156 / 161
第四章 勇者パーティー
第二十六話 一人減り、また一人減る
しおりを挟む
神の涙のアジトにて――
「エレン。帰ったぞ」
神の涙の幹部が一人、ディンは疲れ気味の表情で部屋の中にいる女性にそう言った、所々に返り血が付いており、戦闘をしてきたと一目でわかる。
「あら? 帰ってきたのね。深刻そうな顔をしているけど何かあったのかしら――あ、もしかしてあいつに返り討ちにされなの? まあ、あの自信過剰な元騎士団長にはいい薬だったんじゃない?」
クスクスと笑いながらワインに舌鼓を打つ女性の名はエレン・ノース。ディンと同じく神の涙の幹部だ。
「ちっ 笑い事じゃないからな。シャオニンがあいつに殺されたんだぞ」
怒りを押し殺すようにディンはそう言った。
ディンの言葉に、エレンは笑うのを止めた。
「そう……死んだのね。何でよ。私の目的の為には彼が必要なのに!」
エレンはグラスに残ったワインを飲み干すと、バン!と机の上に置いた。
普段、感情を露にすることのないエレンがここまで感情を露わにしているのを見て、ディンは目を見開く。
(そうよ。あいつをけしかけて私の元兄を、ラルティ・ノースを捕縛してもらうつもりだったのに。あいつは策略が苦手だから、いい駒として使えると思ってたのに)
エレンは自身の計画が一気に崩れてしまったことに激しく動揺していた。
(婚約者以外の男とちょっと仲良くしてただけで家から追放しやがったあいつに絶望を見せながら殺すつもりだったのに……)
だが、その計画のかなめであった神の涙最高戦力のシャオニンが死んだ今、他に使える奴と言えば、そこにいるディンしかいない。
(こいつは敏いから厄介なのよね。まあ、こういう奴は色仕掛けで確実に堕とすのが良さそうね)
シャオニンが死んだことでディンの精神は普段と比べれば大分不安定になっている。その状態なら、堕とすことも容易い。
そう思ったエレンは心の中でニヤリと笑った。
だが、敏いディンが、シャオニンが死んだことで精神が大分不安定になっているエレンの考えに気付かないはずがない。
(この女。前々から怪しいとは思っていたが、シャオニンを使ってラルティ伯爵を誘拐つもりだったな。そして、シャオニンが死んだ今、その役を俺にしようってところか?)
本心を心の奥底にとどめていたこいつがようやく分かりやすい顔になった。お陰で色々と確信が持てた。
「ああ、そうだ。エレン。シャオニンがお前に渡したいものがあるって言ってたぞ」
ディンは懐から小包を取り出すと、エレンに近づいた。
「何かしら?」
エレンは立ち上がると、その小包を受け取った。
その直後――
グサ!
「な……」
エレンは自身の腹に手を当てた。すると、手は血で赤く染まった。
「悪いがお前は神の涙にとって枷でしかない。暴走する前に死ね」
冷酷な言葉をディンは放つと、短剣を引き抜いた。
「がはっ……火よ、万物を燃やす業火と……な……がぁ!」
一矢報いる為に〈獄炎地獄〉の詠唱を始めたエレンの下を、ディンは何の躊躇いもなく切り裂いた。魔法師を無力化させる手段の1つ。詠唱封じだ。
(そん……な……)
自身の最大の目的が果たせないことを、エレンはただただ悔しく思っていた。
(何で。何で。何で。どうしてこんな目に……)
自分を殺したディンよりも、こうなるきっかけを作ったラルティ伯爵を、エレンはひたすらに恨んだ。
何でこうなったのか。何でラルティは死んでくれないのか。何で計画が成功しないんだ。
そんな言葉がエレンの頭の中でグルグルと回る。
(我等が神……いや、魔王が。あいつを……ラルティを殺す……)
そう思ったのを最後に、エレンの意識は途絶えてしまった。
「エレン・ノース。最後まで復讐にとらわれていたかわいそうな女」
だがな。とディンは続ける。
「お前からは逆恨みの思いしか感じなかった」
ディンはそう吐き捨てると、自らエレンの死体の始末を始めた。
「エレン。帰ったぞ」
神の涙の幹部が一人、ディンは疲れ気味の表情で部屋の中にいる女性にそう言った、所々に返り血が付いており、戦闘をしてきたと一目でわかる。
「あら? 帰ってきたのね。深刻そうな顔をしているけど何かあったのかしら――あ、もしかしてあいつに返り討ちにされなの? まあ、あの自信過剰な元騎士団長にはいい薬だったんじゃない?」
クスクスと笑いながらワインに舌鼓を打つ女性の名はエレン・ノース。ディンと同じく神の涙の幹部だ。
「ちっ 笑い事じゃないからな。シャオニンがあいつに殺されたんだぞ」
怒りを押し殺すようにディンはそう言った。
ディンの言葉に、エレンは笑うのを止めた。
「そう……死んだのね。何でよ。私の目的の為には彼が必要なのに!」
エレンはグラスに残ったワインを飲み干すと、バン!と机の上に置いた。
普段、感情を露にすることのないエレンがここまで感情を露わにしているのを見て、ディンは目を見開く。
(そうよ。あいつをけしかけて私の元兄を、ラルティ・ノースを捕縛してもらうつもりだったのに。あいつは策略が苦手だから、いい駒として使えると思ってたのに)
エレンは自身の計画が一気に崩れてしまったことに激しく動揺していた。
(婚約者以外の男とちょっと仲良くしてただけで家から追放しやがったあいつに絶望を見せながら殺すつもりだったのに……)
だが、その計画のかなめであった神の涙最高戦力のシャオニンが死んだ今、他に使える奴と言えば、そこにいるディンしかいない。
(こいつは敏いから厄介なのよね。まあ、こういう奴は色仕掛けで確実に堕とすのが良さそうね)
シャオニンが死んだことでディンの精神は普段と比べれば大分不安定になっている。その状態なら、堕とすことも容易い。
そう思ったエレンは心の中でニヤリと笑った。
だが、敏いディンが、シャオニンが死んだことで精神が大分不安定になっているエレンの考えに気付かないはずがない。
(この女。前々から怪しいとは思っていたが、シャオニンを使ってラルティ伯爵を誘拐つもりだったな。そして、シャオニンが死んだ今、その役を俺にしようってところか?)
本心を心の奥底にとどめていたこいつがようやく分かりやすい顔になった。お陰で色々と確信が持てた。
「ああ、そうだ。エレン。シャオニンがお前に渡したいものがあるって言ってたぞ」
ディンは懐から小包を取り出すと、エレンに近づいた。
「何かしら?」
エレンは立ち上がると、その小包を受け取った。
その直後――
グサ!
「な……」
エレンは自身の腹に手を当てた。すると、手は血で赤く染まった。
「悪いがお前は神の涙にとって枷でしかない。暴走する前に死ね」
冷酷な言葉をディンは放つと、短剣を引き抜いた。
「がはっ……火よ、万物を燃やす業火と……な……がぁ!」
一矢報いる為に〈獄炎地獄〉の詠唱を始めたエレンの下を、ディンは何の躊躇いもなく切り裂いた。魔法師を無力化させる手段の1つ。詠唱封じだ。
(そん……な……)
自身の最大の目的が果たせないことを、エレンはただただ悔しく思っていた。
(何で。何で。何で。どうしてこんな目に……)
自分を殺したディンよりも、こうなるきっかけを作ったラルティ伯爵を、エレンはひたすらに恨んだ。
何でこうなったのか。何でラルティは死んでくれないのか。何で計画が成功しないんだ。
そんな言葉がエレンの頭の中でグルグルと回る。
(我等が神……いや、魔王が。あいつを……ラルティを殺す……)
そう思ったのを最後に、エレンの意識は途絶えてしまった。
「エレン・ノース。最後まで復讐にとらわれていたかわいそうな女」
だがな。とディンは続ける。
「お前からは逆恨みの思いしか感じなかった」
ディンはそう吐き捨てると、自らエレンの死体の始末を始めた。
6
お気に入りに追加
1,688
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
見習い女神のお手伝いっ!-後払いの報酬だと思っていたチート転生が実は前払いでした-
三石アトラ
ファンタジー
ゲーム制作が趣味のサラリーマン水瀬悠久(みなせ ゆうき)は飛行機事故に巻き込まれて死んでしまい、天界で女神から転生を告げられる。
悠久はチートを要求するが、女神からの返答は
「ねえあなた……私の手伝いをしなさい」
見習い女神と判明したヴェルサロアを一人前の女神にするための手伝いを終え、やっとの思いで狐獣人のユリスとして転生したと思っていた悠久はそこでまだまだ手伝いが終わっていない事を知らされる。
しかも手伝わないと世界が滅びる上に見習いへ逆戻り!?
手伝い継続を了承したユリスはチートを駆使して新たな人生を満喫しながらもヴェルサロアを一人前にするために、そして世界を存続させるために様々な問題に立ち向かって行くのであった。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様でも連載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。
埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。
その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる