Bon voyage! ~10億円でスキルを買って楽しい異世界移住~

市々ふた枝

文字の大きさ
上 下
10 / 83

*10 クァンベトゥーリア観光 ~パラソル市場~ *

しおりを挟む
 いやあ、突然走りだすなんて、我ながらちょっと子供っぽいことをしてしまったな。とはいえ、心は軽いんだ。すっげえ、いい気分。
「はー。すごい。解放感すごい」
 息切れもすごいけど。柵にもたれかかって息を整え、海を眺める。
 海は広いな、大きいな。ほんと、歌の通りだよな。視界をさえぎる物が何にもなくて、海の広さを実感する。磯臭さとか、色とか波の音とか、そういうのは地球と変わらないのな。
 沖の方に見えた船影は、四艘か五艘くらいにまで減っていた。沖のほうにぼんやりと黒い塊が見えるけど、あれがダンジョンかな?
 海の上? 中? のダンジョンなら、真珠とか珊瑚とかがドロップするんだろうか? あと、ありそうなのは海産物か。 
「ダンジョン……ちょっと憧れるよなぁ……。俺の店は、探索者にも来てほしいなあ。それで、ちょっと話ができたりとかしたら嬉しいんだけど」
 ミーヌスラジアには、冒険者という職業がない。チャールズさんは「あんなのは、フィクションだから成りたつ職業ですよ」と苦笑いをしていた。直後、
「依頼を引き受けてくれるのを待っていたら、色々手遅れですから」
 スン顔で言われてしまっては……。そりゃあ魔物の討伐依頼とか、内容によっては死活問題だよな。領主、何してんだよって話にもなるし。
 それはともかく、探索者である。探索者はダンジョンに潜って、そこで採って来た物を売って生計を立てるのだそうだ。そこらへんは、何となく想像がつく。ただ、探索者一本で生計を立てられるようになるまで四~五年はかかるそうなので、チャールズさんとしては、
「やめとけ」となるらしい。これも納得。残念だけど、諦めるしかないだろう。
 一瞬、奈美恵と母のことが頭をよぎったが、俺はそれを振り払うように海に背を向けた。
「……そんなことより、バンズサンド食べよう」
 どこで食べるかだが、何かみんな気にせずに、そこらへんに適当に座ってるみたいだ。レジャーシートらしき物を敷いている人は、意外に少数派。
「……あ、そっか。服が汚れたって〈清潔〉を使えば、すぐにきれいになるもんな」
 なら、俺もみんなを見習おう。とはいえ、フで始まる二文字の落とし物には要注意。匂いはもちろん、きれいになるとはいえ、気分のいい物じゃないからな。
「日陰がないのが残念だけど、まあ……これくらいなら大丈夫か」
 せっかく海が見えるんだ。海を見ながら食べたい。ここじゃない、こっちか? いや、あっち? と、俺は絶好のロケーションを探して、あっちへウロウロ。こっちへウロウロ。
 結局、場所を決めるのに二十分くらいかかってしまった。
 カヒエを一口飲んで、喉を潤してから、フロインのバンズサンドを手に取った。
 大丈夫だとは思うが、一応〈鑑定〉をして、腹を下したりする心配がないかだけ確認する。エビも卵も問題なしと出たので、
「いただきます!」
 エビのサンドはゆでたエビとレタスを挟んだ、シンプルなもの。バンズはややかためで、食べ応えがある。エビはプリップリだし、レタスはシャキシャキ。
「冷蔵ケースに入ってなかったのに、レタスのこのシャキシャキ感! 美味いわ~」
 甘酸っぱいソースがまた、エビに合う。ん~、この甘酸っぱいソースは何を使ってるんだ? 柑橘系なのは分かるけど。う~ん……保留だな。〈鑑定〉を使うのは、俺が負けを認めた時だけです。キリッ。あ、カヒエは俺の負け。
 続いてエッグサンド。こちらも、非常に美味しい。チーズとカイエンペッパーがいいアクセントになっている。ん? カイエンペッパーでいいのか? 違う? まあ、どっちでもいいか。
「は~、美味しかったぁ」
 あっという間に食べてしまった。俺ってこんなに食べられたんだな。ビックリだ。
 カヒエを飲んで、ちょっと息を吐く。
 なんて言うかな。家族から離れられたことは嬉しいけど、向こうから離れて行かれたってのは、ちょっとヘコむ。あれだけ我慢してきたのに、やってあげてきたのに、って。
「……ほんと、俺ってなんだったんだろう」
 ちびり、ちびりとカヒエを飲みながら、海を眺めてぼんやりしていると
「なあ、アンタ。観光客か?」後ろから声をかけられた。
「えっ、と?」
 なに? ここってもしかして座っちゃいけないとこだった? 
 低い声に振り返れば、背後にいるのは獣頭獣人だった。ハスキー犬っぽいけど、どうなんだろう? よく分からない。灰色にも銀色にも見える毛並がカッコイイ。
 っていうか、デカい。身長もそうだけど、身体のほうも。ゴリゴリマッチョとまではいかないんだけど、鍛えているのは一目で分かる。いやあ、カッコいいわ。
 服装からして、探索者とか傭兵とかの戦う職業の人かな? って思う。蒼いロングジャケットの下に、胸当てみたいなのが見えているし、何より帯剣してるしな。左右の腰に、ショートソードになるのかな? 剣が一本ずつぶら下げられていたから。
 それにしても、イケわんこさん、俺に何の用ですかね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...