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第六章 王都のダンジョン探索

第四話 10階層を踏破し、休息する

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 頭部を失ったオークメイジはそのままバタンと地面に倒れる。
 その直後、オークメイジの死体が黒く変色したかと思えば、どろりとした液体となり、床に吸収されていった。
 そして、全てが吸収された時、そこに残っていたのは、1個の宝箱だった。
 木製で、地味な見た目をしており、大きさも控えめだ。

「階層ボスの討伐報酬、何が入ってるんだろ?」

 ディーノス大森林のダンジョンと同様に、このダンジョンでも、階層ボスを倒すと、宝箱が出現するようだ。
 あのダンジョンの階層ボスを倒した時のお宝はアダマンタイト製の武器といったアタリと部類に入るものだったが、このダンジョンではどうなのだろうか?
 何せ、10階層のボスだ。大して強くなかったし、その分報酬もしょぼいのではないかと思う。
 すると、まるでその質問に答えるかのようにニナが口を開いた。

「ここの宝箱はあまり大したものは入ってないわ。50階層ぐらいまで行けば、結構いいものが入ってるだろうけど」

 そう言うと、ニナはあまり期待しない雰囲気を出しながら宝箱を手に取る。そして、パカッと開けた。
 大したものが入ってないと言われても、ちょっとは気になる。
 そう思い、俺はニナに近づくと、その宝箱の中を覗き込む。

「……回復薬か?」

 宝箱の中に入っていたのは、青色の液体が入ったガラス瓶1本だった。鑑定してみると、どうやらそれは中級回復薬らしい。
 まあ、確かに微妙だな。妥当ではあるけど。
 すると、ニナは中級回復薬を手に取り、宝箱を投げ捨てる。
 投げ捨てられた宝箱は地面を転がると、さっきのオークメイジと同じように床に吸収された。
 どんな原理だろ……?
 分からん。

「まあ、いい方かしら? 割と使うし」

 そう言って、ニナは中級回復薬をリュックサックにしまう。どうやらたった数パーセント魔力を回復するだけの中級回復薬でも、ここではアタリの部類に入るようだ。

「これでよしっと。さ、ここから出ましょ」

 そう言って、ニナは奥の扉を指差す。
 階層ボスを倒したことで、あの扉のロックは既に解除されているだろう。

「だな。さっさと出るか」

 こうして難なく階層ボスを倒した俺たちは、その扉まで向かい、扉を開けると、外へ出た。
 出た先は、下へと続く階段だった。ここを下れば、次は11階層に入る。
 だが、今日はここまで。11階層以降は明日行くことになるだろう。
 さて、問題はどこにテントを設置するかだが……

「テントはあそこに設置するのか?」

 そう言って、俺は下った先にある、やけに広い階段の踊り場を指差す。
 この階層に限ったことではないのだが、このダンジョンの階段の踊り場は、広場のように広い。まるで、ここで休んでくださいと言わんばかりの空間だ。
 実際、そこそこの人数がそう言った場所で休んでいる。

「ええ、そうよ」

 ニナは当然といった様子でそう言う。
 そして、にしても――とニナは話を続ける。

「思ったより早く着いたわね。これなら11階層での休憩にしてもよかったわ」

「じゃあ、これから11階層に行くか?」

 まだまだ全然余裕だ。
 そう思った俺は、ニナにそう提案する。
 だが、ニナは首を横に振ると、口を開く。

「いえ、ここまでにしましょう。ダンジョンで、予定よりも少なく進むことはあっても、多く進むことは止めといた方がいいわ。余裕がある内に寝場所を確保しないと、次の日に疲労で動きが鈍るし、その状態で冒険者殺しに出会ったら大変よ」

「冒険者殺し?」

 物騒な言葉に、俺は思わず聞き返す。

「そ。死体がダンジョンに吸収されることを利用して、冒険者を殺し、装備品を奪う人が偶にいるのよ。彼らは決まって初心者か、疲労の溜まってそうな冒険者を狙うの。それが1番成功率が高いからね」

 なるほど。盗賊みたいなもんか。
 確かに、こんな閉鎖された空間で、死体は勝手に処理されるとくれば、絶好のキルスポットだと思うよな。
 まあ、その程度の連中に負けるほど、俺は弱くないけど。

「それじゃあ、早速設置しに行きましょう」

「そうだな」

 俺たちは頷きあうと、階段を下る。そして、踊り場までくると、そこの隅に陣取って、テントを設置し始める。

「よっと」

 まず、無限収納インベントリから持ち運びサイズになっているテントを1つ取り出す。そして、それを地面に置くと、中心にある半透明の石に魔力を込める。すると、シュバッと音を立てて、勢いよくテントが広がり、一瞬にして1人サイズのテントが出来上がった。

「おお! 凄いな」

 一瞬で組み立てられるテントって、結構便利だよな。しかもこれ、ダンジョン産とかじゃなくて、普通に人が作った魔道具らしい。魔道具系の天職もあった気がするので、多分そういう人たちが発明し、作ったのだろう。

「早速入ってみるか」

 俺はその場で屈むと、シュガーとソルトを先に中へ入れ、その後に俺も靴を無限収納インベントリに入れると、中に入る。

「うん。結構いいね。快適そうだ」

 俺がよく知るテントよりは少し小さいが、それでもこれくらいあれば十分だ。普通に寝れる。
 俺は思わず、その場でシュガーとソルトと共に、ゴロリと横になる。
 あ~いいね。
 下はマットレスが敷かれているかのように柔らかい。
 すると、ニナもテントの中に顔を覗かせる。

「不具合はなさそうね……て、もう転がってる……」

 ニナはテントの中で寝転ぶ俺を見るや否や、呆れたようにそう言う。

「あ、もしかしてまだやることあった?」

「いえ、もうないわ。後は持ち物の点検をしつつ、お腹が空いてきたら食事にして、少ししたら寝る。それだけよ」

 そう言いながら、ニナも靴を脱ぐと、テントの中に入り、その場に腰を下ろす。

「そうか。なら、適当に時間を潰しとくよ。あ、無限収納インベントリの中身に異常はないから安心してくれ」

 そう言って、俺はゴロリと転がり、ニナから顔を背けると、無属性魔法の魔法陣を展開し、いつものように魔法の開発を進める。
 今開発しているのは魔力を体を維持するエネルギーに変えることで、食事を不要とする魔法だ。ただ、これが結構難しい。
 まず、体を維持するのに必要なエネルギーとは何だ? というところから始まる。当然王城の書庫に足を運んだが、そういう文献は一切ない。
 で、結果としてトライ&エラーという、人体に対して絶対やっちゃいけない方法で、現在開発しているのだ。因みに、その被験者は当然俺だ。
 前世のうろ覚えな生物の知識を頼りに試作魔法を創り、それを自身に試す。で、大抵の場合は何かしらの異常が出るので、その場合は一応少しだけ経過観察してから、魔法を解除し、魔法の耐性をフル解放することでその異常を消す。
 そんな常軌を逸脱した方法を、ここ数週間、気が向いた時にやっているのだ。
 そして、そんなことをしているとは夢にも思っていないであろうニナは、ただ魔法陣を展開し続けているだけのように見える俺を、不思議そうに見つめるのだった。

「レイン。そろそろ夕食を食べない?」

「ん? ああ、そうだな」

 暫くして、ニナに声をかけられた俺は魔法陣を消すと、上半身を起こして、ニナの方に向き直る。
 そして、無限収納インベントリの中から布に包まれた保存食――オーク肉の燻製を2食分取り出すと、その片方をニナに手渡す。
 無限収納インベントリの中の食べ物は腐ったりしないので、串焼きなどの美味しさ重視の食べ物でも良かったのだが、そのことを失念していたニナが燻製を大量に用意してきてしまったのだ。
 俺の無限収納インベントリの性質を思い出したニナは顔を赤くして恥じていたが、別に気にするほどのことでも無いので、気にするなと言ってあげた。
 そもそも、俺が普段食べている何の味付けもない焼肉なんかと比べれば、味の付いている燻製も美味しいの部類に入る。
 そんなことを思いながら、俺は無限収納インベントリから生肉を取り出し、シュガーとソルトに上げると、自身も燻製を齧り始めた。

 食事を終えた俺たちは、明日以降の予定についての話し合いを始めた。

「このペースで問題ないことが分かったから、明日は20階層まで行くわ。ただ、それ以降は流石に戦闘で少し時間がかかるようになってくると思うから、少しずつ減らしていくわ。そして、目標の50階層に到達したら、そこにある1階層までの転移魔法陣を使って戻るわよ。異論は?」

「なるほど。分かった。異論はない」

 ニナの立てた計画に、俺は同意を示す。

「じゃ、話は以上。早めに寝ましょう」

 そう言って、ニナは俺に背を向け、その場で横になる。

「あ、そう言えばここでは見張り役って必要ないのか? 寝込みを襲われる可能性も無くはないと思うのだが……」

 寝込みを襲い、金品を奪うのは冒険者殺しの常套手段の1つなのではないかと思った俺は、ニナにそう問いかける。

「ああ、その心配は無いわ。このテントの入り口に内側から魔力を込めて閉じとくと、その状態で誰かが侵入しようとしたときに大音量の警報が出る仕組みになってるの。だから問題ないわ。もっとも。沢山人がいる場所で、そんなことをしようと考える奴はいないけど」

「ほー便利なもんだんね」

 そんなことを言いながら、俺はしれっとこのテントの魔導具を解析する。
 ん……ああ、これなら俺でも作れそうだ。
 何かしらの天職のスキルが干渉しているようだが、問題ない。ちょっと無駄は生まれるだろうが、作れる作れる。
 まあ、これ作るぐらいだったら、神界で寝るけど。
 そんなことを思いながら俺も寝転がると、シュガーとソルトを抱きしめる。
 そして、意識を手放した。
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