなって、嫌いなものを渡されたから泣いているが理由だったら、それはそれで別の戸惑いが生まれてしまうわけだが……。
だが、心当たりはそれしかなかった。
本格的に意味がわからなくなり、蓮も困り果ててしまう。
そんな蓮の耳に泣き声に混じって、細莉のちっさい声がかすかに聞こえてきた。
「…………てる?」
「え?」
「これの意味、知ってる?」
震える手で差し出される蓮のお返し。
それは綺麗に梱包されたマシュマロだった。
ホワイトデーコーナーにあったものだし、変な意味があるとも思えなかったが、蓮は細莉の質問に答えるためスマホで『ホワイトデー マシュマロ』と検索してみる。
ホワイトデーのお返しにマシュマロ。
そこに込められた想いは……『あなたが嫌い‼』
一番上の検索結果をタップしてみたらそんなことが書かれていた。
蓮の顔が真顔になる。
念のため、下の検索結果も覗いてみる。
そこには言い回しが少し異なるだけで、上と同じく『あなたが嫌いです』という意味が込められている旨が記載されていた。
──そんなもんをコーナーに置いとくんじゃねぇよ⁉
心の中で大絶叫。
そりゃそうだ。わざわざ放課後に声かけて、お前嫌い‼ って意味のものを渡したかったわけじゃない。
しかもこれは予算や見た目を気にして、コーナーをうろうろしていた時に店員のお姉さんから薦められたものだ。
眉根を寄せながら険しい顔でもしていたのかもしれないが、やんわりお断りをしようとしているのかどうかくらいは確認してから薦めて欲しかったものである。
だが、いくら悔やんだって仕方ない。
もう渡してしまった以上、後は言い訳を羅列するしか蓮に出来ることはないのだ。
「誤解だ! 無知が生んだ悲しい事故だ!」
「……本当に?」
「当たり前だ。何ならすぐに違うのを買いに行ったっていい!」
違うものという言葉に細莉の眉がピクリと動く。
スンスンと 涙目で鼻を啜る細莉は渡されたマシュマロをジ~と見ながら、何かを考えているようだった。
「とりあえずそれはなかったことにしてくれ」
ひとまず渡してしまったマシュマロを回収しようと蓮が細莉の手からお返しを取ろうとして。
「なら、これでいい……」
スッと細莉はマシュマロを胸に抱きしめた。
胸元に手を伸ばすわけにもいかず、蓮の動きが止まる。
マシュマロをギュッと抱きしめながら、細莉は俯いた顔を上げないでポツリと呟く。
「ちゃんと選んでくれたってことだよね?」
「あ、あぁ。渡すものに意味があるなんて知らなかったから、あくまでお前の好きそうなのを選んだつもりだった」
「そっか……」
細莉の口元が僅かに緩む。
意味にこだわって大事なものを手放すところだった。
だいたい大事なのは気持ちだと、焦げたチョコを渡しておいて、自分が貰うものにはケチをつけるなんて人として最低だ。
だから、せめてそんな空気を吹き飛ばそうと、顔を上げた細莉は涙で潤んだ瞳も、泣いて赤くなった頬もそのままに蓮に笑いかけた。
「ありがとっ!」
※
ちなみに持ち帰ったマシュマロはすごくおいしかった。
それも含めて細莉は幸せな気持ちになったのだが、余計な深読みしないでおけばよかったとちょっとだけ後悔もしたりした。
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