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3巻

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  第一章 ドルトン工房こうぼうで武器強化!


 俺――中山祐輔なかやまゆうすけは、毎日毎日ゲームに没頭ぼっとうし、世界一の『作業厨さぎょうちゅう』と呼ばれていた。
 だけどある日、心臓発作しんぞうほっさでぽっくりってしまい、ティリオスという剣と魔法のファンタジーな世界に、レインという名で転生てんせいしたんだ。しかも、半神デミゴッドとかいう寿命じゅみょうなしのチート種族でね。
 最初の数百年はディーノス大森林だいしんりんっていう広大な森の中でずっと一人でレベル上げをしていたんだが……
 シュガーとソルトというおおかみ魔物まものや、剣になったダンジョンマスターのダークに出会い、仲間ができた。
 更には女性冒険者じょせいぼうけんしゃのニナに出会ったことで、俺はずっと引きこもっていた森から出ることになり、ディーノス大森林の隣に位置する国――ムスタン王国おうこくの中心たる王都おうとにやってきたのだった。
 王都では、ニナの家で世話になることになり、ニナの弟であるリックと仲良く(?)なったり、図書館に行ったりと、気ままにやりたいことをして楽しんでいた。


       ◇ ◇ ◇


「んじゃ、頑張がんばってこいよ」
「いや、頑張るものではない気がするのだが……まぁ、頑張る」

 朝食を食べ終え、出掛ける準備をした俺にリックが声をかける。
 実は、王都の冒険者ぼうけんしゃギルドからニナ共々呼び出しをくらい、今日は朝から冒険者ギルドに行くことになっているのだ。
 リックに挨拶あいさつをしてから家を出て、冒険者ギルドまでの道を歩く。
 冒険者ギルドに着いた俺たちは、受付へと足を運んだ。

「ギルドマスターと面会しに来ました」

 ニナはそう言って、受付の人に冒険者カードを手渡した。
 遅れて俺も冒険者カードを取り出すと、受付の女性に渡す。
 そして二枚の冒険者カードを受け取った女性は、俺たちの冒険者カードと名簿めいぼのようなものを数秒間見比べ、口を開いた。

「レインさんとニナさんですね……はい。確認が取れましたので、ご案内いたします」

 受付の女性は丁寧ていねいな口調でそう言って、冒険者カードを俺たちに返してくれた。
 そのあと、彼女はカウンターから出てくると、俺たちについてくるよううながす。
 そして、そのまま廊下ろうかの奥にある部屋の前に案内してくれた。

「ギルドマスター。レインさんとニナさんがいらっしゃいました」

 受付の女性は、ドアをコンコンとノックし、俺たちが来たことを知らせる。

「ん? ああ。わかった。入っていいよ」

 すると、ドアの向こう側から若い男性の声が聞こえてきた。

「それでは、お入りください」

 受付の女性はそう言って頭を下げると、スッとドアの横にズレた。
 開けて入れってことなのだろう。

「失礼します」

 雰囲気に流されるまま、俺はドアを開けて中に入った。俺に続くようにしてニナも部屋の中に入る。
 落ち着いた雰囲気がただよう室内。中央には低めのテーブルと、それをはさんで対面するように置かれたソファがある。
 そしてその奥には、執務机しつむづくえの前に座り、書類にペンを走らせる一人の男性がいた。
 かみひとみ若草色わかくさいろで、見た目は二十代前半。耳が少しとがっている。
 実際に見るのは初めてだが、彼はエルフなのだろうか?
 前世でやっていたゲームに出てきたエルフは、耳が尖っていて長命ちょうめい種族しゅぞくだった。
 俺を転生させた女神めがみ――フェリスは転生時に俺の頭に色々とこの世界の知識をぶっこんでくれた。
 スキルについてやたら詳しいかと思えば、ディーノス大森林とその周辺の国のことは知らないなど、フェリスが選んだ知識の基準はよくわからんが……
 その知識でもエルフは長命とあったので、彼がもしエルフならば、見た目よりずっと年上の可能性が高い。

「レインとニナだね。王都で冒険者活動をしているニナは知っているとは思うけど、一応自己紹介をさせてくれ。ぼくはシン。ムスタン王国の冒険者ギルドのギルドマスターをやっている、元Sランク冒険者だ」

 その男性――シンは椅子から立ち上がると、気楽な口調で言葉をつむいだ。

「それじゃ、ソファに座ってくれ。話をしよう」

 そして、シンは続けてそう促す。

「わかった」

 促されるまま、俺はソファに座ると、肩に乗せていたシュガーとソルトをひざの上に乗せた。
 そのあと、ニナが俺の隣に座り、シンは俺たちに対面するように反対側のソファに座った。
 準備が整ったところでシンが口を開く。

「色々と気軽に話したいところだけど、これだけは真面目に言うね」

 シンの雰囲気が変わった。威厳いげんのある声だ。
 何事かと思っていると、シンは突然――頭を下げた。

「メグジスを守ってくれて、ありがとうございます」

 紡がれる感謝の言葉。その言葉には、強いおもいがこもっていた。
 メグジスはムスタン王国の領土内にある街で、邪龍じゃりゅう加護かごを持った物騒ぶっそう魔物まものが大量に押し寄せてきたので、俺が撃退げきたいしたのだ。
 メグジスの冒険者ギルドマスターや領主りょうしゅであるディンリードにもお礼を言われたけど、王都のギルドのギルドマスターにまで感謝されるとは思っていなかったな。
 立場が上なのに、庶民しょみんの気持ちや生活を気にかけて頭を下げるなんて、こういう人が人をけるんだなと、人の上に立ったことはないが思ってしまう。

「……よし。それじゃ、色々と話そうか。まず、君たちから見て、邪龍の加護を持った魔物を倒すには、最低でもどのくらいの強さじゃないといけないと思う? 冒険者ランクと人数で説明してくれるとありがたいな」

 シンの雰囲気が元に戻り、ふとそんな問いを投げかけられた。

「俺はランク別の強さを把握はあくできていないから、はっきりとはわからないな。たぶん、Aランク冒険者なら、同時に四体相手にできるんじゃないか? 邪龍の加護を持った魔物は、何故なぜかどいつもレベルが444になっていた。レベルだけ見るとかなり高いが、力に振り回されているようで、動きはだいぶお粗末そまつだったからな。よろめきながら重い剣を振り回しているって言えば、わかりやすいかな?」
「そうね……Bランク冒険者なら、一対一でも安定して倒すことができるわね。パーティーなら、Cランクでもなんとかなるわ。ただ、これは真正面から戦った時の話。とりでとかに立てこもりながら戦えば、恐らくDランクパーティーでもギリギリ対処できるわ」

 俺とニナはそれぞれ思ったことを口にする。
 俺は説明が下手だから、こういう時にニナが上手いこと補足してくれるのは、結構ありがたいな。

「なるほどね~。ただ、それは裏を返せば、魔物たちが力の扱いにある程度慣れてしまったら、とんでもないことになるってことだよね。だからダルトン帝国ていこくは……」

 シンは腕を組みながらそう言った。そして、即座にメモを取り始める。
 ダルトン帝国は確か、俺がいた森の西側にある国で、ムスタン王国とは仲が悪いとニナが言っていたような……

「うん。危険だし、今後しばらくは王国内の森の調査依頼を増やそうか」

 シンは、ザ・仕事ができる人って感じだな。

「……よし。じゃあ、次は君たちにいいものをあげるよ」

 シンはもったいぶるようにそう言うと、執務机の横にある台座に置かれていた水晶すいしょうを二つ、テーブルの上に持ってきた。

「これは……スキル水晶すいしょうか?」

 俺は二つの水晶をまじまじと見つめ、そう問いかけた。
 スキル水晶――それは魔力を込めるだけで、特定のスキルを取得することができる魔道具まどうぐのことだ。ただし、一回限りの使い捨て。

「そうだよ。色々あって、手に入れたものなんだ。どっちも有用なもので、こっちが《鑑定妨害かんていぼうがい》で、こっちが《魔力隠蔽まりょくいんぺい》だ。さ、二人で相談して選んでね」

 シンに選べと言われたものの、実はもうどっちを取るかは決まってるんだよね。
 何故なら、片方はすでに魔法で再現できる目途めどが立っているからだ。

「ニナ。俺は《魔力隠蔽まりょくいんぺい》が欲しいんだが、ニナはどうだ?」

 ニナの意見を無視するわけにもいかないので、俺はそう確認を取った。

「私はどっちでもいいから、レインがそっちにするんだったら、《鑑定妨害かんていぼうがい》にするわ」

 ニナは即答すると、《鑑定妨害かんていぼうがい》のスキル水晶に手をかざした。

「ああ。ありがとな」

 そんなニナに俺は礼を言うと、《魔力隠蔽まりょくいんぺい》のスキル水晶に手をかざした。そして、魔力を流し込む。


『スキル、《魔力隠蔽まりょくいんぺい》を取得しました』


「よし。取得できた」

 これで魔力の感知能力が高い人にもさとられずに、魔法陣まほうじんを展開できるようになったはず……
 まぁ、今取得したスキルはまだレベル1なので、適当な時にとりあえずレベルを10に上げておかないといけないけど。

「よしよし。では、最後に。実は、国王陛下こくおうへいかが君たちに会いたいとおっしゃっているんだよ。はいこれ、招待状しょうたいじょう

 シンは二枚の封筒ふうとうを中指と人差し指ではさんでかかげ、俺とニナに一枚ずつ取るよう促した。

「国王か……まじかぁ……やだなぁ……」

 シンの言葉に、俺は深くため息をく。心底いやだ。

流石さすがに国王様に会うのは気が重いわね。しかも、多くの貴族の前で謁見えっけんするらしいわ」

 ニナが渡された手紙を見ながら言う。

「ま、まじかよ。これは拒否するしか……」

 多くの王侯貴族おうこうきぞくに顔を見られるなんて、特大の厄介やっかいごとに首を突っ込むことと同義どうぎに思えてならない。
 これはもう、おそおおいとか言って断るしかないな。
 国王に人の心があれば、メグジスを救ったという恩のある相手に、何かを強要することはないだろう。
 だが、現実は随分ずいぶんと非情なようで――

「実は、さっき君たちに渡したスキル水晶は、国王陛下からのおくものなんだよ。報酬ほうしゅうでもご褒美ほうびでもなく、贈り物。つまり、君たちは国王陛下にちょっとした恩ができている状態なの。だから、その状態で国王陛下のお願いに応えないっていうのは、相当マズいんだよね」
「……やられたってわけか」

 シンがわかりやすく説明してくれて、俺は思わず天をあおいだ。
 贈り物――それも有用なスキル水晶という貴重な品を受け取り、更に使ってしまったとなれば、行かないほうが面倒なことになりかねないな……

「ごめんね。だますようなことになっちゃって。まあ、僕も立場上、君たちにそれを断られちゃうのはマズいからさ。おびって程でもないけど、もし変な貴族に絡まれた時は、僕を頼っていいよ。僕がうしだてになって、君たちを守ってあげるから。君たちのような、優秀で人柄ひとがらも悪くない冒険者が権力でつぶされるだなんて許せないからね。これでも僕は並の貴族よりも権力はあるから、貴族とも対等以上にやれるよ」
「なるほど……わかった。行くことにするよ」

 長い目で見れば、王都の冒険者ギルドマスターを後ろ盾にできるのはかなりいいことだろう。
 どっちにしろ行くしかなさそうだし、ここはうなずくのが最善手さいぜんしゅだ。
 ニナもちょっと嫌がっていたが、国王が暗君あんくんではなく、むしろ明君めいくんであることも相まって、最終的には頷くのであった。

「それじゃ、またね」
「ああ」

 そのあと、俺たちはシンに見送られて、部屋を出た。

「……は~あ。とんでもねぇことになったなぁ……」

 部屋を出た俺は、重い足取りで歩きながらそうぼやくと、深くため息を吐いた。

「仕方ないわよ。まあ、国王様も私たちにとって不都合なことはしないわよ。でも、私たちを利用しようと考える可能性は大いにあるかもね」
勘弁かんべんしてほしいよ。少なくとも、俺のやりたいことは邪魔しないでほしいのだが……」

 逆に言えば、俺の邪魔をしないのなら、どう扱おうが気にしない。
 王侯貴族の思惑おもわくをいちいち考えていたらキリがないからな。
 むしろ、大金をくれるんだったら大抵の依頼は受けてもいい。金はいくらあっても困らないからな。
 ただ、あくまでも俺たちの不都合にならない範囲なので、『つかえろ!』とか、そういうたぐいの手紙が来たら、即座に燃やして、お断りするつもりだ。
 他にも、厄介ごとに首を突っ込む羽目になりそうな依頼はお断りだ。
 もし俺の邪魔をしてくるようなやつがいたら、王族だろうが貴族だろうが、ウェルドの領主みたいになる……かもしれないな。
 ウェルドの領主は俺を家臣かしんにしようとしつこく勧誘かんゆうしてきた上、断ったらおそってきたから、人格を変えてやった。
 まあ、あれは最終手段だから、余程くさったやつでない限りやらんけど。

「何かあったらギルドマスターを頼りましょ。冒険者ギルドは国から独立している組織だから、国も安易あんいに手を出せないのよ」

 お、それはいいことを聞いた。
 そうなると、より一層いっそうシンの言葉はありがたいな。
 力でひねつぶせることならまだしも、策略さくりゃくられたら面倒めんどうくさいし、鬱陶うっとうしいことこの上ないからな。

「で、日付は……明後日あさってか」

 封筒ふうとうの中から手紙を取り出した俺は文をさっと読むと、そうつぶやいた。

「そうなのよね~。予定では、今日からダンジョンに行くことにしてたんだけど、転移系てんいけいわなで変な場所に送られちゃって帰るのが遅れて、約束の日時に間に合わないなんてことになったらヤバいわね。ダンジョンは後回しにしましょ」
「だよな~」

 ニナから聞いた、スキル水晶が宝箱から出てくるという王都のダンジョン。
 すぐにでも行ってみたいって思ってたんだよな。
 俺は自分のスキルで転移できるから、ニナに内緒でこっそり行く……というのも考えたが、多分俺だけで行ったら、時間を忘れて攻略こうりゃく没頭ぼっとうしてしまう気がする。
 まあ、謁見が終わるまで我慢がまんすりゃいいだけだ。
 謁見という名の地獄じごくいたら、ご褒美のダンジョンに行けるんだ!
 そうポジティブにとらえれば、この程度なんてことはない!

「じゃあ、今日はドルトン工房に行かないか? 依頼したいことがあるし」

 ダンジョンの代わりに、俺はそんな提案をする。
 ドルトン工房とは、ムスタン王国最高の鍛冶師かじしであるドルトンが経営している工房のことだ。
 そして、そこにいるドルトンに依頼をするには、推薦すいせんコインというものを持っていないといけない。
 しかし、俺たちはメグジス防衛戦ぼうえいせんの報酬として、前にディンリードから推薦コインもらっているため、依頼をすることができるんだよな。

「そうね。私もそろそろ短剣をかえたいと思っていたから、ちょうどいいわ」

 そう言って、ニナは腰につけている二本の短剣をチラリと見せる。
 ニナは魔法師まほうしだが、だからといって接近戦ができないわけではない。
 というか、並の短剣使いよりも技量は上らしい。
 ニナは長らくソロで活動していたため、魔法が効きにくい相手と戦う時や、魔力切まりょくぎれになった時に必要だったのだろう。

「じゃ、早速行くか。ドルトン工房に」
「そうね。行きましょ」

 俺たちは頷き合うと、冒険者ギルドの外に出た。
 そして、ニナの案内でドルトン工房へと向かう。
 三十分程歩いたところで、ニナは足を止めた。

「ここが、ドルトン工房よ」

 そう言ってニナが指を指す場所にあったのは、レンガづくりの地味な建物だった。
 出入り口のドアの上には『ドルトン工房 工房長所在こうぼうちょうしょざい』と書かれた看板かんばんが取り付けられている。
 そして、ドアの両側には護衛ごえいらしきドワーフの男性が二人いた。がっしりとしていて、見た目は結構強そうに見える。

「じゃ、行ってみるか」
「そうね」

 俺たちは頷き合い、片方のドワーフの男性に近づいた。

「む? 何用だ。ここは工房長の工房だ。推薦コインがないと入れない。工房長の弟子でしがいる工房は、ここの裏だぞ?」

 男性は俺たちを見ると、野太い声でそう言った。
 慣れた対応を見るに、推薦コインのことを知らずにここへ来る人は多そうだ。

「ああ。わかってる。これが、その推薦コインだ」

 俺は《無限収納インベントリ》から推薦コインを取り出すと、その男性に見せた。
 ニナも、ポーチから推薦コインを取り出し、同じく男性に見せる。

「ふむ……本物のようだな。すまない。入っていいぞ」

 男性は俺たちが持つ推薦コインを確認して目を見開くとそう言って、ドアを開けて中に入るよう促した。

「わかった。じゃ、入るか」

 俺は推薦コインを《無限収納インベントリ》にしまい、ドアを開けて中に入った。
 キン、カン、キン、カン。
 ドルトン工房の中に入ると、つちを打つ音が室内にひびわたっていた。
 槌を打つ振動しんどうで、そこら中に保管されている武器や防具がカタカタと揺れている。
 音や振動が外にれていないのは、かべに《防音ぼうおん》の特殊効果とくしゅこうか付与ふよされているからだろう。

「これぞ鍛冶師の工房って感じだなぁ……」

 ザ・鍛冶師の工房! って感じの内装に、俺は内心興奮こうふんしていた。
 すると、奥から見覚えのあるドワーフが出てくる。

「お! 誰かと思えばレインとニナじゃねぇか。そういやあんたらに領主がコイン渡したらしいって、親方が言ってたな」

 そう言って楽しそうに笑うこのドワーフの名前は、ムートン。
 ムートンがギルドに出していた、メグジスから王都までの護衛依頼を、たまたま俺たちが引き受けて、顔見知りになった。

「ああ。また会ったな。てか、ムートンはここが仕事場なのか?」

 偶然の出会いにおどろきながら、俺はそうたずねる。

「そうだ。俺はここの商業部しょうぎょうぶの上から二番目の立場でな。親方の弟子が作った装備そうびを売るために遠方へ行くことが主な仕事なんだよ」

 そう言って、ムートンはほこらしげに鼻をらす。
 てか、上から二番目って何気にすごいな。

「そうなのか。それは凄いな。でさ、ドルトンさんは今、手がいているのか? 依頼をしにきたんだが……」

 忙しい時にドルトンに声をかけるのは申し訳ないと思った俺は、ムートンにそう問いかけた。

「今は特に依頼はないから大丈夫だ。槌は打ってるが、それは日々の鍛錬たんれんだから気にしなくていい。遠慮えんりょなく大声で話しかけてくれ。小さい声だと気づいてくれんからな」

 そう言って笑うムートンの言葉に、俺は腕を組みながら心底納得した。
 俺も、作業を始めると無意識に周囲からの音をシャットアウトする。
 もしかしてドルトンは俺と同類なのか? だとしたら、凄い気が合いそう。

「わかった。ありがとな」

 俺は礼を言うと、ニナと共に案内板あんないばんを頼りに、ドルトンの部屋へ向かった。

「ここか」

 ドルトンの部屋の前に立った俺は、そう呟く。
 部屋にはドアがなく、外から中が丸見えだ。
 そして、中にはただひたすらに槌を振る一人のドワーフがいる。

「そうみたいね。入りましょ」

 ニナはそう言うと、遠慮なく中へ入った。
 そして、俺もニナのあとに続いて、中に入る。
 カン、カン、カン、カン。
 あんじょう、すぐ横に立っても、ドルトンは気づく素振りすら見せない。
 作業している時の俺と同じだ。

「ドルトンさーん。気づいてくださーい」

 試しに声をかけてみたのだが、全く気づいてくれない。
 まあ、これはただ単に俺の声が小さいことが原因かもしれない。
 てことで、ここは圧倒的コミュ力を持つニナにたくすとしよう。
 通りがかった人に道を尋ねるという、俺では何千年ってもできなさそうなことを、ニナは平気でやってのけるのだ。
 そんなニナなら、ドルトンにも大声で声を掛けられるだろう。
 俺は、ニナに期待の眼差まなざしを向けた。


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