上 下
108 / 140
第三章

第三話 幹部と――激突(俺はやらんぞ?)

しおりを挟む
 レイン殿下と連絡を取り合った後、俺は纏まって動く4人の幹部だけをスルーしながら、物資の搬入を潰し続けた。
 流石に4人の幹部が直接見ている場所を妨害するのは、リスクが高過ぎるって事から、止む無くスルーしているが……俺のする事は、あくまでも国が動くまでの時間稼ぎ。故に、然程問題は無かった。
 だが、自分たちが居る場所以外が潰されている事に、奴らも違和感を持ち始めていた。

「……薄々思ってたのだが、やはり我々の動向を監視している奴が居るな?」

「あー私もそれ思った! 私たちが居ないとこばっかり潰されるんだもん!」

 筆頭幹部グーラの言葉に、同じ幹部のネイアが声を上げてそう言った。
 そして、そんなネイアを他2人の幹部は、「静かにしろよ、こいつ……」って目で見ている。

「ん-やっぱ気づかれたかぁ」

「きゅきゅ?」

 俺は天を仰ぐと、ネムをもにゅもにゅと揉みながら、深く息を吐いた。
 んーただ、見た感じ監視の手段まではバレていないっぽいから、まだ大丈夫だろう。
 それに、そろそろの準備が整う。
 そうすれば――どの道こっちの勝負は俺の勝ちだ。

「……お。ナイスタイミング」

 すると、ちょうどレイン殿下から連絡が来た。
 俺はそっとほくそ笑むと、そっちに居るスライムとの”繋がり”を強化する。

「レイン殿下。準備が整いましたか?」

「ああ。イグニス以下6人の精鋭部隊を、外に待機させてある」

 そして、そう問いかけてみると、レイン殿下からは俺が望んだ通りの答えが返って来た。
 そうそう。これが、俺の切り札(?)
 雪辱を晴らすべく立ち上がった近衛騎士副団長イグニスを筆頭とした、少数精鋭パーティーだ。
 これを投入すれば、ノワールも居ない事だし、流石に倒せると思う。
 無論、俺もサポートするけどね。
 安全圏から()

「分かりました。現在4人は纏まって行動中。場所はジェノスの北側。下水道の19列32番から南方向へ進行しています」

「そこは……なるほど。分かった。至急送るから、出来る事なら一部始終を見てて欲しい」

「分かりました」

 そして、俺はスライムとの”繋がり”を切る。
 にしても、レイン殿下凄いな。あの一瞬で、俺が言った場所がどこかを把握したのか……
 一体どういう頭をしてたら、そんな芸当が出来るんだよ。
 俺は改めてレイン殿下の有能さに感心しつつ、4人の幹部の方に視線を移した。
 すると――

「……お、来たか」

 奴らから少し離れた2か所に、3人ずつ計6人が姿を現した。
 なるほど。挟み撃ちか。
 シンプルだが、普通に強い。だって、対処のしようがないもん。それ。

「……ん? 誰か居る……あ、挟まれた!?」

 魔道具等で気配を消していたが、ある程度近づいた所でネイアという空間属性魔法師に感知されてしまった。十中八九、空間把握スペーショナルのせいだろう。

「……っ! 気づかれた! 行くぞ!」

 少し遅れてイグニス側も、自分たちの存在が把握された事に気付き、両側から駆け出した。

「なっ!? イグニスだ!」

「ええ!? 流石に逃げるよ!――魔力よ、かの空間へ送れ!」

 グーラの叫びに、ネイアは声を上げると、すかさず空間転移ワープの魔法を唱えて、逃走しようとする――が。

「やっば! グー君。空間塞がれちゃってるから、破らないと駄目みたい!」

 先に両側にそれぞれ1名ずつ居る高位の空間属性魔法師が、空間断絶結界ラプチャー・フィールドを重ね掛けして展開し、更に俺がバレない程度に妨害するというトリプルコンボによって、それは不発に終わってしまった。

「さーて。もう、戦うしかないねぇ……?」

 でも、勝てるかな?
 俺――じゃなくて、イグニスたちに!

「はあああああっ!」

 仲間の付与術師と自前の強化魔法――更にはS級の《剣士》の祝福ギフトによってドチャクソに強化されたイグニスが、4人に突貫した。
 その衝撃で空気がピリッと弾ける。

「――あっぶないねぇ!!!!!」

 だが、ネイアが寸での所で空間を揺らした事で、その攻撃は受け流されてしまった。

「はあっ!」

 そして、その隙を突くかのようにグーラが魔法で作った漆黒の大剣を振り下ろす。

「はああああっ!」

 だが、イグニスは馬鹿みたいな動きで、自身と大剣の間に剣を滑り込ませ、完璧に防いで見せた。

「化け物だーー!!」

 イグニスの強さは伝聞でしか聞いた事がなかったが、ここまでとは……
 しかも、これでまだ副団長なんだぜ?
 でも、近衛騎士団団長のゼーロスさんは、年期がえぐいからなぁ……
 確かに身体能力ならイグニスの方が上だろうけど、技量と経験の差は圧倒的って感じだと、この戦いを見て確信した。

「で、残り2人の幹部はそれぞれ、イグニス以外に当たってるけど……トントンって感じか」

 いくら空間属性魔法師が空間断絶結界ラプチャー・フィールドを展開し、無属性魔法師が付与魔法をかけてて、実力を十全に出せていないとは言え、これで互角の戦いが出来ている幹部も普通に強いな。
 1対1じゃ、負けてたくね……?

「……てか、イグニス相手にあの2人、勝負出来てるな」

 2人がかりとは言え、現状両者は互角だった。
 グーラとイグニスが互いに剣を打ち合い、そこにネイアが度々空間切断スペーショナル・スラッシュによる殺意の高い攻撃をするって感じ。
 あれ、地味にどっちが勝ってもおかしく無くね……?

「んーただ、練習無しでイグニスそっちの戦闘を補佐出来る自信は無いし……うん。他2人の幹部を倒してからにするか」

 他2人の幹部は、グーラ&ネイアと比べると弱いし、その戦いも俺の目で追えるレベル。
 だったら、こっちを早いとこ倒して、直ぐにイグニスの補佐に回って貰うようにしないと。
 そうして自分のすべき事を決めた俺は、動き出すのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双子の転生者は平和を目指す

弥刀咲 夕子
ファンタジー
婚約を破棄され処刑される悪役令嬢と王子に見初められ刺殺されるヒロインの二人とも知らない二人の秘密─── 三話で終わります

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

なつのさんち
ファンタジー
前世から引き継いだ記憶を元に、男女比の狂った世界で娯楽文化を発展させつつお金儲けもしてハーレムも楽しむお話。 二十九歳、童貞。明日には魔法使いになってしまう。 勇気を出して風俗街へ、行く前に迷いを振り切る為にお酒を引っ掛ける。 思いのほか飲んでしまい、ふら付く身体でゴールデン街に渡る為の交差点で信号待ちをしていると、後ろから何者かに押されて道路に飛び出てしまい、二十九歳童貞はトラックに跳ねられてしまう。 そして気付けば赤ん坊に。 異世界へ、具体的に表現すると元いた世界にそっくりな並行世界へと転生していたのだった。 ヴァーチャル配信者としてスカウトを受け、その後世界初の男性顔出し配信者・起業投資家として世界を動かして行く事となる元二十九歳童貞男のお話。 ★★★ ★★★ ★★★ 本作はカクヨムに連載中の作品「Vから始める男女比一対三万世界の配信者生活:オタク文化で並行世界を制覇する!」のアルファポリス版となっております。 現在加筆修正を進めており、今後展開が変わる可能性もあるので、カクヨム版とアルファポリス版は別の世界線の別々の話であると思って頂ければと思います。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと
恋愛
黒く長い髪が特徴のフォルテシア=マーテルロ。 彼女は今日も兄妹・父母に虐げられています。 それは時に暴力で、 時に言葉で、 時にーー その世界には一般的ではない『黒い髪』を理由に彼女は迫害され続ける。 黒髪を除けば、可愛らしい外見、勤勉な性格、良家の血筋と、本来は逆の立場にいたはずの令嬢。 だけれど、彼女の髪は黒かった。 常闇のように、 悪魔のように、 魔女のように。 これは、ひとりの少女の物語。 革命と反逆と恋心のお話。 ーー R2 0517完結 今までありがとうございました。

君に、最大公約数のテンプレを ――『鑑定』と『収納』だけで異世界を生き抜く!――

eggy
ファンタジー
 高校二年生、篠崎《しのざき》珀斐《はくび》(男)は、ある日の下校中、工事現場の落下事故に巻き込まれて死亡する。  何かのテンプレのように白い世界で白い人の形の自称管理者(神様?)から説明を受けたところ、自分が管理する異世界に生まれ変わらせることができるという。  神様曰く――その世界は、よく小説《ノベル》などにあるものの〈テンプレ〉の最頻値の最大公約数のようにできている。  地球の西洋の中世辺りを思い浮かべればだいたい当てはまりそうな、自然や文化水準。 〈魔素〉が存在しているから、魔物や魔法があっても不思議はない。しかしまだ世界の成熟が足りない状態だから、必ず存在すると断言もできない。  特別な能力として、『言語理解』と『鑑定』と『無限収納』を授ける。 「それだけ? 他にユニークなスキルとかは?」 『そんなもの、最頻値の最大公約数じゃないでしょが』  というわけで、異世界に送られた珀斐、改めハックは――。  出現先の山の中で、早々にノウサギに襲われて命からがら逃げ回ることになった。  野生動物、魔物、さまざまな人間と関わって、『鑑定』と『収納』だけを活かして、如何に生き抜いていくか。  少年ハックの異世界生活が始まる。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

処理中です...