45 / 83
*45 ご意見をお聞かせください *
しおりを挟む
「えっと、エルナト・アルデミランだったっけ? エルって呼んでいい?」
エルナトってなんか呼びにくい。アルデミランは、他人行儀っぽくて、嫌がられそうだし。俺がそう言うと、
「ああ! もちろんだ」
椅子に座ろうとしていた残念狼は、嬉しそうにピンと耳を立て、尻尾を大きく揺らす。
「俺はスバル・フィルド。スバルって呼んで。君のタグを見せてもらっておいてなんだけど、俺のタグを見せるのはちょっと待ってもらいたくて……」
「ああ。構わない」
良かった。
机の上にはティ―セットを置いたままにしてあるので、これを使ってお茶を淹れる。生活魔法でお湯を沸かすのも簡単だ。
「はい、どうぞ。それで、すげえアクセサリーって、これ?」
お茶を淹れたカップを椅子に座ったエルに渡し、俺は左手首の魔道具を指さす。マッキーさんが、ボールペンを貸すような気軽さで貸してくれた、バングルである。
残念狼は、コクコクと壊れたおもちゃのように首を縦に振った。俺は自分用に淹れたお茶をを飲みながら、ベッドに座って
「えぇと……これは友達? の錬金術師が貸してくれた物なんだ。俺も兎族の彼も借りてるだけ。ペンがないならこれ使いなよ、くらいのノリで貸してもらったんだけど」
今思うと、チャールズさんの様子がちょっと変だったけど。
「は? 借り物? その、魔道具が?」
「うん。そう。試作品だって言ってたけど、どれくらいするのか、よく分かってなくて」
「はぁ!? 何考えてるんだ、その錬金術師! 頭、おかしいんじゃないのか!? それ一つで金貨二百枚から三百枚はするぞ!?」
「ぶっふぉ!? はぁ?! に、さんびゃ……はぁぁぁっ?!!?」
日本円にして、およそ二百万から三百万という値段である。それをぽーい(イメージ)
「一応、〈鑑定〉は持ってるが、魔道具は専門じゃねえんだ。だから、正確な評価額は分からねえが、それでも、最低それくらいはするってことくらいは分かる。なのに、それをペンを貸すのと同じくらいのノリで貸しただと!?」
魔道具っていうのは、素材や製造はもちろんのこと、工房や製作者でも値段が変わるらしい。まあ、マッキーさんは無名だろうからそこはまだ大丈夫だろうけど、
「ウソでしょ!? ちょ、も……気絶したいっ……!」
ってことは、店に置いてきたランタン型の魔道具も同じくらいか、もっと高いってことで……チャールズさんが頭を抱える訳が分かった。
「あの人、何考えてこんな物! いや、助かったけれども……っ!」
これがやらかし星人のオソロシサってやつなんだろうか? 俺が遠い目をしていると、
「何なんだ、その錬金術師──」
「やからし星人だって言ってた……」
「は?」
これはもう、あれだな。借り一つってことで、スパッと気持ちを切り替えよう。お礼として、いつでもマッキーさんの料理リクエストに応えられるように準備しておくか。よし。
「なんだかよく分からんが、なんでその魔道具を借りるようになったのか、事情を聞いてもいいか? スバルの力になりたいんだ」
「俺もエルの力を借りたい」
現役の探索者ってところは、チャールズさんとは違う方向で頼りになる。俺は、タリーの台所を取り巻く事情から、勇猛なる鋼とギルドの不正、自分の将来設計までをエルに話した。
もちろん、オルレアは友達であり、ビジネスパートナーだってこともだ。
エルは真剣に話を聞いてくれて、
「やっぱりな。おかしいと思ってたんだ」眉間に皺を寄せた。
「どういうこと?」
俺が首を傾げると、エルはどういう順番で話せばいいんだ? と顎を撫でた。
「エルがおかしいと思ったのは、どこ?」
「全部って言やあ、全部だが……食堂のことから話すか。探索者ってのは、収入が安定してねえんだ。いつも儲かる依頼が来るとは限らねえし、ダンジョンから出たら、休養期間があるからな。副業を持ってるヤツは珍しくねえし、ギルドもそれを推奨してる」
ふむふむ。収入のアテとして、探索者が出資して身内に商売をやらせることは珍しくないのだそうだ。逆に、身内がやっている店を助けたくて探索者になった、というパターンもあるらしい。マートルさんは、このパターンだろう。
「でも、それだと『探索者稼業に集中したいのに、オルレアのせいでそれができずに困っている』っていう、ギルド職員の動機がおかしくならない?」
「まあ、そういう考えを持ってるヤツもいるにはいるんだ。副業なんて格好悪いとか、探索者の収入だけで生活できないのはそいつが弱いだけとか……」
そういう考え方をしているのは、探索者になったばかりのランクの低い人が中心らしい。なりたてなんて、そんなもん。探索者なら誰もが通る道だと、ギルド併設の酒場で新人たちがそういう話をしていても、誰も気にしないのだそうだ。
エルナトってなんか呼びにくい。アルデミランは、他人行儀っぽくて、嫌がられそうだし。俺がそう言うと、
「ああ! もちろんだ」
椅子に座ろうとしていた残念狼は、嬉しそうにピンと耳を立て、尻尾を大きく揺らす。
「俺はスバル・フィルド。スバルって呼んで。君のタグを見せてもらっておいてなんだけど、俺のタグを見せるのはちょっと待ってもらいたくて……」
「ああ。構わない」
良かった。
机の上にはティ―セットを置いたままにしてあるので、これを使ってお茶を淹れる。生活魔法でお湯を沸かすのも簡単だ。
「はい、どうぞ。それで、すげえアクセサリーって、これ?」
お茶を淹れたカップを椅子に座ったエルに渡し、俺は左手首の魔道具を指さす。マッキーさんが、ボールペンを貸すような気軽さで貸してくれた、バングルである。
残念狼は、コクコクと壊れたおもちゃのように首を縦に振った。俺は自分用に淹れたお茶をを飲みながら、ベッドに座って
「えぇと……これは友達? の錬金術師が貸してくれた物なんだ。俺も兎族の彼も借りてるだけ。ペンがないならこれ使いなよ、くらいのノリで貸してもらったんだけど」
今思うと、チャールズさんの様子がちょっと変だったけど。
「は? 借り物? その、魔道具が?」
「うん。そう。試作品だって言ってたけど、どれくらいするのか、よく分かってなくて」
「はぁ!? 何考えてるんだ、その錬金術師! 頭、おかしいんじゃないのか!? それ一つで金貨二百枚から三百枚はするぞ!?」
「ぶっふぉ!? はぁ?! に、さんびゃ……はぁぁぁっ?!!?」
日本円にして、およそ二百万から三百万という値段である。それをぽーい(イメージ)
「一応、〈鑑定〉は持ってるが、魔道具は専門じゃねえんだ。だから、正確な評価額は分からねえが、それでも、最低それくらいはするってことくらいは分かる。なのに、それをペンを貸すのと同じくらいのノリで貸しただと!?」
魔道具っていうのは、素材や製造はもちろんのこと、工房や製作者でも値段が変わるらしい。まあ、マッキーさんは無名だろうからそこはまだ大丈夫だろうけど、
「ウソでしょ!? ちょ、も……気絶したいっ……!」
ってことは、店に置いてきたランタン型の魔道具も同じくらいか、もっと高いってことで……チャールズさんが頭を抱える訳が分かった。
「あの人、何考えてこんな物! いや、助かったけれども……っ!」
これがやらかし星人のオソロシサってやつなんだろうか? 俺が遠い目をしていると、
「何なんだ、その錬金術師──」
「やからし星人だって言ってた……」
「は?」
これはもう、あれだな。借り一つってことで、スパッと気持ちを切り替えよう。お礼として、いつでもマッキーさんの料理リクエストに応えられるように準備しておくか。よし。
「なんだかよく分からんが、なんでその魔道具を借りるようになったのか、事情を聞いてもいいか? スバルの力になりたいんだ」
「俺もエルの力を借りたい」
現役の探索者ってところは、チャールズさんとは違う方向で頼りになる。俺は、タリーの台所を取り巻く事情から、勇猛なる鋼とギルドの不正、自分の将来設計までをエルに話した。
もちろん、オルレアは友達であり、ビジネスパートナーだってこともだ。
エルは真剣に話を聞いてくれて、
「やっぱりな。おかしいと思ってたんだ」眉間に皺を寄せた。
「どういうこと?」
俺が首を傾げると、エルはどういう順番で話せばいいんだ? と顎を撫でた。
「エルがおかしいと思ったのは、どこ?」
「全部って言やあ、全部だが……食堂のことから話すか。探索者ってのは、収入が安定してねえんだ。いつも儲かる依頼が来るとは限らねえし、ダンジョンから出たら、休養期間があるからな。副業を持ってるヤツは珍しくねえし、ギルドもそれを推奨してる」
ふむふむ。収入のアテとして、探索者が出資して身内に商売をやらせることは珍しくないのだそうだ。逆に、身内がやっている店を助けたくて探索者になった、というパターンもあるらしい。マートルさんは、このパターンだろう。
「でも、それだと『探索者稼業に集中したいのに、オルレアのせいでそれができずに困っている』っていう、ギルド職員の動機がおかしくならない?」
「まあ、そういう考えを持ってるヤツもいるにはいるんだ。副業なんて格好悪いとか、探索者の収入だけで生活できないのはそいつが弱いだけとか……」
そういう考え方をしているのは、探索者になったばかりのランクの低い人が中心らしい。なりたてなんて、そんなもん。探索者なら誰もが通る道だと、ギルド併設の酒場で新人たちがそういう話をしていても、誰も気にしないのだそうだ。
90
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる