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第三章
第十九話 緊急軍議
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シュレインの森で、巨大なクレーターとその中心にある巨大な闇の天柱。
それを目の当たりにした俺は、暫し固まった後……口を開いた。
「これ、どうしようか……」
正直、これを俺1人でどうこうできる気がしない。
ひと目見ただけで分かる、複雑奇怪な構成術式。そして、その中には当然のように干渉妨害術式と反転術式が相当数組み込まれている。
しかもこれは、専門家ではない俺でも見えた――見えてしまったもの。
専門家がこれを見れば、もっと絶望する事間違いなしだ。
「んー……術式に干渉して、防ぐのは不可のうという見ていいな。となると、本当にマジで”祭壇”をぶち壊すしか無いのか……」
ノワールの殺害という案を無意識に放棄しながら、俺は唸った。
「……”祭壇”の破壊……か。俺だけじゃ絶対無理だな」
”祭壇”を破壊されるのがマズいのは、ノワールが一番良く分かっている筈。なら、当然それに対する警戒も相当ものとなっている事だろう。
どれ程の罠が張り巡らされているのだろうか。
どれ程の人が待ち伏せているのだろうか。
そして、ノワールを振り切れるのだろうか。
「……ちっ なに弱気になってんだよ。やるしかないだろ、俺」
この世界で楽しく生き続けたい者として。
全員が強制で縛られるような――そんなディストピアみたいな世界にされるのは、流石に許容できないからね。
「……なら、俺は俺なりにやれる事をやって、レイン殿下の指示を仰ぐとしよう」
今すぐ事態解決の為に動きたいのは山々だが、現実問題俺だけで解決できそうなものじゃない。だったら、俺単独で動くのでは無く、レイン殿下の指示の元動いた方が確実だろう。
今、レイン殿下はスライムで視た感じだと緊急会議をしているようだし、それが終わったら聞いてみるとしよう。
それまでは、ひたすら情報収集だ。もしかしたら、何か有用な手がかりが見つかるかもしれないし。
「よし……やるか」
そう言うと、俺は奴らのアジトへ超ミニミニスライムを派遣するのであった。
◇ ◇ ◇
レイン・フォン・フェリシール・グラシア視点
一方その頃。
私は国王陛下へ即座に進言し、緊急軍議を開いてもらった。
緊急とて、本来であれば数時間ほど始まるのに時間を要するそれだが、今回ばかりは僅か15分で始める事が出来た。
そこには、元々多くの貴族がノワールの件で王城へ集まっていた事もあるが、何より女神エリアス教の教会に居る信者全員に神託が下された事が大きかった。
お陰で反対する者もおらず、むしろ積極的に行動してくれたのだ。
本当に、女神エリアス様様だね。
「急を要する故、挨拶は不要。アロネス枢機卿よ、女神エリアス様の神託を皆に聞かせるのだ」
会議室の中央奥に座られる父――国王陛下が、礼をしようとする貴族たちを手で制すと、即座にアロネス枢機卿へ話を振った。
それに対し、アロネス枢機卿は即座に先ほど私に伝えた言葉を復唱する。
すると、この場は流石に騒然となった。
無理も無い。神から、タイムリミットは明日の17時と言われたのだ。
私でも、内心恐怖で押しつぶされそうになっている。
「狼狽えるな! そなた等は民を導く貴族! いついかなる時も冷静であれ!」
すると、国王陛下がこの場に居る全員に向かって一喝した。
……凄まじい覇気。これが、国王――国の王なのか。
そんな覇気を前に、私は勿論の事、皆にも落ち着きが生まれて来る。
すると、ややあって国王派トップ――レティウス侯爵が口を開いた
「早急に、戦力をシュレインの森へ集結させる必要がありますね。ノワールが”祭壇”から離れる事が不可能な関係上、そうすれば確実に総力戦を仕掛けられます」
「そうですね。後は、国外にも連絡を取りましょう。神託が下った関係上、断るような真似はしない筈です」
私が昨日、シンから貰った情報を下にそう進言するレティウス侯爵の言葉に同意する、貴族派トップ――レリック公爵。
この2人が意見を統一した事により、他の貴族たちから反論は一切出てこない。
「後は、冒険者だ。先走らないよう伝えてあるが、神託の手前、そう長くは持たない」
「ああ。一刻も早く作戦を立てなければ……”祭壇”を破壊するアテ……いや、手掛かりは無いか? レーランド伯爵」
「はい。憶測にはなりますが、一応あります」
私の言葉に頷くのは、レーランド伯爵。魔法特別隊の副隊長を務めており、先の”祭壇”の魔法陣の術式解析における第一人者だ。
彼は複雑奇怪な魔法陣が描かれた羊皮紙をテーブルの上に広げると、口を開く。
「まず、この魔法陣は未完成の代物でした。ですので、赤いインクで書かれている部分は私が推測で書き上げたものになる事を、ご了承ください」
……確かに、8割黒で2割が赤で描かれている。
あの魔法陣をただ解析するだけではなく、足りない部分を推測で書き上げるなど、とてつもない事だ。
普段は抜けている所があるが、彼は本当の意味で天才だと再認識させられる。
「はい。あれから足りない部分を補ってみたところ、気になる部分を見つけまして……」
そう言って、レーランド伯爵はある一点を指差す。
……おや? どういう訳かそこだけ緑色で書かれている。
どういう事なのかと疑問に思っていると、レーランド伯爵が口を開いた。
「この部分だけ、どれだけ計算しても脆いのです。他の部分は、想像を絶する程緻密に干渉妨害術式や反転術式があるのに、ここだけ何も無い。故に、”祭壇”を破壊するのであればこの部分に該当する場所を狙うのがよろしいでしょう」
「ふむ……罠という可能性は無いのか?」
「いえ、これは完全術式のパラドックスにより生まれていると推定できる為、まずないでしょう。ですが、推定で書いた部分が大きく間違っている――また、ノワールが私の想像を遥かに上回る魔法師である事を考えると、完全に否定する事が出来ません」
国王陛下の問いに、レーランド伯爵はそう言って首を横に振った。
なるほど。確定ではない……か。
だが、これも信じないと本当に総力戦以外の案が無くなる。
一体どれほどの賭けに勝てば、いいのだろうか……
私は内心で天を仰ぎながらも、引き続き緊急軍議に参加するのであった。
それを目の当たりにした俺は、暫し固まった後……口を開いた。
「これ、どうしようか……」
正直、これを俺1人でどうこうできる気がしない。
ひと目見ただけで分かる、複雑奇怪な構成術式。そして、その中には当然のように干渉妨害術式と反転術式が相当数組み込まれている。
しかもこれは、専門家ではない俺でも見えた――見えてしまったもの。
専門家がこれを見れば、もっと絶望する事間違いなしだ。
「んー……術式に干渉して、防ぐのは不可のうという見ていいな。となると、本当にマジで”祭壇”をぶち壊すしか無いのか……」
ノワールの殺害という案を無意識に放棄しながら、俺は唸った。
「……”祭壇”の破壊……か。俺だけじゃ絶対無理だな」
”祭壇”を破壊されるのがマズいのは、ノワールが一番良く分かっている筈。なら、当然それに対する警戒も相当ものとなっている事だろう。
どれ程の罠が張り巡らされているのだろうか。
どれ程の人が待ち伏せているのだろうか。
そして、ノワールを振り切れるのだろうか。
「……ちっ なに弱気になってんだよ。やるしかないだろ、俺」
この世界で楽しく生き続けたい者として。
全員が強制で縛られるような――そんなディストピアみたいな世界にされるのは、流石に許容できないからね。
「……なら、俺は俺なりにやれる事をやって、レイン殿下の指示を仰ぐとしよう」
今すぐ事態解決の為に動きたいのは山々だが、現実問題俺だけで解決できそうなものじゃない。だったら、俺単独で動くのでは無く、レイン殿下の指示の元動いた方が確実だろう。
今、レイン殿下はスライムで視た感じだと緊急会議をしているようだし、それが終わったら聞いてみるとしよう。
それまでは、ひたすら情報収集だ。もしかしたら、何か有用な手がかりが見つかるかもしれないし。
「よし……やるか」
そう言うと、俺は奴らのアジトへ超ミニミニスライムを派遣するのであった。
◇ ◇ ◇
レイン・フォン・フェリシール・グラシア視点
一方その頃。
私は国王陛下へ即座に進言し、緊急軍議を開いてもらった。
緊急とて、本来であれば数時間ほど始まるのに時間を要するそれだが、今回ばかりは僅か15分で始める事が出来た。
そこには、元々多くの貴族がノワールの件で王城へ集まっていた事もあるが、何より女神エリアス教の教会に居る信者全員に神託が下された事が大きかった。
お陰で反対する者もおらず、むしろ積極的に行動してくれたのだ。
本当に、女神エリアス様様だね。
「急を要する故、挨拶は不要。アロネス枢機卿よ、女神エリアス様の神託を皆に聞かせるのだ」
会議室の中央奥に座られる父――国王陛下が、礼をしようとする貴族たちを手で制すと、即座にアロネス枢機卿へ話を振った。
それに対し、アロネス枢機卿は即座に先ほど私に伝えた言葉を復唱する。
すると、この場は流石に騒然となった。
無理も無い。神から、タイムリミットは明日の17時と言われたのだ。
私でも、内心恐怖で押しつぶされそうになっている。
「狼狽えるな! そなた等は民を導く貴族! いついかなる時も冷静であれ!」
すると、国王陛下がこの場に居る全員に向かって一喝した。
……凄まじい覇気。これが、国王――国の王なのか。
そんな覇気を前に、私は勿論の事、皆にも落ち着きが生まれて来る。
すると、ややあって国王派トップ――レティウス侯爵が口を開いた
「早急に、戦力をシュレインの森へ集結させる必要がありますね。ノワールが”祭壇”から離れる事が不可能な関係上、そうすれば確実に総力戦を仕掛けられます」
「そうですね。後は、国外にも連絡を取りましょう。神託が下った関係上、断るような真似はしない筈です」
私が昨日、シンから貰った情報を下にそう進言するレティウス侯爵の言葉に同意する、貴族派トップ――レリック公爵。
この2人が意見を統一した事により、他の貴族たちから反論は一切出てこない。
「後は、冒険者だ。先走らないよう伝えてあるが、神託の手前、そう長くは持たない」
「ああ。一刻も早く作戦を立てなければ……”祭壇”を破壊するアテ……いや、手掛かりは無いか? レーランド伯爵」
「はい。憶測にはなりますが、一応あります」
私の言葉に頷くのは、レーランド伯爵。魔法特別隊の副隊長を務めており、先の”祭壇”の魔法陣の術式解析における第一人者だ。
彼は複雑奇怪な魔法陣が描かれた羊皮紙をテーブルの上に広げると、口を開く。
「まず、この魔法陣は未完成の代物でした。ですので、赤いインクで書かれている部分は私が推測で書き上げたものになる事を、ご了承ください」
……確かに、8割黒で2割が赤で描かれている。
あの魔法陣をただ解析するだけではなく、足りない部分を推測で書き上げるなど、とてつもない事だ。
普段は抜けている所があるが、彼は本当の意味で天才だと再認識させられる。
「はい。あれから足りない部分を補ってみたところ、気になる部分を見つけまして……」
そう言って、レーランド伯爵はある一点を指差す。
……おや? どういう訳かそこだけ緑色で書かれている。
どういう事なのかと疑問に思っていると、レーランド伯爵が口を開いた。
「この部分だけ、どれだけ計算しても脆いのです。他の部分は、想像を絶する程緻密に干渉妨害術式や反転術式があるのに、ここだけ何も無い。故に、”祭壇”を破壊するのであればこの部分に該当する場所を狙うのがよろしいでしょう」
「ふむ……罠という可能性は無いのか?」
「いえ、これは完全術式のパラドックスにより生まれていると推定できる為、まずないでしょう。ですが、推定で書いた部分が大きく間違っている――また、ノワールが私の想像を遥かに上回る魔法師である事を考えると、完全に否定する事が出来ません」
国王陛下の問いに、レーランド伯爵はそう言って首を横に振った。
なるほど。確定ではない……か。
だが、これも信じないと本当に総力戦以外の案が無くなる。
一体どれほどの賭けに勝てば、いいのだろうか……
私は内心で天を仰ぎながらも、引き続き緊急軍議に参加するのであった。
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