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第二章

第五十二話 敵の目

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「……ん? 中々来ないな。王国に我々の存在がバレつつあるようだし、そのせいか……?」

 シュレイン近くの森に作られた、新たなアジトの中で、物資搬入関係を担っている幹部のギルオは、今日来るはずの物資が1つも入ってこない事に、疑問を呈した。
 確かに機密重視故、安定を取る為に遅れる事もそれなりにあったが……流石に全箇所となると、人為的な関与を考えざるを得ない。

「だが、かと言って流石に全箇所は不可能では無いか……? 王国側も、突入部隊壊滅の件を受けて、結構揺れているようだし、とてもじゃないが妨害これに割く余力は、あまりない筈……」

 ここで、ギルオは長考に入った。
 これが今日1日限りとかならまだ構わないのだが、継続的に続く場合は、結構マズい。
 思わぬ幸運で呪界石を大量に入手出来た事もあってか、既に”祭壇”は起動の準備段階に入っており、今更遅らせる事は出来なくは無いが、それなりの損害を被る羽目になる。

「ちっ 俺が確認しに行くか……」

 何が起きているのか、把握しておく必要がある。
 そう、直感で感じ取ったギルオは、危険がある事は重々承知で、転移の魔法石を手に取った。
 そして、それを砕くと、今日の中では最も重要な物資を運んでくる人が居る、テレンザへと転移した。

「……っと。さて……なっ!?」

 テレンザにある、極秘の物資貯蔵庫に転移したギルオは、眼前に広がる光景に目を見開いた。

「コスカズ、ドセ、シルーヌ……」

 そこには、無残に焼け焦げ、原型すら留めずに冥府へ落ちた、3人の同胞の姿があった。
 顔の判別は一見不可能のように見えるが――ギルオには、そこに残る僅かな情報だけでも、分かるのだ。

「ここまで無残に殺されるとは……恐らく、他も同じか……!」

 共に酒を飲み交わした事もある人間が死んだ事に、ギルオの中で黒い炎が燃え上がる。
 だが、それは今では無いと、”主”への忠誠心で抑え込むと、途端に冷静な声音で口を開いた。

「後は任せろ。安らかに眠れ」

 そう、短く哀悼の意を述べた後、ギルオは炎の魔法を唱え、簡易的な火葬をすると――再び転移の魔法石を手に持った。

「ここに来た瞬間に殺された……という事は、ここならまだ大丈夫かもしれん」

 そう言って、ギルオは時間的にまだ”事”が起こっていないであろう場所へ、転移した。

「……ここは、まだ何も起きていないようだな」

 次に転移した物資貯蔵庫には、戦闘の跡は一切見受けられ無かった。
 ここに来る前に殺されている可能性も無くは無いが……そこまで考えたらキリが無いと、ギルオは切って捨てる。

「……だが、念の為ネイアを呼んだ方がいいか?」

 組織に置いて、”主”とグーラに次ぐ高い戦闘能力を誇り、その空間魔法の腕前は、”主”に認められる程だ。

「よし。呼ぶか」

 自分1人では手に余る。
 そう、直感で感じ取ったギルオは、”主”謹製の通信機を取り出すと、ネイアを呼ぶべく、起動――させようとした瞬間。

「!?」

 前方から感じる殺気。
 ギルオは即座に通信機を落とすと、戦闘に意識を移す――

 ドオオオオオオォン――!

「がっ!?」

 が、攻撃が来たのは。更に言うなら、背中だった。
 唐突に自身を襲う猛烈な炎。
 ゼロ距離で産声を上げたそれは、ギルオを一瞬で焼き焦がそうとする。

「はあっ!」

 だが、ギルオの行動も早かった。
 ギルオは咄嗟に防護衣シールド・クロスの魔法石を砕き、自分自身を覆う魔力で出来た薄い膜を展開する事で、自らへのダメージをした。

「ぐっ……くっそいてぇ……」

 だが、ゼロ距離での魔法であった事と、後手に回ってしまった事が相まってか、それなりのダメージを追ってしまった。
 ギルオは痛みを覚えながらも、即座にもう1度防護衣シールド・クロスの魔法石を砕くと、周囲を警戒する。

「ちっ……おい! どこに居る!」

 しかし、肝心の敵の姿が見られない。
 先ほど感じた殺気も、視線も、今はさっぱりだ。

「……逃げたって感じか?」

 そんな事を口にしつつも、ギルオは強化魔法で自身を強化すると、今度こそネイアを呼ぶべく、地面に落ちた通信機を拾おうと、前屈みの姿勢になった。
 その――僅かな隙を突くように。

 ザン! ザン! ザン!

「!? はあっ!」

 突然の、空間を斬り裂く斬撃。
 空間の揺らぎを感じ取ったギルオは、咄嗟の判断で横に転がる事で、その攻撃をかわした――否、かわしてしまった。
 そして、それが絶望的な隙を晒す事に繋がったと気づき、戦慄した時には――遅かった。

 ザン!

「がっ!」

 本命の一撃が、彼を襲った。
 直感で傾けたが、首を深く斬られた――もう、助からない。
 自らの命が潰えようとしている所で、男は見た。
 開かれている《転移門ゲート》――そこから突き出されたミスリルの剣と、その柄を握る1人の少年の気配を。

(お前、だったのか……!)

 顔は見えないが、気配は覚えている。
 あの日、突入部隊が去った後に”主”が見つけた、少年だ。

 こいつだ。こいつが、敵の”目”だ。

 ギルオは、死ぬ間近にして、遂に自分たちの行動が唐突に読まれるようになった理由を悟った。

(お気をつけ、ください。我が、”主”……)

 そして、ギルオの意識は闇に落ちた。
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