不器用だけど…伝わって‼

さごち

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十二話

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 校庭のど真ん中になにやら見たことのないテントが建っていた。
 それもキャンプで使うような寝床を目的としたものではなく、派手な紫色の外観とアラビアンテイストな、いかにも怪しいテントがだ。
 普段ならば絶対に関わらないのだが、ここはおなじみ夢の中。
 辺りを見ても細莉の姿がなく、このテントだけが鎮座しているということはどうせ遅かれ早かれあそこに入らなければならないことは目に見えている。
 迷うだけ時間の無駄と思い、入口の幕をわずかに捲り、蓮はテントの中を窺い見た。

「おやおや……。今宵もまた一人、迷えるお客人がお越しのようだ」

 外観同様紫色のアラビアンテイストな衣装を纏った少女が出迎えてくる。
 目元以外を薄い布で覆っていて表情はおろか顔すらほとんどわからないが、わざとらしいセリフを吐いた声には聞き覚えがあったので、蓮は観念してテントの中へと完全に入り込んだ。

「占いか?」
「いかにも。なにかお困りのことがあれば占ってしんぜよう」
「物静かだったクラスメイトが最近いきなり変わっちまって困ってるんだが、どうにか撃退する方法はないでしょうか」
「ひどい⁉」

 よそよそしい雰囲気が吹っ飛び、いつもの細莉に戻った。
 こんなやりとりも慣れたものだ。
 テントの中には小さな丸テーブルと椅子が二つ。
 蓮はその一つに腰かけると改まってもう一言。

「ないでしょうか?」
「本心なの⁉ 私を撃退したいのは冗談とかじゃないの⁉」
「とりあえずその気持ちでやってみよう。何かがわかるかもしれない」
「何かじゃなくて、私の撃退方法がわかるんだよ!」

 ギャーギャーと細莉は騒いでいるが、細莉を待つ必要はなかった。
 テーブルの上にはタロットカードがすでに置かれていた。
 準備前なのか、はたまたそこから引けばいいのかはわからないが、山札になっているタロットカードを蓮は試しに一枚捲ってみる。

「本当に引いたぁ⁉」

 蓮の行動に細莉は不満たらたらのようだったが、それでも占いをするという今回の目的が果たせそうではあると無理矢理納得したらしい。
 興味ないとか言われて、ひたすら食い下がるより、ここから別の占いをしていくほうが確実なのだからその判断はあながち間違いではないだろう。
 テーブルを挟む形で細莉も椅子に座りながら、ひとまず蓮が引いたカードを確認することにした。

「うぅ……何が出たの?」
「これ」

 蓮は引いたカードを向かいに座る細莉に見せる。
 蓮が引いた時はさかさまの状態だったらしく、細莉に向けて差し出されたカードの名前は細莉側から読むことが出来た。

「戦車だ」
「戦車? それでお前を吹っ飛ばせってことなのかな」
「占いはそんな直接的な方法を教えてはくれません~!」

 子供のように頬を膨らませながら、細莉がカードを受け取る。
 てっきりカードの意味を読み取って説明してくれるのかと思ったが、細莉は椅子の真下にあった籠から何やらごそごそと取り出し始めた。
 ドンッとテーブルに置かれたのは分厚い占い入門書。
 どうやら元々占い大好きというわけではなく、何かに影響を受けた初心者らしい。
 もしもタロットカードではなく水晶玉が用意されていたら、また馬鹿なことが始まったなと呆れていただろう。細莉の匙加減で言いたい放題になる占いなんて信じられるはずがない。
 だが、ある程度は意味が決められているタロットカードを使うのなら、話はちょっと変わる。心理テストをやるような気持ちだ。自分が引き当てたカードの意味はなんだろうと蓮は少しワクワクしながら細莉がカードの意味を調べるのを待つことにした。

「戦車……戦車は~……え?」

 パラパラ捲っていたページが止まり、お目当ての戦車の説明を見つけたらしい細莉の顔が渋いものに変わる。
 ページを凝視しながらわなわな震えてはいるが、いつまで待っても細莉は戦車の意味を説明しようとしない。
 しびれを切らした蓮は細莉に解説を促すことにした。

「戦車はなんだって?」
「…………ねぇ、カードの向きって引いてから変えたりした?」
「向き? いやそのままだけど」

 それを聞いて、細莉の顔がさらに曇る。
 蓮からは見えていないが、細莉が開いた入門書のページにはこんなことが書かれていた。

『戦車の逆位置は視野の狭まりを意味します。計画性のないまま行動に移し、あなたは一人で空回っているかもしれません』

 グッサー! と細莉の心に何かが突き刺さる。
 ぶっちゃけ心当たりしかなかった。
 告白から始まった今日までのやり取り全てに当てはまっている気がしてならない。
 撃退方法を教えてくれと言った蓮に対して、「よっしゃ、任せとけ! ボコボコにしてきてやる!」とタロットカードが殴り込みに来たのではないかと思えるほどだ。
 普通は引いたカードの意味は引いた本人。つまり今回で言えば蓮に対して意味を成すのだが、いかんせん占いの内容が内容だ。
 ズ~ン……と細莉はしょぼくれながら、戦車のカードを山札に戻し、テーブルの上でぐしゃぐしゃとシャッフルする。

「……次、私ね」
「いや、俺の結果は?」
「そんなの自分で調べればいいじゃん‼」
「占いの意味ないだろ、それ⁉」

 文句など無視だ。
 結構気にしている部分をいきなり攻撃された今の細莉は蓮のことなど気にしない。
 仲良くなりたくて始めたのにその行動はおかしくない?
 そんな見えない煽りも総スルー。乙女の心は複雑なのだ。エゴサしておきながら傷付いてふさぎ込むくらい日常茶飯事である。
 混ざったカードをテーブルに置き、細莉は山札をこれでもかと睨みつける。

 ──ほら、今度は私に気を遣え。蓮との関係はどうなりますか?

 眉根に思い切りしわを寄せながら、細莉がタロットカードを引く。
 逆位置ではなく、今度は正位置のカードを引き当てた。

「塔のカード?」

 意味はまだ調べていないが逆ではないのだから、悪い意味はないだろう。
 細莉はそんな安堵に胸を撫で下ろす。
 だが、タロットカードは正位置であれば吉というわけではない。
 正位置のほうが、引いた本人からしてみれば不幸なことの場合だってある。


 塔のカード。
 その意味は崩壊。


 特に恋愛がらみに関しては細莉にとって無視できない意味を持つ。
 分厚い入門書が自重でパラパラと捲れていき、偶然か必然か塔のページを開いて見せた。
 そこにはこんな文言が書かれている。

『恋愛で塔の正位置が出た時は要注意。予期せぬ第三者が現れて、あなたの恋愛に危機が訪れるかも』
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