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第三章

第一話 レイン殿下の受難

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 レイン・フォン・フェリシール・グラシア視点

 ここは、グラシア王国の王都ティリアン。
 そこの中央に屹立する王城の中にある会議室には、非常に重苦しい雰囲気が漂っていた。

「……である。以上から、この情報の信憑性は非常に高いという事が確認できます」

「……」

 そんな会議室で。
 私は多くの王侯貴族に向かって、父上――陛下立ち合いの下、シン君や突入部隊――そして私が独自に調べた情報を下に、”祝福ギフト無き理想郷”の企みについて話していた。
 丁度一通り話した所ではあるが、ここから貴族たちの――主に貴族派からの質問が待っているかと思うと、今までの疲労も相まってか、流石に胃が痛くなる。

「……レイン王子殿下。ですが、私にはどうしても不可解な事がございます」

 そう言って発言するのはやはり、貴族派トップ――レリック・フォン・クローナム公爵だった。
 彼を動かさないと、この件はどうしようもない。だが、逆に彼さえ動かせれば、事態は一気に好転する。
 ここが分水嶺だと、私はより緊迫感を張り巡らせると、彼の言葉を待った。

「レイン王子殿下が用意してくださったこれらの情報……如何様にして入手されたのでしょうか? レイン王子殿下直属の配下であるファルス伯爵子息の従魔と書かれておりますが、私にはとても彼1人で集められる量を超えているように思われます。私も、貴族派に所属する数多くの貴族を束ねる立場故――どうか、今一度お答えをお聞かせ願います」

 ……やはりか。
 かなり減らしたが、それでも元の量と質が桁違い。
 それ故にレリック公爵だけに留まらず、半数近くの貴族に勘繰られてしまった。
 だが……これは私の想定内。
 それにしても……やれやれ。レリック公爵の聡明さを利用するようで悪いが――向こうも、それを知ってのあの言葉だ。
 方針の違いで対立こそしているものの――国を想う気持ちは、同じだからね。

「ああ――レリック公爵。今一度言おう。それらの情報は全て、私のが集めたもの――これに、嘘偽りは無い。ファルス伯爵子息は、皆の――そして私の想像を上回る速度で、成長したのだ」

 私は全身全霊で、を口にした。
 ああ、この言葉に嘘偽りは何一つない。
 故に偽りを見抜く事に長けた貴族にも――その系統の魔法や祝福ギフトを持っている人にも――真実として届くはず。
 ただ……レリック公爵、少し意地悪な言い方をしてくれたね。
 大方、私の覚悟を試す為なのだろうが……やられるこちらからしてみれば、勘弁して欲しいという以外に言葉が出てこない。

「では、他に発言は……ありませんね。それでは、後は国王陛下にお任せいたします」

 そしてその言葉で、私の報告を締めくくった。
 ……よし。
 最後に発言した言葉は――強く言った言葉は――非常に印象に残る。
 故に、もう表立って反対する者はいないだろう。
 当然、少なからず反対する人はいるだろうが……そこまで徹底するのは時間があっても不可能故、割り切るとしよう。

「……うむ。では、以上より”祝福ギフト無き理想郷”対策会議を終える。各々、せめて今だけは一丸となり、王国の未来を守るのだ!」

 そして、陛下は短くそう締めると、椅子から立ち上がり、歩き出した。
 そこに、王太子である私も随行する。
 やがて、護衛を連れながら会議室の外に出て、暫し歩いた所で、陛下が――いや、父上が、口を開いた。

「レイン。少し見ない内に、立派になったではないか」

「……ありがとうございます。父上」

 先ほどの威厳のある雰囲気とは打って変わって、優し気な雰囲気を出された父上に、私は気恥ずかしそうにしながら笑みを浮かべた。

「うむ……あと、いい配下を持ったな」

「……ですね」

 父上の言葉――明らかにファルスでは無く、シン君の事を指している。
 やはり、父上はある程度感づいていたようだ。
 だが、咎めたり問い詰めたりするつもりは無い様子。
 ありがたい。

「……それと、最後に忠告だ。何もかも、レインが1人で背負う必要は、無いからな。王とは、配下と共に歩むもの――レインのそれは、いささか危うい」

「っ!?……ご、ご忠告、ありがとうございます。父上」

 唐突に図星を突かれた事に、私は一瞬動揺しながらもそう言うと、部屋の前で別れた。

「……父上の言う通りだね。だけど、それでも気になって気になって仕方ないんだ」

 自室に戻った私は、肩を落としながらそんな言葉を口にした。
 父上の言いたい事は――要は、部下に仕事を回せ、という事だ。
 私には現状2人しか直属の配下は居ないが――王族直属の配下は多く居り、いざとなれば彼らに仕事を任せる事も出来る。
 だけど――そこで問題になって来るのが”万能感知”の祝福ギフトだ。
 それのせいで、私は彼らの邪な感情を僅かながらでも拾ってしまい、結果少しでも重要な案件になると、基本ファルスにしか任せられなくなるのだ。
 言うなれば、中度の人間不信……だね。

「そのせいで、過労のあまりファルスは休養。はぁ……だけど、ここは少しずつでもいいから、何とかしていくしかないね」

 そう言って、未完の王わたしは次の公務に移るのであった。
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