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第三章

第七話 ニーズヘッグvsスライム軍団

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「蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ――!!!」

 足元に突然出現した大量のスライムに、ニーズヘッグは思わず手を止めると、そこへ視線を向けた。

「よし。やれ!」

 その僅かな隙を利用して、俺はスライムを他のスライムの所へ”召喚”する能力を悪用した高速移動術で、一気にスライムたちをニーズヘッグに纏わりつかせる。

「驍ェ鬲秘が鬲秘が鬲秘が鬲秘が鬲秘が鬲秘が鬲秘が鬲――!」

 すると、ニーズヘッグはまるで苛立ったように咆哮を上げた。
 直後、ニーズヘッグの身体が紫色のオーラに覆われる。

「来たか。魔力吸喰マジックイーター

 周囲にいる、あらゆる魔力を喰らう――奴の代名詞とも呼べる能力。
 シンプルながら、その能力は桁違い。
 あいつの前に立てば最後、一瞬で魔力を枯渇させられ、それにより命を落とすのだから。
 だがな。

「それ、スライムには効かない――いや、意味ないよ?」

 俺は、にやりと笑ってそう言った。
 そして、その言葉通りスライムたちは――

「「「「「きゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅ――っ!」」」」」

 何のこれしきとばかりに、ニーズヘッグへ襲い掛かっていた。

「驍ェ鬲秘が鬲秘が鬲秘が鬲疲ュサ繝肴ュサ繝肴ュサ繝肴ュサ繝――!」

 すると、より一層苛立ったようにニーズヘッグは爪を襲い掛かってくるスライムたちへ振るった。だが、それはあえなく空を斬る。
 だって、俺が”召喚”で、すかさず避難させたから。
 ああ、そうそう。それで、何故スライムに魔力吸喰マジックイーターが意味をなさないのかって話だが……

「……生きた生物の保有魔力をゼロにするのは不可能なんだ。どうやっても、どれだけ完璧にやっても、僅かながら残る。ジレンマってやつだね」

 何故こうなるのか、理論的に説明しろと言われても分からない。
 ただ、何となく頷ける話だよね。

「で、スライムが活動する為に必要な魔力量は――馬鹿みたいに少ない。それこそ、ニーズヘッグが喰らって余る魔力量よりも」

 そう。これが無効化のカラクリ。
 スライムという、魔石すら持たない程魔力量の少ない魔物だからこそ、実現できる動きだ。

「さあ、ここからは我慢比べだ。俺が疲労でぶっ倒れるのが先か、お前が溶かされるのが先か。――もっとも。俺はここ最近ハードワークだったお陰で、随分と徹夜には慣れてるぞ? しかも、今は装備も万全だ」

 そう言って、俺はいくつもの魔法石を手に取った。
 そして纏めて砕く。
 直後、ニーズヘッグの翼の付け根を溶かしにかかっていたスライムから、雷の槍がいくつも放たれ、ほんの僅かながらもニーズヘッグに傷をつけた。

「手持ちの中で、一番貫通力のあるやつでもこれか……だが、いい。あそこを起点に溶かしてやる」

 現状一番面倒なのは、飛ばれてしまう事。
 勿論1匹でもニーズヘッグに引っ付いていれば、残り全てもそこへ”召喚”出来るから、飛ばれても攻撃できなくなるって訳では無いのだが……攻撃速度は格段に落ちてしまう。
 だったら、それを先にぶっ潰してしまおうって訳。

「驍ェ鬲秘が鬲秘が鬲秘が鬲疲ュサ繝肴ュサ繝肴ュサ繝肴ュサ繝――!」

「「「「「きゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅ――っ!」」」」」

 ニーズヘッグ側も、スライムたちの事を”どうでもいい雑魚”から”面倒な奴ら”と認識を変えたのか、ニーズヘッグからの攻撃がより苛烈になった。
 だが、苛烈になった所で俺の”召喚”を前には無力。
 結果、ニーズヘッグはスライムを1匹も殺す事が出来ないまま、少しずつ少しずつ、その身を溶かされていった。

「ただ、これ……マジでどんぐらい掛かるんだろうなぁ……」

 圧倒的な手数でゴリ押してる感はあるが、実際の所、そこまで目立ったダメージは与えられていない。
 そりゃそうだ。なんてったって、相手は厄災ニーズヘッグ。”六英雄”――そして当時のノワールの力を持ってしても、倒しきれなかった相手だ。
 相性が良いからって、楽に倒せる程、こいつは甘くない。

「だが、いいぜ。折角手札を晒したんだ。他の奴らが恐れ慄く程の戦果を上げてやるよ!」

 それでも、俺は吠えると長い長い戦いに、挑み続けるのであった。

 ◇ ◇ ◇

 レイン・フォン・フェリシール・グラシア視点

「くっ……おい! ジェノスと至急連絡を!」

 シンとの連絡が切られた瞬間、私は文官へ指示を飛ばしていた。

「は、はっ 至急確認いたします」

 文官たちはそう言って、慌てるようにジェノスへ魔導通信を送り、連絡をする。
 すると直後、1人の文官が口を開いた。

「ジェノス領主館から暗号信号を受信いたしました! 解析したところ、巨大なドラゴンが襲い掛かって来て、街が一瞬で半壊したとの事です。また、領主館も危険で、これ以上の連絡は不可能との事」

「そうか。……くっ」

 文官からの報告に、私は思わず悪態を吐く――が、次の瞬間。

 コンコン

「レイン殿下。イグニスです」

 先ほど緊急で撤退させたイグニスたちが、戻って来たのだ。

「入ってください」

 それに対し、私は即座に入室を許可する。
 すると、イグニス含めた5人が、部屋に入って来た。

「ご報告がございます。戦いの末、敵幹部1名を撃破。しかし、それによりフォーゲルトが左腕を失い、緊急治療を受けております」

「そうか……分かった。すまないが一刻も早く、イグニスとノイの2人でジェノスの様子を見て来て欲しい。そして、直ぐに戻って来て報告を。ノックはいらん。ただし、遠目からだ。絶対に、近づかないで欲しい」

 イグニスからの報告に、私は頷くと直ぐに次の命令を飛ばした。
 労いたいが、今は時間が無いんだ。すまない。

「はっ では、即座に向かわせていただきます。……ノイ」

「はっ かの空間へ送れ」

 直後、私の目の前からイグニスとノイの2人が消えた。
 頼む。どうか生きて、情報を拾ってきて欲しい。
 私がそう、願い続ける事10分後――

「レイン殿下。只今戻りました」

「只今、戻りました」

 王城内へ直接転移する事が不可能な関係上、王城の外に転移する事で戻っていた2人が、私の前に姿を現した。
 そして、即座に報告を始める。

「レイン殿下……そこには、悍ましい巨大なドラゴンが居て、街を破壊しておりました」

「そうか……」

 イグニスからの報告に、私は思わず顔を歪めてしまった。
 だが、続けて発せられた言葉に、私は唖然とさせられる事となる。

「ですが、何十万匹とも思える大量のスライムが、群れをなしてそのドラゴンに襲い掛かっておりました。しかも、戦況はほぼ互角でした」

 真面目な顔で、そんな事を言うイグニス。だが、その内心が驚愕で彩られている事は、顔と声音を見れば明白だった。

「スライム……まさか――」

 私はここで、はっとなった。
 そのような状況を作れるのは、状況からして彼しか居ない。
 まさか――本当に彼が戦っているというのか?

「す、すみません。もしかしたら、幻術を見せられているかもしれませんが……」

「いや、それこそまさかだ。それに、私には1つ心当たりがある。だから、現実だ」

 何が起こっているのか分からない。
 だが、今はそれに縋るしかない。
 連絡が付き次第、シンから詳しい話を聞かないといけないね。

「……よし。こちらはやるべき事をやろう。一刻も早く、ノワールを止める為に」

 そう言って、私は再び動き始めるのであった。
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