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第二章 街の闇と繋がる者

第十四話 顔を忘れられていた

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 俺の元から次々と放たれる短剣。それが、正確にこいつらの眉間みけんを貫く。

「ぎゃあ!」

「ぐわっ!」

 俺の方では、三十人中十人が死んだ時点で、みんな戦意を喪失そうしつし、逃げ腰になっていた。前のように無視してやりたいのはやまやまだが、今回は目撃者を残さない為にも、皆殺しにしなければならない。

「恨むのなら、俺たちを襲いに来た自分自身を恨め!」

 俺は低い声で、威圧感を出しながらそう言うと、さっきまでに飛ばした短剣を全て〈操作〉で動かすと、残ったやつらの眉間を狙い撃ちした。
 こうして、左側での戦いは、三十人がわずか三十秒で全滅したことで、俺の勝ちとなった。

「さて、ノアは……まあ、予想通りだな」

 ノアは両手をドラゴンクロウにした状態で、死体の山の上に立っていた。しかも、ノアは服に血を一切つけていない。俺はそれを見て驚愕した。よく見ると、転がっている死体全てが、眉間に小さな穴をあけている。それを成し遂げるには、卓越した技術と、超人的な力が必要だというのに……まあ、ノアだから出来ても仕方ないな……うん。

「ノア、流石だな。ただ、死体を踏みつけるのは止めてくれ」

 俺は死体の山の前に立つと、そう言った。悪人と言えど、流石にその死体を踏みつけるのはよろしくない。死体を踏みつける行為は、例え踏まれている人が殺人鬼であろうとも、やってはいけない行為なのだ。

「あ、分かった。ごめん」

 ノアは小さい声で謝ると両手を元に戻してから、俺の胸元にダイブしてきた。

「うおっと。危ねぇ」

 俺はノアのダイブに、ギリギリ耐えた。あともう少し力が強ければ、俺は仰向けに倒れていただろう。

「ま、こういうのは後でやるぞ。今はそこにいるクズを潰す時間だ」

 俺はノアの頭を撫でてから、玉座に座った状態で、唖然あぜんとしているマリアを睨みつけた。

「これでお前を守るやつはいない。大人しく裁きを受けるがいい」

 俺は怒気を含んだ声でそう言うと、さっき作った大量の短剣を〈操作〉でマリアに突き付けた。

「こ、これはあなたたちを試していたのです! あなたたちの強さを!」

 マリアは苦し紛れに言い訳をしてきた。だが、俺たちを試す為だけに、六十人以上の人を死なせるような人がいるわけがない。それに、例えそれが本当だとしても、俺はこいつをフルボッコにする権利がある。

「そうか。その言葉が嘘なのは分かっている。それに、もしその言葉が本当だとしても、俺にはお前をフルボッコにする権利がある」

「はあ? 何を言ってるのかしら? 頭おかしいんじゃないの?」

 マリアは馬鹿にするような目で、俺たちのことを見た。

「お前さ。自分の元弟の顔や声をもう忘れたのか?」

 俺は威圧感を出しながら、そう言った。

「は……え……な、何で……」

 マリアは俺のことを震える指で、指差した。どうやらマリアはようやく、俺が自分の元弟であることに気が付いたようだ。
 それにしても、同じ屋敷に十年以上も一緒にいた人の顔を僅か十数日で忘れるなんて、とんでもないな……

「古代大洞窟に落とされたが、生き残った。あの大穴に落とされた時は死んだかと思たけど、スキルを使って生き延びた。全てはお前、いや、お前らに復讐する為にな!」

 俺はマリアのことを指さしながら、そう言った。

「お、おかしいわよ! あのハズレスキルで生き延びれる訳が無いわ! 最強格のスキルを持っている私でさえも近づきたくないと思わせるほどの場所ですよ。何のズルをしたのか言いなさい!」

 マリアはヒステリックを起こしたかのように、ギャーギャー騒ぎ出した。この声はマジで耳障りだから止めて欲しいな……

「ハズレスキルとか言ってるけどさ。お前はこのスキルのことを詳しく知っているのか? あと、今この状況を見て、どこがハズレなのか言ってみろ」

「く……まあ、弱くはないことは認めて差し上げましょう。ただ、私のスキル、〈空間操作〉の前では無力よ! 〈空間操作〉!」

 マリアは強気の態度でそう言うと、〈空間操作〉を使った。その瞬間、空間がゆがんだかと思うと、マリアに突き付けてあった短剣が全て消えた。

「ほらね。貴方の攻撃は全て無意味よ! ほら、降参するなら今の内よ。命は取らないで置いてあげるから」

 マリアは勝ち誇ったかのような顔をすると、そう言った。

(ほう。一階に転移させたのか)

 最後に〈操作〉の接続があった場所から察するに、短剣はこの部屋の真下に転移したのだろう。〈空間操作〉で使える転移は熟練者でも三十メートルが限界だ。それを、たいしてスキルを使っていないマリアが使ったら、せいぜい五メートルと言ったところだろう。

「まあ、〈空間操作〉は強力な分、必要な魔力量は桁違いだからな。さて、どのくらい耐えられるか試してやる。〈創造〉〈操作〉飛剣!」

 俺はこいつの魔力が切れるまで、遊んでやることにした。
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