異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

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第四章 勇者パーティー

第二十六話 一人減り、また一人減る

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 神の涙のアジトにて――

「エレン。帰ったぞ」

 神の涙の幹部が一人、ディンは疲れ気味の表情で部屋の中にいる女性にそう言った、所々に返り血が付いており、戦闘をしてきたと一目でわかる。

「あら? 帰ってきたのね。深刻そうな顔をしているけど何かあったのかしら――あ、もしかしてあいつに返り討ちにされなの? まあ、あの自信過剰な元騎士団長にはいい薬だったんじゃない?」

 クスクスと笑いながらワインに舌鼓を打つ女性の名はエレン・ノース。ディンと同じく神の涙の幹部だ。

「ちっ 笑い事じゃないからな。シャオニンがあいつに殺されたんだぞ」

 怒りを押し殺すようにディンはそう言った。
 ディンの言葉に、エレンは笑うのを止めた。

「そう……死んだのね。何でよ。の為には彼が必要なのに!」

 エレンはグラスに残ったワインを飲み干すと、バン!と机の上に置いた。
 普段、感情を露にすることのないエレンがここまで感情を露わにしているのを見て、ディンは目を見開く。

(そうよ。あいつをけしかけて私の元兄を、ラルティ・ノースを捕縛してもらうつもりだったのに。あいつは策略が苦手だから、いい駒として使えると思ってたのに)

 エレンは自身の計画が一気に崩れてしまったことに激しく動揺していた。

(婚約者以外の男とちょっと仲良くしてただけで家から追放しやがったあいつに絶望を見せながら殺すつもりだったのに……)

 だが、その計画のかなめであった神の涙最高戦力のシャオニンが死んだ今、他に使える奴と言えば、そこにいるディンしかいない。

(こいつは敏いから厄介なのよね。まあ、こういう奴は色仕掛けで確実に堕とすのが良さそうね)

 シャオニンが死んだことでディンの精神は普段と比べれば大分不安定になっている。その状態なら、堕とすことも容易い。
 そう思ったエレンは心の中でニヤリと笑った。

 だが、敏いディンが、シャオニンが死んだことで精神が大分不安定になっているエレンの考えに気付かないはずがない。

(この女。前々から怪しいとは思っていたが、シャオニンを使ってラルティ伯爵を誘拐つもりだったな。そして、シャオニンが死んだ今、その役を俺にしようってところか?)

 本心を心の奥底にとどめていたこいつがようやく分かりやすい顔になった。お陰で色々と確信が持てた。

「ああ、そうだ。エレン。シャオニンがお前に渡したいものがあるって言ってたぞ」

 ディンは懐から小包を取り出すと、エレンに近づいた。

「何かしら?」

 エレンは立ち上がると、その小包を受け取った。
 その直後――

 グサ!

「な……」

 エレンは自身の腹に手を当てた。すると、手は血で赤く染まった。

「悪いがお前は神の涙にとって枷でしかない。暴走する前に死ね」

 冷酷な言葉をディンは放つと、短剣を引き抜いた。

「がはっ……火よ、万物を燃やす業火と……な……がぁ!」

 一矢報いる為に〈獄炎地獄インフェルノ〉の詠唱を始めたエレンの下を、ディンは何の躊躇いもなく切り裂いた。魔法師を無力化させる手段の1つ。詠唱封じだ。

(そん……な……)

 自身の最大の目的が果たせないことを、エレンはただただ悔しく思っていた。

(何で。何で。何で。どうしてこんな目に……)

 自分を殺したディンよりも、こうなるきっかけを作ったラルティ伯爵を、エレンはひたすらに恨んだ。
 何でこうなったのか。何でラルティは死んでくれないのか。何で計画が成功しないんだ。
 そんな言葉がエレンの頭の中でグルグルと回る。

(我等が神……いや、魔王が。あいつを……ラルティを殺す……)

 そう思ったのを最後に、エレンの意識は途絶えてしまった。


「エレン・ノース。最後まで復讐にとらわれていたかわいそうな女」

 だがな。とディンは続ける。

「お前からは逆恨みの思いしか感じなかった」

 ディンはそう吐き捨てると、自らエレンの死体の始末を始めた。
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