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第二章
第四十九話 主神エリアスの独り言
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周囲一帯純白の空間で佇む美女――主神エリアス。
下界の様子を見ていた彼女は、下界を見通す瞳――神眼を解除すると、その唇を震わせた。
「ふぅ……今のは少し、お節介だったかしら?」
そして、虚空に向かってそんな問いを投げかけた。
エリアスは今、隠れてノワールの動向を探っていたシンが、ノワールに見つかってしまうかもしれないと思い、あえて神眼の気配を若干強くする事で、ノワールの意識をそっちに向けようと画策したのだ。
予想通り、ノワールは確かに神眼を使うエリアスに意識を向かわせた。ただ、シンなら何もしなくても、何かトラブルが無い限りは大丈夫だったのでは無いだろうか……と、フェリスは小さく息を吐く。
「さて、と。それにしても、ノワールの件はどうすれば……」
神である以上、下界にそこまで干渉出来ないエリアスは、ずっとノワールが思い描いた通りに事態が進んでいる事に、難しそうな顔をする。
「今まで”禁忌”に背かない程度に、教会へ神託を行ってきたけど、あまり意味は無かった」
でも――と、エリアスは目じりを下げて、言葉を続ける。
「まさか本当にそれを発動させるだけの”祭壇”を設置できるとは思わなかった。だけど、それは悪手。下界の全てを侵すそれ発動させれば――私は下界をあるべき姿に正す為に、下界へ直接干渉出来るようになる。貴方の思いはよく分かるけど――それを認める訳にはいかないわ」
エリアスとて、分かっている。
ノワールの思想は、決して間違ってはいないという事を。
だが、ノワールの思想では、どうやっても現状より多くの人間が死の悲劇に遭う。
享楽思想や傍観主義が多い神の中で、数少ない慈愛を持つエリアスには――それは耐えられないのだ。
「となると、問題になってくるのは、ノワールの計画が私によって阻止された後」
582年もの長き時を費やしたその計画が失敗したら、ノワールは何をするのだろうか。
少なくとも、また地道にその計画を進めようとは思わないだろう。
絶望して自殺するのか。
それとも怒りのままに全てを破壊するのか。
いずれにしろ、碌でもない事なのは確かだ。
「うう~~……本当はこれもシンに教えてあげたい所なのですが……」
下界において、今最もノワールの真相に近づいているシンに、”禁忌”に触れない程度の内容で教えてあげたいと思うエリアス。
だが、残念な事に今だシンが教会へ来てくれた回数は、5歳の時を除けば――ゼロ。
祝福の件で、あまり印象が良くないせいだろうと、エリアスは小さくため息を吐く。
「流石にシンの思いを、私個人の都合で無視する訳にもいきませんし……はぁ。まあ、やっぱり気長に待ちましょうか」
このままなら、過程に差異あれ、どの道あの件は解決する。
その後の事は、もう少し時が経ち、予測できるようになってから、また考えるとしよう。
そんな事を思いながら、主神エリアスは再び下界へ視線を落とすのであった。
◇ ◇ ◇
ノワールの独り言を聞いた後も、俺はアジト内を駆け回って、”祝福無き理想郷”についての情報を集めまくった。
さっきノワールから得た情報によって、このアジトが500年以上前からある事が分かったお陰で、「それだけ長いのなら、きっと数百年前からの情報も、書類として残っているはずだ!」と思いながら、気合十分で探しまくった結果、色々な物が――
「思ったより出てこない!」
宿の中で、ベッドに仰向けに寝転がりながら、俺は思わず声を上げた。
いや、500年以上の歴史があるんだから、いくら情報の秘匿を第一にしている組織と手、それなりにあるのでは無いかって思ったよ。
でも、蓋を開けてみればこの通り。
書類は20枚程度しか残されていなかった。
もしかしたら、もう新しいアジトの方に移しちゃったのかもしれないけど……だけど、残されている書類に書かれている情報の重要度的に、多分その線も薄いと思われる。
で、肝心の書類に書かれていたものだが……
「全部魔法陣……か」
そこには、超複雑奇怪な、恐らくノワールが開発したのであろう魔法陣が、いくつも記載されていた。
それぞれの魔法陣に対する説明は書かれていないが……見た感じ、全部さっき見た”祭壇”の周りを回っていたやつだと思われる。
複雑すぎて全ては見れなかったが、何となく同じだな~って感じた。
「んー俺じゃあ全然解析出来ないし、レイン殿下に託すとするか」
ここでふと、「持ち帰っちゃったら、誰かが侵入してたってバレるくね?」という懸念が頭をよぎったが、そんなの恐れてる場合じゃなさそうだと、その懸念を振り払うと、追加で召喚した数匹のスライムたちに持たせ、自身の下に召喚する事で、それらを全て回収した。
「さてと。これでもう、このアジトで得られそうな情報はなさそうだな。そんじゃ、レイン殿下から連絡が来るまで、今度はシュレインの森を調べてみようかな……?」
そう言うと、俺は最後まで残していた超ミニミニスライムとの視覚共有を切り、そして自身の下に召喚するのであった。
下界の様子を見ていた彼女は、下界を見通す瞳――神眼を解除すると、その唇を震わせた。
「ふぅ……今のは少し、お節介だったかしら?」
そして、虚空に向かってそんな問いを投げかけた。
エリアスは今、隠れてノワールの動向を探っていたシンが、ノワールに見つかってしまうかもしれないと思い、あえて神眼の気配を若干強くする事で、ノワールの意識をそっちに向けようと画策したのだ。
予想通り、ノワールは確かに神眼を使うエリアスに意識を向かわせた。ただ、シンなら何もしなくても、何かトラブルが無い限りは大丈夫だったのでは無いだろうか……と、フェリスは小さく息を吐く。
「さて、と。それにしても、ノワールの件はどうすれば……」
神である以上、下界にそこまで干渉出来ないエリアスは、ずっとノワールが思い描いた通りに事態が進んでいる事に、難しそうな顔をする。
「今まで”禁忌”に背かない程度に、教会へ神託を行ってきたけど、あまり意味は無かった」
でも――と、エリアスは目じりを下げて、言葉を続ける。
「まさか本当にそれを発動させるだけの”祭壇”を設置できるとは思わなかった。だけど、それは悪手。下界の全てを侵すそれ発動させれば――私は下界をあるべき姿に正す為に、下界へ直接干渉出来るようになる。貴方の思いはよく分かるけど――それを認める訳にはいかないわ」
エリアスとて、分かっている。
ノワールの思想は、決して間違ってはいないという事を。
だが、ノワールの思想では、どうやっても現状より多くの人間が死の悲劇に遭う。
享楽思想や傍観主義が多い神の中で、数少ない慈愛を持つエリアスには――それは耐えられないのだ。
「となると、問題になってくるのは、ノワールの計画が私によって阻止された後」
582年もの長き時を費やしたその計画が失敗したら、ノワールは何をするのだろうか。
少なくとも、また地道にその計画を進めようとは思わないだろう。
絶望して自殺するのか。
それとも怒りのままに全てを破壊するのか。
いずれにしろ、碌でもない事なのは確かだ。
「うう~~……本当はこれもシンに教えてあげたい所なのですが……」
下界において、今最もノワールの真相に近づいているシンに、”禁忌”に触れない程度の内容で教えてあげたいと思うエリアス。
だが、残念な事に今だシンが教会へ来てくれた回数は、5歳の時を除けば――ゼロ。
祝福の件で、あまり印象が良くないせいだろうと、エリアスは小さくため息を吐く。
「流石にシンの思いを、私個人の都合で無視する訳にもいきませんし……はぁ。まあ、やっぱり気長に待ちましょうか」
このままなら、過程に差異あれ、どの道あの件は解決する。
その後の事は、もう少し時が経ち、予測できるようになってから、また考えるとしよう。
そんな事を思いながら、主神エリアスは再び下界へ視線を落とすのであった。
◇ ◇ ◇
ノワールの独り言を聞いた後も、俺はアジト内を駆け回って、”祝福無き理想郷”についての情報を集めまくった。
さっきノワールから得た情報によって、このアジトが500年以上前からある事が分かったお陰で、「それだけ長いのなら、きっと数百年前からの情報も、書類として残っているはずだ!」と思いながら、気合十分で探しまくった結果、色々な物が――
「思ったより出てこない!」
宿の中で、ベッドに仰向けに寝転がりながら、俺は思わず声を上げた。
いや、500年以上の歴史があるんだから、いくら情報の秘匿を第一にしている組織と手、それなりにあるのでは無いかって思ったよ。
でも、蓋を開けてみればこの通り。
書類は20枚程度しか残されていなかった。
もしかしたら、もう新しいアジトの方に移しちゃったのかもしれないけど……だけど、残されている書類に書かれている情報の重要度的に、多分その線も薄いと思われる。
で、肝心の書類に書かれていたものだが……
「全部魔法陣……か」
そこには、超複雑奇怪な、恐らくノワールが開発したのであろう魔法陣が、いくつも記載されていた。
それぞれの魔法陣に対する説明は書かれていないが……見た感じ、全部さっき見た”祭壇”の周りを回っていたやつだと思われる。
複雑すぎて全ては見れなかったが、何となく同じだな~って感じた。
「んー俺じゃあ全然解析出来ないし、レイン殿下に託すとするか」
ここでふと、「持ち帰っちゃったら、誰かが侵入してたってバレるくね?」という懸念が頭をよぎったが、そんなの恐れてる場合じゃなさそうだと、その懸念を振り払うと、追加で召喚した数匹のスライムたちに持たせ、自身の下に召喚する事で、それらを全て回収した。
「さてと。これでもう、このアジトで得られそうな情報はなさそうだな。そんじゃ、レイン殿下から連絡が来るまで、今度はシュレインの森を調べてみようかな……?」
そう言うと、俺は最後まで残していた超ミニミニスライムとの視覚共有を切り、そして自身の下に召喚するのであった。
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