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第三章 エルフの里
第十四話 覚悟
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シャオニン視点
ヤバいよヤバいよ。これはヤバいよ。
人質も用意した。しかも、あいつが一番大切にしている女の子だ。
人質用の魔道具まで使った。精鋭も集めた。
なのにどうしてこうなった?
部下は捕まり、幹部である僕とディンはボロボロ。
一方、あいつは無傷。しかも、女の子を〈空間操作〉で取り返した。
(何故だ? どうしてあの伝説上の魔法を使えるんだ? あの魔法が使えるのは、現在だと我等が神のみなのに……)
〈空間操作〉は空間そのものに干渉する魔法。帝国秘蔵の歴史書によれば、一万年前に、極少数の人間が、その魔法を使っていたらしい。その名残が、古代遺跡に残る転移魔法陣だ。
〈重力操作〉と〈闇操作〉も同じだ。この二つも、歴史書に残る伝説の魔法。
(こいつ人間なのか? しかもあの剣ってハイエルフの秘宝、世界樹聖剣だよね? 王国が持っている聖剣と同格と言われているとんでもないやつだよね?)
このバケモノから逃げられる方法、逃げられる方法……
(ディンを囮に……いや、あんな雑魚では足止めにもならない。僕が命を懸けて戦えば、そこそこ稼げるかな?)
よし、ここは男を見せる時だ!
そう思った俺は、耳に着けてある念話の魔道具で、ディンに話しかけた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ディン視点
『ねえ、ディン』
やけに表情が硬くなった。シャオニンらしくないシャオニンが、いきなり念話で話しかけてきた。
『何だ?』
『僕の腰ポーチに入っている使い捨て転移魔法陣で、ここから逃げてくれ。こいつの〈空間操作〉による転移妨害は、君が転移する前にここを煙幕で隠して、転移するところを見られないようにするから大丈夫。後は、僕がいい感じに足止めしとくから』
『は!? 何故お前ではなく俺が?』
シャオニンの提案に、俺は驚愕した。
あれほど生きることに執着していたシャオニンが、仲間を逃がす為に命を懸けるなんて……
『だって、君が足止めしたところで時間稼げる? 君は雑魚だから絶対無理だよ。出来て数秒でしょ?』
シャオニンの馬鹿にするような発言に、俺は怒りでもあきれでもなく、静かに頷くという行動を取った。
『そうか……生きたくはないのか? お前とて、あいつには勝てないぞ。それに、帝国への復讐はいいのか?』
『そうだねぇ……でも、これが最良の一手だと思った。それに、もしかしたら生き残れるかもしれないでしょ』
シャオニンのいつものような子供っぽい口調の言葉が、何故だか分からないが、悲しく聞こえる。
『お前の派閥は強引すぎて、あまり好きではない。特にお前は大っ嫌いだった。だが、今のお前は嫌いになれない』
『そうかい? まあ、僕は最初から君のことが好きだったけどね。君の地味な努力の積み重ね。技量だけなら、もう数年頑張れば、僕を超えるんじゃないかな?』
『そうか。お前が言うならそうなんだろうな』
『うんうん。じゃあ、そろそろ準備をしてね。僕はあいつに、全てをぶつけてくるから』
『分かった』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ユート視点
(何だあいつら? 見つめ合って……あのシャオニンが死を覚悟するような目をしてるし……)
俺は胸元にいるノアを念の為、〈空間操作〉でトリエストさんの部屋に送りながら、そう思った。
(ただなあ……シャオニンって自爆するふりをして逃げやがったからな~)
今回は前とは違い、顔の演技もばっちりだ。まあ、前のように逃がすつもりはさらさらない。
すると、シャオニンが俺の方を向いた。そして、懐から白い球を取り出すと、地面に叩きつけた。
その直後、この場が煙幕に包まれた。
「爆発じゃない? だが、気配で分かっ――はあっ!」
俺は煙幕の中で、跳んできた短剣を、世界樹聖剣で防いだ。
「よし……て、やばっ」
奴らの内の片方が、ここから三百メートル程離れた場所にいることが分かった。恐らく、前にディンが使った転移の魔法陣だろう。
俺は急いで、逃げた奴を追いかけようとした。だが――
キンッ!
この場に残っている奴が、俺に攻撃を仕掛けてきた。あの二人の性格から考えるに、恐らく残っているのはディンの方だろう。
「ちっ 〈風壁〉!」
俺は〈風壁〉で煙幕を吹き飛ばした。
そして、目の前にいたのは――
「……ディンじゃなくて、シャオニンか」
「うん。僕だよ」
シャオニンは剣を構えると、そう言った。
ヤバいよヤバいよ。これはヤバいよ。
人質も用意した。しかも、あいつが一番大切にしている女の子だ。
人質用の魔道具まで使った。精鋭も集めた。
なのにどうしてこうなった?
部下は捕まり、幹部である僕とディンはボロボロ。
一方、あいつは無傷。しかも、女の子を〈空間操作〉で取り返した。
(何故だ? どうしてあの伝説上の魔法を使えるんだ? あの魔法が使えるのは、現在だと我等が神のみなのに……)
〈空間操作〉は空間そのものに干渉する魔法。帝国秘蔵の歴史書によれば、一万年前に、極少数の人間が、その魔法を使っていたらしい。その名残が、古代遺跡に残る転移魔法陣だ。
〈重力操作〉と〈闇操作〉も同じだ。この二つも、歴史書に残る伝説の魔法。
(こいつ人間なのか? しかもあの剣ってハイエルフの秘宝、世界樹聖剣だよね? 王国が持っている聖剣と同格と言われているとんでもないやつだよね?)
このバケモノから逃げられる方法、逃げられる方法……
(ディンを囮に……いや、あんな雑魚では足止めにもならない。僕が命を懸けて戦えば、そこそこ稼げるかな?)
よし、ここは男を見せる時だ!
そう思った俺は、耳に着けてある念話の魔道具で、ディンに話しかけた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ディン視点
『ねえ、ディン』
やけに表情が硬くなった。シャオニンらしくないシャオニンが、いきなり念話で話しかけてきた。
『何だ?』
『僕の腰ポーチに入っている使い捨て転移魔法陣で、ここから逃げてくれ。こいつの〈空間操作〉による転移妨害は、君が転移する前にここを煙幕で隠して、転移するところを見られないようにするから大丈夫。後は、僕がいい感じに足止めしとくから』
『は!? 何故お前ではなく俺が?』
シャオニンの提案に、俺は驚愕した。
あれほど生きることに執着していたシャオニンが、仲間を逃がす為に命を懸けるなんて……
『だって、君が足止めしたところで時間稼げる? 君は雑魚だから絶対無理だよ。出来て数秒でしょ?』
シャオニンの馬鹿にするような発言に、俺は怒りでもあきれでもなく、静かに頷くという行動を取った。
『そうか……生きたくはないのか? お前とて、あいつには勝てないぞ。それに、帝国への復讐はいいのか?』
『そうだねぇ……でも、これが最良の一手だと思った。それに、もしかしたら生き残れるかもしれないでしょ』
シャオニンのいつものような子供っぽい口調の言葉が、何故だか分からないが、悲しく聞こえる。
『お前の派閥は強引すぎて、あまり好きではない。特にお前は大っ嫌いだった。だが、今のお前は嫌いになれない』
『そうかい? まあ、僕は最初から君のことが好きだったけどね。君の地味な努力の積み重ね。技量だけなら、もう数年頑張れば、僕を超えるんじゃないかな?』
『そうか。お前が言うならそうなんだろうな』
『うんうん。じゃあ、そろそろ準備をしてね。僕はあいつに、全てをぶつけてくるから』
『分かった』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ユート視点
(何だあいつら? 見つめ合って……あのシャオニンが死を覚悟するような目をしてるし……)
俺は胸元にいるノアを念の為、〈空間操作〉でトリエストさんの部屋に送りながら、そう思った。
(ただなあ……シャオニンって自爆するふりをして逃げやがったからな~)
今回は前とは違い、顔の演技もばっちりだ。まあ、前のように逃がすつもりはさらさらない。
すると、シャオニンが俺の方を向いた。そして、懐から白い球を取り出すと、地面に叩きつけた。
その直後、この場が煙幕に包まれた。
「爆発じゃない? だが、気配で分かっ――はあっ!」
俺は煙幕の中で、跳んできた短剣を、世界樹聖剣で防いだ。
「よし……て、やばっ」
奴らの内の片方が、ここから三百メートル程離れた場所にいることが分かった。恐らく、前にディンが使った転移の魔法陣だろう。
俺は急いで、逃げた奴を追いかけようとした。だが――
キンッ!
この場に残っている奴が、俺に攻撃を仕掛けてきた。あの二人の性格から考えるに、恐らく残っているのはディンの方だろう。
「ちっ 〈風壁〉!」
俺は〈風壁〉で煙幕を吹き飛ばした。
そして、目の前にいたのは――
「……ディンじゃなくて、シャオニンか」
「うん。僕だよ」
シャオニンは剣を構えると、そう言った。
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