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第一章 冒険者活動始めました
第四十九話 経験不足
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「じゃあ――始め!」
カイの合図で戦いの火ぶたが切られた。
俺は即座に〈剣術〉と〈身体強化〉を使った。シドも〈身体強化〉を使ったようだ。
「じゃ、俺から行くぞ!」
シドは十メートルの距離を一秒弱で詰めると、俺の右肩めがけて木剣を振り下ろした。
ただ、ここまで成長した俺は木剣でたやすく防いだ。しかしその直後、シドの足蹴りが飛んできた。
「あぶねっ」
間一髪で後ろに回避……と言いたいところだが、軽く腹に当たった気がする。
(やっぱり俺には経験って言うのが圧倒的に足りないな……)
シドのステータスをチラ見したが、あらゆる面において俺の方が上だった。むしろ劣っているところが一つもない。ただ、それで先に一撃食らったのが俺と考えるとそのヤバさがよく分かる。
〈剣術〉というのは狙った場所に正確に剣を振ることが出来るのが主な効果だ。その為、剣術について全く知らない俺が使った場合、剣術のプロが見たら馬鹿正直な剣術と評価されるものになっている。そうなるとやはり戦略というものを学んだ方がよくなってくる。
(シドの戦略は一通り見ておいた方がいいな……)
カルトリで神の涙を瞬殺したようにやれば恐らくすぐに勝てるだろう。
ただ、それでは戦略を見ることは出来ないし、そもそも俺が模擬戦を受けたのに対し得られるものが「剣を防がれたら足で蹴ってみる」だけになってしまう。それでも今の俺ならそれなりの利益にはなるのだが、どうせならたとえ負けたとしても戦略を見ておきたいと思った俺は〈剣術〉を解除して〈身体強化〉だけでシドと戦うことにした。〈剣術〉を何度も使っていたこともあってか、剣の扱い方は体が多少覚えている為剣の腕前が完全に素人になったわけではない。
「はあっ」
俺はシドの左の脇腹めがけて木剣を横なぎに振った。
「ぐっ」
シドは当然のように反応すると木剣で防いだ。ただ、ステータス、〈身体強化〉のスキルLVの両方でこちらが圧倒している為、シドはそのまま三メートルほど後ろに飛ばされた。
「ちっなんて馬鹿力だ……ただ技量はこっちの方が上のようだなっ」
シドは再び距離を詰めてきた。そして、俺の右肩めがけて剣を振り下ろした。なぜかは分からないがさっきよりも木剣を振る速度が遅い。まあ、だからと言って当たるわけにもいかないので俺は再び木剣で防ごうとした。するとシドはいきなり木剣を左に傾けて、俺の左肩へ振り下ろした。
「やばっ」
俺は一瞬だけ〈風強化〉を使うと後ろに跳びずさった。まあ、剣で戦っているし、カイの言ってたあんな魔法は使っていないのでルール違反ではない。ただ、この模擬戦では使わないでおこうと思っていた魔法を使ってしまったことで俺は何かに負けてしまったような気がした。
(せめて模擬戦には勝たないとな…)
俺は再びシドの左の横腹めがけて木剣を横なぎに振った。シドはさっき力負けして後ろに飛ばされたことでさっきよりも腰を低くして完全に俺の攻撃を受ける構えをとった。
俺は木剣があたる直前で悪魔のような笑みを浮かべると、手首を右に傾けて木剣をシドの右の脇腹に向けると、再び木剣を横なぎに振った。
「ぐはっ」
シドはそれに反応することもできず、五メートルほど飛ばされた後、仰向けに倒れた。
「勝負ありだな。という訳でこの勝負はユートの勝ちだ!」
こうして俺は何とかシドに勝つことが出来た。それに、〈剣術〉では補うことの出来ない戦略を多少なりとも学ぶことが出来たのは結構大きい。
ちなみにシドは俺の全力の一撃を食らったが、シドが防ぐ構えをとっていたことと、防具を着ていたことでほぼ無傷で済んだようだ。
俺はシドに手を差し伸べた。
「ありがとな、シド。おかげでいい特訓になったよ」
「はっ対人戦は俺の得意分野だから勝てると思ったんだけどな…お前は力と速度が出鱈目すぎるんだよ」
シドは俺の手を借りて立ち上がると悔しそうに言った。
「じゃあ、俺はそろそろこの街を出ないとな」
「え?なんで?」
「俺はグランからティリアンへ行く途中だったんだ。なるべく早く行きたいから今日中にはここを出るつもりだ」
「そうか……まあ、がんばれよ。お前なら数年後には世界的に有名になってそうだしな。その時にこっちから会いに行こうかな」
「ああ、結構楽しかったぞ」
「ふふっ頑張ってね」
「ああ」
俺たちは少しの間別れを惜しんだ。
「あ、討伐証明部位と教育したやつらから教育費を貰わないとな」
訓練場から出た俺はそのまま受付に並んだ。
「は、報酬金二十五万セルと賠償金十五万セルです……」
受付嬢はかなり緊張しながらも二十万セルを俺に手渡した。そこには俺のような成人していない人が大金を稼いだことに対する驚きと、昨日の出来事を知っているが故の畏怖が込められていた。
ちなみに俺が教育した冒険者五人は冒険者ギルドの指示でどぶ掃除や荷運びに精を出しているそうだ。そして、その生活は二ヶ月ほど続くらしい。前に襲ってきたやつらよりも罪が軽いが、それはこいつらがめっちゃ反省しているということと、俺が教育したことが理由らしい。
俺は手渡された四十万セルを〈アイテムボックス〉に入れると、フードをかぶりなおしてから冒険者ギルドの外に出た。
カイの合図で戦いの火ぶたが切られた。
俺は即座に〈剣術〉と〈身体強化〉を使った。シドも〈身体強化〉を使ったようだ。
「じゃ、俺から行くぞ!」
シドは十メートルの距離を一秒弱で詰めると、俺の右肩めがけて木剣を振り下ろした。
ただ、ここまで成長した俺は木剣でたやすく防いだ。しかしその直後、シドの足蹴りが飛んできた。
「あぶねっ」
間一髪で後ろに回避……と言いたいところだが、軽く腹に当たった気がする。
(やっぱり俺には経験って言うのが圧倒的に足りないな……)
シドのステータスをチラ見したが、あらゆる面において俺の方が上だった。むしろ劣っているところが一つもない。ただ、それで先に一撃食らったのが俺と考えるとそのヤバさがよく分かる。
〈剣術〉というのは狙った場所に正確に剣を振ることが出来るのが主な効果だ。その為、剣術について全く知らない俺が使った場合、剣術のプロが見たら馬鹿正直な剣術と評価されるものになっている。そうなるとやはり戦略というものを学んだ方がよくなってくる。
(シドの戦略は一通り見ておいた方がいいな……)
カルトリで神の涙を瞬殺したようにやれば恐らくすぐに勝てるだろう。
ただ、それでは戦略を見ることは出来ないし、そもそも俺が模擬戦を受けたのに対し得られるものが「剣を防がれたら足で蹴ってみる」だけになってしまう。それでも今の俺ならそれなりの利益にはなるのだが、どうせならたとえ負けたとしても戦略を見ておきたいと思った俺は〈剣術〉を解除して〈身体強化〉だけでシドと戦うことにした。〈剣術〉を何度も使っていたこともあってか、剣の扱い方は体が多少覚えている為剣の腕前が完全に素人になったわけではない。
「はあっ」
俺はシドの左の脇腹めがけて木剣を横なぎに振った。
「ぐっ」
シドは当然のように反応すると木剣で防いだ。ただ、ステータス、〈身体強化〉のスキルLVの両方でこちらが圧倒している為、シドはそのまま三メートルほど後ろに飛ばされた。
「ちっなんて馬鹿力だ……ただ技量はこっちの方が上のようだなっ」
シドは再び距離を詰めてきた。そして、俺の右肩めがけて剣を振り下ろした。なぜかは分からないがさっきよりも木剣を振る速度が遅い。まあ、だからと言って当たるわけにもいかないので俺は再び木剣で防ごうとした。するとシドはいきなり木剣を左に傾けて、俺の左肩へ振り下ろした。
「やばっ」
俺は一瞬だけ〈風強化〉を使うと後ろに跳びずさった。まあ、剣で戦っているし、カイの言ってたあんな魔法は使っていないのでルール違反ではない。ただ、この模擬戦では使わないでおこうと思っていた魔法を使ってしまったことで俺は何かに負けてしまったような気がした。
(せめて模擬戦には勝たないとな…)
俺は再びシドの左の横腹めがけて木剣を横なぎに振った。シドはさっき力負けして後ろに飛ばされたことでさっきよりも腰を低くして完全に俺の攻撃を受ける構えをとった。
俺は木剣があたる直前で悪魔のような笑みを浮かべると、手首を右に傾けて木剣をシドの右の脇腹に向けると、再び木剣を横なぎに振った。
「ぐはっ」
シドはそれに反応することもできず、五メートルほど飛ばされた後、仰向けに倒れた。
「勝負ありだな。という訳でこの勝負はユートの勝ちだ!」
こうして俺は何とかシドに勝つことが出来た。それに、〈剣術〉では補うことの出来ない戦略を多少なりとも学ぶことが出来たのは結構大きい。
ちなみにシドは俺の全力の一撃を食らったが、シドが防ぐ構えをとっていたことと、防具を着ていたことでほぼ無傷で済んだようだ。
俺はシドに手を差し伸べた。
「ありがとな、シド。おかげでいい特訓になったよ」
「はっ対人戦は俺の得意分野だから勝てると思ったんだけどな…お前は力と速度が出鱈目すぎるんだよ」
シドは俺の手を借りて立ち上がると悔しそうに言った。
「じゃあ、俺はそろそろこの街を出ないとな」
「え?なんで?」
「俺はグランからティリアンへ行く途中だったんだ。なるべく早く行きたいから今日中にはここを出るつもりだ」
「そうか……まあ、がんばれよ。お前なら数年後には世界的に有名になってそうだしな。その時にこっちから会いに行こうかな」
「ああ、結構楽しかったぞ」
「ふふっ頑張ってね」
「ああ」
俺たちは少しの間別れを惜しんだ。
「あ、討伐証明部位と教育したやつらから教育費を貰わないとな」
訓練場から出た俺はそのまま受付に並んだ。
「は、報酬金二十五万セルと賠償金十五万セルです……」
受付嬢はかなり緊張しながらも二十万セルを俺に手渡した。そこには俺のような成人していない人が大金を稼いだことに対する驚きと、昨日の出来事を知っているが故の畏怖が込められていた。
ちなみに俺が教育した冒険者五人は冒険者ギルドの指示でどぶ掃除や荷運びに精を出しているそうだ。そして、その生活は二ヶ月ほど続くらしい。前に襲ってきたやつらよりも罪が軽いが、それはこいつらがめっちゃ反省しているということと、俺が教育したことが理由らしい。
俺は手渡された四十万セルを〈アイテムボックス〉に入れると、フードをかぶりなおしてから冒険者ギルドの外に出た。
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