上 下
5 / 61
プロローグ

第五話 油断。それがお前の敗因だ

しおりを挟む
 俺の周囲にあったもの。それは――

「ひ、人の骨……」

 俺の周囲には大量の人骨が散乱していた。
 しかも、そのほとんどが折れたり、粉々になってたりする。

「え……ね、寝る前はこんなのなかったぞ……というかここはどこなんだ?」

 俺はあの横穴よりも広い空間にいた。

「ど、どういうことなんだ……」

 何が起きたのか分からずに混乱していると、近くから「グルルルルル……」といううなり声がした。
 そして、それと共に奥から姿を現したのは体長三メートルほどの黒い狼だった。
 赤く光る瞳が、俺のことを食事と見なしているように見えた。
 そして、黒い狼の背後には、体長一メートルほどの黒い狼が俺のことを興味深そうに見ている。
 俺はその魔物をみて戦慄した。

「ま、まずいぞ……」

 こいつは魔物図鑑で見たことがある。
 こいつの名前はブラックウルフ。危険度はS-の魔物だ。
 こいつはとてつもない速さで獲物を捕らえ、防具を簡単に破壊できるほどに鋭い二本の硬い犬歯を持っている。更に、こいつは〈空歩〉という空中を歩くスキルを持っている。恐らくそれを使って俺が居た横穴に侵入したのだろう。

「どうするか……後ろにいるのは恐らく子供だよな……だとしたら俺がここに連れてこられた理由って……」

 俺はようやくここに連れ去られた理由を察した。
 恐らく俺はこの子供のブラックウルフに与える餌として連れてこられたのだ。
 そして、生きた状態で連れてこられたのは鮮度を保つ為か――あるいは狩りの仕方を教える為だろう。

「ちっ こいつが相手では上に逃げても意味がない。だったら……成功するか分からないがあれをやるか……」

 そう呟くと、俺は目に見えないほどの小さな鉄の粒子を〈創造〉で大量に作った。そして、〈操作〉でブラックウルフの口の中に少しずつ入れた。
 ブラックウルフは口の中に少しずつ入ってくる鉄の粒子には気づいていないようで、平然としている。

「頼むぞ……」

 俺は必要量入れるまで、ブラックウルフが襲ってこないことを祈った。

 俺は三分かけてようやく準備を終えることが出来た。
 俺の祈りが届いたのか、ブラックウルフは俺が準備をしている間はずっと子供のブラックウルフに何かを教えているようだった。
 そして、俺が準備を終えたのと同時にブラックウルフの方も話し合いが終わったのか、子供のブラックウルフ二頭がゆっくりと俺に近づいてきた。
 だが、準備が整った今、ブラックウルフに勝ち目はない。

「では、体の内側からの激痛に苦しみながら死ぬといい」

 俺はそう言うと、ブラックウルフの口の中に入れた鉄の粒子を食道辺りに全て集めて短剣にした。食道の幅よりも短剣の長さの方が長い。つまりブラックウルフはこうなってしまう。

「グ、グガガアアァ!!」

 三頭のブラックウルフは短剣が刺さった痛みで苦しんでいた。
 そこに俺はさらなる追い打ちをかける。

「これはどうかな?」

 そう言うと、俺はブラックウルフの中にある短剣を暴れ牛のように動かした。

「グギャアアア!!!」

 ブラックウルフはより一層激しくもがくようになった。
 それにしても食道に短剣が刺さるなんて……きっと想像を絶する痛みだろう。
 まあ、俺は危うく食われるところだったんだ。そして、勝つためには剣が通りにくい外側よりも体内を狙った方がいい。その為には手段を選んではいられないのだ。

 これ以上痛めつけるのは無意味だと思った俺はとどめの一撃を与えることにした。

「では、死ね」

 俺はブラックウルフにそう告げると、〈創造〉で鉄剣を作った。
 そして、もがき苦しんでいるブラックウルフの首めがけて剣を振り下ろした。

「はあっ」

 ブラックウルフの毛皮は硬く、この程度の剣では軽く傷をつけるのが精一杯だ。
 だが、生き物の急所である首は例外だ。
 こいつの首も硬いと言えば硬いのだが、剣の腕前に自信のある俺ならこれくらい造作もない。
 その為――

 ザンッ!

「グギャ……」

 と、きれいにスパッと切り落とすことが出来る。ただ、〈創造〉で作る剣はあまり良い品質のものではないので、少し欠けてしまった。

「まじか……思ったよりもこいつら硬いな……」

 俺はブラックウルフの硬さに驚愕しつつも、鉄剣の欠けた部分を〈創造〉で修理した。

「では、残り二体もやるか……」

 俺はそう呟くと、もがき苦しんでいるブラックウルフ二頭に近づき、首筋に鉄剣を振り下ろした。
 ブラックウルフは首を落とされると、動かなくなった。
 ついさっきまで、ブラックウルフの悲鳴が洞窟内に鳴り響いてうるさかったが、首を切り落した途端に静かになった。

「流石に手に触れてないものに〈創造〉を使うと魔力の消費量が尋常じゃないな……」

〈創造〉を手に触れていないものに使うと、本来の十倍以上の魔力を消費してしまう。

「……だが、ブラックウルフに勝てたぞ……」

 油断していたとはいえ、S-の魔物であるブラックウルフ三頭と戦って勝てるのは、帝国でも十数人しかいない。
 だが、俺の復讐対象者の中には、その十数人の中に入るやつもいる。そう、アレンとガルゼルの二人だ。

「やってやる……もっともっと鍛えて……フルボッコにしてやる。例えあいつらが泣いて許しを請いてきたとしても……」

 俺は再びそう決意すると、右手には鉄剣を、左手には緑光石を持った。
 そして、この洞窟から出る為に歩き出した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

処理中です...