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*24 不思議な証言 *
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二人でウサギさんを宥めること、数分。少し落ち着いてきた頃を見計らって、
「チャールズさん、オリーを店の中に──」チャールズさんにオルレアを頼むと、
「了解です」彼はひょいっとウサギさんを抱き上げ、店内へ駈け込んで行った。
俺はというと、まだ残っている野次馬の皆さんへ、
「お騒がせしてすみません。タリーの台所は、ご覧のような有様ですので、しばらくの間、休業いたします」
ぺこーっと頭を下げて、ダッシュで店の中へ。
「うわっ。店の中もひどいな」
机や椅子はひっくり返り、中には脚が折れていたり、背もたれが欠けていたりするものもあった。机なんて、真っ二つになっている物もあるじゃないか。壁に飾られていたプレートもほとんどが割れて、床に散乱している。まるで、ここだけ局地的な台風に襲われたかのようだ。
チャールズさんはオルレアを立て抱きにしたまま、ポンポンとその背中を叩いていた。
「そこの机と椅子は壊れていないようなので──」
「わかりました」
チャールズさんが指さした方向の机を起こし、椅子を三脚並べる。チャールズさんが、オルレアを椅子に座らせ、俺たちも椅子に座った。俺はオルレアの隣に座って、彼の背中を撫でる。
オルレアは、まだまともに話せそうにないので、かわりに俺が知っていることをチャールズさんに話す。全部話を聞き終えた彼は、大きく息を吐いて、
「……そうですか。お亡くなりになっていたとは残念です」
まだ、駆け出しの探索者だった頃、先代のご夫婦には食事を大盛りにしてもらったり、ダンジョンで採れたものを買い取ってもらったりしていたのだという。
先代のご夫婦がどんな人だったのか、詳しくは分からないが、それでも周りの人たちから慕われる、いい人たちだったんだろう。お客さんたちもいい人が多かったし。ポツポツと先代のご夫婦との思い出を語ってくれるチャールズさん。オルレアも、だいぶ落ち着いて来たのか、少しずつ思い出話に加わるようになった。
故人を偲ぶ二人の話を聞きながら、俺も先代のご夫婦に会ってみたかったなあ、と思う。もし、日本にいた時に先代のご夫婦みたいな人と出会えていたら、俺の人生もまた少し違っていたのかも知れない、なんて──。
「先代への恩は、ビッケルさんに返すことにいたしましょう。ご子息はどちらのクランに?」
故人を偲ぶ会が終了したとたん、なまはげが降臨した。悪い子はいねがー、と家々を回るアレだ。俺も動画とかニュースでしか知らないけど、雰囲気はあれ。この場合の悪い子は、もちろん、ご子息ことマートルさんだ。
「……ゆ、ゆーもーなる鋼っていうクランッ、ですけど……ダメですよ。全然、連絡取ってくれないんです。ギルドにも頼んでみたんですッけど、やっぱり、全然ダメで……」
「は? ギルド、も……?」
すっげー低い声。地獄からの使者の声って言われても、信じそうだ。さすが、なまはげ。
オルレアは、彼の声に気づいているのかいないのか、こくんとうなずいた。
「よし。連絡は後だ。どっちも絞り上げてくれる……」
地鳴りの音が聞こえるようだ……。この反応の原因というか、理由が俺にはさっぱり分からないんで、余計に怖い。
「え、えっと……とりあえず、店をどうするか考えないと……って、あ! ガラス! チャールズさん、俺ちょっと、店の前を掃除してきます。ガラス、あのままにしとくのはまずいし! オリー、箒とちり取りはどこ?」
「そっ、このドアから中に入って、すぐ左……」
「了解。ささっと掃除してくるね!」
基本的に道路掃除に魔法は使えない。っていうか、どこまでの範囲をどれくらいのレベルできれいにするのか、想像が難しくて無理。下手にやって、揉め事の種になっても困るし。
箒とちり取りを持って店の外に出ると、野次馬はほとんど解散し、
「あ、パン屋のおかみさん」
「ここはあたしたちが掃除しとくから、あんたはオリーについててやっとくれよ」
近所の人たちが三人ほど、箒を持って道路を掃いてくれていた。
「ガラスはこの袋に入れて、裏口に置いとくからさ。修繕費の足しにしな」
「ありがとうございます」
「なんの、なんの。あたしらには、これくらいしかしてやれることはないからね。オリーには、無理をしないようにって伝えとくれ。あ、聞こえてるかな? オリー、このさいだからゆっくり休みな。あんた、このままじゃぶっ倒れちまうよ」
店の方に向かって、一人が声をかけてくれる。オルレアは兎族だからこれくらいの距離であれば、声も普通に聞こえるんだろう。割れた窓の向こうで、顔をあげた彼が椅子から立ち上がり、ぺこっと頭を下げるのが見えた。
「しっかし、不思議なんだよねえ。あたしの耳もコレだろう? こんなに大暴れされたら、飛び起きそうなモンなのに……昨夜は何の音もしなかったんだよねえ」
コレと言った、パン屋のおかみさんは狐族。だから耳が大きいのだ。
「あ! それ! あたしも思った。前にも酔っ払いが店の窓を割った時があったろう? あの時は、気づいたんだよ。あ、酔っ払いが暴れてるな~、あ、酒瓶割ったなって」
「あ~、あたしも半分寝てたけど、音は聞こえてたわ。ま~た酔っ払いが暴れてる、道端に吐いたりしてないでしょうね、って思ったの、覚えてるもの」
ところが、今回は前よりも被害が酷いというのに、誰も気づかなかったというのである。しかも、隣のパン屋が店を開ける朝の六時まで。
「は? いや、それって、絶対にただの酔っ払いの仕業じゃないし!」
「だろう? あの、ぼんくらクズ騎士、わいろでももらってんじゃないのかねえ」
やっぱり、誰でもそう思うよなあ……。一体、どうなってるんだ?
「チャールズさん、オリーを店の中に──」チャールズさんにオルレアを頼むと、
「了解です」彼はひょいっとウサギさんを抱き上げ、店内へ駈け込んで行った。
俺はというと、まだ残っている野次馬の皆さんへ、
「お騒がせしてすみません。タリーの台所は、ご覧のような有様ですので、しばらくの間、休業いたします」
ぺこーっと頭を下げて、ダッシュで店の中へ。
「うわっ。店の中もひどいな」
机や椅子はひっくり返り、中には脚が折れていたり、背もたれが欠けていたりするものもあった。机なんて、真っ二つになっている物もあるじゃないか。壁に飾られていたプレートもほとんどが割れて、床に散乱している。まるで、ここだけ局地的な台風に襲われたかのようだ。
チャールズさんはオルレアを立て抱きにしたまま、ポンポンとその背中を叩いていた。
「そこの机と椅子は壊れていないようなので──」
「わかりました」
チャールズさんが指さした方向の机を起こし、椅子を三脚並べる。チャールズさんが、オルレアを椅子に座らせ、俺たちも椅子に座った。俺はオルレアの隣に座って、彼の背中を撫でる。
オルレアは、まだまともに話せそうにないので、かわりに俺が知っていることをチャールズさんに話す。全部話を聞き終えた彼は、大きく息を吐いて、
「……そうですか。お亡くなりになっていたとは残念です」
まだ、駆け出しの探索者だった頃、先代のご夫婦には食事を大盛りにしてもらったり、ダンジョンで採れたものを買い取ってもらったりしていたのだという。
先代のご夫婦がどんな人だったのか、詳しくは分からないが、それでも周りの人たちから慕われる、いい人たちだったんだろう。お客さんたちもいい人が多かったし。ポツポツと先代のご夫婦との思い出を語ってくれるチャールズさん。オルレアも、だいぶ落ち着いて来たのか、少しずつ思い出話に加わるようになった。
故人を偲ぶ二人の話を聞きながら、俺も先代のご夫婦に会ってみたかったなあ、と思う。もし、日本にいた時に先代のご夫婦みたいな人と出会えていたら、俺の人生もまた少し違っていたのかも知れない、なんて──。
「先代への恩は、ビッケルさんに返すことにいたしましょう。ご子息はどちらのクランに?」
故人を偲ぶ会が終了したとたん、なまはげが降臨した。悪い子はいねがー、と家々を回るアレだ。俺も動画とかニュースでしか知らないけど、雰囲気はあれ。この場合の悪い子は、もちろん、ご子息ことマートルさんだ。
「……ゆ、ゆーもーなる鋼っていうクランッ、ですけど……ダメですよ。全然、連絡取ってくれないんです。ギルドにも頼んでみたんですッけど、やっぱり、全然ダメで……」
「は? ギルド、も……?」
すっげー低い声。地獄からの使者の声って言われても、信じそうだ。さすが、なまはげ。
オルレアは、彼の声に気づいているのかいないのか、こくんとうなずいた。
「よし。連絡は後だ。どっちも絞り上げてくれる……」
地鳴りの音が聞こえるようだ……。この反応の原因というか、理由が俺にはさっぱり分からないんで、余計に怖い。
「え、えっと……とりあえず、店をどうするか考えないと……って、あ! ガラス! チャールズさん、俺ちょっと、店の前を掃除してきます。ガラス、あのままにしとくのはまずいし! オリー、箒とちり取りはどこ?」
「そっ、このドアから中に入って、すぐ左……」
「了解。ささっと掃除してくるね!」
基本的に道路掃除に魔法は使えない。っていうか、どこまでの範囲をどれくらいのレベルできれいにするのか、想像が難しくて無理。下手にやって、揉め事の種になっても困るし。
箒とちり取りを持って店の外に出ると、野次馬はほとんど解散し、
「あ、パン屋のおかみさん」
「ここはあたしたちが掃除しとくから、あんたはオリーについててやっとくれよ」
近所の人たちが三人ほど、箒を持って道路を掃いてくれていた。
「ガラスはこの袋に入れて、裏口に置いとくからさ。修繕費の足しにしな」
「ありがとうございます」
「なんの、なんの。あたしらには、これくらいしかしてやれることはないからね。オリーには、無理をしないようにって伝えとくれ。あ、聞こえてるかな? オリー、このさいだからゆっくり休みな。あんた、このままじゃぶっ倒れちまうよ」
店の方に向かって、一人が声をかけてくれる。オルレアは兎族だからこれくらいの距離であれば、声も普通に聞こえるんだろう。割れた窓の向こうで、顔をあげた彼が椅子から立ち上がり、ぺこっと頭を下げるのが見えた。
「しっかし、不思議なんだよねえ。あたしの耳もコレだろう? こんなに大暴れされたら、飛び起きそうなモンなのに……昨夜は何の音もしなかったんだよねえ」
コレと言った、パン屋のおかみさんは狐族。だから耳が大きいのだ。
「あ! それ! あたしも思った。前にも酔っ払いが店の窓を割った時があったろう? あの時は、気づいたんだよ。あ、酔っ払いが暴れてるな~、あ、酒瓶割ったなって」
「あ~、あたしも半分寝てたけど、音は聞こえてたわ。ま~た酔っ払いが暴れてる、道端に吐いたりしてないでしょうね、って思ったの、覚えてるもの」
ところが、今回は前よりも被害が酷いというのに、誰も気づかなかったというのである。しかも、隣のパン屋が店を開ける朝の六時まで。
「は? いや、それって、絶対にただの酔っ払いの仕業じゃないし!」
「だろう? あの、ぼんくらクズ騎士、わいろでももらってんじゃないのかねえ」
やっぱり、誰でもそう思うよなあ……。一体、どうなってるんだ?
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