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*10 クァンベトゥーリア観光 ~パラソル市場~ *
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いやあ、突然走りだすなんて、我ながらちょっと子供っぽいことをしてしまったな。とはいえ、心は軽いんだ。すっげえ、いい気分。
「はー。すごい。解放感すごい」
息切れもすごいけど。柵にもたれかかって息を整え、海を眺める。
海は広いな、大きいな。ほんと、歌の通りだよな。視界をさえぎる物が何にもなくて、海の広さを実感する。磯臭さとか、色とか波の音とか、そういうのは地球と変わらないのな。
沖の方に見えた船影は、四艘か五艘くらいにまで減っていた。沖のほうにぼんやりと黒い塊が見えるけど、あれがダンジョンかな?
海の上? 中? のダンジョンなら、真珠とか珊瑚とかがドロップするんだろうか? あと、ありそうなのは海産物か。
「ダンジョン……ちょっと憧れるよなぁ……。俺の店は、探索者にも来てほしいなあ。それで、ちょっと話ができたりとかしたら嬉しいんだけど」
ミーヌスラジアには、冒険者という職業がない。チャールズさんは「あんなのは、フィクションだから成りたつ職業ですよ」と苦笑いをしていた。直後、
「依頼を引き受けてくれるのを待っていたら、色々手遅れですから」
スン顔で言われてしまっては……。そりゃあ魔物の討伐依頼とか、内容によっては死活問題だよな。領主、何してんだよって話にもなるし。
それはともかく、探索者である。探索者はダンジョンに潜って、そこで採って来た物を売って生計を立てるのだそうだ。そこらへんは、何となく想像がつく。ただ、探索者一本で生計を立てられるようになるまで四~五年はかかるそうなので、チャールズさんとしては、
「やめとけ」となるらしい。これも納得。残念だけど、諦めるしかないだろう。
一瞬、奈美恵と母のことが頭をよぎったが、俺はそれを振り払うように海に背を向けた。
「……そんなことより、バンズサンド食べよう」
どこで食べるかだが、何かみんな気にせずに、そこらへんに適当に座ってるみたいだ。レジャーシートらしき物を敷いている人は、意外に少数派。
「……あ、そっか。服が汚れたって〈清潔〉を使えば、すぐにきれいになるもんな」
なら、俺もみんなを見習おう。とはいえ、フで始まる二文字の落とし物には要注意。匂いはもちろん、きれいになるとはいえ、気分のいい物じゃないからな。
「日陰がないのが残念だけど、まあ……これくらいなら大丈夫か」
せっかく海が見えるんだ。海を見ながら食べたい。ここじゃない、こっちか? いや、あっち? と、俺は絶好のロケーションを探して、あっちへウロウロ。こっちへウロウロ。
結局、場所を決めるのに二十分くらいかかってしまった。
カヒエを一口飲んで、喉を潤してから、フロインのバンズサンドを手に取った。
大丈夫だとは思うが、一応〈鑑定〉をして、腹を下したりする心配がないかだけ確認する。エビも卵も問題なしと出たので、
「いただきます!」
エビのサンドはゆでたエビとレタスを挟んだ、シンプルなもの。バンズはややかためで、食べ応えがある。エビはプリップリだし、レタスはシャキシャキ。
「冷蔵ケースに入ってなかったのに、レタスのこのシャキシャキ感! 美味いわ~」
甘酸っぱいソースがまた、エビに合う。ん~、この甘酸っぱいソースは何を使ってるんだ? 柑橘系なのは分かるけど。う~ん……保留だな。〈鑑定〉を使うのは、俺が負けを認めた時だけです。キリッ。あ、カヒエは俺の負け。
続いてエッグサンド。こちらも、非常に美味しい。チーズとカイエンペッパーがいいアクセントになっている。ん? カイエンペッパーでいいのか? 違う? まあ、どっちでもいいか。
「は~、美味しかったぁ」
あっという間に食べてしまった。俺ってこんなに食べられたんだな。ビックリだ。
カヒエを飲んで、ちょっと息を吐く。
なんて言うかな。家族から離れられたことは嬉しいけど、向こうから離れて行かれたってのは、ちょっとヘコむ。あれだけ我慢してきたのに、やってあげてきたのに、って。
「……ほんと、俺ってなんだったんだろう」
ちびり、ちびりとカヒエを飲みながら、海を眺めてぼんやりしていると
「なあ、アンタ。観光客か?」後ろから声をかけられた。
「えっ、と?」
なに? ここってもしかして座っちゃいけないとこだった?
低い声に振り返れば、背後にいるのは獣頭獣人だった。ハスキー犬っぽいけど、どうなんだろう? よく分からない。灰色にも銀色にも見える毛並がカッコイイ。
っていうか、デカい。身長もそうだけど、身体のほうも。ゴリゴリマッチョとまではいかないんだけど、鍛えているのは一目で分かる。いやあ、カッコいいわ。
服装からして、探索者とか傭兵とかの戦う職業の人かな? って思う。蒼いロングジャケットの下に、胸当てみたいなのが見えているし、何より帯剣してるしな。左右の腰に、ショートソードになるのかな? 剣が一本ずつぶら下げられていたから。
それにしても、イケわんこさん、俺に何の用ですかね?
「はー。すごい。解放感すごい」
息切れもすごいけど。柵にもたれかかって息を整え、海を眺める。
海は広いな、大きいな。ほんと、歌の通りだよな。視界をさえぎる物が何にもなくて、海の広さを実感する。磯臭さとか、色とか波の音とか、そういうのは地球と変わらないのな。
沖の方に見えた船影は、四艘か五艘くらいにまで減っていた。沖のほうにぼんやりと黒い塊が見えるけど、あれがダンジョンかな?
海の上? 中? のダンジョンなら、真珠とか珊瑚とかがドロップするんだろうか? あと、ありそうなのは海産物か。
「ダンジョン……ちょっと憧れるよなぁ……。俺の店は、探索者にも来てほしいなあ。それで、ちょっと話ができたりとかしたら嬉しいんだけど」
ミーヌスラジアには、冒険者という職業がない。チャールズさんは「あんなのは、フィクションだから成りたつ職業ですよ」と苦笑いをしていた。直後、
「依頼を引き受けてくれるのを待っていたら、色々手遅れですから」
スン顔で言われてしまっては……。そりゃあ魔物の討伐依頼とか、内容によっては死活問題だよな。領主、何してんだよって話にもなるし。
それはともかく、探索者である。探索者はダンジョンに潜って、そこで採って来た物を売って生計を立てるのだそうだ。そこらへんは、何となく想像がつく。ただ、探索者一本で生計を立てられるようになるまで四~五年はかかるそうなので、チャールズさんとしては、
「やめとけ」となるらしい。これも納得。残念だけど、諦めるしかないだろう。
一瞬、奈美恵と母のことが頭をよぎったが、俺はそれを振り払うように海に背を向けた。
「……そんなことより、バンズサンド食べよう」
どこで食べるかだが、何かみんな気にせずに、そこらへんに適当に座ってるみたいだ。レジャーシートらしき物を敷いている人は、意外に少数派。
「……あ、そっか。服が汚れたって〈清潔〉を使えば、すぐにきれいになるもんな」
なら、俺もみんなを見習おう。とはいえ、フで始まる二文字の落とし物には要注意。匂いはもちろん、きれいになるとはいえ、気分のいい物じゃないからな。
「日陰がないのが残念だけど、まあ……これくらいなら大丈夫か」
せっかく海が見えるんだ。海を見ながら食べたい。ここじゃない、こっちか? いや、あっち? と、俺は絶好のロケーションを探して、あっちへウロウロ。こっちへウロウロ。
結局、場所を決めるのに二十分くらいかかってしまった。
カヒエを一口飲んで、喉を潤してから、フロインのバンズサンドを手に取った。
大丈夫だとは思うが、一応〈鑑定〉をして、腹を下したりする心配がないかだけ確認する。エビも卵も問題なしと出たので、
「いただきます!」
エビのサンドはゆでたエビとレタスを挟んだ、シンプルなもの。バンズはややかためで、食べ応えがある。エビはプリップリだし、レタスはシャキシャキ。
「冷蔵ケースに入ってなかったのに、レタスのこのシャキシャキ感! 美味いわ~」
甘酸っぱいソースがまた、エビに合う。ん~、この甘酸っぱいソースは何を使ってるんだ? 柑橘系なのは分かるけど。う~ん……保留だな。〈鑑定〉を使うのは、俺が負けを認めた時だけです。キリッ。あ、カヒエは俺の負け。
続いてエッグサンド。こちらも、非常に美味しい。チーズとカイエンペッパーがいいアクセントになっている。ん? カイエンペッパーでいいのか? 違う? まあ、どっちでもいいか。
「は~、美味しかったぁ」
あっという間に食べてしまった。俺ってこんなに食べられたんだな。ビックリだ。
カヒエを飲んで、ちょっと息を吐く。
なんて言うかな。家族から離れられたことは嬉しいけど、向こうから離れて行かれたってのは、ちょっとヘコむ。あれだけ我慢してきたのに、やってあげてきたのに、って。
「……ほんと、俺ってなんだったんだろう」
ちびり、ちびりとカヒエを飲みながら、海を眺めてぼんやりしていると
「なあ、アンタ。観光客か?」後ろから声をかけられた。
「えっ、と?」
なに? ここってもしかして座っちゃいけないとこだった?
低い声に振り返れば、背後にいるのは獣頭獣人だった。ハスキー犬っぽいけど、どうなんだろう? よく分からない。灰色にも銀色にも見える毛並がカッコイイ。
っていうか、デカい。身長もそうだけど、身体のほうも。ゴリゴリマッチョとまではいかないんだけど、鍛えているのは一目で分かる。いやあ、カッコいいわ。
服装からして、探索者とか傭兵とかの戦う職業の人かな? って思う。蒼いロングジャケットの下に、胸当てみたいなのが見えているし、何より帯剣してるしな。左右の腰に、ショートソードになるのかな? 剣が一本ずつぶら下げられていたから。
それにしても、イケわんこさん、俺に何の用ですかね?
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