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第三章

第五話 厄災顕現

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「よし。倒したか」

 無事……とは言えないが、幹部の1人が倒れた事をこの目で確認した俺は、小さくガッツポーズを取った。
 よしよし。幹部を1人倒せば、一気に戦況はこちらへ傾く。
 フォーゲルトは片腕しか無いせいで、混ざるのは難しいが、空間魔法師であるノイの護衛ぐらいは出来る。そして、フォーゲルトに守られながら、ノイがチクチク殺意の高い空間魔法で攻撃すれば、相手は相当嫌がるだろうなぁ……

「で、次は反対側で戦っている幹部を潰したいのだが……」

 超常戦闘をしているイグニスたちを無視して、反対側で戦っている幹部の方に視覚を移した俺は、頬を引き攣らせた。

「はああああっ!!!!」

「うおおおおお!!!!!」

 そこでは、ドンパチやり合う2人の姿。そして、後方ではイグニスに強化魔法を全力で施す無属性魔法師と、空間断絶結界ラプチャー・フィールドを展開する空間属性魔法師が居た。

「ドンパチやり合う分にはいいのだが……あの幹部、スライムとの相性最悪じゃね?」

 そこで戦う”祝福ギフト無き理想郷”幹部――ザイールは、なんと全身に炎を纏わせながら、拳で戦っていたのだ。
 見たところ、中級火属性魔法炎衣フレイムクロスの独自改造版といった感じだが……あれじゃあ、スライムを近づけさせる事すら出来ない。

「スライムで倒すとなると、必然的に魔力切れを待つ羽目になるが……そんなの待ってらんないし……」

 どうせ魔力回復薬でも持ってんだろうなぁと思いながら、俺はどうしたもんかと思考を巡らせ始めた。
 そんな、時だった。

「……待て。なんだあれは?」

 シュレインに配置しているスライム越しに、俺は見た。
 禍々しい姿をした、巨大なドラゴンを――

 ◇ ◇ ◇

 シュレイン近くの森にある、本アジトにて。
 そこで、計画の最終準備に入っていたノワールが、ピクリと体を揺らした。
 そして、目を見開きながら声を落とす。

「馬鹿な……ゼクシスが死んだ……」

 そう。ゼクシスの死を感知してしまったのだ。
 ノワールはすかさず観察者オブザーバーを行使し、ゼクシスが居た場所を見やる。
 そこには空間断絶結界ラプチャー・フィールドが重ねがけされており、普通であれば見えないが――生憎ノワールは普通ではない。故に、これくらい何の問題も無く、中を見る事が出来るのだ。

「……くっ」

 そこには、見るも無残な姿で倒れているゼクシスの姿があった。
 予想通り……もう、救えない。あの魂では無理だ。
 そんな現実を前に、ノワールは「なんの為の蘇生魔法だ……!」と、顔を歪めるが、直ぐに今はそれどころでは無いと、他3人の幹部を見やる。

「……ほぼ互角。だが、ゼクシスがやられた事で不利になった。俺が、手を出さねば……だが――」

 今それをするのは、自らの居場所をバラしかねない危険な行動だ。

(しかも、ここまで進めた状態で下手に動くと、女神エリアスにが見つかる可能性が出てくる。そうなれば、俺の敗北は確定だ)

 ノワールは最終目的の為、幹部たちをこの場で直ぐに救出できない事に苦虫を潰したような顔になる。

「……やるしか、無いのか……」

 だが、この状況で打てる手が無いという訳では無い。
 あくまでこれは、自分自身が介入しなければ良いという事なのだから――

「だがこれは流石に……流石にこれを出すと、無辜の民も大勢死ぬ。が、それでも……」

 ノワールは、悩む。とにかく、悩む。
 だが、先を考えて――仲間を想って――決断をした。

「すまない。やろう」

 そう言って、ノワールが転移したのはアジトのすぐ外。
 そこで、ノワールは手を掲げると、詠唱を始めた。

「封印を解け――解放リリース。我が従魔。我が意に応えよ――”召喚”」

 直後、後方空中に出現する超巨大な漆黒の魔法陣。
 そこからゆっくりと、悍ましい何かが出ていく。

「深紅の剣士ルージュ、白金の騎士ブラン、翠緑の賢者ヴェールと共に封印した、嘗て大陸中央の世界樹を喰らっていた厄災。こいつを解き放てば、問題ないだろう」

 600年の時を経て、この世に顕現するのは、”六英雄”3人とノワールを以てしても倒しきれず、暗黒絶対領域アドミニストレータと召喚魔法の複合技で封印せざるを得なかった伝説の魔物。
 自然の化身とも呼べる世界樹を喰らい続けた厄災。

 その名も――ニーズヘッグ。

「”テイム”の祝福ギフトのせいで廃れてしまった召喚魔法。久々に使うが、衰えていないな」

 そんな事を言う間にも、ずずずと魔法陣から出てくるのは禍々しい漆黒のドラゴン――ニーズヘッグ。
 やがて、完全に姿を現した所で、ノワールはある命令を下した。

「ニーズヘッグよ。このまま真っ直ぐ行き、全てを蹂躙しろ。ただし、俺が今お前に念話で送った顔の人間は俺の仲間――絶対に殺すな」

「蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ蝟ー繝ゥ繧ヲ蜈ィ繝?Υ――!!!」

 ノワールの命令に、ニーズヘッグは悍ましい咆哮を上げると、勢いよく飛び出すのであった。

「600年前にあいつに殺されたのが推定4億人だから……人多い場所だし、今回だけでも1000万は確実か」

 とんだ化け物だと息を吐きながら、ノワールは”祭壇”へと戻るのであった。
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