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第三章

第二十一話 伝説(?)の王国最強魔法師

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 その後も、俺は過剰なまでに見つからないよう気を付けながら、アジト内の探索を続けた。
 そのせいで、”祭壇”がある部屋には入れなかったが……流石に仕方ない。ここを見るのは、後にすればいい。
 そうして探索を続けていたら、ようやく軍議が終わったようで、レイン殿下から連絡が来た。

「はい。会議は、無事終わったようですね」

 俺は即座にスライムとの”繋がり”を強化すると、そんな言葉を口にした。

「ああ、やはり知っていたか。という事は、会議の内容も知っていると見て問題ないか?」

「はい。そっちも聞いていましたので」

 レイン殿下の言葉に、俺は平然とそう言って頷いた。
 そう。実は俺、アジト内の探索をしながら同時並行で緊急軍議も聞いていたのだ。
 まあ、マルチタスクは得意だし、別に軍議は結論さえ頭に入っていれば、問題ないしね。
 しかも、俺が関わりそうな場所はほとんど無かったし。

「一先ず総力戦という事で、明日の朝、全戦力をシュレインの森へ集結させる運びとなった。シンは、その前に現在のアジトの防衛機構を調査して欲しい」

「あ、もう調べました」

「……ああ、そうだった。シンは、そういう人だったね……」

 レイン殿下の言葉にそう言うと、何故か天を仰ぎながらそんな言葉を言われてしまった。傍にいるファルスも、深いため息を吐いている。
 俺が一体、何をしたと言うんだよ……

「何か粗相でも働いてしまいましたか?」

「いや、全くそんな事は無いから、心配するな」

 さりげなく聞いてみたが、そんな事を言われてしまった。
 背後にいるファルス曰く、「自覚ねぇのかぁ……まあ、ねぇんだろうなぁ……」らしいが、俺にはよく分からない。
 ……っと。こんな事してる場合じゃ無いな。
 さっさと報告しないと。
 そう思った俺は、アジト内の構造、敵配置、敵戦力――そして幹部のザイールが蘇生されていた事を報告した。

「蘇生……だと? ネクロマンシーでは無く?」

「はい。アンデッド系では無さそうでしたし、ノワールの扱う魔法からも、蘇生されたとみて間違いないかと」

「なるほど。だが、様子からして大きな制限がありそうだ」

 おお、レイン殿下もやはりその結論に辿り着くか。
 なら、合ってるだろ。
 1つ問題なのは、その制限が何なのか……だな。
 ここで、俺はある1つの仮説をレイン殿下に話す。

「普通に考えて、一度離脱した魂を再び同じ体に戻すだなんて、どうやっても魂に強い負荷がかかる」

 だから――

「恐らく、蘇生できるのは1回……多くても2回かと思います」

「……なるほど。確かに筋は通る。1つの仮説として、頭に留めておこう」

「凄いなー……シン」

 俺の仮説に、レイン殿下は納得したように頷き、ファルスは感心の声を漏らした。

「さてと。それは置いといて、ノワール以外の敵も面倒だね。しかも、薬物過剰摂取オーバードーズで完全にその身を使い潰そうとしていると来た。……シン。奴らはもう残り少ない命だと分かっていながら、どんな感情をしている?」

「感情……。悲願を成し遂げられるとでも言いたげな顔、ですかね。殉教者のような振る舞いでした。そして、それは幹部も同じ。残る3人の幹部は摂取していないようですが、必要とあれば摂取するでしょうし、命も平気で捨てようとしている」

 俺は奴らの表情を思い浮かべながら、忌々しげにそう言った。
 自分の命を捨てようとする奴は――俺、マジで嫌いなんだよ。
 一度死に、この世界へ転生したからこその想いなのだろうか。
 それでは満足して、逝ける訳が無いって。

「……そうか。敵幹部は相当な実力者――それが命を捨てる気で挑むのは、こちらからしてみれば非常に厄介だ。だが、こちらもこちらで戦力は揃えてある。戦術も実際に戦ったイグニスから聞いたし、短期決着を選択すれば負ける事は無いだろう」

「はい。あと、トラップ部屋はどうしますか?」

 あの部屋を大人数で突破しようと思えば、結構な時間足止めされてしまう。
 そうなると、必然的に消耗させられ、最後に待ち受けているであろうノワールとの戦いがより絶望的となる。

「そこは、通例通り魔導特別隊の隊長に、正面から何もかも破壊してもらうつもりだ」

 そんな俺の言葉に、レイン殿下は何とも微妙そうな顔をしながらそんな言葉を口にした。
 魔導特別隊隊長――それは簡単に言えば、王国最強の魔法師であるという事を意味する。
 故に、頼りになると言えば頼りになるのだが……悲しいかな。何かが飛び抜けている人に限って、どこかがぶっ飛んでいるのだ。

「……因みに隊長……マーレネ伯爵は今どこに?」

「……『破壊したくなった』と言って、破壊用に買った廃屋敷を片っ端から破壊しているらしい。どこの街の廃屋敷かは、分からないけどね……」

 俺の問いに、レイン殿下はこめかみをぐりぐりしながら、小さくため息を吐いた。
 そう。魔導特別隊隊長ことマレーネ伯爵は重度の破壊衝動をその身に宿しており、そのせいで王城の維持費が一時期5倍になったのは、もはや伝説として語り継がれている。
 それで解雇や追放されないのは、本当にただただ強いから……という訳だ。

「さて、すまないがそろそろ行かないと。シンはアジトの様子を引き続き観察してくれ。ただし、夜はちゃんと寝るように。明日寝不足で戦えないと言われたら、流石に洒落にならないよ?」

「分かってますよ……」

 不眠不休で仕事する事が最近多くて、ちょっと信用されてないな……と思いつつ、俺はスライムとの”繋がり”を切るのであった。
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