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第三章

第四話 幹部ゼクシスvs王国精鋭(と、俺)

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 勝利の為、介入する事を決めた俺がまず目を付けたのは手前側で戦っている方だった。

「おらあああっ!」

「はああああっ!」

 そこでは、白金の槍斧ハルバードを振るう”王国騎士団”の部隊長と、赤黒い不気味な大剣を振るう”祝福ギフト無き理想郷”幹部のゼクシスが壮絶な打ち合いをしていた。

「空間よ、爆ぜよ」

 そして、時たま空間断絶結界ラプチャー・フィールドを常時展開している”特別魔導隊”が、空間を破壊して補佐に入る。
 現状はほぼ互角だが、徐々に王国側が押してきているって所かな。

「んー速いなぁ。ただ、あっちと比べればマシだ。さて、どう介入しようか……」

 こっち側で戦っている奴の得物は槍斧ハルバードに大剣と、どちらも重いものだ。その為、必然的に動きは他と比べると遅くなってくる訳で……まあ、それなら介入もしやすそうって事で、最初に選んだのだ。

「変異種スライムを奴の首に”召喚”し、溶かす。それで生まれる隙だけでも、多分倒せる。だが――」

 何分、奴らの動きが速過ぎるのだ。
 あれでは、上手く狙いが定まらない。
 やれやれ。それを考えてこっちを選んだというのに……あんま意味なかったな。

「……だが、あれだけ激しい戦闘だ。必ず膠着状態になる時が来る。その時が――お前の終わりだ」

 俺は視線を逸らしながらそう呟くと、眼前で行われる戦いに意識を集中させるのであった。

「はあっ!」

 ”王国騎士団”の部隊長――フォーゲルトが、槍斧ハルバードを左から横なぎに振るう。

「ぐうっ!」

 その一撃を、”祝福ギフト無き理想郷”幹部のゼクシスが、大剣を剣先が下になる形で縦に構える事で、防いで見せた。

「はあっ!」

 直後、フォーゲルトは防がれたままの槍斧ハルバードを前に突き出すことで、ゼクシスの右脇腹を貫こうとする。

「ぐうっ!?」

 これにはたまらず、ゼクシスは急ぎ後ろへ跳んで、刺突を回避した。
 そうなると、逆にピンチになるのはフォーゲルトの方だ。
 何故ならこの時、フォーゲルトの腕は刺突をした事で真っ直ぐに伸ばしてしまっている。
 そして、その隙を見逃す程、ゼクシスは甘い相手では無い。

「死ねぇ!」

 ゼクシスは後ろへ跳ぶ過程で、大剣の柄から離した左手を自身の懐へ突っ込むと、そこから毒が塗られた長針を3本、指に挟んだ状態で取り出し、フォーゲルトの足と腕を狙うように投擲した。

「空間を開け!」

 だが、そこで介入してくるのが”特別魔導隊”の空間属性魔法師――ノイ。
 ノイは卓越した技量で、ゼクシスの前に大きな転移門ゲートを展開し、飛来してきた長針を防いだ。

 ヒュン! ヒュン! ヒュン!

 そして、転移門ゲートの出口があるのはゼクシスの背後。
 自身の攻撃が、そっくりそのまま自身に帰って来る状況――だが、長針を投げたゼクシスは直ぐにフォーゲルトを仕留めるべく、低い姿勢で移動していた事もあってか、それが当たるというノイにとって最良の展開にはならなかった。

「オルァ!」

 直後、低い姿勢でフォーゲルトの左側に接近していたゼクシスは、その大剣を上へと向かって振り上げた。

「はあああっ!」

 だが、その時には既に腕を引っ込めていたフォーゲルトが、槍斧ハルバードで突きの構えをすると、振り上げられた大剣を斧部分でしっかりと受け止める。

「おらァ!」

 そして、斧と槍部分の間にゼクシスの大剣を引っかけた状態で、フォーゲルトはゴルフの如き全力フルスイングをして、大剣の剣先を明後日の方向に向ける。

「はあああっ!」

 フルスイングをしたフォーゲルトは、その勢いのままくるりとその場で一回転すると、ゼクシスの右脇腹目掛けて、猛烈な一撃をお見舞いした。

「ぐっ……!」

 だが、寸での所で身を引いたようで、致命傷には程遠いダメージを負わせるに留めてしまった。しかし、攻撃はこれで終わりでは無い。

「魔力よ。空間を斬れ」

「がはっ!」

 放たれる空間切断スペーショナル・スラッシュ
 それが、今度こそゼクシスの右半身を深く裂いた。
 声を上げるゼクシスと、口角を上げるフォーゲルト――だが。

「……なんてな」

 そこから噴出した血が、刃の形に変形すると、フォーゲルトに襲い掛かった。

「ぐはっ……!」

 不意を突かれ、右肩から腹にかけて深く斬り裂かれたフォーゲルトは、大きく後ろへ跳んだ。
 そして、ポーションをぶちまけて即座に傷を治療する。
 だが、治療によって生まれた明らかな隙。
 それを狙って――

「もらった」

 ゼクシスは素早い動きでノイの広範囲攻撃をかわしながら、フォーゲルトに視線を向ける。
 直後、持っていた大剣がぐにゃりとすると、まるで生き物のように伸びて、フォーゲルトとノイに襲い掛かった。

「ぐっ!」

 ノイは自身の身を守るので限界で、フォーゲルトを助ける余裕は無い。
 空間断絶結界ラプチャー・フィールドを解除し、全力で戦う準備をする余裕も、当然ない。
 結果――

「が、あ……っ!」

 フォーゲルトの左腕が、宙を舞った。
 マズいな。今ここで、それを治すのは不可能――戦力半減だ。

「俺を剣士だと思った事――それがお前らの敗因。なにせ、俺の本職は――剣士では無く、錬金術師だからな」

 ゼクシスは大剣を元に戻すと、悠然と佇みながらそんな事を言った。
 なるほど。錬金術師か。
 錬金術師にも色々と系統があるが、奴の系統は人体系で、血液操作や肉体改造をしていた……って感じかな。
 まあ、そんな事はどうでもいい。

 それよりも――

「勝ちを確信したか知らんが――隙だらけだぞ?」

 その戦況をずっと俯瞰して見ていた俺は、動きを止めたゼクシスを前に、冷酷にそう告げた。
 直後――

「ん? ぐ、なんだぁ!?」

 奴の首に召喚した変異種のスライムが、そこを溶かしたのだ。
 悲鳴を上げる中、俺はすかさずその変異種スライムを撤退させると、今度は足の健を溶かす。
 そして、それと同時に俺は殺気を放った。

「ぐ、はああっ!!」

 ゼクシスは危機感からか、スライムが居る場所を大剣の腹で叩くと、素早い動きで後ろを向いた。
 その直後。

「が、はっ……!」

 奴の腹から、槍斧ハルバードの先が顔を覗かせていた。
 いくら左腕を失ったとて、それでフォーゲルトが無力化される訳では無い。

「オルァアア!!!!!」

 その後、フォーゲルトは槍斧ハルバードを上へと突き上げた。

「がっ……”主”……」

 それがとどめとなり、ゼクシスは上半身を縦に真っ二つにして、命を落とした。
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