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第三章

第十五話 女神エリアスとの会合

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神々しい光を感じる。
不思議な気配を感じる。
痛みは――もう、感じない。

「……んん?」

ゆっくりと目を覚ました俺は、そっと上半身を起こすと周囲をぐるりと見回した。
そして呟く。

「……どこ、ここ?」

自分が居るのは、辺り一面純白の世界。
地平線すらもよく見えず、混乱してしまいそうだ。

「……なんだ。夢か」

そうだ。こんなの現実じゃあり得ない。
そもそも俺は、王城の回復術師の所へ連れていかれた筈だ。
そんな俺が、ここに居るなんてありえない。
それにしても、夢を見ていると分かる夢……明晰夢だなんて、初めて見るな。
何とも、不思議な感覚だ。
そう思いながら、俺は再び上半身を床に降ろすと、意識を手放――

「あの、起きてくれませんか?」

「……ん?」

なんか居た。
再び上半身を起こして確認してみると、そこには美しい美女が居た。
極上の絹を思わせるような白く長い髪。一番星のように綺麗な金の瞳。豊満な体型と、それを優しく覆う白い法衣。
本当に見た事無い程美しい――だが、不思議と欲情はしない。
何かが違う……何かが合わない……といった感じだろうか。
そう、冷静に考えていると、その美女は口を開いた。

「では、取りあえず自己紹介を。私はエリアス。貴方が今住まう世界の神です。用がありまして、貴方をここへ連れてきました」

格が違う。威厳がある。
その佇まいに俺は魅了されながらも、今伝えられた情報を飲み込んでいく。
……なるほど。エリアスか。そして神……

「神!?」

祝福ギフトがある以上、居るとは思っていたが、まさか実際にこうやって目にする機会が出て来るとは思いもしなかった。
偽物の可能性……も、一瞬頭をよぎったが、”存在の差”という物を魂で感じて、その考えはすっと胸の奥底へと沈んで行く。
すると、この美女――女神エリアスは言葉を続けた。

「まずは、世界のシステムの不具合により、貴方に与える祝福ギフトがF級になってしまった事を、お詫びします」

「そうか……本当は、何が貰える筈だったのですか?」

「S級……です」

女神エリアスの言葉に、俺は名状しがたい複雑な感情を抱いた。
S級じゃなくて悔しい……訳でも無い。だけど、S級だったら、良かったのかなぁ……と。
色々な感情が渦巻くが、結局はこうだ。

「もしあそこでS級だと判明したら、俺はガリアのクソ元父によって、駒みたいに使われていたのがオチだ。しかも、完全にあの家は泥船だったみたいだしな。だから、むしろF級だった事には感謝すらしている。お陰で、こうして何にも縛られずに生きていられるのだから」

「……それなら、良かったです」

俺の言葉に、女神エリアスはほっと安堵の息を吐いた。
すると、ここでふと俺の中にある疑問が浮かび上がる。

「ああ。……あ、そう言えばここに連れて来たと言ったが、何故このタイミングで? この話ならもっと前……俺が祝福ギフトを受け取った直後にしても良かったと思うのですが……?」

そんな俺の問いに、女神エリアスは目尻を下げると口を開いた。

「私にも色々とある都合上、事情を知ったのはつい数か月前なのです。そして、このように神が人間へ言葉を伝える”神託”は、私の像がある教会でなくてはなりません。それで今回、貴方が王城内の教会へ治療の為に連れてこられた事で、”神託”が出来るようになったという訳です」

「なるほど。そういう事か……ありがとうございます」

詳しく教えてくれた女神エリアスに、俺はぺこりと頭を下げる。
すると、女神エリアスは「もう時間がっ……」と言葉を漏らした後、口を開いた。

「貴方は――いえ、貴方たちは今、600年前の希望であった英雄――ノワールと戦っているのは知っていると思います。そこで、その事について貴方にいくつか、話しておきたい事があります。過干渉の関係上、全て話せない事はありますが、どうか最後まで聞いてください」

そう前置きして、女神エリアスは話を始める。

「今のノワールは魂を”祭壇”とリンクさせる事によって魂を固定し、生き永らえています。故に、ノワール本体を倒すよりは、そっちを狙う方が確実です。600年前の時点であの実力――今では、まず勝てないでしょう」

なるほど。そう言う感じなのか。
ノワール本体と戦って勝てるビジョンが一切見えなかったから、別の攻略法を教えてくれたのは結構ありがたいな。多分現状、それしかノワールを倒す手段は無い訳だし。

「そして、ノワールはその関係上、”祭壇”から離れる事が出来ません。いえ、出来ますが、離れたら死んでしまいます」

ほうほう。
つまり、強制転移でノワールを強制的に”祭壇”から引き離すのもありって事か。
ただ、そっちは結構対策されてそうだなぁ……

「はい。そして、これ以上は……すみません。やはり、世界規模の事柄へは”世界秩序の崩壊”の未来が確定するまで説明できません。それに、もう時間も無いようなので……」

「あ……」

気付けば、この純白の世界はボロボロと崩壊し始めていた。
どうやら”神託”には時間制限があるようだ。
すると、女神エリアスはくるりと後ろを向き、最後にこう言った。

「私は、ずっと――人間を大切に想っています。ですから、大勢の人間が死ぬのは――耐えられないのです」

顔は言えないが、涙ながらに言っているのが伝わって来る。
そう思った瞬間、世界は崩れ、俺の意識は途絶えた。
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