Bon voyage! ~10億円でスキルを買って楽しい異世界移住~

市々ふた枝

文字の大きさ
上 下
41 / 83

*41 鐘が鳴った──のか? *

しおりを挟む
 このタイミングで、それを出す!? 騎士がいることに気づいてないのか?! ホワイトタイガーさんがどんな反応をするのか恐ろしくて、肝が冷える。そ~っと横目で彼の様子を伺ったのだが……なんか、様子がおかしい。俺の思ってたのとナンカ違う。
 目を真ん丸にして、マッキーさんを見てる。あくまでも雰囲気なんだが、ホワイトタイガーさんの周りに花が舞い散り、リンゴ~ンって鐘が鳴ってる感じ。
 まさに今、一目で恋に落ちました、っていう……。
「じゃ、僕、眠いから帰るね」
 一方で、マッキーさんはどこまでもマイペース。ふわ~あぁと大きなあくびをして、俺たちに背を向けたが、
「失礼。君の名前を伺ってもいいだろうか? 私は、ティグレカヴァリエ騎士団 第四中隊所属のシグヴァルト・デュランタ・ユゼローク・ヴェメスだ」
 騎士様……アナタ、ひざまずいて何してますのん? 俺がポカーンとしている横で、
「ウソ!?」
「まさか?!」
 オルレアとおかみさんが、信じられないという顔で視線を合わせていた。
「ひょっとして!?」
「ひょっとするかも?!」
 と言ったところで、お互いに抱き合う。え? ちょっと、ちょっと何よ? 何なの? 何が起きてんの。俺だけおいてきぼりなんだけど?! ただ、二人とも目がキラッキラしてて、期待度マックスになってるのは分かる。マジで何事?!
「ん~? 僕? 僕はマキノ・タクミだよ」
「マキノ・タクミ……。不思議な響きの名だ。タクミ、今のあなたは体調が万全と言えない状態のようだ。嫌でなければ、私に家まで送らせてもらえないだろうか?」
「? シグさんが? 何で? 仕事中じゃないの?」
 ぶふぉっ! ちょ、マッキーさん?! あんた、相手は騎士様! お貴族様! 爵位は分からないから、せめてヴェメス様って呼ぶべきだろ!? 俺がひえぇっとおののいている前で、
「市民の安全を守ることも私の仕事だ。ふふっ。シグさんとは……初めての呼び名だ」
「嫌なら変えるよ?」
「いや、かまわないとも」
 あれえ? 何とも和やかなやり取りが。そのまま、マッキーさんは、ホワイトタイガーさんこと、ヴェメス様にエスコートされて帰って行った。
 ……どういうことだよ? 何が起きたんだ? え? 一目ぼれ的な?
 助けを求めるような気持ちで、オルレアとおかみさんを見たら、
「見たかい、オリー?!」
「見たよ、見た! すごい! まさか、こんな瞬間が見られるなんて!」
「「夢みたい……」」
 え、え~? あの……何が起きたんで? 訳が分からないって顔をしている俺に気づいたオルレアは、興奮冷めやらぬ状態で、
「つがいだよ、つがい! あの騎士様のつがいはマッキーさんだったんだよ!」
「つが……あぁ、つがい。……………えぇっ?! ちょ、あれ!? あれが?!」
 つがいというのは、端的に言えば運命の相手だ。この運命の相手は、同族の異性とは限らず、同性だったり、別の種族だったりすることも珍しくないらしい。
 ただし、注意点がいくつか。
 1、人族はつがいセンサーが鈍いので、自分でつがいは分からないと思ったほうがいいこと。
 2、つがいセンサーが鋭いのは獣人族と魔人族だが、彼らからつがいだと言われても、簡単に信じてはいけないこと。つがい詐欺ってものがあるらしい。
 つがい詐欺が広く一般に知られてはいるものの、人族はカモられやすいとのことである。日本でも特殊詐欺の被害件数はずっと横ばい状態だし、分かる気がする。
「本当につがいだとしても、その人と一緒になって幸せになれるとは限りませんので、そこは冷静に見極めましょう。運命の出会いがハッピーエンドだなんて、誰が決めたんだって話です。悲恋なんて、そこら中に転がっていますよからね」
 チャールズさんは、いつも厳しい。優しいからこそ、厳しいんだってことは分かってる。
 とりあえず、二人には注意しておかなくては。
「二人とも、ヴェメス様のつがいがマッキーさんだったってこと、言いふらしたりしないように。正確な身分は分からないけど、ヴェメス様は貴族なんだからさ」
「は! そうだね。あんなにいい男なんだ。縁談の五つや六つ、あったっておかしかないよ」
「縁談相手から、マッキーさんが狙われたり!?」
 それ、どんな昼ドラ。でも、絶対にないと言い切れないあたりがおっかない。
「喋るなら、つがいと出会ったっぽいカップルを見たってことだけにしとこうか。オリー」
「そうだね。エリーゼさん」
 二人は力強く「うん」と頷き合った。突っ込まれたら、虎族と人族のカップルだと答えることにしようと決めて、おかみさんはパン屋に帰って行った。
 昨日から色んなことが立て続けに起こりすぎじゃないかナー? なんか疲れた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...