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*36 一緒にやりませんか? *
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コシードを完食して帰って行ったチャールズさん。必要な忠告だったとはいえ、空気が重い。オルレアが沈んでいる。ただし、沈んでいる理由がちょっと分からない。
「オリー?」
どうしたものかと声をかけてみたら、
「……ぼくのスキルが〈料理人〉にならないのはなんでなんだろう……」
何で、だろう?
これは、〈料理〉と〈料理人〉に限った話じゃない。分かりやすいのはハンドクラフト系だろうか。アマチュアでもプロ顔負けの人はいるし、失礼ながら、このクオリティーでお金取るの? っていう人も、まあ……いるよな。
なら、アマチュアとプロの違いが、スキルの差ってことになるのか? 当たり前のことだが、プロはそれが仕事で、お金をもらってるわけだから、そこに自信やプロ意識というものがあるはずで……。
俺が腕を組んでぶつぶつ言ってると、
「プロ意識?」俺の独り言が、オルレアの何かに引っかかったらしい。
「自分の作ったものや、やったことに対して、自信と誇りを持つことだと思う」
「自信と誇り……」
「さっき、マッキーさんが魔道具をけちょんけちょんに言ってただろ? 見てるこっちが恥ずかしいって。言い換えれば、あの魔道具を作った人は客を見下してるのか、自分の作品を客観的に見ることができないっていうか……」
前者であれば傲慢だし、後者であれば自信過剰だと思う。
しばらく何かを考え込んでいたオルレアは、「何か分かった気がする」とぽつり。俺は分からないけど、オルレアが分かったんならいいか。
「えっと、状況を整理しようか。この後は片付けの続きをして、取引先にはしばらくの間、取引を停止したいことを言いに行く。店の修理は、明日から来てもらえそう」
「マートルが帰って来るまでは、店の営業はできない。帰って来てからどうなるかは未定。ぼくは、この店を辞めて他の店で働く。でも、マートルが新しく人を雇って、店を続けると言った場合、ぼくはこの店のレシピをその人に伝えなくちゃいけない……」
マートルさんが帰って来るのは、十日後くらい。
「あのさ、オリー。突っ込んだことを聞くけど、生活は大丈夫?」
「正直、今もカツカツで……」
なるほど。そりゃあ、嫌にもなりますわ。憎みたくもなりますわぁ。だが、俺にとっては好都合! 人の弱みに付け込むことになるが、それがなんだと言い返す。
「だったらさ、俺に日給金貨一枚で雇われてくれない?」
「へ? スバル……に?」
どういうこと、と目を丸くするウサギさんへ、俺は飲食店経営の夢とそこに至るまでの計画。タリーの台所に出会って、計画を勝手に変更したことなどを話した。
「え? あ、でも……〈調理師〉スキル……」
「持ってるよ?」
ペンダントにして持ち歩いているタグを首から外して、オルレアにスキルを見せる。
「あ……本当って……〈特殊調理〉まで持ってるの!? この二つのスキルがあって、庶民向けの飲食店経営って……本気? だって、これって貴族のお屋敷で働けるレベルだよ?!」
ぎょっと目を丸くして、ウサギさんが叫んだ。
「本気も、本気。超本気だよ。俺は移住者だから、お貴族様相手のふるまいなんて分からないって言うのが一つ。当然、そういう所に就職できるコネもない。自信を持って提供できる料理も庶民向けのものばっかりだから。採用もされないと思うよ」
「え? 移、住者? スバルが?」
「うん、そう。移住者の評判が悪くてびっくりしたから、大っぴらにはしないけど」
移住者の評判が悪いのは、主に探索者を職業に選んだ人たちの理想と現実のギャップ差による、言動のせいだと思われる。中二病患者は、俺が思っていた以上に多かったのだろう。
「オリーが驚いてるのは、移住者のイメージが俺と重ならないからだと思う」
俺が言うと、オルレアはその通りだとうなずいた。
「移住にあたっての相談を担当してくれたのがチャールズさんじゃなかったら、俺も君のイメージ通りの移住者になってたような気がしてる」
「あ、納得した。チャールズさんが相談相手だったら、ぼくがイメージしてる移住者なんてボッコボコにされて、移住はやめますって言ってそう……」
「俺もそう思う。って言うか、一応? 俺も男だから? 探索者とか憧れる気持ちはあったんだよ。だから、なれますかね~? って軽いノリで聞いてみたら、鼻で笑われた……」
「その光景が簡単に想像できるよ、スバル」
やっぱりね。
「えっ……と、その……ぼくを雇ってどうするのか、聞いていい?」
「どうって、厨房に立って料理を作ってもらうけど? 最初はオリーに作ってもらう地元飯がメニューの七割くらい。俺が作る地球飯は三割くらいって考えてる。最終的には、五割ずつくらいにしたいけど、これは開店してからの様子も見ながら相談していくつもり」
バルみたいに、大皿料理として店頭に並べておけば、案外イケそうな気がしてる。結局、料理の種類っていっぱいあるから、地元飯じゃなくてもバレないと思うんだよな。
「オリー?」
どうしたものかと声をかけてみたら、
「……ぼくのスキルが〈料理人〉にならないのはなんでなんだろう……」
何で、だろう?
これは、〈料理〉と〈料理人〉に限った話じゃない。分かりやすいのはハンドクラフト系だろうか。アマチュアでもプロ顔負けの人はいるし、失礼ながら、このクオリティーでお金取るの? っていう人も、まあ……いるよな。
なら、アマチュアとプロの違いが、スキルの差ってことになるのか? 当たり前のことだが、プロはそれが仕事で、お金をもらってるわけだから、そこに自信やプロ意識というものがあるはずで……。
俺が腕を組んでぶつぶつ言ってると、
「プロ意識?」俺の独り言が、オルレアの何かに引っかかったらしい。
「自分の作ったものや、やったことに対して、自信と誇りを持つことだと思う」
「自信と誇り……」
「さっき、マッキーさんが魔道具をけちょんけちょんに言ってただろ? 見てるこっちが恥ずかしいって。言い換えれば、あの魔道具を作った人は客を見下してるのか、自分の作品を客観的に見ることができないっていうか……」
前者であれば傲慢だし、後者であれば自信過剰だと思う。
しばらく何かを考え込んでいたオルレアは、「何か分かった気がする」とぽつり。俺は分からないけど、オルレアが分かったんならいいか。
「えっと、状況を整理しようか。この後は片付けの続きをして、取引先にはしばらくの間、取引を停止したいことを言いに行く。店の修理は、明日から来てもらえそう」
「マートルが帰って来るまでは、店の営業はできない。帰って来てからどうなるかは未定。ぼくは、この店を辞めて他の店で働く。でも、マートルが新しく人を雇って、店を続けると言った場合、ぼくはこの店のレシピをその人に伝えなくちゃいけない……」
マートルさんが帰って来るのは、十日後くらい。
「あのさ、オリー。突っ込んだことを聞くけど、生活は大丈夫?」
「正直、今もカツカツで……」
なるほど。そりゃあ、嫌にもなりますわ。憎みたくもなりますわぁ。だが、俺にとっては好都合! 人の弱みに付け込むことになるが、それがなんだと言い返す。
「だったらさ、俺に日給金貨一枚で雇われてくれない?」
「へ? スバル……に?」
どういうこと、と目を丸くするウサギさんへ、俺は飲食店経営の夢とそこに至るまでの計画。タリーの台所に出会って、計画を勝手に変更したことなどを話した。
「え? あ、でも……〈調理師〉スキル……」
「持ってるよ?」
ペンダントにして持ち歩いているタグを首から外して、オルレアにスキルを見せる。
「あ……本当って……〈特殊調理〉まで持ってるの!? この二つのスキルがあって、庶民向けの飲食店経営って……本気? だって、これって貴族のお屋敷で働けるレベルだよ?!」
ぎょっと目を丸くして、ウサギさんが叫んだ。
「本気も、本気。超本気だよ。俺は移住者だから、お貴族様相手のふるまいなんて分からないって言うのが一つ。当然、そういう所に就職できるコネもない。自信を持って提供できる料理も庶民向けのものばっかりだから。採用もされないと思うよ」
「え? 移、住者? スバルが?」
「うん、そう。移住者の評判が悪くてびっくりしたから、大っぴらにはしないけど」
移住者の評判が悪いのは、主に探索者を職業に選んだ人たちの理想と現実のギャップ差による、言動のせいだと思われる。中二病患者は、俺が思っていた以上に多かったのだろう。
「オリーが驚いてるのは、移住者のイメージが俺と重ならないからだと思う」
俺が言うと、オルレアはその通りだとうなずいた。
「移住にあたっての相談を担当してくれたのがチャールズさんじゃなかったら、俺も君のイメージ通りの移住者になってたような気がしてる」
「あ、納得した。チャールズさんが相談相手だったら、ぼくがイメージしてる移住者なんてボッコボコにされて、移住はやめますって言ってそう……」
「俺もそう思う。って言うか、一応? 俺も男だから? 探索者とか憧れる気持ちはあったんだよ。だから、なれますかね~? って軽いノリで聞いてみたら、鼻で笑われた……」
「その光景が簡単に想像できるよ、スバル」
やっぱりね。
「えっ……と、その……ぼくを雇ってどうするのか、聞いていい?」
「どうって、厨房に立って料理を作ってもらうけど? 最初はオリーに作ってもらう地元飯がメニューの七割くらい。俺が作る地球飯は三割くらいって考えてる。最終的には、五割ずつくらいにしたいけど、これは開店してからの様子も見ながら相談していくつもり」
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