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「えっと、エルナト・アルデミランだったっけ? エルって呼んでいい?」
エルナトってなんか呼びにくい。アルデミランは、他人行儀っぽくて、嫌がられそうだし。俺がそう言うと、
「ああ! もちろんだ」
椅子に座ろうとしていた残念狼は、嬉しそうにピンと耳を立て、尻尾を大きく揺らす。
「俺はスバル・フィルド。スバルって呼んで。君のタグを見せてもらっておいてなんだけど、俺のタグを見せるのはちょっと待ってもらいたくて……」
「ああ。構わない」
良かった。
机の上にはティ―セットを置いたままにしてあるので、これを使ってお茶を淹れる。生活魔法でお湯を沸かすのも簡単だ。
「はい、どうぞ。それで、すげえアクセサリーって、これ?」
お茶を淹れたカップを椅子に座ったエルに渡し、俺は左手首の魔道具を指さす。マッキーさんが、ボールペンを貸すような気軽さで貸してくれた、バングルである。
残念狼は、コクコクと壊れたおもちゃのように首を縦に振った。俺は自分用に淹れたお茶をを飲みながら、ベッドに座って
「えぇと……これは友達? の錬金術師が貸してくれた物なんだ。俺も兎族の彼も借りてるだけ。ペンがないならこれ使いなよ、くらいのノリで貸してもらったんだけど」
今思うと、チャールズさんの様子がちょっと変だったけど。
「は? 借り物? その、魔道具が?」
「うん。そう。試作品だって言ってたけど、どれくらいするのか、よく分かってなくて」
「はぁ!? 何考えてるんだ、その錬金術師! 頭、おかしいんじゃないのか!? それ一つで金貨二百枚から三百枚はするぞ!?」
「ぶっふぉ!? はぁ?! に、さんびゃ……はぁぁぁっ?!!?」
日本円にして、およそ二百万から三百万という値段である。それをぽーい(イメージ)
「一応、〈鑑定〉は持ってるが、魔道具は専門じゃねえんだ。だから、正確な評価額は分からねえが、それでも、最低それくらいはするってことくらいは分かる。なのに、それをペンを貸すのと同じくらいのノリで貸しただと!?」
魔道具っていうのは、素材や製造はもちろんのこと、工房や製作者でも値段が変わるらしい。まあ、マッキーさんは無名だろうからそこはまだ大丈夫だろうけど、
「ウソでしょ!? ちょ、も……気絶したいっ……!」
ってことは、店に置いてきたランタン型の魔道具も同じくらいか、もっと高いってことで……チャールズさんが頭を抱える訳が分かった。
「あの人、何考えてこんな物! いや、助かったけれども……っ!」
これがやらかし星人のオソロシサってやつなんだろうか? 俺が遠い目をしていると、
「何なんだ、その錬金術師──」
「やからし星人だって言ってた……」
「は?」
これはもう、あれだな。借り一つってことで、スパッと気持ちを切り替えよう。お礼として、いつでもマッキーさんの料理リクエストに応えられるように準備しておくか。よし。
「なんだかよく分からんが、なんでその魔道具を借りるようになったのか、事情を聞いてもいいか? スバルの力になりたいんだ」
「俺もエルの力を借りたい」
現役の探索者ってところは、チャールズさんとは違う方向で頼りになる。俺は、タリーの台所を取り巻く事情から、勇猛なる鋼とギルドの不正、自分の将来設計までをエルに話した。
もちろん、オルレアは友達であり、ビジネスパートナーだってこともだ。
エルは真剣に話を聞いてくれて、
「やっぱりな。おかしいと思ってたんだ」眉間に皺を寄せた。
「どういうこと?」
俺が首を傾げると、エルはどういう順番で話せばいいんだ? と顎を撫でた。
「エルがおかしいと思ったのは、どこ?」
「全部って言やあ、全部だが……食堂のことから話すか。探索者ってのは、収入が安定してねえんだ。いつも儲かる依頼が来るとは限らねえし、ダンジョンから出たら、休養期間があるからな。副業を持ってるヤツは珍しくねえし、ギルドもそれを推奨してる」
ふむふむ。収入のアテとして、探索者が出資して身内に商売をやらせることは珍しくないのだそうだ。逆に、身内がやっている店を助けたくて探索者になった、というパターンもあるらしい。マートルさんは、このパターンだろう。
「でも、それだと『探索者稼業に集中したいのに、オルレアのせいでそれができずに困っている』っていう、ギルド職員の動機がおかしくならない?」
「まあ、そういう考えを持ってるヤツもいるにはいるんだ。副業なんて格好悪いとか、探索者の収入だけで生活できないのはそいつが弱いだけとか……」
そういう考え方をしているのは、探索者になったばかりのランクの低い人が中心らしい。なりたてなんて、そんなもん。探索者なら誰もが通る道だと、ギルド併設の酒場で新人たちがそういう話をしていても、誰も気にしないのだそうだ。
エルナトってなんか呼びにくい。アルデミランは、他人行儀っぽくて、嫌がられそうだし。俺がそう言うと、
「ああ! もちろんだ」
椅子に座ろうとしていた残念狼は、嬉しそうにピンと耳を立て、尻尾を大きく揺らす。
「俺はスバル・フィルド。スバルって呼んで。君のタグを見せてもらっておいてなんだけど、俺のタグを見せるのはちょっと待ってもらいたくて……」
「ああ。構わない」
良かった。
机の上にはティ―セットを置いたままにしてあるので、これを使ってお茶を淹れる。生活魔法でお湯を沸かすのも簡単だ。
「はい、どうぞ。それで、すげえアクセサリーって、これ?」
お茶を淹れたカップを椅子に座ったエルに渡し、俺は左手首の魔道具を指さす。マッキーさんが、ボールペンを貸すような気軽さで貸してくれた、バングルである。
残念狼は、コクコクと壊れたおもちゃのように首を縦に振った。俺は自分用に淹れたお茶をを飲みながら、ベッドに座って
「えぇと……これは友達? の錬金術師が貸してくれた物なんだ。俺も兎族の彼も借りてるだけ。ペンがないならこれ使いなよ、くらいのノリで貸してもらったんだけど」
今思うと、チャールズさんの様子がちょっと変だったけど。
「は? 借り物? その、魔道具が?」
「うん。そう。試作品だって言ってたけど、どれくらいするのか、よく分かってなくて」
「はぁ!? 何考えてるんだ、その錬金術師! 頭、おかしいんじゃないのか!? それ一つで金貨二百枚から三百枚はするぞ!?」
「ぶっふぉ!? はぁ?! に、さんびゃ……はぁぁぁっ?!!?」
日本円にして、およそ二百万から三百万という値段である。それをぽーい(イメージ)
「一応、〈鑑定〉は持ってるが、魔道具は専門じゃねえんだ。だから、正確な評価額は分からねえが、それでも、最低それくらいはするってことくらいは分かる。なのに、それをペンを貸すのと同じくらいのノリで貸しただと!?」
魔道具っていうのは、素材や製造はもちろんのこと、工房や製作者でも値段が変わるらしい。まあ、マッキーさんは無名だろうからそこはまだ大丈夫だろうけど、
「ウソでしょ!? ちょ、も……気絶したいっ……!」
ってことは、店に置いてきたランタン型の魔道具も同じくらいか、もっと高いってことで……チャールズさんが頭を抱える訳が分かった。
「あの人、何考えてこんな物! いや、助かったけれども……っ!」
これがやらかし星人のオソロシサってやつなんだろうか? 俺が遠い目をしていると、
「何なんだ、その錬金術師──」
「やからし星人だって言ってた……」
「は?」
これはもう、あれだな。借り一つってことで、スパッと気持ちを切り替えよう。お礼として、いつでもマッキーさんの料理リクエストに応えられるように準備しておくか。よし。
「なんだかよく分からんが、なんでその魔道具を借りるようになったのか、事情を聞いてもいいか? スバルの力になりたいんだ」
「俺もエルの力を借りたい」
現役の探索者ってところは、チャールズさんとは違う方向で頼りになる。俺は、タリーの台所を取り巻く事情から、勇猛なる鋼とギルドの不正、自分の将来設計までをエルに話した。
もちろん、オルレアは友達であり、ビジネスパートナーだってこともだ。
エルは真剣に話を聞いてくれて、
「やっぱりな。おかしいと思ってたんだ」眉間に皺を寄せた。
「どういうこと?」
俺が首を傾げると、エルはどういう順番で話せばいいんだ? と顎を撫でた。
「エルがおかしいと思ったのは、どこ?」
「全部って言やあ、全部だが……食堂のことから話すか。探索者ってのは、収入が安定してねえんだ。いつも儲かる依頼が来るとは限らねえし、ダンジョンから出たら、休養期間があるからな。副業を持ってるヤツは珍しくねえし、ギルドもそれを推奨してる」
ふむふむ。収入のアテとして、探索者が出資して身内に商売をやらせることは珍しくないのだそうだ。逆に、身内がやっている店を助けたくて探索者になった、というパターンもあるらしい。マートルさんは、このパターンだろう。
「でも、それだと『探索者稼業に集中したいのに、オルレアのせいでそれができずに困っている』っていう、ギルド職員の動機がおかしくならない?」
「まあ、そういう考えを持ってるヤツもいるにはいるんだ。副業なんて格好悪いとか、探索者の収入だけで生活できないのはそいつが弱いだけとか……」
そういう考え方をしているのは、探索者になったばかりのランクの低い人が中心らしい。なりたてなんて、そんなもん。探索者なら誰もが通る道だと、ギルド併設の酒場で新人たちがそういう話をしていても、誰も気にしないのだそうだ。
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