Bon voyage! ~10億円でスキルを買って楽しい異世界移住~

市々ふた枝

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*37 タリーの台所は、愛されている *

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「そう思うってことは、地球の料理もこっちの料理と似てるってこと?」
「似てる料理もあるってこと。似てない料理もあるけど」
 和食とか中華は、さすがに似てない。でも、移住者は反応して食べてくれると思う。
「へぇ……それって、味見とかできたりする?」
「え? あぁ、そうだね。一口か二口分くらい、味見ができるようにしてもいいかもね」
「見慣れない料理は味が分からないから食べようとしないだけで、味見ができて美味しかったら、注文してくれると思うよ」
 食わず嫌い、ってやつか。まあ、味噌を知らない人に味噌の味の説明なんてどう言えばいいのか……。
「お味見セットはメニューに入れよう。値段とかは後で考えるとして……まずは開店準備を手伝ってほしい。客層、客単価、どこで店をやるのか。内装、メニュー、仕入先。カトラリーや厨房設備、店員とその教育……」
「いっぱいあるんだね……」
「そりゃあまあ、まだ手付かずだからね。漠然としたイメージはあるけど、具体的にはまだちゃんと考えてないから」ここで言葉を切った俺は、オルレアを見て
「頼りにしてる」
「が、がんばる……」
 ちょっと顔が引きつってたのは、見なかったことにしよう。
 さて、ランチも食べたことだし、そろそろお礼のお菓子のことを考えなきゃな。何がいいだろう? 厨房に何があるかチェックさせてもらおうか。
「オリー、お礼のお菓子だけど、厨房に何があるか見せてもらっていい?」
「あ、うん。どうぞ」
 許可をもらったので、トレーを持って厨房へ。オルレアも付いて来ようとしたんだけど、
「オルレア~? いるか~?」
 店の外から男の人の声がした。思わず身構えて、声がしたほうを睨みつけてしまう。
「大丈夫。あの声は、八百屋のご主人だよ」
「あぁ、そうなんだ。良かった」敵が来たかと思ってしまった。
「スバルは厨房に行ってていいよ。今日このタイミングで紹介すると、面倒くさいことになりそうな気がするから」
 後半、ぼそっと言われたことに俺は「そうかも」と頷いた。ぽっと出の俺が当たり前のような顔をしてここにいることに、不信感を持たれるかも知れないもんな。
「分かった。そうさせてもらうよ」
 オルレアの勧めもあって、俺はそそくさと厨房のほうへ移動した。トレーを持ったままでちょっと格好がつかないけど、厨房の前で立ち止まり、
「エキザカムご夫妻。あなた方の城を使わせていただきます」一礼をする。
 日本人だからかなあ? なんか、挨拶しなきゃいけないって思ったんだ。
 食器は〈清潔〉でキレイする。どこに片付けるのか知らないので、戸棚という戸棚を片っ端から開けていく。食器類については、新店の参考にさせてもらうつもりだ。
 使ったお皿とトレーを返し、続いて冷蔵庫を開ける。定番の野菜、果物、肉、野菜。卵、牛乳もあるな。果物は桃がある。あ、桃のコンポートもあるな。
 ゼラチンはあるかな? と探していると、オルレアがトレーを持って厨房に。
「八百屋さん、なんだって?」
「何か困ったことはないかって。店が一段落したから、様子を見に来てくれたみたい。八百屋さんだけじゃなくて、お肉屋さんやお魚屋さんも来てくれて……」
 前に店を荒らされた時も、すぐに様子を見に来てくれたそうだ。どこから手を付けていいのか分からなかったオルレアに、あれこれとアドバイスをしてくれたという。
「こっちから挨拶に行くつもりだって言ったら、来なくていいって言われちゃったよ。今は店のことだけ考えてろって」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうとしようか。ところで、お礼用のお菓子だけど、何がいいかな?」
「えっと、お菓子作りは苦手って言ったけど、そもそもお菓子自体、よく知らないんだ……」
「そうなの?」
「うん。砂糖が簡単に手に入るようになったのって、ここ十年くらいのことなんだよ」
 他国に目を向ければ、まだまだ高価な地域もあるという。クァンベトゥーリアで簡単に手に入るようになったのは、ルォノダンジョンに生息している植物系の魔物から採取できることが分かったからだそうだ。低ランクでも比較的容易に討伐できることも大きいという。
 そのこともあって、この町では早いうちに甘いお菓子が広がっていったものの、気軽に買えるものはたかが知れているそうだ。
 気軽に買えるものは、砂糖漬けやキャンディー、ビスケット、クッキーくらいだとか。
「そのほかには、チュロスみたいな揚げ菓子かな?」
 いくら魔法があっても、持続時間の長い魔法を使えるのは一部の限られた人だけ。だから、常温で保管できないものは、高級品扱いになることがほとんどらしい。
 なるほど、それはうっかりしていた。
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