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第五章 勇者召喚

第四話 今後の方針

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「では、勇者のことについて話すとしよう」

 会議室に戻り、席に座ったところで国王が口を開いた。

「まず、先ほども見たように、勇者の他にも四人の人間が召喚された。先ほど鑑定師に鑑定をさせたところ、四人全員レベルは90だった。数値も、レベル相応のものだ。勇者と同様にそれ以上レベルが上がらない可能性が高いが、それを考慮してもよき戦力だと言えるだろう。スキルも、一人で三つ持っていた。魔法も、一人三属性だ」

 あ、そう言えば奴らのステータス見るの忘れてたな。衝撃的なことが起きすぎて忘れてたよ。

「90ですか……ということは、私達の中から四人、勇者パーティー補佐に移る人を決めなくてはならないということですか?」

 第二王女であるフェリルが国王にし訊ねる。
 フェリルの言葉に、俺を除く勇者パーティーのみんなが眉をひそめた。みんな、勇者パーティーという名誉ある称号をはく奪されてしまうことを恐れているようだ。勇者パーティーの人数は勇者のスキルの都合で六人と決まっているからな。

「それはよほどのことがない限りありえない。ステータスは彼らの方が圧倒的に上なのだが、連係や技量、精神、経験などを考慮すると、圧倒的にそなたらの方が上なのだ。勇者はそれらを簡単に覆せるほどのステータスを持っているから良いのだが、他四人はそれを覆すほどのステータスではない。よって、彼らには勇者パーティー補佐と同じように魔物の討伐に専念してもらおう。魔王復活の兆候として出現する魔物の中には強力な奴も多いしの」

 国王の言葉に、みんなはほっと胸をなでおろした。

「では、ドレスト」

「はい。では、勇者パーティーの今後の予定について説明しましょう。まず、皆さんには明日から勇者を鍛えていただきたい。そして、様になってきたら、ティリオスのダンジョンで本格的な戦闘訓練をしてください」

「共に召喚された四人はどうするのですか?」

 シャノンはドレスト様にそう問いかける。

「彼らはゼウル殿とカイル殿にお任せします。ただ、お二人は毎日見れる訳ではないので、皆さんにお任せすることも少なくないでしょう。同郷の方々を離れ離れにさせ続ける訳にもいかないのでな。以上で、話は終わりです」

 なるほど。つまり、俺はこれから桜井を指導しなくてはならないということか。
 ……まじで嫌だな。何せ、あいつは俺を殺した奴だ。そんな奴を指導するなんて御免だな。

(まあ、そこら辺は頑張るしかないか)

 あとで、その分フルボッコにすればいい。
 あれ? そう考えると気が楽になってきたな。

「ふむ。まあ、細かいことは彼らの素質を見てから決めればいいな」

「ああ。今の所、異論はない」

 ゼウルさんとカイルさんは、ドレスト様の案に賛成するようだ。

「余もドレストの意見に同意する。民衆にお披露目をするのは、勇者の方々の精神が安定してからにしよう。いきなり大勢の前に出すのは酷なのでな。では、これにて終わりにしよう」

「はい。みなさんは明日、今日と同じ時間に再びここに集まってください」

 こうして、今後の方針が決まったのであった。

 ◇ ◇ ◇

 葉山視点

「何だこれ……ん? よく分からん」

 流されるがままに個室へと案内された俺は、外国の高級ホテルにもなさそうな装飾品を物色していた。だが、美術品に疎い俺には、どれも一律で高級そうなものとしか認識できなかった。

「は~あ。取りあえず、戦うことはもう決定事項っぽいんだよなぁ……」

 ゲームなら、派手に暴れてやるぜ!ってなるのだが、生憎ここは現実の世界。命は一つしかない。故に、死んだらそこで終わりだ。
 だから、正直に言えば戦いたくない。だが、神に頼まれたことを断ったらマズい気がしてならない。

「やれやれ。アニメやラノベの世界に行ってみたいと思ったことはあるが、いざ来てみると、死にたくないから戦いたくないってなっちゃうな」

 戦いたくないのに、戦いに身を投じなければならない運命に、俺はため息をついた。

「まあ、そんときはそんときで考えるか」

 色々と疲れがたまっていた俺は高級そうなベッドにダイブした。
 ……うん。めっちゃ気持ちいな。寝よ……

 ◇ ◇ ◇

 古川視点

「私、どうなるのかしら……」

 個室に案内された私は、ベッドの淵に座ると、そう呟いた。
 よく分からないまま神様の前に送られ、魔王を倒せと言われて、気が付いたらここにいた。

「家に、帰りたいよ……」

 いつものように明るく取り繕うことも出来ず、私の気分は暗くなっていく一方だった。

(暗くなったらダメ。暗くなったらダメ。ちゃんと家に帰してくれるって神様は言ってたからね……)

 神様は、魔王を討伐したら、願いを一つ叶えると共に日本に返してくれると言ってくれた。

「でも、私に戦いなんて無理だよ……」

 私は俯くと、そう言った。

「暗いこと考えないの! 明るいことを考えよ」

「え? 朱里ちゃん……」

 顔を上げると、そこには親友の朱里ちゃんがいた。

「玲は笑う時はめっちゃ笑うけど、落ち込むときはめっちゃ落ち込むからね。今頃やばいんじゃないかな~と思って見に来たけど、正解だったね」

 朱里ちゃんはそう言うそう言うと、私の隣に座った。

「ほ~ら。今そんなこと考えてもしょうがないでしょ。それに、神様が言ってたでしょ。めっちゃ強くしてくれたって。神様から見て強いんだから、きっと大丈夫だよ。それに、もし何かあっても、私が絶対守ってあげるから」

 朱里ちゃんはそう言うと、私を抱きしめてくれた。
 私の目から、一粒の雫がこぼれ落ちる。

「……ありがとう」

 私は目を閉じると、朱里ちゃんに身を預けるようにして朱里ちゃんを抱きしめた。
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