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第三章

第十一話 世間一般の主人公がする戦い方じゃ無い気がする

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 残る3人の幹部の1人――ザイールを直接倒すと決めた俺は、即座にザイールの近くに居るスライムに視覚を移した。

「……我が”主”のニーズヘッグが倒されたせいで、物資搬入も高頻度で潰されるようになってしまった。……ちっ 無知蒙昧な愚民どもが。盲目的に神を信じて、反吐が出る」

 そこには、悪態を吐きながら下水道を歩くザイールの姿があった。
 パッと見、この状況なら普通にスライム引っ付けてからの魔法石ブッパでやれそうだが……こいつ、ポケットに片手を入れながら歩いているな。
 恐らく、奇襲された瞬間にその中に入っているであろう防護衣シールド・クロス等の魔法石を砕いて、即対応出来るようにする為だろう。
 見てて何となく察してたけど、やっぱとてつもなく警戒されてるよね~

「……まあ、やってみるか。逃走経路は持ってるし、自分自身の成長と天秤にかければ、割と分のいい賭けだ」

 と、自分が戦闘狂では無い事を全力で否定しつつ、俺は魔法石を手に持つのであった。

 ◇ ◇ ◇

「……まあ、予想通りには行かないが、準備は着々と進んでいる。当初の予定と比べれば、これでもずっと早いんだ」

 ぶつぶつと独り言を言いながら、物資を回収し続ける”祝福ギフト無き理想郷”の幹部ザイール。
 ザイールは、常に”不満”だった。
 平等に評価してくれない世界に。
 正しき行いが認められない世界に。
 そして――害悪にしかならない神に。

(……だが、俺に抗う術は無い。でも、”主”にはある。だから俺は、”主”に全てを捧げる。今も――そしてこれからも)

 ザイールはそうして、”主”への忠誠をより一層昇華させた。
 その――次の瞬間。

 ゴウッ!

「なっ!?」

 背後に突然、爆炎が広がった。
 だが、それと同時にザイールは防護衣シールド・クロスの魔法石を砕く事で、自身へのダメージを大きく削ぐ。

「くっ 万物を燃やす炎よ、我が身に――」

 その後、大きく前方へと跳んだザイールは、身体を後ろに向けると、即座に詠唱を始めた――だが。

「させないよ」

 パキッ

 空間の揺らぎと同時に、自身へ向かって放たれる3本の雷槍サンダーランス

「くっ」

 それを前にしては、流石のザイールも詠唱を中断し、横へ跳んで緊急回避せざるを得なかった。
 やがて爆炎による煙が晴れ、姿を現したのは――

「んん?」

 10歳になったかどうかにしか見えない、子供だった。
 だが、その瞳は子供のそれでは無く、明らかに”狩る者”の眼。
 それを見抜いたザイールは、一切の油断なく口を開く。

「何者だ。子供であろうと、我ら”祝福ギフト無き理想郷”の邪魔をするのであれば、容赦しないぞ。今ならまだ、見逃してやる」

 子供を問答無用で殺したくは無い。
 そんな、ザイールの”人の心”が現れた言葉に。
 眼前に佇む子供――シンは口を開いた。

「俺は、お前を殺しに来たんだよ。君のお仲間――ギルオを殺したみたいにね」

 そう言ってシンが右手に掲げるのは、使い古された1本の短剣。
 それを目にしたザイールは、時が止まったかのように凍り付く。

「それは、ギルオの短剣……!」

 絞り出すように、ザイールはそう言葉を紡いだ。
 確定だ。
 この子供が――いや、こいつが、”主”にとって大切な部下であるギルオを殺したんだ!

「ふざけるなああ!!!!!」

 気付けば、ザイールは憤激の表情を浮かべながら駆け出していた。
 そして、サブの武器である2本の短剣で、シンの命を狩ろうとする。

「キレるな。禿げるぞ」

 だが、シンは冷静に向かってくるザイールを冷静に見据えると、右手に持っていた短剣をザイール目掛けて投擲した。
 恐ろしいほど正確に、心臓を穿つ軌道で投げられたそれを、ザイールは邪魔だとばかりに左の短剣で弾き飛ばした。そして、右の短剣でシンの顔を貫こうとする。

「はっ!」

 刹那、シンの姿はザイールの眼前から忽然と姿を消していた。そして、右の死角からミスリルの剣が突き出て来る。

「っ!? ぐっ!」

 だが、ザイールは寸での所で身を引き、大きく左へとびずさった。

「ちっ……」

 右脇腹から流れ出る血。
 それをすかさずポーションで癒しながら、ザイールは冷静にシンを見据えた。

(ちっ 俺とした事が、こんな外道みたいな罠に嵌るとは……)

 仲間を殺した事を分かりやすく表現し、怒らせる事で我を失わせ、隙を作って仕留める。古典的だが、今回はやり方がお手本のように上手かった。

「爆炎よ、焼き尽くせ!」

 考えは一瞬。
 ザイールはシンに考える暇を与えぬよう気を付けながら、シン目掛けて爆炎を放出した。
 直後、揺らぐ空間――それをに知覚できたザイールは、自身の十八番たる炎を纏う魔法――炎天甲鎧ブレイズアーマーの詠唱をしながら、短剣をそこへ振り下ろす。

 キン!

「ぐっ!」

 直後、予想通りの場所へ転移してきたシン目掛けて振り下ろされる2本の短剣――だが、対処される事はシンも予想していたようで、浅い切り傷は与えられたものの、上手く受け流されてしまう。
 しかし、ここで――

「――纏え。はあああ!!!!」

 ザイールの詠唱が、完了してしまった。
 刹那、ザイールを包み込む爆炎。

「うっ!」

 それにはたまらず、シンも大きく後ろへ後退した。
 だが、それ幸いとばかりに、ザイールは身体強化ブーストの魔法石も割ると、シンの後を追う。
 シンの耐久力では、触れただけでも大きなダメージとなる炎――この間合いでは、圧倒的不利。
 すると、ここで予想だにしない展開が起こる。

「毒とか、どうだ?」

 ブシュ――

 突如、シンの目の前に散布される毒々しい色の煙。

(これは……毒!?)

 それが、爆炎によって一瞬で気化された毒であると悟ると、ザイールは鼻と口を即座に抑え、後ろへ退く。

(ちっ 耐性あるし、そんな吸ってないのに少し痺れたな)

 かなり強力な毒――だが、恐らくシンは無事だ。元々耐性があるか、あるいは予め解毒剤を口に含んでいるかだが――まあ、後者の方が濃厚だろう。
 そう判断しながら、ザイールは一先ず散布された毒を消そうと、口と鼻を押さえたまま、前方目掛けて爆炎を放とうとした――次の瞬間。

「っ! そこか! 爆炎よ、焼き尽くせ!」

 自身の右側にシンが転移したと、またもやに知覚したザイールは、即座にそこ目掛けて爆炎を放つ。

「よし――」

 転移直後。戦い方からして、防護力は皆無。
 これは確実に殺った――そう判断し、口元が緩んだ――次の瞬間。

 ザン!

「が、はっ……!?」

 後方から突き出されたミスリルの剣が、ザイールの首を深く斬ったのだ。

「放、て!」

 だが、反射的に首を傾けた事で、即死ではない。
 そんな中、ザイールは反射的にそこへむかって炎天甲鎧ブレイズアーマーの炎を放出する。
 これで今度こそ撃破――かに思われたが。

「無駄だったな。それは、転移門ゲート越しの斬撃だ」

 毒煙が晴れた前方から、悠然と歩み寄って来るシン。
 そして、とどめとばかりに短剣が放たれる。

「が、はっ……!」

 それはザイールの心臓を貫き、今度こそ確実な死をもたらすのであった。

(”主”……申し、わけっ……)

 そこで、ザイールの意識は途絶えた。
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