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二話 ~クラスメイトは神様だった!~
しおりを挟む前略。
クラスメイトが神様だった!
そんな一部の人間にはウッキウキな展開が巻き起こったわけだが、残念ながらウッキウキな気分とはいかず、むしろ気分的にはダダ下がりだった蓮は自室で深い深いため息を吐き出した。
「何だったんだろうな……」
普通に考えれば罰ゲームだったでいいのだろう。だが、そういった罰ゲームにはこっそりそれを見守る取り巻きがいるのが基本だ。
しかし、細莉がドアを蹴破っても細莉を追いかけていく人影はなかったし、蓮と同じく逃げ出した細莉に呆気にとられたのなら、一人寂しくドアを直しているときにネタバラシがあっていいはずだ。
それすらなかったということは本当に一人で細莉はあの行動に出たことになる。
「神様、か……」
それを信じるほど夢見がちではない。
別に神様がいないとまで言うつもりはないが、同級生がそういう存在で、しかも何の前触れもなく、その正体を明かしてくるなんて展開はフィクションの中でしか起こらないものだ。
つまらない人間と言われようが、それが現実。
頭では理解している。理解していて、非現実的な可能性ではない現実的な答えも出ている。
けれど、蓮の知る綻火細莉という少女とは重ならないあの姿が、その言葉におかしな程の現実味を含ませる。
「……やめだ。考えたってしかたない」
ここであれこれ考察したところで、明日学校に行ったらすぐに真相はわかるのだ。
あいつは神様に違いない! なんて結論がもしも打ち立てられたとして、「罰ゲームでした。ごめんなさい」なんてあっさりと謝られる可能性のほうが高いのだから、難しく考えずにいるほうが無難だろう。
そうと決めれば、眠気は一気にやってきた。
告白は肩透かしに終わり、ぶち破られたドアを直したりしたせいで心身共に疲れ果てている。眠るには早い時間であったが、起きていればまたあれこれと考えてしまいそうだったこともあり、蓮は素直に睡魔に身を委ねることにした。
手早く寝間着に着替え、歯を磨き、布団を被って、目を瞑り……
「待っていたぞ‼ 伊澄蓮‼」
まさかの再会を果たした。
寝間着も、布団も消え失せ、いつもの制服姿になっていた蓮の前には、どういうわけか教室の壇上で腰に手を当て仁王立ちする綻火細莉がいた。
呆気にとられる蓮の前で、細莉は気さくに片手を上げて笑いかけてくる
「夢でも私に会えてうれしいか?」
嬉しいかどうかは何とも言えないところだが、これは一体どういうことだろうか。
いや、むしろ夢だからこそあり得るのかもしれない。それくらいインパクトが強い出来事であったことは確かだ。
昼間の衝撃が忘れられなくて夢にまで出てきてしまった。
まぁ、ありえなくはない話だろう。
ただ何故か、蓮は目の前の綻火細莉を夢が作り出した幻とは思えなかった。
それどころか、もやもやした疑問を晴らせる機会が明日を待たずして来たとすら思っていた。
だから、蓮は今この状況に対する困惑というより、昼間された告白の続きのつもりで細莉へと話しかける。
「えっとさ、状況がわからないんだけど」
「そんなの私だって一緒だ‼」
「えぇ……」
それ見たことか。神様なんてとんでもない。
自分が何言ってるのかすら理解できてない時点であれは罰ゲームで決定だ。
蓮とは違う方向にあのときの細莉は頭がパッパラパーになっていたのだ!
あまりにもあっさりと出た結論に昼間の肩透かし以上の空虚感に苛まれそうな蓮だったが、細莉はどこかいじけた様子で頬を膨らませながら更にこう続けた。
「こんな予定じゃなかったのに……」
なら、どんな予定だったのだろう?
やっぱり「な、なんだってぇぇぇぇぇぇ!」と反応しなくてはいけなかったのだろうか。
もしそうなら、もう少し前振りが欲しかったと思う。
「き、聞きたいことがある!」
何やら意を決した感じで細莉が赤い顔で蓮を見つめてきた。
その顔は放課後の告白をしてきた瞬間とそっくりだった。
「私のこと、どう思ってる……?」
「変な奴」
「ひどい⁉」
甘い展開がありえた台詞だったのに、虚無感全開の蓮はそんな身も蓋もないお返事をお返しした。
「放課後のあれがなかったら、ただの大人しい奴って印象だったんだけどな」
「……やっぱり引いてる?」
「まぁ、若干」
蓮の返答を聞くや否や、明るく横暴さすら感じる態度だった細莉は膝を抱えて落ち込みだした。
そりゃ、クラスメートから変人呼ばわりされたらそうもなるだろう。だが、自分の行いを振り返ってみて欲しい。
そう思われるには必要十分なことを細莉はやってしまっている。
「最悪だよぉ……なんで余計なこと言っちゃったんだろ……変な奴って思われてるなら、今告白してもどうせ振られるだけだし……う~!」
一人でうんうん唸る細莉。
すでに蓮が聞き取れる声量ですらなく、ブツブツと何かを呟きながら、時たま唸り声を上げ、頭を抱える姿は悪霊にでも憑りつかれているようだ。
同級生のまた知らない一面を前に、軽はずみに余計なことを言ったのかもしれないと蓮の心に謎の罪悪感すら芽生え始める。
「よし、やっぱりまずは神様ってことが嘘じゃないことを証明して……そこから好感度を上げよう‼」
声を掛けるかどうか迷っていた蓮の前で、スクッと立ち上がった細莉は腕組みをしながら蓮へと向き直った。
その顔はどこか吹っ切れたようにも、若干ヤケクソになっているようにも見えた。
「お前には私の遊び相手になってもらう‼」
「……いや、だから状況が」
「返事は,はい,のみ!」
「あの……」
「はいのみ‼」
「…………はい」
「よし、じゃあ明日からよろしく‼」
ドンッと蓮が細莉に突き飛ばされる。
いきなりのことに踏ん張ることも出来ず、蓮は固い床に尻餅をつく──はずだった。
「は?」
何故か蓮の体は教室とは全く違う、一切の光がない暗闇へと放り出される。
あまりにも理解の及ばない状況に悲鳴すら上げられない。それでも胃が持ち上げられるような浮遊感が、今自分は落下しているという事実だけを否応なく伝えてきた。
細莉はすでにはるか頭上となった教室から暗闇を覗き込んで呑気に手を振っていた。
まるで友達同士が帰り道で別れるときにするような、あまりにも自然な笑顔を顔に浮かべながら。
これは本当に夢なのか?
あいつは本当に神様なんだろうか?
細莉の態度から死ぬような事態ではないと思えたせいかは知らないが、意外と冷静にそんな疑問を頭に浮かべながら、蓮は落下を続け──。
「ぐげっ⁉」
小鳥のさえずりが聞こえてくる自室にて。
ベッドから落ちたことで、現実へと帰還を果たすのだった。
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