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第三章

第六話 ニーズヘッグ

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 悍ましい、禍々しいとしか言いようがない、黒い身体を持つドラゴン。
 体長は100メートルになるだろうか。どっからどう見ても、普通のドラゴンじゃない。
 絶対ヤベー奴だ。

「いや、待て待て待て……それは聞いてねーぞ……?」

 ちょ、あいつどっから出て来たんだよ!
 シュレインの森から、いきなり出て来たぞ?
 ……ん? シュレインの森?
 ”祝福ギフト無き理想郷”の本アジト、漆黒の魔法師ノワール……

 ……うん。

「絶対ノワールおまえじゃないかー! 何してくれてんのお前!? ……しかも、こっちに向かってきてるー!」

 絶対幹部たちへの援軍だよと、俺は猛烈に頭を抱えたい衝動に駆られてしまう。
 いやー……見るからにあのドラゴン、只者じゃ無いって。
 絶対強いって。なんかもう、見るからにヤバい雰囲気がぷんぷんしている……

「流石にイグニスでも勝てんって……ちょ、取りあえず緊急でレイン殿下に連絡するか」

 あれは流石にヤバいと思った俺は、緊急でレイン殿下に連絡を取った。
 幸いな事に、今レイン殿下は連絡待ちの為、スライムを手元に置いてある。
 俺はスライムとの”繋がり”を強化すると、口を開いた。

「レイン殿下。緊急の要件です」

「っ! 分かった。簡潔に説明してくれ」

 俺の焦りを感じ取ったのか、レイン殿下はそう言った。
 それに対し、俺は言われた通り簡潔に説明する。

「はい。シュレイン上空に突然、体長100メートルはある、黒く禍々しいドラゴンが姿を現しました。そしてそいつは、かなりの速度で幹部と戦うイグニスたちの下へ飛んでいます。到着まで、あと5分程って所かと」

「そうか。状況からして、ノワールが仕向けたのだろう。それで、ドラゴンの特徴は? もしかしたら分かるかもしれない」

「はい。悍ましく、禍々しいとしか表現できない姿。血のように赤い瞳。角は8本。額に紫色の六角形の宝玉のようなものが埋め込まれています。あと、鳴き声が非常に独特で、それもまた、悍ましいとしか表現できないものでした」

 俺は素早く、思った事を口にしていく。
 すると、レイン殿下の目があらん限りに見開かれた。
 直後、ガタッと立ち上がると、「少し待っててくれ!」といって、部屋の本棚を乱雑に漁り始めた。すると十数秒後、1冊の本を持ち出してきた。
 そして、パラパラとめくると、ある所で手を止め、俺にそこを見せてくる。

「シンが見たのはこいつか?」

「……! はい、そうです」

 俺はあらん限りに目を見開いた後、頷いた。
 まさか……こいつだったとは。
 俺は、絵の上に書かれている奴の名を紡ぐ。

「……ニーズヘッグ。嘗て世界樹を喰らった厄災。何故、まだ生きて……?」

「こいつは伝承によると、”六英雄”によって封印されたと言われている。つまり、討伐はされていないって事だ」

 歴史による裏付け。そして、姿形。
 どうやら……本当に、あいつはニーズヘッグなのだろう。
 俺が顔を青ざめさせる中、レイン殿下が声を上げる。

「落ち着け、シン。一先ず、イグニスたちを撤退させよう。他にも準備だ。伝承通りの強さなら、全戦力を投入し、そこに国宝である”六英雄”が遺した魔道具を使えば……」

 事態のヤバさを理解しながら、冷静に指示を飛ばすレイン殿下。
 流石……だな。
 だが、その顔には「勝つのは無理だ」という思いが、ありありと浮かんでいるのが見て取れてしまった。聡明故に、結果が見えてしまうというやつだろう。

「分かりました。俺は何を?」

「シンは引き続き、従魔を通してニーズヘッグの動向を追ってくれ! ファルスが過労で倒れた今、直ぐに動かせるのはシンしかいないんだ!」

「ちょ――」

 マジかよ!?
 ちょ、ファルスなに倒れてくれちゃってんの!?
 この緊急事態に!
 だが、動けないのなら仕方ない。嘆くのは無駄だ。

「よし。徹底してくれ」

 イグニスがそう言った直後。

 リンリンリンリン――!

 イグニスたちの方から、大きなアラーム音が聞こえて来た。
 なるほど。言葉で伝えるより、こうした方が速いし確実だな。

「な!? ――撤退!」

 戦闘の最中、イグニスが声を上げた。
 直後、2人の空間属性魔法師が動く。

「「かの空間へ送れ」」

 直後、イグニス含む6人が、一斉にその場から姿を消した。
 やっぱ強者は、判断が速いな。
 すると、いきなりの撤退に戸惑い始める幹部たち。

「え? 何があって……?」

「取りあえず、一旦アジトへ転移するぞ。……ゼクシスの死体は、持ってくか」

「だねだねー ……かの空間へ送れ」

 だが、やはりこちらも判断が速い。
 直ぐに転移魔法で、アジトへと戻って行った。
 その直後。

 ドオオオオオオン――!!!

 下水道の天井が破壊され、ニーズヘッグが姿を現した。

「蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ――!!!」

 そして、悍ましい咆哮を上げる。
 ちっ どうやらノワールに結構細かい所まで、命令されてたっぽいな。
 俺はテイマーとして、眼前にいるニーズヘッグを見据える。

「……流石にこいつは、止めとかないとマズいな」

 恐らくこのまま、こいつは全てを蹂躙する気だ。
 完全にノワールの下についていないように見えるのが、その証拠だ。
 本能のまま、破壊されるのは……流石に止めないと。
 俺はまだ、死にたくないんだ!
 この世界で、冒険がしたいんだ!

「……幸いな事に、恐らく俺とニーズヘッグの相性はいい」

「……シン?」

 俺の言葉を聞き、レイン殿下が絞り出すように声を漏らした。
 そんな珍しい表情をするレイン殿下に、俺は言葉を紡ぐ。

「レイン殿下。俺が、ニーズヘッグの足止め……いや、殺します」

「なあ、流石に無謀だぞ、それは……!」

 俺の言葉に、レイン殿下は窘めるように言う。
 ああ、だろうな。
 だがな、やりようはあるんだよ。

 余談にはなるが、軍隊アリっていう、人や大型動物をも殺すアリが、地球には存在しているらしい。

 これから俺がやるのはまさしくそれ。
 まあ簡単に言えば、前やったやつの超強化版だ。
 あの時は相手の数が多かったせいで、考える事が多かったが……今回は1匹。
 十分、相手出来る。

「レイン殿下。それじゃ、やりますね」

「な、待て――」

 そう言って、俺はスライムとの”繋がり”を打ち切った。
 そして、周囲に居る人間を片っ端から爪で斬り裂いていくニーズヘッグを見やると、口を開いた。

「あの日家を出た時から、今日で3か月程経った。腕も更に上がり、スライムの数も、一気に増やせた」

 ああ、結構な激戦になるだろうな。
 だが、不思議な事に、負ける気がしない。
 なんでだろうね。相手は、厄災のニーズヘッグなのに。
 まあ、それはどうでもいい。

「きゅきゅ!」

「ああ、頑張るよ」

 俺は応援してくれるネムを撫でると、溶解液を出せない超ミニミニスライム等を除いた全てのスライムを、いつでも召喚できるようにした。
 そして、右手を掲げると、ニヤリと笑い、口を開く。

「100万匹のスライムと1匹のドラゴン。どっちの方が強いか、試してみるか?」

 直後、100万匹のスライムが、ニーズヘッグの足元に姿を現すのであった。
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