上 下
50 / 161
第一章 冒険者活動始めました

第四十二話 やりすぎたかな?

しおりを挟む
 街の外に出たところで、ザクさんが一度立ち止まり、俺たちの方へ振り返った。

「よし、森の中では主に各パーティーごとに魔物と戦ってくれ。え~と…ソロのやつは…お前だけか。見た感じ魔法師なのにソロとは珍しいな。お前は赤き龍のパーティーに入って戦ってくれ。あそこは魔法師がいないからちょうどいいだろ」

 と言うわけで俺は赤き龍といういかにも強そうな名前のパーティーに入って戦うことになった。しかし…

「言っちゃ悪いがこんなが入ったところで戦力どころか足手まといにしかならんと思うぞ」

「大体本当にDランクか?」

「か弱いはここには来ちゃいけないと思うわ…」

 赤き龍の三人は煽り半分心配半分の目で俺のことを見てくる。一方俺は怒りを抑えるので精一杯だった。

(こいつら…といいといい…これが完全な悪意だったら今頃殺意マシマシで教育して二度とそんなことが言えない体にしてたぞ…)

 いくら細身で背が小さいとはいえそれなりに強いという自負はある。ていうかこの世界に来てからかなり体を動かしたのに筋肉は全くつかないのは何故だろうか…それどころか筋肉痛もない。何故なのかは俺には全くわからない。しいて言うなら神様のせいだろう。

 俺が入ることに批判的な言葉にザクさんはため息をついた。

「はぁ~まあ、そう言うよな。ただこいつはさっき冒険者カードを確認したがDランクであることは確かだし…あ、試しに魔法を撃ってみればどんな感じか分かるんじゃないか?」

 と、こんな提案をしてきた。
 魔法を試し撃ちするという意見に赤き龍の3人は、

「ああ、そうだな」

「まあ、見るのはタダだしな」

「無理だと思うけど…まあ、見てみたいしいいわ」

 という感じで同意してくれた」

「じゃ、好きなところに撃ってくれ」

 と、手をひらひらとさせながら投げやりに言った。

(何というか…絶対ザクさんも俺のこと信じてないだろ…)

 最後の言葉の適当さからそんな気持ちが感じ取れる。
 取りあえずさっきのの発言にイラッとしていた俺はどでかいのを撃つつもりだ。
 俺は〈アイテムボックス〉から白輝の剣を取り出すと、今、自分のいる草原から三十メートルほど離れた場所にある森めがけて全力で〈氷槍アイスランス〉×七十を撃った。全力で撃った&白輝の剣を使ったので、前に実験した時よりも硬度、大きさともに二・五倍くらいになっていた。あとはスピードも多少上がったように見える。それが七十個同時に森に降り注いだ。結果、前方の木が六十本ほど破壊され、地面もごっそりえぐれてしまった。これには森さんも青ざめているに違いない。
 ちなみにこれで消費した魔力は全魔力量の六割ほどだ。

(ふぅ…結構魔力使ったな…)

 それにしてもこの光景を見ると流石にやりすぎたかなと思ったが、あんなことを言われてしまったので仕方ない。うん。不可抗力だ。

 一方、森が破壊されていく光景を見た人たちは唖然としていた。あれだけ元気だったザクさんですら言葉が出なくなっている。
 これからオーク討伐に行くのに、流石にこの雰囲気ではまずいと思い、

「取りあえずあんな感じでいいですか?」

 と、平然と聞いてみた。

「あ、ああ…こ、これがこいつの実力だ…いいと思うか?」

 ザクさんは戸惑いながらも赤き龍の三人に聞いた。

「あ、ああ。むしろ強すぎるくらいだ」

「さ、さっきは済まない」

「スゴイワネホント二」

 三人はさっきまでの勢いはなくなり、戸惑ったり、謝ったり、片言になったりしていた。

「よし、じゃあ…そういえば君の名は?」

「ユートだ」

 どこぞの映画を思い浮かべる言葉を華麗にスルーして答えた。

「分かった。ユートはさっき言ったように赤き龍についてくれ」

 ここでようやくザクさんの雰囲気が戻った。それに伴い、他の人たちの雰囲気も戻ってきているようだ。俺はそのまま赤き龍の三人に近づくと、

「俺の名前はユート。見ての通り魔法戦士だ」

 俺は白輝の剣を見せながら軽く自己紹介をした。

「俺の名前はカイ。Bランク冒険者で、このパーティーのリーダーだ。斧術士として活動している」

 カイは深紅の髪と眼をした三十代前半ほどに見える明るい感じの男性だ。
 身長は百八十センチメートルほどで、筋肉はかなりある。そして防具を着て、背中には斧が取り付けられてある。

「俺の名前はシド。Bランク冒険者だ。剣士として活動している」

 シドはコバルトブルーの髪にエメラルド色の眼をした三十代前半ほどに見える豪快な男性だ。
 身長は百七十センチメートルほどで、筋肉は引き締まっている。そして防具を着て、腰には剣をさしている。

「私の名前はエリ。Cランク冒険者よ。槍術士として活動しているわ」

 エリはレモン色の髪と眼をした二十代後半ほどに見える明るい感じの華奢な女性だ。
 身長は百六十センチメートルほど。そして、防具を着て、右手に背丈より少し短いくらいの槍を持っている。

 自己紹介を済ませた後に俺は思った。

(赤、青、黄色…信号機だな)

 それで笑いそうになったが、ギリギリのところで耐えた。

 するとカイが、

「あれだけの魔法が使えて魔法戦士なのか?」

 と、半信半疑になりながら聞いてきた。
 一瞬笑いかけたことがばれたのかと思い、ヒヤヒヤした。俺は「おお、そうだな」と平然と答えた。

 そこに二人も会話に入り込んできた。

「凄いわね…あれだけ魔法の才能があれば普通魔法だけに特化させようとするはずなのにどっちもやろうとするなんて…」

 エリは顎に手を当てながら感心していた。

「確かに凄いな。同じ剣士として戦ってみたいところだな」

 打ち解けてきたところでザクさんが入り込んできて、

「おい。そろそろ出発するぞ。模擬戦はこの依頼が終わった後にやれよ」

 その言葉に俺たちは一斉に頷いた。

「じゃ、出発するからついてきてくれ」

 そう言うと、俺たちはザクさんを先頭に、さっき破壊したところから森に入っていった。みんな唖然としながらその場を通り過ぎていった。俺も破壊の跡を見て、「やっぱやりすぎたかな?」と思ってしまった。まあ、それでも反省も後悔も全くしてないのだが…






 空は真っ暗になっており、月と星が光る夜になっている。ただ、ここは森の中なので月明かりすらまともに入ってこない。一応何人かが照明の魔道具を持っている為、辛うじて周囲が見える。
 ここはいつ魔物が現れてもおかしくない為、俺は常に〈身体強化〉で音や気配を探っている。今のところ魔物はいるにはいるのだが、ここから多少離れているし、その魔物がこっちに向かってくるわけでもないので、多少警戒しておくだけにとどめていた。しかしここで、

(ん?何か近づいてきてるぞ?)

 鳴き声はしないが、こっちに複数体の魔物が右側から近づいてくるのが足音で感じ取れた。距離は大体三百メートルほど。ただ、木々のせいで目視で確認することは出来ない。

(おっと冷静に分析してないで早く知らせないと)

 俺は赤き龍の三人に声をかけた。

「種類は分からないが魔物が複数体こっちに向かってきてるぞ」

 と伝え、他にも距離と方向を伝えた。

「そうか…分かった……ん?確かにこっちから何か来てるな」

 どうやらカイは気づいたようだ。そしてその直後、「みんな止まれ!南東の方角から魔物が来てるぞ!」というバンさんの叫び声が響いた。
 それにより、みんな一斉に止まって武器を構えた。俺も〈アイテムボックス〉から白輝の剣を取り出し、構えた。
 静かになったところで「ドドドドド」という足音がはっきりと聞こえるようになった。それから十秒ほど経ったところで、「グルゥ」という鳴き声と共に体長三百三十センチメートルはある大きなゴリラが五体。森の中から姿を現した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

処理中です...