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十三話
しおりを挟むドザッと落ち葉がどこからともなく落ちてきた。
今日も今日とて夢の中。
見慣れた校庭で向かい合う蓮と細莉の間には落ち葉がこんもりと山になっている。
「レッツ、焚火‼」
どうやら今回は火遊びらしい。
「焚火してどうするんだ?」
「お芋焼く!」
「……現実で良くないか」
「どこにも焚火が出来る場所がなかったんだもん」
そりゃ街中で焚火起こせる場所なんてほぼないだろう。七輪を使うことすら敷居が高いというのに、直火の炎を地面になんて論外だ。
火遊び、ダメ絶対。
やってみようという気すら起きない危険がそこにはある。
それを理解してはいながら、内容を聞いた蓮はちょっとワクワクしていた。
火遊びだぜ、ひゃっほう! とかそういう方向にではなく。
──焼き芋か。
焚火の炎で焼く焼き芋。
幼稚園の頃に芋ほりしてそんなことをした覚えがあるようなないような気もするが、どっちにしろ味なんてものは記憶にない。
焼き芋を食べるだけならそのへんのスーパーで事足りるが、焚火で焼くという付加価値はどんな高級焼き芋にも劣らない魅力がある。
欲を言えば、芋の種類を選ばせて欲しかったところだろうか。
安納芋、紅はるか、シルクスイート、鳴門金時。
一口にさつまいもと言ってもその特徴は様々だ。個人的にほくほく系よりねっとり系が好みの蓮としてはぜひともその系統の芋が用意されていることを願ってしまう。
とは言え、先も言った付加価値がある。たとえほくほくしていようががっかりすることはないだろう。
細莉が自信満々にジャガイモでも取り出さない限りは芋に関してツッコむことはきっとしなくていいはずだ。
「そんなわけで着火!」
手に持ったライターで細莉は落ち葉の山に火をつけた。
普通なら枝などを蒔代わりにしなければ、落ち葉などそう簡単に火が付くものでもない。
だが、この世界ではその辺りも細莉の匙加減なのか、はたまたきっちり乾き切った落ち葉が用意されていたのか、ライターの火が燃え移った落ち葉の山はあっという間に大きな火の玉へと姿を変える。
「そして、投下~!」
「え、いや、ちょっと待──」
メラメラと火の灯る落ち葉の山に細莉が芋をポイポイ投げ込んだ。
投げ込まれたのはサツマイモであったが、蓮の待ったはそこに関してではない。
まず前提だが、炎の上がっている焚火に芋はいれない。火が落ち着いた熾火になってから、入れるのが普通だ。
理由は火力の安定など色々あるが、今回のように落ち葉を使っている場合、火のついた乾いた落ち葉は簡単に舞い上がる危険性がある。風にすら注意を払わなければならない状態で、わざわざ葉が舞い上がるようなことをするのは論外だ。
さて、そんなわけで論外なことをやった結果どうなるかといえば、
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉」」
辺りに舞い上がる小型の火の玉。
ふわふわと空中を舞う無数の火の粉は見方によっては幻想的にも見える。
だが、それは第三者目線での話。その渦中にいる身からすればたまったものではない。
避けるとか防ぐとかそういうレベルでもなかった。もはや全方位攻撃。フィクションのキャラクターたちはこんなときもほいほいと最小限の動きで躱していったりするのだが、いざ対面してわかる。
あんなことが出来るのは超人だけだと!
「撤退撤退!」
細莉の叫び声と共に二人は脱兎のごとくその場から離脱を開始する。
体を火が掠めていく度に熱さで騒ぎそうになるが、足を止めたらそれこそ餌食だ。
小さなやけどなど構うこともなく、手を振り回して火の粉を払いのけながら、二人は何とか火の玉舞う危険地帯から抜け出した。
「……もう平気かな?」
「……多分な」
数分後、全ての火の玉が地面に落下し、激しく炎を上げていた焚火も燻り始めたタイミングで二人はソロソロと焚火に近づいていく。
山のようだったことが幸いし、舞い上がった落ち葉が減っても、焚火は十分に芋を覆い隠してくれていた。
心配顔だった細莉は一転して元気になりながら、仏教面の蓮にグッと親指を突き出した。
「ト、トラブルはあったけど、結果オーライということで!」
「うまい焼き芋が出来たらそれで納得してやる」
「だ、大丈夫! 後は待つだけだから、失敗する可能性なんてないない!」
フラグとは回収するために存在している。
待つこと数十分。そろそろいいだろうと言う細莉の言葉を信じてトングで芋を救出した蓮はギョッとした。
まさかの裸である。
投下された芋は新聞紙やアルミホイルにくるまれることなく、身一つで焚火への突入をさせられていた。
出来なくはない。
確かに出来なくはないのだが、それはあくまで熾火に置いて時間をちゃんと計っていればの話。今回は火の上がる焚火に放り込んだこともあり、芋は水分がすっかり抜け、表面どころか内部まで炭化が進んでいた。
「「……………………」」
ボロッと炭がトングの圧力に負け崩れていく。
焚火を漁って残りの芋を確認する気力はもう残ってはいなかった。
「明日の帰り……焼き芋奢りでどうでしょう?」
「……もういいよ、それで」
戦犯である細莉の申し訳程度の提案に蓮は肩を落としながら頷くしかなかった。
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