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最寄り駅の近くにケーキ屋がある。有名なパティシエの店らしいが、利用したことはない。
実のところ、アヤの誕生日のケーキはそこで買おうなんて考えていた自分が過去の世界にいるのだが、その日が訪れることはなかった。
振られた理由を思い出すと、今でも嫌な気持ちになれる。男性経験が豊富なだけあって、男の心をえぐるのが上手い。
仕事の帰り、そこでケーキを買って帰ることにした。侘びる気持ち半分だ。
もう半分は、よく分からない。
サキが来る前、僕は自分の部屋があまり好きではなかったかもしれない。
誰にも干渉されず、落ち着く。それはいいものだ。
だが、孤独もあった。職場でも家でも僕は一人だった。
それが、サキという妹のおかげで変化した。苛立ちを感じることは多いが、それでも、孤独ではない。
僕はサキに感謝をしている。それなのに、ああいう結果になってしまったのは、悲しかった。
「……」
そう思う一方、昨晩のことを思い出すと、高まる自分がいるのだ。サキの肌の温度や感触、愛液の味を思い出して、自然と股間に血が溜まっていく。
男の性なのだろうか。それとも、僕が特別に異常なのだろうか。
その問題は、ひとまず頭の隅に追いやることにした。
「ただいま」という言葉が自然と口から出た。
サキは昨日と同じように、ソファでくつろいでいた。手にはスマートフォンがない。代わりに、ぼんやりとテレビを見ている。リモコンをどこからか発掘したらしい。
僕に気づくと、むっとした顔で「返して」と言う。
「あ」
カバンに入れたままなのをすっかり忘れていた。
急いで返すと、サキはスマートフォンを布団の枕の方に放った。
「SNSとかチェックしなくていいのか?」
「なんか、一日見なかったらどうでも良くなった」
そういうものなのか。
僕はSNSに登録したことはあるものの、熱心なユーザーではなかった。
「電話したのに」
「え? 僕に?」
「そう。出なかったけど」
家に一応、電話機はある。怪しげな勧誘やセールスでしか鳴らないオブジェクトと化しているが。
「僕の番号知ってるっけ?」
「知らないから、会社に電話した」
「ああ……」
部屋の至る所に、会社の封筒がある。そこには電話番号も記されているはずだ。
「でも、僕の方には来てないけど」
「外に出てるって言われたよ」
「いや、それは……」
あり得ないことだ。僕は窓際の事務なのだから。
確認したいことはあったが、すでにサキの興味は僕の手に持っている箱にあるようだった。
「それ、有名なケーキ屋の」
「知ってるんだ」
サキは頷く。
「買ってきてくれたんだ」
サキは今まで見たことがないくらいキラキラした瞳を僕に向ける。「お兄ちゃんありがとう」と言って抱きつくこともした。もちろん演技っぽさのある言動なのだが、それでも頬がにやつく。僕の精神は酷く単純な構造らしい。
「先に晩ご飯だな。これはデザートだから」
「作ったよ」
「え」
「食器も洗っておいた」
「んぉ?」
変な声が出た。
「何作ったの?」
「鶏肉のトマト煮」
食べよう食べよう、とサキが言うので、壊れたからくり人形のようにコクコクと何度も頷く。
それを見たサキに笑われた。
彼女の笑みを見て、温かい気持ちになった。
実のところ、アヤの誕生日のケーキはそこで買おうなんて考えていた自分が過去の世界にいるのだが、その日が訪れることはなかった。
振られた理由を思い出すと、今でも嫌な気持ちになれる。男性経験が豊富なだけあって、男の心をえぐるのが上手い。
仕事の帰り、そこでケーキを買って帰ることにした。侘びる気持ち半分だ。
もう半分は、よく分からない。
サキが来る前、僕は自分の部屋があまり好きではなかったかもしれない。
誰にも干渉されず、落ち着く。それはいいものだ。
だが、孤独もあった。職場でも家でも僕は一人だった。
それが、サキという妹のおかげで変化した。苛立ちを感じることは多いが、それでも、孤独ではない。
僕はサキに感謝をしている。それなのに、ああいう結果になってしまったのは、悲しかった。
「……」
そう思う一方、昨晩のことを思い出すと、高まる自分がいるのだ。サキの肌の温度や感触、愛液の味を思い出して、自然と股間に血が溜まっていく。
男の性なのだろうか。それとも、僕が特別に異常なのだろうか。
その問題は、ひとまず頭の隅に追いやることにした。
「ただいま」という言葉が自然と口から出た。
サキは昨日と同じように、ソファでくつろいでいた。手にはスマートフォンがない。代わりに、ぼんやりとテレビを見ている。リモコンをどこからか発掘したらしい。
僕に気づくと、むっとした顔で「返して」と言う。
「あ」
カバンに入れたままなのをすっかり忘れていた。
急いで返すと、サキはスマートフォンを布団の枕の方に放った。
「SNSとかチェックしなくていいのか?」
「なんか、一日見なかったらどうでも良くなった」
そういうものなのか。
僕はSNSに登録したことはあるものの、熱心なユーザーではなかった。
「電話したのに」
「え? 僕に?」
「そう。出なかったけど」
家に一応、電話機はある。怪しげな勧誘やセールスでしか鳴らないオブジェクトと化しているが。
「僕の番号知ってるっけ?」
「知らないから、会社に電話した」
「ああ……」
部屋の至る所に、会社の封筒がある。そこには電話番号も記されているはずだ。
「でも、僕の方には来てないけど」
「外に出てるって言われたよ」
「いや、それは……」
あり得ないことだ。僕は窓際の事務なのだから。
確認したいことはあったが、すでにサキの興味は僕の手に持っている箱にあるようだった。
「それ、有名なケーキ屋の」
「知ってるんだ」
サキは頷く。
「買ってきてくれたんだ」
サキは今まで見たことがないくらいキラキラした瞳を僕に向ける。「お兄ちゃんありがとう」と言って抱きつくこともした。もちろん演技っぽさのある言動なのだが、それでも頬がにやつく。僕の精神は酷く単純な構造らしい。
「先に晩ご飯だな。これはデザートだから」
「作ったよ」
「え」
「食器も洗っておいた」
「んぉ?」
変な声が出た。
「何作ったの?」
「鶏肉のトマト煮」
食べよう食べよう、とサキが言うので、壊れたからくり人形のようにコクコクと何度も頷く。
それを見たサキに笑われた。
彼女の笑みを見て、温かい気持ちになった。
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