上 下
65 / 104
第二章

第四十九話 主神エリアスの独り言

しおりを挟む
 周囲一帯純白の空間で佇む美女――主神エリアス。
 下界の様子を見ていた彼女は、下界を見通す瞳――神眼プロビデンスを解除すると、その唇を震わせた。

「ふぅ……今のは少し、お節介だったかしら?」

 そして、虚空に向かってそんな問いを投げかけた。
 エリアスは今、隠れてノワールの動向を探っていたシンが、ノワールに見つかってしまうかもしれないと思い、あえて神眼プロビデンスの気配を若干強くする事で、ノワールの意識をそっちに向けようと画策したのだ。
 予想通り、ノワールは確かに神眼プロビデンスを使うエリアスに意識を向かわせた。ただ、シンなら何もしなくても、何かトラブルが無い限りは大丈夫だったのでは無いだろうか……と、フェリスは小さく息を吐く。

「さて、と。それにしても、ノワールの件はどうすれば……」

 神である以上、下界にそこまで干渉出来ないエリアスは、ずっとノワールが思い描いた通りに事態が進んでいる事に、難しそうな顔をする。

「今まで”禁忌”に背かない程度に、教会へ神託を行ってきたけど、あまり意味は無かった」

 でも――と、エリアスは目じりを下げて、言葉を続ける。

「まさか本当にを発動させるだけの”祭壇”を設置できるとは思わなかった。だけど、それは悪手。下界の全てを侵す発動させれば――私は下界をあるべき姿に正す為に、下界へ干渉出来るようになる。貴方の思いはよく分かるけど――それを認める訳にはいかないわ」

 エリアスとて、分かっている。
 ノワールの思想は、決して間違ってはいないという事を。
 だが、ノワールの思想では、どうやっても現状より多くの人間が死の悲劇に遭う。
 享楽思想や傍観主義が多い神の中で、数少ない慈愛を持つエリアスには――それは耐えられないのだ。

「となると、問題になってくるのは、ノワールの計画が私によって阻止された後」

 582年もの長き時を費やしたその計画が失敗したら、ノワールは何をするのだろうか。
 少なくとも、また地道にその計画を進めようとは思わないだろう。
 絶望して自殺するのか。
 それとも怒りのままに全てを破壊するのか。
 いずれにしろ、碌でもない事なのは確かだ。

「うう~~……本当はこれもシンに教えてあげたい所なのですが……」

 下界において、今最もノワールの真相に近づいているシンに、”禁忌”に触れない程度の内容で教えてあげたいと思うエリアス。
 だが、残念な事に今だシンが教会へ来てくれた回数は、5歳の時を除けば――ゼロ。
 祝福ギフトの件で、あまり印象が良くないせいだろうと、エリアスは小さくため息を吐く。

「流石にシンの思いを、私個人の都合で無視する訳にもいきませんし……はぁ。まあ、やっぱり気長に待ちましょうか」

 このままなら、過程に差異あれ、どの道あの件は解決する。
 その後の事は、もう少し時が経ち、予測できるようになってから、また考えるとしよう。
 そんな事を思いながら、主神エリアスは再び下界へ視線を落とすのであった。

 ◇ ◇ ◇

 ノワールの独り言を聞いた後も、俺はアジト内を駆け回って、”祝福ギフト無き理想郷”についての情報を集めまくった。
 さっきノワールから得た情報によって、このアジトが500年以上前からある事が分かったお陰で、「それだけ長いのなら、きっと数百年前からの情報も、書類として残っているはずだ!」と思いながら、気合十分で探しまくった結果、色々な物が――

「思ったより出てこない!」

 宿の中で、ベッドに仰向けに寝転がりながら、俺は思わず声を上げた。
 いや、500年以上の歴史があるんだから、いくら情報の秘匿を第一にしている組織と手、それなりにあるのでは無いかって思ったよ。
 でも、蓋を開けてみればこの通り。
 書類は20枚程度しか残されていなかった。
 もしかしたら、もう新しいアジトの方に移しちゃったのかもしれないけど……だけど、残されている書類に書かれている情報の重要度的に、多分その線も薄いと思われる。
 で、肝心の書類に書かれていたものだが……

「全部魔法陣……か」

 そこには、超複雑奇怪な、恐らくノワールが開発したのであろう魔法陣が、いくつも記載されていた。
 それぞれの魔法陣に対する説明は書かれていないが……見た感じ、全部さっき見た”祭壇”の周りを回っていたやつだと思われる。
 複雑すぎて全ては見れなかったが、何となく同じだな~って感じた。

「んー俺じゃあ全然解析出来ないし、レイン殿下に託すとするか」

 ここでふと、「持ち帰っちゃったら、誰かが侵入してたってバレるくね?」という懸念が頭をよぎったが、そんなの恐れてる場合じゃなさそうだと、その懸念を振り払うと、追加で召喚した数匹のスライムたちに持たせ、自身の下に召喚する事で、それらを全て回収した。

「さてと。これでもう、このアジトで得られそうな情報はなさそうだな。そんじゃ、レイン殿下から連絡が来るまで、今度はシュレインこっちの森を調べてみようかな……?」

 そう言うと、俺は最後まで残していた超ミニミニスライムとの視覚共有を切り、そして自身の下に召喚するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

作業厨から始まる異世界転生 レベル上げ? それなら三百年程やりました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
第十五回ファンタジー小説大賞で奨励賞に選ばれました! 4月19日、一巻が刊行されました!  俺の名前は中山佑輔(なかやまゆうすけ)。作業ゲーが大好きなアラフォーのおっさんだ。みんなからは世界一の作業厨なんて呼ばれてたりもする。  そんな俺はある日、ゲーム中に心不全を起こして、そのまま死んでしまったんだ。  だけど、女神さまのお陰で、剣と魔法のファンタジーな世界に転生することが出来た。しかも!若くててかっこいい身体と寿命で死なないおまけつき!  俺はそこで、ひたすらレベル上げを頑張った。やっぱり、異世界に来たのなら、俺TUEEEEEとかやってみたいからな。  まあ、三百年程で、世界最強と言えるだけの強さを手に入れたんだ。だが、俺はその強さには満足出来なかった。  そう、俺はレベル上げやスキル取得だけをやっていた結果、戦闘技術を上げることをしなくなっていたんだ。  レベル差の暴力で勝っても、嬉しくない。そう思った俺は、戦闘技術も磨いたんだ。他にも、モノづくりなどの戦闘以外のものにも手を出し始めた。  そしたらもう……とんでもない年月が経過していた。だが、ここまでくると、俺の知識だけでは、出来ないことも増えてきた。   「久しぶりに、人間に会ってみようかな?」  そう思い始めた頃、我が家に客がやってきた。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。