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*12 街歩き *
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「何の店だ?」
首を傾げながら、不動産屋っぽい店の前を通り過ぎる。なんで、不動産屋もどきがこんなに並んでるんだ? と首を傾げたものの、すぐにある共通点に気が付いた。
どこの看板も「探索者クラン〇〇」となっている。それで、不動産屋っぽいのかと納得。
クランというのは、探索者の人材派遣会社のようなものらしい。
仕組みは、こう。素材採集の依頼を受けたクランは、所属メンバーから依頼を達成できそうな人材を選び、派遣する。選ばれたメンバーは、依頼されたものを期限内に調達し、クランに納品。クランはそれを依頼主へ届けて、報酬を得る。そこから、経費などを覗いた金額をメンバーへ支払う。
大体の流れは、マンガや小説で読む冒険者の稼ぎ方と同じだ。
探索者ギルドが近いから、このあたりにクランが集中しているのだろう。なるほど、そういうことかと一人、うむうむしていたら、
「なんだ? おい、アンタ! うちのクランに何か用でもあんのか?」
後ろから声をかけられた。いきなりだったことと、その声がトゲを含んでいたことに驚いて、俺は小さく「ひっ」と声をあげた。おそるおそる振り向けば、プレートメイルを着て、大きな剣を背負った男が、にらみつけるような、ぶすっとした顔で立っていた。
恰好からして探索者なのだろうとは思うが……なんか感じ悪い。ムッとなったものの、こちらは貧弱な一般人。逆立ちしたって勝てそうにないので、へらっと愛想笑いを浮かべ、
「あぁ、すいません。何の店なんだろうって、思ってただけなので」
「ちっ。冷やかしかよ。気分悪ィ」
男は舌打ちをすると、俺が立ち止まっていた建物のドアを開けて中に入り、乱暴に閉めた。ドアにかかっていたプレートが、カランカランと音を立てる。
「気分悪いのは、こっちだっての。ふぅん、勇猛なる鋼っていうのか、このクラン」
プレートの文字を確認した俺は、このクランに依頼を出すのはやめようと決めた。絶対に、評判悪そうだしな。
そんなことを考えながら歩いていると、探索者ギルドが見えてきた。
「ふわ~……これが……」
石造りのどっしりとした外観の建物だ。ぽかんと口を開けたまま、ギルドの前を通る。残念ながら、探索者っぽい人は見かけなかった。ちぇっ。
通りを挟んだ、ギルドの向かい側は酒場や食堂がズラリと軒を連ねている。今はのんびりした空気が流れているが、朝晩となると大にぎわいに違いない。
落ち着いたら、にぎわっている時間帯を狙って、店に入ってみよう。リサーチだ、リサーチ。でも、怖そうだったら、時間帯をずらす。調査も大事だが、命のほうが大事だ。
探索者ギルドの角を曲がって、東に進む。調理師ギルドの近くには、役所や商業ギルドなどが立ち並び、オフィス街っぽい雰囲気だ。町を歩く人の雰囲気もがらりと変わって、男女共にエリート感が半端ない。
ひゃ~、何かちょっと、場違いかも? なんだコイツ? というような視線をたびたび投げかけられることに、ちょっとばかり委縮しながら、俺はセガール調理師ギルドを探した。
「えっと……あ、あった」
三階建ての、ちょっと小さな建物だ。なんか、レトロな雰囲気がかわいい。
ドアを開けて中に入ると、地方の郵便局みたいだった。窓口は二つあるけど、人がいるのは一つだけ。座っていたのは、人族の女性だったんだけど、彼女、俺が入ってきたタイミングで、大あくびをした。しかも、俺に気づくと、値踏みするように視線を上下に走らせる。
……さっきの鎧野郎といい、市場から離れたとたん、人に恵まれなくなった。いやいや、世の中はきっとこんなものなのだ。こっちだって、大人だ。彼女にクレームを言いたい気持ちをぐっとこらえて、窓口に近づき、
「あの、登録をしたいんですが」と声をかけた。
すると彼女、ますます面倒くさそうな顔をして、
「登録ですかぁ? そこの登録用紙に必要事項を記入して提出してくださぁい。あ、でもぉ、登録料と年会費で金貨三枚かかりますけどぉ、大丈夫ですかぁ? 字は書けますぅ?」
なんだ、その人を小馬鹿にしたような言い方は。完全に俺を見下してるな。ムッとしたけど、相手をするのもバカらしい。さっさと登録を終わらせて、サヨナラしよう。色々聞いてみたいこともあったけど、この人には聞きたくない。また、今度だ。
俺は、言われた通りに登録用紙に必要事項を記入して、登録料と身分証明書がわりのタグを添えて提出した。
彼女は、面倒くさそうに俺のタグを確認用の道具に乗せ、は~あという大きなため息と共に登録用紙を見る。なんて失礼な人なんだ。誰だよ、こんな人を窓口に座らせたのは。
俺が内心で腹を立てていることに気づいているのか、いないのか。彼女は、突然目を見開き、「うそでしょ、マジで?」と独り言。その後、急に姿勢を正して、愛想笑いを浮かべ、
「登録、ありがとうございますゥ。まだ若いのにィ、〈調理師〉と〈特殊調理〉のスキルを持ってるなんて、すごいですねェ。あたしィ、ビックリしちゃいましたァ」
なんなんだ、この気持ち悪いくらいの手のひら返しは。おまけに「どこで学んだのか」とか「働くところは決まってるのか」とか。根掘り葉掘り聞き出そうとしてくる。
これがスキル社会の洗礼か。しっかし、気持ち悪いな、この人。そして、俺のことを完全に舐めてるだろ。
首を傾げながら、不動産屋っぽい店の前を通り過ぎる。なんで、不動産屋もどきがこんなに並んでるんだ? と首を傾げたものの、すぐにある共通点に気が付いた。
どこの看板も「探索者クラン〇〇」となっている。それで、不動産屋っぽいのかと納得。
クランというのは、探索者の人材派遣会社のようなものらしい。
仕組みは、こう。素材採集の依頼を受けたクランは、所属メンバーから依頼を達成できそうな人材を選び、派遣する。選ばれたメンバーは、依頼されたものを期限内に調達し、クランに納品。クランはそれを依頼主へ届けて、報酬を得る。そこから、経費などを覗いた金額をメンバーへ支払う。
大体の流れは、マンガや小説で読む冒険者の稼ぎ方と同じだ。
探索者ギルドが近いから、このあたりにクランが集中しているのだろう。なるほど、そういうことかと一人、うむうむしていたら、
「なんだ? おい、アンタ! うちのクランに何か用でもあんのか?」
後ろから声をかけられた。いきなりだったことと、その声がトゲを含んでいたことに驚いて、俺は小さく「ひっ」と声をあげた。おそるおそる振り向けば、プレートメイルを着て、大きな剣を背負った男が、にらみつけるような、ぶすっとした顔で立っていた。
恰好からして探索者なのだろうとは思うが……なんか感じ悪い。ムッとなったものの、こちらは貧弱な一般人。逆立ちしたって勝てそうにないので、へらっと愛想笑いを浮かべ、
「あぁ、すいません。何の店なんだろうって、思ってただけなので」
「ちっ。冷やかしかよ。気分悪ィ」
男は舌打ちをすると、俺が立ち止まっていた建物のドアを開けて中に入り、乱暴に閉めた。ドアにかかっていたプレートが、カランカランと音を立てる。
「気分悪いのは、こっちだっての。ふぅん、勇猛なる鋼っていうのか、このクラン」
プレートの文字を確認した俺は、このクランに依頼を出すのはやめようと決めた。絶対に、評判悪そうだしな。
そんなことを考えながら歩いていると、探索者ギルドが見えてきた。
「ふわ~……これが……」
石造りのどっしりとした外観の建物だ。ぽかんと口を開けたまま、ギルドの前を通る。残念ながら、探索者っぽい人は見かけなかった。ちぇっ。
通りを挟んだ、ギルドの向かい側は酒場や食堂がズラリと軒を連ねている。今はのんびりした空気が流れているが、朝晩となると大にぎわいに違いない。
落ち着いたら、にぎわっている時間帯を狙って、店に入ってみよう。リサーチだ、リサーチ。でも、怖そうだったら、時間帯をずらす。調査も大事だが、命のほうが大事だ。
探索者ギルドの角を曲がって、東に進む。調理師ギルドの近くには、役所や商業ギルドなどが立ち並び、オフィス街っぽい雰囲気だ。町を歩く人の雰囲気もがらりと変わって、男女共にエリート感が半端ない。
ひゃ~、何かちょっと、場違いかも? なんだコイツ? というような視線をたびたび投げかけられることに、ちょっとばかり委縮しながら、俺はセガール調理師ギルドを探した。
「えっと……あ、あった」
三階建ての、ちょっと小さな建物だ。なんか、レトロな雰囲気がかわいい。
ドアを開けて中に入ると、地方の郵便局みたいだった。窓口は二つあるけど、人がいるのは一つだけ。座っていたのは、人族の女性だったんだけど、彼女、俺が入ってきたタイミングで、大あくびをした。しかも、俺に気づくと、値踏みするように視線を上下に走らせる。
……さっきの鎧野郎といい、市場から離れたとたん、人に恵まれなくなった。いやいや、世の中はきっとこんなものなのだ。こっちだって、大人だ。彼女にクレームを言いたい気持ちをぐっとこらえて、窓口に近づき、
「あの、登録をしたいんですが」と声をかけた。
すると彼女、ますます面倒くさそうな顔をして、
「登録ですかぁ? そこの登録用紙に必要事項を記入して提出してくださぁい。あ、でもぉ、登録料と年会費で金貨三枚かかりますけどぉ、大丈夫ですかぁ? 字は書けますぅ?」
なんだ、その人を小馬鹿にしたような言い方は。完全に俺を見下してるな。ムッとしたけど、相手をするのもバカらしい。さっさと登録を終わらせて、サヨナラしよう。色々聞いてみたいこともあったけど、この人には聞きたくない。また、今度だ。
俺は、言われた通りに登録用紙に必要事項を記入して、登録料と身分証明書がわりのタグを添えて提出した。
彼女は、面倒くさそうに俺のタグを確認用の道具に乗せ、は~あという大きなため息と共に登録用紙を見る。なんて失礼な人なんだ。誰だよ、こんな人を窓口に座らせたのは。
俺が内心で腹を立てていることに気づいているのか、いないのか。彼女は、突然目を見開き、「うそでしょ、マジで?」と独り言。その後、急に姿勢を正して、愛想笑いを浮かべ、
「登録、ありがとうございますゥ。まだ若いのにィ、〈調理師〉と〈特殊調理〉のスキルを持ってるなんて、すごいですねェ。あたしィ、ビックリしちゃいましたァ」
なんなんだ、この気持ち悪いくらいの手のひら返しは。おまけに「どこで学んだのか」とか「働くところは決まってるのか」とか。根掘り葉掘り聞き出そうとしてくる。
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