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*25 有能相談員の手腕 *
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おかみさんたちの話に俺が首を傾げていると、中からチャールズさんが出てきた。肩に大きな白い塊を担いでいる。彼女たちに掃除のお礼を言い、チャールズさんのところへ。近づいてみると、白い塊は布だと分かった。二十枚くらいのシーツは余裕で縫えるんじゃないかっていうくらいの量。
「チャールズさん、その布は? それにオリーは……ってホワイトライオン?」
店の中を覗くと、立派な鬣を持った白い大きなライオンが、オルレアにすりすりと頭を寄せて甘えていた。オルレアは戸惑ってはいるものの、嫌そうな様子はなく、むしろちょっと嬉しそうだ。何あれ、羨ましい。でも、ライオンはどこから来たんだ? 俺が驚いていると、
「あの通り、俺のスキルで創った相棒に任せています。今の内に、この布で窓と入口を覆ってしまいましょう。修理するまでの応急処置です」
「あ、はい。そうですね」
踏み台に、釘と金づち。用意いいな、この人。チャールズさんが踏み台に上ったので、俺は彼から預かった布を地面に置いて、一枚目を手に取った。布を広げて、端をチャールズさんに渡す。彼は、コンコンと手際よく釘を壁に打ち込んでいく。
ものの五分とかからずに、割れた窓は白い布で隠された。ドアの部分も布で隠し、応急処置が完了。おかみさんたちのほうも掃除が終わったみたいだ。裏口に置いとくからね、と改めて言われ、俺は「ありがとうございます。助かりました」と頭を下げた。
布で隠したことによって、店内は薄暗くなっている。俺は、箒とちり取りを片付けるついでに店の照明のスイッチの場所を聞き、明かりをつけた。
机の上には、アウトドア用品っぽいカップとポット。どこから持って来たんだ? と思ったら、なんとチャールズさんの私物。
「実は俺も〈収納〉持ちでして。そのポットは保温機能付きの魔道具で重宝してます」
新たにカップが二つ出て来て、ポットの中身が注がれる。良い匂い。チャールズさんが淹れてくれたお茶をいただき、ほっと一息。さっきの布や踏み台なども、チャールズさんの〈収納〉に入っていたものなんだそう。
「ごめんね、スバル。それにクロウリーさんも……二人は関係ないのに……」
「オリー。謝らなくていいよ。俺がやりたくてやったんだし」
「そうですよ。こういうときに聞きたい言葉は、謝罪ではなくお礼のほうです」
チャールズさんに言われ、オルレアはパチパチと瞬き。背中を正して、
「あ、ありがとうございます。スバルも、ありがとうね」
「「どういたしまして」」
頭を下げたオルレアへ向けた、俺たちの声がぴったりと重なった。それにしても、だ。
「さっきのおかみさんたちの話、気になるなあ」
「音は魔法で何とかなると思うけど……隣のパン屋が開くまで誰も気づかなかったっていうのは、変だよね。そんな高度な魔法を使ってまで、店に嫌がらせを?」
すんっと鼻をすすったオルレアが、首をかしげる。確かに。店への嫌がらせが、犯人側にとってどんなメリットがあるっていうんだろう? 近所にライバル店になりそうな店の出店はなかったはずだし。
チャールズさんが「何の話です?」と瞬きをしたので、おれはおかみさんたちが話していたことを彼に教えた。
「なるほど。そんなことが……。魔道具を使ったのかもしれません。分かるかどうか怪しいですが、専門家を呼びましょう」
そう言ってチャールズさんは筆記具と便箋を取り出した。さらさらと何かを書きながら、
「フィルドさん、マキノ・タクミさんという錬金術師にはお会いになられました?」
「あ、スバルでいいですよ、チャールズさん。さん付けもなしで。で、錬金術師に知り合いはいませんね。どうしてですか?」
「いえ、こちらのスタッフに顔合わせを頼んでいたものですから……タイミングが合わなかったのか? まあ、あの人のことだから十分あり得るか」
「えっと?」
「マキノ・タクミさんは、あなたと同じタイミングでこちらに来た方です。将来的に魔道具の作成を依頼するとなった時に便利でしょうし、同性で同年代なので──」
「あぁ、なるほど」
気持ちはありがたいものの、原田 新司を知っている人間は極力少ないほうがいいので、移住局滞在中に会わなかったのは、良かったと思う。
「でも、偏見を承知で言いますけど、錬金術師って偏屈じゃないですか?」
「偏見じゃないよ。錬金術師って、そういうもんだよ。頭がかたいっていうか……」
実は調理器具をいくつか作ってほしくて、錬金術師の工房を訪ねたことがあったのだが……どこも渋い顔をするばかりで引き受けてくれなかったのだ。理由を聞けば、「そんな物、誰が欲しがるんだ?」とか「別に今のままでも困らねえだろ?」とか。俺が欲しがってるし、もっと便利に効率的に作業をしたいんだと言っても、「うちでは受けられねえな。他を当たってくれ」ときたもんだ。
あ、思い出したら腹が立って来た。一連の錬金術師とのやり取りをチャールズさんに話すと、
「地元の錬金術師はそういう態度を取るだろうと見越して、マキノさんを紹介しようと思ったんですよ」
ペンを走らせながら、はあ~っと重たい息を吐くチャールズさん。え? 何があったの?
「あの野郎、初っ端から色々やらかしてくれましてねえ……。たった三か月でマイスター資格を取得しやがりまして、しかも先日、工房を預かるという訳の分からないことになってまして……」
「は?! たった三か月でマイスター資格ってあり得なくないですか!? 見習いから始めて独立するまで、二十年くらいはかかるんじゃなかったでしたっけ?!」
前のめりになって、チャールズさんに詰め寄るオルレア。その話が本当なら、スキル補正があったとしても、三か月はあり得ない。一体、どんな魔法を使ったんだ?
「本人曰く、効率化、大量生産って知ってる~? とのことでしたが……正直、詳しいことは分かりかねます。部外者なもので。結論を言うと、マキノさんが自分の工房を持ったので、誰に気遣うことなく、スバルが欲しい魔道具を作ってくれるはずです」
「え!? それ、本当ですか?!」
「同郷の強みで、スバルの希望もすんなり伝わるでしょう。やらかし星人で変な人ですが、悪い人ではないので、頼りになるかと」
やらかし星人……。まあ、そうか。チートなのは間違いないだろうな。何だろう、急に不安が……。
俺の心配をよそに手紙を書きあげたチャールズさんは、オルレアの足元に寝そべっていたライオンを呼び寄せ、手紙を託した。手紙を口にくわえたライオンは、のそのそと店の外へ出て行く。
「……外、歩かせて大丈夫なんですか?」
「見つからなければ大丈夫です」
そういう問題? え? もしかして、チャールズさんもやらかしちゃう人?
「チャールズさん、その布は? それにオリーは……ってホワイトライオン?」
店の中を覗くと、立派な鬣を持った白い大きなライオンが、オルレアにすりすりと頭を寄せて甘えていた。オルレアは戸惑ってはいるものの、嫌そうな様子はなく、むしろちょっと嬉しそうだ。何あれ、羨ましい。でも、ライオンはどこから来たんだ? 俺が驚いていると、
「あの通り、俺のスキルで創った相棒に任せています。今の内に、この布で窓と入口を覆ってしまいましょう。修理するまでの応急処置です」
「あ、はい。そうですね」
踏み台に、釘と金づち。用意いいな、この人。チャールズさんが踏み台に上ったので、俺は彼から預かった布を地面に置いて、一枚目を手に取った。布を広げて、端をチャールズさんに渡す。彼は、コンコンと手際よく釘を壁に打ち込んでいく。
ものの五分とかからずに、割れた窓は白い布で隠された。ドアの部分も布で隠し、応急処置が完了。おかみさんたちのほうも掃除が終わったみたいだ。裏口に置いとくからね、と改めて言われ、俺は「ありがとうございます。助かりました」と頭を下げた。
布で隠したことによって、店内は薄暗くなっている。俺は、箒とちり取りを片付けるついでに店の照明のスイッチの場所を聞き、明かりをつけた。
机の上には、アウトドア用品っぽいカップとポット。どこから持って来たんだ? と思ったら、なんとチャールズさんの私物。
「実は俺も〈収納〉持ちでして。そのポットは保温機能付きの魔道具で重宝してます」
新たにカップが二つ出て来て、ポットの中身が注がれる。良い匂い。チャールズさんが淹れてくれたお茶をいただき、ほっと一息。さっきの布や踏み台なども、チャールズさんの〈収納〉に入っていたものなんだそう。
「ごめんね、スバル。それにクロウリーさんも……二人は関係ないのに……」
「オリー。謝らなくていいよ。俺がやりたくてやったんだし」
「そうですよ。こういうときに聞きたい言葉は、謝罪ではなくお礼のほうです」
チャールズさんに言われ、オルレアはパチパチと瞬き。背中を正して、
「あ、ありがとうございます。スバルも、ありがとうね」
「「どういたしまして」」
頭を下げたオルレアへ向けた、俺たちの声がぴったりと重なった。それにしても、だ。
「さっきのおかみさんたちの話、気になるなあ」
「音は魔法で何とかなると思うけど……隣のパン屋が開くまで誰も気づかなかったっていうのは、変だよね。そんな高度な魔法を使ってまで、店に嫌がらせを?」
すんっと鼻をすすったオルレアが、首をかしげる。確かに。店への嫌がらせが、犯人側にとってどんなメリットがあるっていうんだろう? 近所にライバル店になりそうな店の出店はなかったはずだし。
チャールズさんが「何の話です?」と瞬きをしたので、おれはおかみさんたちが話していたことを彼に教えた。
「なるほど。そんなことが……。魔道具を使ったのかもしれません。分かるかどうか怪しいですが、専門家を呼びましょう」
そう言ってチャールズさんは筆記具と便箋を取り出した。さらさらと何かを書きながら、
「フィルドさん、マキノ・タクミさんという錬金術師にはお会いになられました?」
「あ、スバルでいいですよ、チャールズさん。さん付けもなしで。で、錬金術師に知り合いはいませんね。どうしてですか?」
「いえ、こちらのスタッフに顔合わせを頼んでいたものですから……タイミングが合わなかったのか? まあ、あの人のことだから十分あり得るか」
「えっと?」
「マキノ・タクミさんは、あなたと同じタイミングでこちらに来た方です。将来的に魔道具の作成を依頼するとなった時に便利でしょうし、同性で同年代なので──」
「あぁ、なるほど」
気持ちはありがたいものの、原田 新司を知っている人間は極力少ないほうがいいので、移住局滞在中に会わなかったのは、良かったと思う。
「でも、偏見を承知で言いますけど、錬金術師って偏屈じゃないですか?」
「偏見じゃないよ。錬金術師って、そういうもんだよ。頭がかたいっていうか……」
実は調理器具をいくつか作ってほしくて、錬金術師の工房を訪ねたことがあったのだが……どこも渋い顔をするばかりで引き受けてくれなかったのだ。理由を聞けば、「そんな物、誰が欲しがるんだ?」とか「別に今のままでも困らねえだろ?」とか。俺が欲しがってるし、もっと便利に効率的に作業をしたいんだと言っても、「うちでは受けられねえな。他を当たってくれ」ときたもんだ。
あ、思い出したら腹が立って来た。一連の錬金術師とのやり取りをチャールズさんに話すと、
「地元の錬金術師はそういう態度を取るだろうと見越して、マキノさんを紹介しようと思ったんですよ」
ペンを走らせながら、はあ~っと重たい息を吐くチャールズさん。え? 何があったの?
「あの野郎、初っ端から色々やらかしてくれましてねえ……。たった三か月でマイスター資格を取得しやがりまして、しかも先日、工房を預かるという訳の分からないことになってまして……」
「は?! たった三か月でマイスター資格ってあり得なくないですか!? 見習いから始めて独立するまで、二十年くらいはかかるんじゃなかったでしたっけ?!」
前のめりになって、チャールズさんに詰め寄るオルレア。その話が本当なら、スキル補正があったとしても、三か月はあり得ない。一体、どんな魔法を使ったんだ?
「本人曰く、効率化、大量生産って知ってる~? とのことでしたが……正直、詳しいことは分かりかねます。部外者なもので。結論を言うと、マキノさんが自分の工房を持ったので、誰に気遣うことなく、スバルが欲しい魔道具を作ってくれるはずです」
「え!? それ、本当ですか?!」
「同郷の強みで、スバルの希望もすんなり伝わるでしょう。やらかし星人で変な人ですが、悪い人ではないので、頼りになるかと」
やらかし星人……。まあ、そうか。チートなのは間違いないだろうな。何だろう、急に不安が……。
俺の心配をよそに手紙を書きあげたチャールズさんは、オルレアの足元に寝そべっていたライオンを呼び寄せ、手紙を託した。手紙を口にくわえたライオンは、のそのそと店の外へ出て行く。
「……外、歩かせて大丈夫なんですか?」
「見つからなければ大丈夫です」
そういう問題? え? もしかして、チャールズさんもやらかしちゃう人?
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